2年連続でトレーナー試験に落ちた男とトウカイテイオーの話   作:キンニャモニャ

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先日分を投稿した後に、10話の後書きに小ネタを追加しましたのでご連絡します。


13話 有マ記念後

ウマ娘の人気はレース場だけにはとどまらない。

グラビア雑誌の表紙を飾る子、駅やショッピングセンターにポスターが掲示される子、ウマスタやウマッターでバズる子、更には様々な企業とコラボしてウマ娘グッズが大人気を博するなど、あらゆるところでウマ娘は登場する。

 

ちょうど男とテイオーが見ているテレビで、テイオーとシンボリルドルフが並んで初詣をしているのも、その一環だった。

 

「お、テイオーだな」

 

「あー、そう言えば前に撮影したなー。よく撮れてるでしょ?」

 

「いいじゃないか。楽しそうな感じがテイオーらしい」

 

画面では、参拝シーンが終わって、テイオーがシンボリルドルフの手を取って、笑顔で屋台へと向かっている姿が映っている。

 

「元旦は家に帰らないといけないから、カイチョーと一緒にお参りは新鮮で楽しかったなー」

 

テイオーが剥いたみかんをポイッと口に放り込みながら言った。

 

「今日の夜に帰るんだよな。早めに寮に戻って準備しろよ」

 

「はーい。あ、センセーもうちに来る?」

 

「やだよ。俺の正月はごろごろしながら駅伝を見るって決めてるんだ。余計なことはしたくない」

 

男は、ながら見する駅伝が大好きだった。

 

「もー、センセーは出不精なんだからー」

 

「はいはい。それにしてもテレビでもテイオーの姿をよく見るようになったな」

 

「昔からちょくちょく出てたじゃん」

 

「それはレース特集のことだろ。それ以外でってこと」

 

「あーそうかもね。遊園地に夏のドリンクCM、お祭り、お菓子、ファッションコラボ。いろいろあったなー」

 

CMの下調べと称して、遊園地や夏祭り、ブティックに引っ張り回されたことを男は思い出した。

ああ、たしかにいろいろあったよな、と男は怒涛の1年間を思い出した。

 

「若者向けばかりかと思えば、家族向けの初詣か。広い世代に人気がある証拠だな」

 

「ふふーん。まあボクだからねっ。でも他の子もいろんなCMに出てるんだ。みんなもすごいんだよ。クリスマスはゴールドシチーとカレンチャンがイメージキャラクターをやってたし」

 

男はCMや駅の広告で、ゴールドシチーやカレンチャンが『クリスマスは○○へ連れて行って?』なんて言ってるのを思い出した。2人とも容姿が良いし、メディア露出を拒まなそうだから、うってつけの人材なんだろうなと思った。

 

「カレンチャンか。そういえばこの前いたな」

 

「え、どこに?」

 

「ほら、数日前にトレセン近くの大きなクリスマスツリーを見に行ったろ。その時に人集りがあって、それがファンに囲まれたカレンチャンだったんだよ」

 

「ボク見てないよ」

 

首を傾げるテイオー。

 

「お前はクリスマスツリーが見えたところから、そっちしか見てなかったろ。俺の手を掴んで引っ張ってたときだよ。お前が話も聞かずに進むから、俺が3人くらいの通行人とぶつかっただろ」

 

「あー、そう言われると、そんな気もするかなー」

 

明後日の方向を見ながら、テイオーは誤魔化すように言った。

 

「これだからな。ま、だから気づかなかったんだろ。集まってた人は10人どころじゃなかったぞ。カレンチャンを中心に3、4周りくらい人が重なってたな」

 

男性も居たけど、8割くらいは女性だったので、身長的にファンに埋もれることなくカレンチャンがファンサをしていたのを男は見ることができた。

 

「すっごい人気だよねえ。やっぱりカワイイ子だったでしょ?」

 

「うーん、どうだろうな……」

 

容姿が整っているが、SNSで見るキメ顔自撮りほどではない。3年以上も容姿が良いガキンチョと一緒にいたので目が肥えていたこともあり、男はカレンチャンを見ても特に心が動かなかった。でもたしかにオーラ的なヤツは出ていた気がするとは思った。

 

「へー、やっぱりカレンチャンには反応が薄いんだね」

 

「どういう意味かは聞かないでおこう」

 

男はあの時、偶然カレンチャンと目が合ったことを思い出していた。

お、カレンチャンがいる、と思った男に反応するかのように、ファンの対応をしていたカレンチャンが顔を上げて、目が合ったのだ。

男を見て、カレンチャンはびっくりしたかのように目を見開いていた。

ともすれば運命が始まっちゃった? と勘違いしてしまいそうな彼女の様子だったが、カレンチャンがストライクゾーンから外れている男はそんなことでは動じない。

過去の話だが、男はそういった表情を大学時代に連れて行かれた合コンで幾度となく見てきた。そのとき男は超エリート大学の医学部生だったので、唾を付けようとする女性が多かったのだ。合コンに参加させられるときは事前情報を仕入れた猛者たちが、男を確認するや否や、まるで一目惚れしましたと言わんばかりの表情を見せてくれた。そして初めての会話は決まってこうだった『すごく私が好きな顔をしていると思ったの! こんなの初めて!』。

時には当時の彼女に内緒で合コンにイヤイヤ参加していた男は、そういった女たちの面倒臭さは理解していた。ああいった表情をする奴には関わるべきじゃない。それが数少ない女性との関係で男が学んだことだった。どうせ当時の彼女に外見・性格ともに敵う相手なんていなかったので、すっかり女性を穿った目で見ることに慣れてしまっていたとも言う。

 

ちなみに男が自分のことをイケメンなのでは? と思うようになったのも、この時の経験による。

 

カレンチャンを見かけた時には、そんなことを考えていた男だったが、ここで言うと絶対に目の前にいるテイオーが吠えることを理解していた。

 

もしここで男がテイオーの癇癪を恐れずに素直に話していれば、カレンチャンは玉の輿を狙ってる女性とは違うでしょ、と話が進むのだが、現実はそうはいかない。

これによりテイオーは原因不明の視線と圧に悩むことになるのであった。

 

「実はクリスマスにもファンへの感謝を込めて、ライブをしたらどうかって話があるんだよね」

 

ウイニングライブはファンへの感謝を伝えるためのライブだ。最近はウイニングライブだけではなく、別の場所でも応援してくれる人たちに楽しんでもらおうとトレセン学園は活動している。

男は元カノのこともあり、そういった活動に好意的だったので、良い案だと感心した。

 

「へー、ファンは大喜びだろうな。特に独身の人たちが」

 

「カップルでも見に来てくれると嬉しいんだけどね。オーナメントをドーンと用意するって噂もあるみたいだし」

 

「どーん? ツリーに飾るんだよな?」

 

「そうそう。どれだけ飾るのか楽しみだねっ」

 

男は先日テイオーと見たツリーを思い出した。あれも立派なモミの木だった。それと同じ規模ならドーンとは言わないだろうし、一体どんな大きさになるのか想像がつかなかった。

 

「ドーンだからな。1,000個とか?」

 

「えーそれだけー? 10,000個は飾るんじゃない?」

 

「10,000? それって多いのか?」

 

「わかんない。でもそれだけあったら見応えあるだろうなって」

 

「たしかに」

 

目をキラキラさせているテイオーを見て、男は細かいことを考えるのは止めた。

 

「また見に行こうね」

 

笑顔のテイオー。

 

「……」

 

「行こうねっ!」

 

テイオーの笑顔が一段と深くなる。

腕を上げたな、と男は思った。

 

「はいはい。それにしてもクリスマスにライブかあ。時期がちょっとなあ……」

 

「そうなんだよねー。有マが終わった後だったらいいんだけど、大抵クリスマスの後に有マがあるからね。今回だって27日開催だったし」

 

レース直前だったので、2人はクリスマスのお祝いはできなかった。

テイオーは寮でチキンとケーキを食べたけど、それだけだったと言っていた。

男にはそれ以外になにがしたいのかわからなかった。

一応、クリスマスらしいことをしたい! との要望があり、クリスマスツリーだけでも見に行くかと24日に出かけたくらいだった。

 

「東京大賞典もホープフルステークスも年末にあるんだよな。俺たちみたいにツリーだけ見に行くなら良いんだけど、ライブの練習ってなるとレースに影響が出そうだ」

 

「人気投票で選ばれたからには、全力でレースを走ることが第一だよね。そこは絶対に疎かにできないよ」

 

「いいぞ、その考えはすごく格好良い」

 

「えへへー、でしょでしょー!」

 

胸を張るテイオー。

 

「レースがあるって言っても短距離やマイルのG1はないから、そっちで人気の子なら参加できるよな。きっと盛り上がるだろう」

 

ファンへの感謝もあるが、トレセンのウマ娘たちは中学生、高校生の年齢がほとんどだ。きっとクリスマスのイベントがあったら皆でワイワイ盛り上がるんだろうと男は思った。

 

「そうだよね。有マはすごいけど、他の子たちもすごいからね! 有マはすごいけどっ!」

 

「なんだよ」

 

「別に~、ちょうど有マに勝ったウマ娘がセンセーの近くにいるなーって思っただけ」

 

「もう数えきれないくらい褒めてるぞ」

 

「なんど褒められても足りないよ」

 

「有マに勝ってもテイオー(お子ちゃま)はテイオー(お子ちゃま)だな」

 

男の嫌味は聞こえないフリして、テイオーが両腕を広げた。

 

「さあ! 無事、無敗の7冠を達成したボクに一言どーぞ!」

 

「すっごく……すごいです」

 

皐月賞、日本ダービー、菊花賞、天皇賞春、天皇賞秋、ジャパンカップ、有マ記念。堂々の成績だ。しかも無敗。圧倒的とすら言える。

さすがにここまでの成績を上げると思っていなかった男が、改めてその偉業を噛みしめるように何度か頷いた。

もちろん、男はテイオーの才能を信じていた。だがデビュー直後、あるいはメジロマックイーンとの戦いで負けることがあるだろうと考えていたのだ。

それらを跳ね除けて、ここまで勝ち続けてきたことには称賛の気持ちしか浮かばなかった。

 

「バカにしてない?」

 

「するかよ。マジですごいって。無敗の7冠は前人未到だろ。テイオーはすごい」

 

「えへへ! そうでしょ、そうでしょーっ! 来年は大阪杯と宝塚記念をもらっちゃうもんねっ!!」

 

今年は春天に専念、あるいは春天からの回復のために回避した2つのレースだった。

今のテイオーの実力と、出走する他のウマ娘を考えると、まず落とすことはないだろうと男は思った。

 

「おお、良いんじゃないか。今の調子なら勝ちは濃厚だぞ」

 

「センセーもまた見に来てくれなきゃ嫌だよ! そしてそして~!」

 

いたずらっ子の様な表情をするテイオー。

 

「まだ何かあるのか?」

 

本当に心当たりがない男は、マイル挑戦でもするのかな、と考えていた。

 

「なんと、凱旋門賞に出バするんだ!」

 

「凱旋門賞……マジか」

 

凱旋門賞。パリで行われる国際G1レースの格付け1位のレースだ。

その出走ウマ娘のレベルは高い。日本から何人ものウマ娘が挑戦をしたが、その全てが掲示板に載ることすらできなかったほどだ。

凱旋門賞は日本が重視している芝の中距離レースということもあり、関係者の間では日本の悲願とも言われているレースだった。

 

「マジだよ! ほら、札幌記念も快勝だったからさ、洋芝もイケると思うんだ! ……どうかな?」

 

「うん……問題ないと思う。ジャパンカップよりも札幌記念の後の方が足に疲れが残っていたけど、2400mならテイオーの力を十分に出せると思う」

 

パワーよりもスピードの方が優れているテイオーは間違いなく和芝の方が合っていると男は思ったが、その差は致命的なものではないとも思っていた。

 

「えへへ、センセーがずっとケアしてくれていたおかげだよっ!」

 

「バカ言うな。才能に溺れずに努力し続けたテイオーの成果だ。それこそ胸を張って誇るべきところだ」

 

「うん……ありがと」

 

尻尾をゆらゆらとさせるテイオー。

 

「でも凱旋門賞――つまりパリか。いやあ、ついにテイオーが海外に飛び立つんだな。なんだか感慨深い」

 

「まあ見ててよ。ボクが世界で一番強いんだって見せてあげるからさ! とりあえずフォワ賞に出て、そのまま凱旋門賞に直行だーっ!」

 

高らかに右手を上げるテイオー。

 

男はその姿を頼もしそうに見ていた。

 

「おう。ちゃんと生放送で見るからな。たぶんフォワ賞も生でやるだろうし」

 

「へ?」

 

右手を上げたまま、キョトンとした様子でテイオーが男を見た。

 

「うん? いや、フォワ賞って結果だけとか、良くて録画を放送するだけが多いけど、テイオーが出るなら生放送してくれると思うからさ」

 

「いや、センセーも来るんだよ」

 

「は?」

 

今度は男がキョトンとした。

 

「だから、ボクと一緒にパリに行くの。センセーがいなかったら誰がボクのケアをするのさ」

 

「はあ!? いや行かねえよ! パリだぞ、パリ!」

 

「えええ! なんで!? 一緒に来てよ!! ボク、そのつもりで予定組んでるんだから!!」

 

驚く男に、驚きで返すテイオー。お互いに身を乗り出してぶつかり合う。

 

「予定って半年以上先のことだろ。今から変更しとけ!」

 

「やあだー! フォワ賞のあとは、そのままフランスで調整するんだよ! センセーが必要じゃん!」

 

「トレーナーにでもやってもらえ! フォワ賞から凱旋門賞なんて、準備を含めたら1月以上かかるだろ! いくら非常勤とはいえ、さすがにそんな休めねーよ!」

 

「やだやだやだっ! 北海道だって来てくれたじゃん! パリだって同じだよ!」

 

「どこが!? 芝以外はなにもかも違うわ! なんなら芝だって厳密には別ものだろ!」

 

一瞬、言葉に詰まったテイオーが、持ち前の地頭の良さをフル動員させる。

 

「センセー、フランス語も話せるじゃん! トレーナーとしての必須スキルだから完璧に話せるって言ってたじゃん!」

 

「言ったけど……それは理由にならんだろ!」

 

「なる! 調整の合間にセンセーに連れて行ってもらいたい場所がたくさんあるんだから!」

 

「観光だろう、それ!」

 

「なにが悪いって言うの!」

 

「開き直ってやがる……トレーナーに連れてってもらえよ!」

 

「センセーとがいいの! それにトレーナーはフランス語は話せないよ!」

 

今度は男が言葉に詰まった。信じられないといった様子で首を小さく振った。

 

「マジかよ……それで凱旋門賞とかチャレンジャーだな。通訳は?」

 

「たぶん雇うんじゃない?」

 

「曖昧だな。トレーナーはそれでOKしたのか?」

 

「まだ凱旋門賞を走ることは話してないよ?」

 

「話せよ! なんで話してないんだよ!」

 

これは尻叩きの時間ではと、男が腰を上げようとした。

 

「まずはセンセーに相談してからと思ったんだよ! 足の調子が不安定だったら、もう1年は様子を見てもいいかなって思ってたの!」

 

「それは……たしかにそうだな……」

 

男が重心を背もたれに戻した。

 

「でしょー! ふふん。ボクだってちゃんと考えてるんだよ!」

 

テイオーが胸を張った。

 

「そこは信頼してるけどさ……いや、考えてないところたくさんあるな。今回のこととか」

 

「だから、センセーが来るのは前提なんだって! じゃないとボクだって全力が出せないことくらいわかってるよ!」

 

「いやそれは……でも……いやいやいや」

 

到底つきあい切れないという気持ちと、テイオーが全力で走れるようにサポートしてあげたい気持ちが男の中でせめぎ合った。

 

「ならセンセーは1カ月間もセンセーの代わりにトレーナーがボクの調整をしたとして、ボクが全力で走れると思う?」

 

「……それができるなら、今頃ケガで苦しむウマ娘は激減してるだろうな」

 

テイオーと出会って3年以上も経つが、ウマ娘を取り囲む現状は変わっていない。

 

「ほらーっ!」

 

「いやそうなんだけどさ……」

 

だからってトレーナーでもないのにパリまで付いて行くのは客観的に気持ち悪い部類になるのではないかと、男は否定材料を探して、必死に頭を巡らせる。

 

「センセーはボクの挑戦は大事じゃないの?」

 

「大事に決まってるだろ! だけど、そうは言ってもさ」

 

「センセー……お願い」

 

上目遣いのテイオー。

 

「……う」

 

「一緒に来てくれたら、なんでも言うこと聞くから。バカなレースはするなって言われたら、ちゃんと止めるから。お願い……」

 

テイオーから嘘偽りのない感情が男には感じられた。

 

「……うう」

 

その日、男は結局のところテイオーには勝てないんだと再認識させられた。

 

 

 

 

 

 

 

スタミナが20上がった

体力が50回復した

やる気が上がった

トウカイテイオーの秘められた力が覚醒した!

「神業ステップ」を覚えた




6,000万個のオーナメントも衝撃的だったけど、まだ飾り付けがされていないときのボケーっとしたオグリが最高に可愛かったです。放置してるとこっち見てくる所とかヤバかった。
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