『力無き少女のプレリュード』   作:とまとの水煮缶

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2話・シンフォニア

 かれこれ1時間程度たったのだろうか。駅から歩いてきたときにはまだ辺りは暗く人も殆ど居なかったこの街に、太陽が顔を出し照らし始める。パンや薬草のいい匂いがふわりと漂い始め、ずっと歩いてきた疲労感をほんの少しばかり和らげてくれた。ただ、この一本道をずっと歩くのはどうしても飽きてしまう。色とりどりの煉瓦の道を同じ色で踏んでみたり、赤は右足、オレンジ色は左足と遊びながら歩いて行ったがもうそろそろ限界が近づいてきた。

 

 この街でこんなに目立つ皮のカバンを手に抱え、そして新品の制服を身に纏っている。慣れない靴のせいかいつもの思うように歩けるわけはなく、予想していた到着時間よりも遅くなりそうな予感。でも、入学式は正午にあるわけだから全然問題ない。寧ろこんなに朝早くから行く新入生なんて私ぐらいしかいないんじゃないかな?

 新学期に心を躍らせ、「どんな人がいるんだろう」とか、「どんな授業なんだろう」とか。でも、心の隅では少し不安な「大丈夫かな」という気持ちも。お姉ちゃんみたいな”凄い魔法使い”というのに憧れているわけなのだから、絶対に頑張らなくちゃいけない。そういうことは自分が一番知っている。

 

 ゆっくりとした歩調を元に戻し、改めて学園に向かって歩く。

 太陽は空高く昇り始めこの街の活気がどんどん溢れていき、長い住宅街を抜けると目の前には学園の校舎が少しずつ見えてきた。この街の中央広場までくればあともう少し。

 広場を進むとその長い道なりには朝市が多く出店しており、さっき嗅いだパンや薬草の香りもする。中央に向かうにつれて人がどんどん増え続け、この街の住民がいかにして元気なのかが伺える。

 

「へい!そこの嬢ちゃん!朝ごはん食っていかねぇか?」

「あら、あの学園の生徒さんなのね!これ、もっていきなさいな!」

 

 と、目立ってしまい店の店主さんや女将さんに声を次々に掛け続けられる。流石に全部買ってしまっては学園につく頃には前が見えない程になってしまうな。と思い、申し訳なさでいっぱいだった。でも、空腹には抗えない。なにせ、魔導列車の中では緊張で殆ど寝れず喉も通らずにいたわけだし、ここまで歩くのにもかなりの時間が掛かっているのは事実。

 何か手軽な食べ物を探して辺りを見回すけれど、私にとってはどれも量が多い食べ物ばかり。

 あれでもない。これでもない。と広場を進みながら悩み続け、しまいにはもう端まで来てしまった。せっかくのいいチャンスだったのに少し勿体ないなと思っていたところ、一番端の年配のおばあさんが呼び止めてくれた。

 

「あの学園の嬢ちゃんかい?その蒼いリボン、良いものじゃないか。どれ、少し食べていかないかい?」

 と、大きめのパンを半分に切ってスープと一緒に渡してくれた。日が昇る前で少し寒かった時から歩いていたから、これはまたありがたい。

「あ、ありがとうございます」

 と、荷物を置いて両手で料理を受け取った。

 カバンの上に座ってひと休憩。貰ったこの料理を嗅ぐと、どこか懐かしい感じ。パン小さく千切ると、ほのかな密のいい香り。パンを一口頬張り、スプーンの上でも湯気が出ているスープを啜る。

 

 美味しい。

 

 私の住んでいたあのお城は、雪が多かったためか芋の料理が多くて素っ気ない味が多く出た。でも、外を出るとこんなにもおいしいものがあるなんて。

 気づけばお皿の中身は空っぽで、パンはパン屑を出さない程綺麗に食べていた。

 

「おやまぁ、嬢ちゃん。こんなに綺麗に食べてくれるなんて私は嬉しいよ」

「なにか.この料理がなんとなく懐かしかったんです」

「そうかい。そうかい。気に入ってくれて嬉しいよ」

 

 そのおばあさんは私の目を見て何か考えている様子だった。

 

「...君は...」

「どうかしましたか?」

「...いや、なんでもないよ。ただの年よりの戯言さ。それよりも、あの学園までもう少しだ。頑張りなさい」

「ありがとうございます。では、行ってきます」

 

 カバンを手に取り学園へ足を進める。確かに、その足取りは軽かった。

 

 ────

 

 一体駅からどのくらいの時間を歩いたんだろう。木々を抜けた先にある学園の門に漸くたどり着いた。

 

 ...おっきぃなぁ...

 

 凄い。大きな学園ということは知っていたが、まさかここまで大きいとは思いもしなかった。開いた口が塞がらないとはこのことなの?目の前の光景に圧倒されすぎて声も出せない。

 白が主体の大きなお城。方角によってそれぞれ屋根の色が違い、青・黄色・緑・赤と沢山の色の屋根があるが違和感が無いほどに美しい。正面には学園の大聖堂のステンドグラス、そして見上げるほど巨大なご神木。

 気を取り直して恐る恐る中へ歩みを進め、教室の場所や時間、色々なことを書き込んだメモをポケットから取り出し集合場所に向かっていく。

 学園の廊下には絵画がずらりと並んでおり、中には超大物の画家の絵画も飾ってある。飾ってある置物は中の絵がまるで生き物のように動き回っており、時々床に落ちそうになる。天井を見れば、ランタンの中で色遊びしている炎が。後は図書館から脱走した蝶のように舞っている分厚い本がひらひらと。

 お城に居たときとは全然違う光景に私は目を輝かせていた。

 

 廊下を進んでいくと形さまざまの教室がずらりと並んできた。扉の形は様々。人1人は入れるかどうかの扉もあれば、教室はあるのに入る場所が見つからなかったり。でも、同じような扉は無さそうなため教室を間違えるということが無いのは少しほっとした。

 階段を上がり、曲がり角を2つほど。目的の教室の扉を開け、中に入る。案の定中には誰も居ず、部屋も静かで自分の足音が響いていた。黒板には「入学おめでとう」の文字。暖かそうな窓辺の席に座り、大きな荷物を置いた。

 

 疲れたな。でも、やることが無いし.

 何かないかなと大きなカバンの中に手を突っ込みガサゴソと漁り、手に触れたものを引っ張り出す。手に取ったのは分厚い年季の入った本。それの本は全部真っ白で書き込みができる、いわば「自由帳」みたいなもの。パラパラとめくるとぎっしりと詰まった文字が書いてある。

 

 皆いないことだし、ナーデの音の組み合わせを作っておこう。

 分厚くところどころほつれている本をゆっくりと開き、羽ペンの先ににインクを付けて白紙のページに書き込んでいく。

 

 朝日が照らす感じ。冷たかった場所が暖かくなって、そして氷を解かすようにゆっくりと優しく。もう一つはあのにぎやかな朝市の感じ。あのワイワイとした活気あふれた光景。音楽にしてみたい。

 

 スラスラと文字を書き続けている中、誰かが教室の端からゆっくりとこちらに歩いてくる。

 

「へ──。何を書いているの?」

 

 一瞬、何が何だか分からなかった。顔を上げるとそこには白髪と笑顔があった。

 

「び...びっくりした...」

 

 心臓が何個あっても足りない。持っていた羽ペンを落とし、胸に手を当てるとドキドキしていた。

「あ、ごめんね!だって君、挨拶しても反応なかったからさ」

 と、その白髪の少女は少し顔を膨らましている。

「ご.ごめんなさい。私、あまりこういうの不慣れで.」

「いいのいいの!それよりも今、何を書いていたの??うーん、占いでもなかったし.でも魔法陣でも詠唱でもなかったよね?」

 きらきらとさせたその目から「教えて!!」という強烈なアピールが飛んでくる。

「えっと.その~。日記だよ日記!」

「へへ──。いいじゃん。あ、そうそう名前言ってなかったよね。私の名前はレイ!レイ・フィール。気軽にレイって呼んで頂戴!」

「フィール.確かあの大予言者のフィール家の?!」

「おぉ!よく知ってるね!まぁ、とは言ってもまだ私は見習い中の見習いなんだけれどね」

「私の名前はシーナ。シーナ・ルゥっていう名前だからシーナでもルゥでも好きな方で呼んでね」

「ルゥって聞かないけれども.シーナってどこから来たの?」

「ここからずっと北の北方の地。一応フルール家に住まわせて貰っているの」

「ってことはあのリーンさんのこと知っているの?!」

「勿論。一応、私は義理の妹ってことになっているんだ」

「すっごーい!ふふーん。もしかして、今日の占い当たっちゃったかなー?」

「ま、ともかく。シーナ、これから宜しく!」

「こちらこそよろしく。レイ!」

 

 まさかここまで初対面の子と話せるなんて思いもしなかった。でも、生まれて初めての友達。何か凄い嬉しいやら楽しいやらで顔のにやけが止まらなかった。

 

 集合時間が近づいてくると、段々と人が増えていく。顔を知っている生徒もちらほら。有名どころの家、言えば名家での生まれの人がちらほらいるのだった。私の視界からは相手の持っている「力」が見える。それぞれ人には色とオーラがあり、ふわふわ雲のように纏っている人や雷が落ちたかのような人。ましてや柱のような綺麗な円柱を纏っている人がいる。ただ、このことを姉に話したことがあるが「そんなのは見えないよ?」と言われ、口外しない方がいい。と釘付けされている。まぁ、人を見た目で判断するのはよろしくは無いし失礼であるのは事実。でも、気になるものは気になってしまうのが少し厄介な所である。

 レイの魔力も見ていたが凄い不思議な「星」を纏っているような感じ。雲のようにふわふわしているが、どことなく感じる「それじゃない」感。でも、普段は大きさも見えるがレイのは他のと違って終わりが見えない。そう。端に向かうたびに「薄く」なっているのが分かる。そう考えると、レイの魔法って相当強力なモノを持っている気がする。

 

 そんなこんなをしているうちに学園内に鐘が鳴り響く。扉を開き、丈の長いローブを着た魔法の先生が入ってきた。教壇に立ち、口を開くとざわついていた教室内が一気に静かになった。

「生徒の諸君、無事入学おめでとう。これから君たちにはこの学園の生徒としてしっかり勉学を積んでもらい、将来有望な人材として成長してもらいたい」

 この一言で、さらに教室内に緊張感が漂う。

「この学園は全6学年あるのは存じていると思う。その中でもほとんどの生徒が4年で卒業してしまうのが現実である。この教室の中で6年まで残る人はいないだろうが、そんなことはいい。せいぜい残れるように頑張って精進してくれたまえ」

「さ、堅苦しい話はここまでにしておこう。君たちはこの後大講堂に行ってもらい入学式を行う。席順は特に決まっていないが、なるべく席を詰めて座るように。大講堂での校長の祝辞が終わった後、またこの教室に戻ってきてもらい今後の説明を行う。くれぐれも問題を起こさぬように行動すること。いいね?では、各自移動を開始してくれ」

 

 先生が教壇を降り教室から出ていくと、静かだった教室にだんだんと活気が戻ってくる。生徒たちは再び雑談に戻り、「あの先生、あの教科で有名な先生だよね?」とか、「あの先生には習いたくないなぁ」などの声が多く聞こえてきた。

 大講堂にそろそろ移動するか。と思い席を立つと

「ね、シーナ!一緒に行こうよ!」

 と、レイが誘ってくれた。もちろん、断る理由なんて見つからない。

「勿論!」

 そう言い、笑顔で返したのだった。

 

 教室を出ると廊下が新入生であふれており、「お久しぶり!」や「一緒じゃなかったよなー」とかいろいろ。まぁ、私にはあまり関係のない話だったけれども少し寂しかったのは秘密である。レイと一緒に行動をしているのだが、どうやっても話しかけづらい。もともと私が1人でいることが多かったためか、こういう何気ない会話ができないのは少し悔しかった。しかし、私にはレイが友達としている。レイはかなりのおしゃべり好きであるから会話の内容が尽きないのが面白い。

「でさー、シーナ。あの先生怖くなかったー?」

「うーん。お義父様よりも怖くない.かな?でも、意外と悪くない.?とか」

「私はもっと楽しい方がいいかな~。もうおばあ様みたいに厳しい人は嫌だよ~」

 

 うーん。会話が続かない。本当にこの返し方でいいのかすら分からないのは困った。ごめんね、レイ。ちょっと苦手無いんだよね.

 もっと話したいことは沢山あるし、音楽もぜひ聴かせたい。この移動中、こんなことをずっと考えているのだった。

 

 

 大講堂の大きな扉をくぐり中に入ると、この講堂の見た目よりも数多くの生徒や長椅子が置いてあり、天井には大きな広い青空が広がっていた。さっきいた教室とは全くと言って違い、沢山の魔法がかれられているのが分かる。講堂内の景色を楽しみながらゆっくり進んでいくと、先輩方の大きな拍手が私たち新入生を出迎えてくれた。

 レイと共に席を座り、改めて講堂を見渡すと口が開いてしまうほどに綺麗である。そして一番前に座っている先生方。壇状になっていて、一番上には校長が座っていた。見ていると、何か視線を感じる。まぁ、ぶっちゃけ言ってしまえば私の入学自体が異常なことなんだと思う。普通、この学園での入学試験は実技を取る人が多い。それに比べ私は座学オンリーで受かっている。そう考えると、眼をつけられてもおかしくはない。

 

 新入生が全員入り終わり、壇上に校長が立つ。校長が手を挙げると、講堂に静寂が訪れた。

「では新入生諸君。改めて入学おめでとう。私たちは君たちを歓迎する。これから君たちには『学び』というのをやってもらう。自分の特技を見つけるのもよし、極めるのもよし。学び方は人それぞれあり、魔法と剣術ではそれが個性として現れる。是非、君たちには『自分しかできないもの』を見つけてほしい。多くのものは早く卒業するがそのまま在学し、今教壇に立っている生徒もおる。時間は無限にあるようで有限である。人生の限られた時間内にこの学園で生活したことをどうか覚えて、誇りに思ってほしい。では、私からは以上だ。学園生活に幸運を祈る」

 

 静かだった講堂が大きな音に包まれる。全生徒が大きな拍手を挙げ、その中には恒例行事だろうか。花火や星を打ち上げる魔法もあった。

 

 そう。ここから私の学園生活が始まるのだった。

 

 

 ──────

 

「で、あの子が噂の子?」

「うん。間違いないね。あの子で間違いなさそうだ」

 

 そこには壇上から1人の生徒を見ている人が2人。

 

「へぇ、入学試験を座学のみ。それで過去最高得点って?貴方の作った問題もあったのでしょう?」

「あぁ。しかも満点を超えてるよ。いや、あの解答用紙は満点以上のものを付けざるを得なかったのが正しいかもね」

「貴方がそこまで言うのって珍しいものね。是非私の講義に呼びたいところだわ?」

「ただ、あの子はフルール家の者らしい。氷と剣の魔法が優れているというのが有名だが、なぜあの子は魔法の実技を使わなかったのだろう」

「貴方がそんなにも気に掛けるのも珍しいわね。私にはそんなに気にかけてもらってないのに」

「仕方ないさ。兎も角、あの子を観察しないといけなさそうだね」

「まぁいいわ」

 

 学園に起きた小さな異常事態。2人はそれに気づきかけていたのが事実。「シーナ」という子がどのような存在であるのか、どういう力を持つのか。

「例の子」がこの講堂を出るまで、珍しく2人は壇に座っていたらしい。




この物語をご覧の皆様、お久しぶりでございます。改めてとまとの水煮缶です。
さて、前回の物語が投稿されたのが6月程。今は何と12月ということになっており、半年以上開いてしまいましたね。あれ?前回の投稿時に「8月に出す」とか言っているくせに何故4か月も開いてしまったのでしょう。ただただこの作品を読んでもらっている皆様には申し訳ないです(泣)これはリアル事情が絡んでいたからが原因ではありますが、流石にサボりすぎ(殴  (戦闘場面書くんじゃなかったの?→次頑張って書くから許してくださいお兄様。)
――――
さて、3話を投稿いたしましたがどうだったでしょう。「ユグノ学園」がどのような学園か、そして改め「シーナ」は何者なのか。これからは「あの2人」がシーナと大きくかかわってきます。そこはお楽しみに。
そしてレイちゃんが初登場しました。レイは占いの家の出でありこれからシーナと共に頑張って成長していきます。レイがどのような魔法を使うのか楽しみにしててください。

―――
最後になりますが、このように小説が遅れてしまうことは申し訳ないです。ですが、初めて書く作品ですのでどうか暖かい目で見守っていただけると幸いです。
とまとの水煮缶
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