2年連続でトレーナー試験に落ちた男とトウカイテイオーの話 作:キンニャモニャ
専門の方が見たら噴飯ものでしょうが、ご容赦ください。
秋天に続き、ジャパンカップもテイオーが制した。
春天でのギリギリ感はどこに行ったのだというくらいの圧倒的勝利を飾り、今ではどこもかしこもテイオーの話題に溢れていた。
そうなると、有マは問題なく参加できるはず。しかし、ジャパンカップとは100mしか変わらないとはいえ、長距離となるとテイオーのパフォーマンスが落ちることを男は理解していた。
テイオーが来たときに、長距離対策を詰めた方がいいかなと考えていた。
ちょうど、そんなときにテイオーがやってきた。
しかし、ドアを開けた男はテイオー以外のウマ娘がいることに気づいた。
彼女のことは男もテレビで何度も見たことがある。
菊花賞に、昨年の天皇賞春を制覇した猛者。今年こそ天皇賞春でテイオーに敗れたが、その強さは誰もが認めるウマ娘。
「メジロマックイーン?」
紫混じりの綺麗な芦毛色が目立つウマ娘が立っていた。
「あの……初めまして、メジロマックイーンと申します。今日はその……なぜ連れてこられたかはわかりませんが、テイオーに引っ張られまして……」
「これはご丁寧に。俺はテイオーの医療面でのサポートを行ってる――」
「センセー! マックイーンを助けてあげて!」
ぎこちなく挨拶を始める2人の間にテイオーが割り込んできた。
「……急だな」
「テイオー、あなたどういうつもりですの?」
「センセーもマックイーンのことは知ってるでしょ? 今ケガしてて、このままだと次の春天に出られるかわからないんだって!」
メジロマックイーンは今年の天皇賞春でテイオーと激闘を繰り広げた。テイオーが無理したことで関係者を賑わせた一戦だったが、無理をしたのはメジロマックイーンも同じだった。左足の粉砕骨折。それがレースの代償だった。
メジロマックイーンはその後、予定していた宝塚記念を回避。治療に専念するとして、それ以来ずっとレースをしていない。
ウマ娘の骨折は人よりも完治に時間がかかる。今回は限界を出しきった末のケガということもあり、かなり深刻なものだった。
「心配なさらなくても大丈夫ですわ。天皇賞春への出走準備は着々と進めていますので」
「でも、あんまり状況が良くないでしょ?」
「それは……そうですが……」
困ったように眉をひそめるメジロマックイーン。
「ほら! だからセンセー、マックイーンに協力して欲しいんだっ」
「頼ってくれたのは嬉しく思うが、俺ができることなんてほとんどないぞ」
男はメジロマックイーンの立ち姿を見てから言った。
「なんでー!?」
「だって、もうケガしてるからな。それにメジロ家ともなれば、専属医がいるだろ?」
「ええ。主治医がおります。私のケガは主治医が管理していますわ」
医療サポートを行えるトレーナーを目指していただけあって、男はメジロ家の主治医が腕の良い医師だと知っていた。
「で、でもセンセーなら……」
「俺がやってるのはケガをしないための調整だよ。疲労とか癖がケガに発展しないよう予防してるんだ。もし骨折とか筋肉剥離とか、明らかな外傷に発展したら、安静にするしかないぞ。テイオーが同じ状況になったとしても、俺は普通の医者が行うような治療しかしない」
「うぅぅ……」
「なるほど。テイオーのケガ知らずは貴方が……」
同じ医療行為しかしないなら、実績を積んできているメジロ家の主治医に任せるのが一番良いと男は判断した。
「ケガしたら、そこに干渉するのは基本的にダメ。医師に治療してもらった後は大人しく自然治癒に任せて、適切なタイミングでリハビリを開始するのが一番だ」
「私もそう思いますわ」
「ううううぅぅぅ」
納得できずに唸り続けるテイオーを見て、メジロマックイーンは気づかうように話しかけた。
「テイオー、あなたが隠していた彼のことを私のために紹介してくれたことは嬉しく思います。ですが、今の状況ではどうしようもありません」
首を振りながらメジロマックイーンが言った。
しかし、テイオーの表情は変わらない。
「……マッサージは?」
「え?」
「だから、患部は放っておくのが一番なんだって。骨折なんて下手に触ったら治りかけていた場所がズレて面倒なことになるぞ」
いつもの様に諦めの悪いテイオー。男は驚くメジロマックイーンを一瞥したあと、テイオーに言った。
「……他の場所は?」
「ほか? どっか別の場所も痛めてるのか? それともバランスの話か?」
「そう! バランス! マックイーンも片足が使えないと体に偏りができてるでしょ?」
「それはできてると思いますが……それより、マッサージですか?」
訝しげに男とテイオーを見比べるメジロマックイーン。
「バランスを整えることが無意味だとは決して言えない。だが、それをやることでケガの治りが早くなることはないぞ。どうせ、なんらかのケアはしているんだろうし。せいぜい、転んでケガが悪化する確率が減る程度だ」
素人は黙っとれ顔で男は言った。
「十分じゃんっ!」
「……十分ですわね」
「…………十分だったな」
男の顔がスンッとなる。
「ほらっ! じゃあマッサージしないと!!」
「ヤケに勧めるなあ」
「ですからマッサージってなんですの? 按摩ですか?」
埒が明かないと、メジロマックイーンが男に向けて問いかけた。
「そんなもんだと思ってくれ」
詳しく話すとテイオーが騒ぎ散らすことを学んでいた男が無難に答えた。
「センセーのマッサージはすごいんだよっ。やってみれば、効果がわかるんだからっ」
「そ、それはわかりましたわ。ですが私が男性にマッサージをされるというのは、どうにも……」
「大丈夫だって! ボクもいつもやってもらってるから!」
堂々と胸を張るテイオー。
「それもどうかと思いますが……」
困惑するメジロマックイーン。
「いや、盛り上がってるところ悪いが、俺はやる気ないぞ」
「なんでー!?」
「メジロマックイーンには既に主治医がいるだろ。その人に相談なしに別の医療行為をするべきじゃない」
やぶ医者ならともかく、メジロ家ならばそれはないと男は思った。恐らく骨折がいつ治って、いつ頃から本格的なリハビリを開始するかもスケジュールを組んでいるだろうから、男とテイオーが首を突っ込むのは却って迷惑になる可能性がとても高い。
「医療行為ですの?」
「骨折だから完全に医療行為」
「えーー、いいじゃん! ほんのちょっとだけだよ?」
「……テイオーが俺に相談なしに別の医師の治療を受けていたとして、その結果、テイオーの調子が悪化することになったら、俺は迷わず尻をひっぱたくぞ。もちろん、お前のな」
ジロリとテイオーを睨む男。
それを受けてテイオーが震え上がった。
「しししないよ! ボクはそんな怖いこと絶対にしないからっ!!」
「貴方たち、一体どういう関係なんですか……」
ピンッと尻尾を立てて、頭を全力で左右に振るテイオーを見て、メジロマックイーンが少し引いた。
「とにかく、メジロマックイーンの主治医が言うならともかく、そうでないならダメだ」
「道理ですわね」
「でもでもでも~~っ」
「でもじゃない。聞き分けなさい」
「うううぅぅぅ」
「まるで親と子どもですわね」
ビビっていたくせに、一瞬で駄々をこね始めるテイオーだったが、男はそれに眉1つ動かさずに対応した。
「じゃあ、医療行為に当たらない部分だけ!」
「……なんで、こんな勧めてくるんだ?」
「わかりません。今日は急に連れて来られましたので……」
いつもなら、そろそろ折れる頃合いだというのに、今日に限ってテイオーは譲らない。
テイオーはワガママを言うが、物事を理解する能力に長けている。今回だって男の言い分に理があることはわかっているはずなのに、それでも食い下がる様子に男は違和感を感じた。
だが、急に連れてこられたメジロマックイーンも困惑する一方だった。
そんな2人にテイオーが耳をへにゃりと垂れ下げて話し始める。
「だって、もしかしたらマックイーンはボクだったかも知れないから……」
「テイオーが私ですか?」
「センセーに会ってなかったら、ボクは間違いなくケガしていたよ。それこそマックイーンみたいに、出たいレースに出られなくなってたと思うんだ」
「出たい、レース……」
半年以上もケガの回復に当てているのだから、当然その間はレースに出る機会はなかった。
メジロマックイーンには未勝利のG1レースがたくさんある。そんなレースが目の前にあるのに、ケガのせいで出走できない。それは確かに辛いことだろうと男は思った。
「さっきマックイーンはボクのことをケガ知らずって言ってたけど、全然そんなことないんだよ。ボクはいつだって紙一重だった。ギリギリのところでいつもセンセーに助けてもらってたんだ。そうじゃなかったら、こんなに勝てなかったと思うし、たぶん三冠も取れてないと思う……」
「可能性として否定はしない」
「もしボクが同じ状況になっていたとしたら、誰でもいいから、少しでも状況が良くなるようにしてって願うと思うんだ。そう考えたら、ボクにできることはセンセーなんだよ」
メジロマックイーンが男を見て、テイオーを見た。
男は目を閉じて、テイオーの言葉を聞いていた。
「そのままにしていてもマックイーンのケガはきっと治る。でも、それが出たいレースに間に合わないなら、ボクたちにとっては、治らないと同じくらい辛いことなんだよ。マックイーンがそうなるなんて……ボク嫌だよ……!」
「テイオー……あなた、そこまで私のことを……」
テイオーの悲痛な声を聞いて、メジロマックイーンの声も震えた。
肩を震わせるテイオーにメジロマックイーンが近づき、優しくテイオーの肩を包んだ。
テイオーが少しして顔を上げた。痛々しい笑みを浮かべていた。
「それにマックイーンはボクのライバルなんだよっ。早くケガを治してもらって、また一緒にレースがしたいんだ!」
メジロマックイーンが一度だけ鼻をすする。テイオーの肩を掴んでいた手に、改めて力を込めた後、ゆっくりと手を下ろした。そして頷いた。
「……わかりましたわ。男性にマッサージをされるのは抵抗がありますが、テイオーが信頼する彼を私も信じます」
「マックイーン……」
お互いに目を赤くした2人が、不格好な笑みを浮かべた。
だが、2人の間には確かな絆が宿っていた。
「テイオー、私だってあなたには必ず借りを返したいと、いつだって思っていますのよ」
「へへっ。返り討ちにするからねっ」
「ええ。そちらこそ覚悟しておいてください」
「うんっ! じゃあセンセー、お願い!」
スンッと鼻をすすった後、テイオーが男に向かって言った。
2人のやり取りを黙って聞いていた男が目を開いた。
いつもの仏頂面だった。
「やらねーよ」
「「……え?」」
2人が理解できずに口を開いた。
「いやだから、やらねーって」
「「なんで(ですの)!?」」
2人が男に詰め寄った。
男は頭1個半以上も高い位置から2人を見下ろして言った。
「なんでもクソも、主治医がいるなら横槍は入れないって説明したばかりだろ」
「センセーのわからず屋! ここはマッサージする流れでしょ!?」
「そうですわ! さすがに私もテイオーに賛成しますわよ!」
やいのやいのと騒ぐ2人に、男は少しだけ眉をひそめた。
「医者がそんな簡単に同情すると思うなよ。理屈をひっくり返したいなら、相応の考えをまとめてから来い」
「え、いやだって、今の話、聞いてなかった!?」
「聞いてたよ。出走したいレースがあるんだよな。そしたら、まずは主治医に相談だ」
男は腰に手を当てて、何度言わせるんだ? と言わんばかりの呆れ顔で言った。
「ボクはセンセーにやってもらいたいの!」
「主治医がいるなら、絶対に治療の計画を立ててるんだから、その経過も知らない部外者が下手に首を突っ込むべきじゃないんだって」
「いいからしてよ! マッサージ!」
「しないしない。俺が子どものわがままに屈すると思ってるのか?」
「もーー! 頑固者ー!!」
「なんですの……底知れぬ圧を感じますわ……これがテイオーの2人目のトレーナーですの……?」
その後、テイオーが騒ぎ続けたおかげで、急きょメジロマックイーンの主治医に電話で連絡をすることになった。その結果、メジロマックイーンへのマッサージは認められることになった。
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数十分後、施術を終えた3人はリビングに戻った。
紅茶を一口だけ飲んだ後、顔を赤くさせたメジロマックイーンが口を開いた。
「……すごかったですわ」
余韻に浸るように、遠い目をしたメジロマックイーンが言った。
「ね! すっごく効くでしょ?」
「それは否定しませんが……貴方たち、いつもあんなことを?」
「まあねー。3年以上前からずっとやってるよ」
「3年以上も隠していたんですのね……」
「なんか言い辛くてさ。別にやましいことはしてないんだけど、世間的にはどうなんだろうって思ってさ。いや、センセーにそんな気持ちは絶対にないんだけどね」
ショートケーキを美味しそうに口に運びながら、テイオーが言った。
「治療だぞ。テイオーの調子を整えること以外は考えてない」
男は新しいカルテにメジロマックイーンの状況を書き込みながら言った。
「ね、こんな感じ。でもセンセーがいきなり本気でやったのは意外だったなー」
「やるとなったら当然フルコースでやるだろ。ちゃんと筋は通したし、わざわざ俺を頼ってくれたんだから、少しでも状態を良くしてあげたいと思うさ」
「マックイーンは暴れなかったよね。ボクが初めてやってもらったときは少しだけ抵抗したんだけどね」
少しだけ抵抗って言うか、ギャーギャー騒ぎまくってた気がするけどな、なんて男は思ったが、大人だから黙っていた。
テイオーの言うとおり、男にマッサージを受けているメジロマックイーンは大人しかった。初めこそ緊張で体を固くしているようだったが、すぐにリラックスして、男に体を任せてくれた。
男はこれに驚いたが、それならすぐに効果的な施術を行えると喜んだ。
「こちらからお願いしたことですし、不思議と嫌な感じはしませんでしたので。いえ、私は男性への警戒心くらい持ってますわよ。私の主治医は男性ですが、信用はしていても最低限の警戒心は持っています。でも不思議と貴方にはそういった気持ちが起きませんでした」
メジロマックイーンの視線を感じて、男がカルテから顔を上げた。
「俺もメジロマックイーンはやりやすかったな」
メジロマックイーンの笑みから信頼を感じて、男も笑顔を返す。
「マックイーンと呼んでくださいな」
「了解。紅茶のお代わりいるか?」
「いただけますか? 紅茶を淹れるのがお上手ですわね」
「3年以上も鍛えられたが、マックイーンに喜んでもらえたなら、その甲斐もあったな」
「まあ、うふふ」
にこやかに笑い合う2人。
「……なんか2人とも仲良くない?」
2人の様子をジト目で見ていたテイオーが言った。
「そりゃあお互いに仲良くしようとしてるんだから、仲良いだろ」
「そうですわね。それがどうかしましたか?」
「……いや、なんでもないよ」
不思議そうな顔をする2人にテイオーが口をつぐんだ。
「変なヤツだな」
「ええ、本当に。テイオー、私たちで良ければ話を聞きますわよ」
「そうだな。俺らに話してみろよ」
2人はアイコンタクトで呼吸を合わせ、テイオーを気づかった。
「なんでもない!」
ふんっとテイオーがそっぽを向いた。
「よくわからないが、気が変わったらいつでも言えよ」
「テイオーには借りができましたし、気にせず言ってくださいね」
「うん……ありがとね……」
心配する2人に力なくテイオーが返した。
男とメジロマックイーンは顔を見合わせ、これからも2人でテイオーを気にしてあげようと、軽く頷き合った。
紅茶のお代わりを淹れた男が席に座ると、カルテを元にメジロマックイーンに診察結果を伝えた。
「マックイーンの体調の件だが、とりあえず、体の歪みは治せたはずだ」
たしかにマックイーンの体の偏りは酷く、マッサージした効果はあったと男は確信していた。
「ええ! 体がとても軽いですわ!」
「ケガをしたところ以外は丁寧にケアしたからな」
「全身くまなく触ってたよねー」
机にぐで~と上半身を突っ伏していたテイオーが顔だけ上げて言った。
「頭も軽くて、スッキリした感じがしますわ!」
「たぶん肩回りが凝ってたんだろ。ケガで筋肉が落ちたところにリハビリによる酷使で疲労がたまったんだろうな」
「あれ、胸もガッツリやられるんだよねー」
皮肉な顔をしたテイオーが言った。
「腰回りもスッとした感じがします! 少し動きが重くなっていたのに、軽快に動かせますわ!」
「足のケガだから、下半身全体を安静にしてたんだと思うけど、変な癖がついてたから伸ばしてほぐして柔軟な状態にした。自分1人でもできると思うが、ケガした場所に負担がかからないように注意しろよ」
「お尻と股関節だよね。遠慮なしに触りまくるんだよねー」
突っ伏しながらも、うんうんと器用に頷くテイオー。
男とマックイーンが目を合わせた後にテイオーに向き直った。
「テイオー、あなたどうしたんですの?」
「お前、盛ってんの自分だけだって気づいてる?」
「盛ってない!!」
トウカイテイオーのやる気が下がった
メジロマックイーンのスピードが50上がった
メジロマックイーンの体力が70回復した
メジロマックイーンのやる気が上がった
メジロマックイーンの「太り気味」が治った
メジロマックイーンの「偏頭痛」が治った
メジロマックイーンは「練習上手○」になった
メジロマックイーンの秘められた力が覚醒した!
メジロマックイーンは「真打」を覚えた