2年連続でトレーナー試験に落ちた男とトウカイテイオーの話   作:キンニャモニャ

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3話 出会い③

偶然、出会ったウマ娘と再会してから数日後、男が公園に来ると、ベンチに先客がいた。

それを見て、男はため息をついた。

 

「で、なんでまた来たわけ? しかもそこ俺の指定席じゃんか」

 

1週間も経たないうちに再び顔を合わせることになったウマ娘に、男は呆れた様子を隠さずに話しかけた。

 

ウマ娘は待ってましたとばかりに、足を楽しそうにぶらぶらと揺らしながらニシシと笑った。

 

「公園のベンチに指定席も何もないでしょっ」

 

「あるわ。このベンチを使い続けてもう1年近くになる。今じゃあホームレスのおっさんたちもここには近づかない」

 

男の体は大きく、傍から見ても鍛えあげていることがわかる肉体だった。だからホームレスはもちろん、生意気盛りの学生も近づいてこない。奥様方は真っ昼間から公園のベンチでボケーッとしている巨漢に薄気味悪さを感じて近づかなかった。

 

「ホームレスと肩を並べるのはどうかと思うよ」

 

「それだけ常連さんから認識されてるってことだよ。で、今日はなんだよ」

 

公園に暮らしている方々とは、お互いに認識しつつも関わらない。まさに現代の理想とするお隣さん関係であった。

どことなく満足気に語る男とは対照的に、真面目な顔になったウマ娘の揺れていた足が止まった。

 

「……あれから何件も病院に行ったんだ」

 

「ほう。忠告通りに行動したか。その年で大人からの一方的なおせっかいに耳を貸すとは。意外と素直だな」

 

そんなの知るもんかいっ! って無視される可能性も考えていた男は、この1週間足らずでのウマ娘の行動力に素直に感心した。

 

「普通だよ。でもさ、結局なにもわからなかったんだ。どの病院に行っても骨は正常で健康体そのものだって」

 

「……健康なのはいいことだ」

 

「ううん。ボクには違和感があるんだ。初めてキミに言われて、あれからずっと意識して走るようになったんだ。そうしたら、なんか嫌な予感が消えなくて……」

 

このウマ娘は類まれなる才能を持っていた。だからこそ、ヒントを与えられたら、その違和感を探し当てることくらい彼女には容易だった。ただの疲労で片付けていた違和感は、意識してみれば確かに他とは少し違った。疲れが抜けるのが遅いとか、練習後の足の重さが違うとか、気のせいとも片付けられる違和感。確かにそれが自分の中にあったのだ。

 

「なのにお医者さんも、学園のトレーナーたちだって、みんな何も問題ないとしか言わないんだ! ……もうボク、どうしたらいいかわからないよ」

 

幸いなことにウマ娘は旧家出身だった。金に不自由することはないし、コネもあった。ウマ娘は両親に相談して、近くにある有名な病院、医者に片っ端から診察してもらったのだ。

その結果は健康体の回答のみ。ケガもなく、先天性疾患もない。せいぜい、ウマ娘のレースは負荷が大きいから、ケガをしないように準備運動はしっかりやること。その程度だった。

医者ですらこうだったのだ。学園のトレーナーは言うに及ばず。医者の診断があるならそうなんだろう、それだけだ。ケガが恐いのなら、入念に基礎トレーニングを繰り返して、ケガをしにくい体作りをしようと言われた。

 

誰もこの違和感に対する答えを持っていない。誰も理解してくれない。

ウマ娘は絶対の信頼を置いている中央トレセンの生徒会長にも相談した。生徒会長は真剣に話を聞いてくれるが、やはり医師やトレーナーの指導の下で、慎重にトレーニングするしかないという結論だった。

ウマ娘には自分の不安を正しく理解してくれる専門家は見つけられなかった。

ウマ娘を待っていたのは孤独だった。

その現状を口にしたウマ娘が涙を流した。

 

ウマ娘の涙を見て、男の目が揺らいだ。

男はもう避けられないと悟った。トレーナーの資格がないから責任が取れないとか。最も効率的な手段ではないとか。もう諦めた自分には、この子は眩しすぎるとか。そんな逃げるための言い訳は通用しない局面に至ったと理解した。

だがそれでも、夢を諦めて間もなくして、こうしてウマ娘に関わることになった事態に戸惑いもあった。

 

「ねえ教えてよ! キミが思ってること! ボク、今日は覚悟を決めて来たからっ。今からでもキミの家に行くよ!」

 

「……いや、女の子がホイホイと男の家に行くべきじゃない」

 

「前は来いって言ってたじゃんかっ!!」

 

苦し紛れの言葉も時間稼ぎにすらならない。男は天を仰ぎ見た。

 

「……はあ。……桐生院トレーナーには聞いたのか?」

 

「正常だと思うって。ただキミが指摘したのなら、必ずなにか理由があるはずだから、もっと詳しく聞いたほうがいいと思うって」

 

男が想像する桐生院トレーナーはウマ娘に真摯な人だった。例え担当ウマ娘でなかったとしても、こんな切羽詰まった子が質問をしてきたら、決して無下にはしないだろうと確信していた。

だからこそ、優秀である彼女の答えがきっと中央トレセンのスタンダードであると見切りをつけられた。

 

「そっか」

 

「ねえ、お願いだよ……」

 

「思った以上に……」

 

「え?」

 

「……思った以上に中央のトレーナーの質っていうのは低いんだな。これなら本性を隠してでもトレーナーになっていた方が……いや、俺にその資格はないな」

 

家業を手伝うことになれば、いつかはウマ娘と接することもあると男は思っていた。だが、まだ早い。時が過ぎて思いが風化したあとならともかく、傷口が塞がる前から荒治療を開始することを、内心では億劫に思っていた。

しかし、そうも言っていられないと覚悟を決めた。

 

男は立ち上がった。

 

「あ」

 

急に立ち上がった男を視線で追いかけるウマ娘。

男はウマ娘から目を離さない。

 

「なにしてるんだ。サッサと行くぞ」

 

「う、うん!」

 

男が前に立って歩き始め、ウマ娘がそれに続いた。

男はウマ娘に歩調を合わせたが、振り返ることなく進んでいった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

少し経って、男の家で行われた診察は大きな問題もなく終了した。結果の説明を兼ねて、男はリビングでウマ娘に紅茶(男曰く、なんか家にあった高そうなやつ)とお菓子(なんで買ってきたんだよと毒づいていたシール付ウエハースチョコとかを良い感じに皿に乗せただけ)を振舞っていた。

本来であれば紅茶が好きなウマ娘が組み合わせに文句を言うところだが、今回に至ってはどちらにも手を付けることはなかった。

 

ウマ娘は赤面したまま男を睨みつけていた。

 

「うぅぅぅぅぅ」

 

「てなわけで、お前の走り方と骨のつき方、関節の柔らかさから判断して、いずれ体にガタが来る可能性が高い。しかも一度バランスが崩壊したら、治して終了のケガじゃあ終わらない。ケガを治してもレースで全力を出せば、またケガをする。堂々巡りだな」

 

「むぅぅぅぅぅ」

 

「解決方法も難しい。ただ走りに合った筋肉をバランスよく鍛えればいいってだけなんだが、お前の走り方だと恐らく関節の負担が大きくなるはずだ。見ていて心が惹かれるいい走りだと思うけど、それをどうするかを含めて考えるべきだな。やっぱりトレーナーと早く契約して、一緒に方針とトレーニングメニューを考えるべきだな」

 

「ふぅぅぅぅぅ」

 

「聞いてる?」

 

「聞いてるよっ!!」

 

溜めていた感情を勢い良くぶつけるウマ娘。噛みつくように男へと身を乗り出した。

 

「お、おう。いや唸ってるからさ」

 

ウマ娘の動きに連動するように、男は顔をのけぞらせて言った。

 

「どれだけ触るのさ!」

 

「いや初めっから触るぞって言ってたろ」

 

耳まで赤くしたウマ娘の怒鳴り声に対して、男は何だそんなことかと冷静さを取り戻した。

 

「本当にこんなに触られるとは思わなかった!! もうボクの体で触られてない場所がないよ!!」

 

「局部のことか? だったら許せよ。関節の限界とか、骨のバランスとかを知る必要があった。簡単に言えばお前の現状を確認したかった」

 

男は事も無げに言い放つ。

 

「わかる! それはわかってる!! でも乙女としては、それだけじゃ納得いかないの!!」

 

「ああ、うるせージャリだな」

 

医療行為として取り組んだ男には本当にやましい気持ちはなかった。だからこそ、診察をセクハラと同じ扱いにされることを面倒に思った。

 

「ジャリって言うな! それと、さっきからお前って言ってる! ボクにはトウカイテイオーって名前があるんだいっ!!」

 

「あるんだいって言われてもな。感情を抑えられずに泣き出すようなジャリなんて、お前で十分だろ」

 

例え数回の出会いとはいえ、心細くて泣き出すような子どもは男にとって保護対象でしかない。対等ではなく、保護対象。その認識でこのウマ娘への対応がすっかり変わってしまっていた。

 

「ト・ウ・カ・イ・テ・イ・オー!」

 

「うるせうるせ」

 

「名前で呼ぶまでずっと叫ぶからね!」

 

「ああもうわかったよ。トウカイテイオーな」

 

それを聞いて、ウマ娘――トウカイテイオーは満足したように笑みを浮かべた。

 

「うん。それで許してあげる……いろいろとね」

 

「ありがとよ」

 

ずいぶんと純粋な笑みを浮かべるヤツだなと男は思った。

同時にトウカイテイオーからの信頼を感じて、嬉しいような居心地の悪いような感覚を男は覚えた。

 

「でもさ、結局どうしたら良いのかな。ボクの足についてはわかったけど」

 

少しの間、ニコニコと尻尾を揺らしていたトウカイテイオーが切り出した。

 

「お前は無敗の3冠バを諦めたくないんだろ?」

 

「トウカイテイオー」

 

「……トウカイテイオーは無敗の3冠バを諦めたくないんだろ?」

 

「もちろん! ボクはカイチョーみたいなウマ娘にずっとなりたいって思ってたんだ! これだけは絶対に諦めたくない!」

 

夢見る少女で片付けられない決意を男は感じた。

絶対に追いついてやるんだという意思。男はトウカイテイオーの姿勢をとても心地よく感じた。

 

「だったら、地力を付けつつ、壊れないギリギリのラインを見極めて練習していくしかないと思う」

 

「具体的には?」

 

「うーん。坂路もだけど、プール優先かな…………って、だから、俺はお前のトレーナーじゃないんだよ」

 

相談には乗るが、分を超えるべきではない。トウカイテイオーのためにも男は自制した。

 

「ええ! ここまで来てそんなこと言うの!? ……あと、トウカイテイオーね」

 

「ウマ娘とトレーナーは下手を打たなきゃ、少なくとも3年は二人三脚でトゥインクルシリーズに挑む関係だ。その信頼関係を作るためにも、エリート無職の俺じゃなくて、トレーナーと2人で今後の方針を決めるべきだ。……トウカイテイオーって長いんだよ」

 

「長くない」

 

「それもそうか……いや、やっぱり長いから」

 

「じゃあテイオーでいいよ。仲良い子はみんなそう呼ぶし」

 

「……テイオー」

 

「うん! じゃあボクはセンセーって呼ぶからね!」

 

また、パッと明るい笑顔が咲いた。男は単純なヤツめと心のなかで愚痴た。だが、テイオーの笑顔から目をそらさなかった。

 

「……とにかく、俺があのとき、テイオーの走りを見て思ったことはそれだけだ。それが今回の診察で確信を持てた。そんな感じだな」

 

「でもさ、学園のトレーナーは誰もボクのことわからなかったよ」

 

「まあ人体の専門知識がいる判断だからな。ウマ娘が走っている姿を人体模型や骨格標本の形に頭の中で置き換えて現状把握をしないといけない。でもこれからは、医師の判断として足を壊す恐れがあるって前提があれば、トレーナーが良い感じのメニューを組んでくれるんじゃないか?」

 

どういうところに不安があるかは先程の診察で男は理解していた。だったら指示書を書いて、具体的に負荷を気をつける場所を伝えられる。あとはベテラントレーナーたちが適切なメニューを組んでくれると思っていた。

自分だったらどんなメニューを組むか。それくらい男も綿密に考えていた。だが、やはりそれを伝えるのは分を超えると思っていた。

 

「本当に?」

 

「知らん。でもどうしようもない。俺はトレーナーじゃなくて無職。トレーナーを目指してたからウマ娘の知識も医療の知識もあるけど、今はただの無職。せいぜいイケメンハンサムくらいしか他と違うところはない」

 

「(無視)……できるかな?」

 

「わからん。でもテイオーには才能があるし、夢を叶えたいって強い意思もある。だったら後は運だろ」

 

運が良ければ超ハードワークをしてもケガをせずに乗りきれるし、運が悪ければ準備運動でもケガをする。トレーナー試験に合格するだけの絶対の自信があった男としては、自分の不合格は運が悪かったせいだと思うところもあった。

 

「運?」

 

「ああ。にんじん食して天命を待つって言うだろ」

 

「……言わないよ?」

 

テイオーは少し考えた後に、間違ってないよね? と窺うように男を見た。

 

「……あ、ああ。そうだな。絶対に言わないよな」

 

「だ、大丈夫?」

 

テイオーの視線で思い返してみると、自分はなにを言っているんだと我に返った男。

 

それを見たテイオーはわがままばっかり言ったから無理させちゃったかなと心配になった。

 

「この前、なんか犬っぽい雰囲気のウマ娘がいたからかもな」

 

「手を出したの!?」

 

「出すかよ。いつもの場所で今季の作物の実りについて考えていたら、たまたま近くのベンチで話してたんだよ。たぶん、それに影響されたんだ……」

 

「盗み聞きは良くないよー」

 

「たしかにな。自重しよう」

 

「……」

 

男の言葉を聞いて、テイオーがジッと男を見た。

 

「なんだよ」

 

「やっぱりこういうところは常識あるんだなーって思ってさ。……そのさ、面接のときだってバカなことを言わなければ合格してたんじゃない?」

 

「かもしれない。でも今となっては諦めがついている。結果としては今の形が一番なんだろ」

 

試験官の判断に間違いはなかった。男だってそう思っている。

 

「……ボクには一番じゃないよ」

 

「ん? なんか言ったか?」

 

「なにも! それより、なんか走りたくなってきたなー。今けっこう調子が良いんだ」

 

誤魔化すように声を張り上げたテイオーが、椅子に座ったまま上半身を捻ったり、モモを軽く上げたり下げたりした。

男はそんなテイオーを見て、したり顔で頷いた。

 

男は自分の足をあげて、根元からクルクルと足を回した。

 

「ああ。それなら、さっきの触診で軽く整体とマッサージをしたから、それだな。股関節と膝周りが動きやすいだろ」

 

「……そうだね。ボクの股にぐいっと腕を回してたよね。足の付け根も執拗に内側からわしづかみにしてたよね」

 

腰との連動も対処したぞと、男は自分の腰に手を当てた。

 

「大殿筋も歩行の基本だからな。骨の位置を確認したかったし。ついでに骨と連動させながら丁寧にほぐしたぞ」

 

「……そうだね。ボク、あんなにネチッこくお尻を揉まれたのは初めてだったよ」

 

男がテイオーに背中を見せるように体をひねった。

 

「あと定番だけど肩甲骨と後背筋もほぐしておいた。前も合わせて整えたから、大胸筋と腹筋とも連動しやすくなってるはずだぞ」

 

「……そうだね。けっこうガッツリと長い時間、胸を触ってたよね」

 

男から身を隠すように背中を縮こまらせてテイオーが男をジト目で睨む。

 

「お前さあ、盛(さか)るのはいいけど、俺をそういう対象に見るの止めてくれるか? 診療でいちいちキャッキャ言われるのは面倒なんだが」

 

「盛ってない!!」

 

またも身を乗り出して怒鳴るテイオー。

呆れた様子を隠そうともしない男にテイオーは更なる怒りを覚えるが、男にやましいところがないことは施術で理解できていた。どんなにぶつかろうとも、どんなにダイレクトに触ろうとも、男の顔にあるのは真剣な表情だけだった。テイオーの体の状態を診ることだけに集中している様子は、同じアスリートである他のウマ娘たちに通ずるものがあった。だから男がどんなに真剣なのか理解できた。

思い返せば、男は最初から自分の体を心配してくれていて、だからこそ施術を受けることになったのだとテイオーは再認識した。自分が感じていた違和感の正体についても、専門知識を持っている男の説明を聞くと納得できる。なんだかんだで、テイオーは目の前の男をすっかり信頼していた。

 

だからといって、割り切れるほどテイオーは大人じゃない。だが、肝心の男に反省の色が一切なく、するつもりも無いことも理解できた。

動じる様子もなく、ジッとテイオーを見つめ返してくる男に根負けしたテイオーが椅子に腰を下ろした。

なんだか今後の力関係が決まりそうな気がして少し焦りを感じたが、良い手立ても思い浮かばないテイオー。一旦、落ち着こうとお茶とお菓子を頂こうとテーブルに初めて意識を向けた。

そこには見るからに濃そうな色をした紅茶と、やたら甘い匂いを醸し出しているウエハースチョコがあった。

 

「……! なにこの組み合わせ!? こんなに甘いと紅茶の味も香りもわからないじゃん!」

 

「え、そう?」

 

音こそ出さないものの、雑に紅茶を流し込んでいる男が返した。

 

「そう! この紅茶、けっこういいヤツだよ! それに、こんなに濃くしたら大味になっちゃうじゃんっ! 絶対に雑味も入ってるでしょ!」

 

「俺、コーヒー派だからさ」

 

「もーっ!!」

 

テイオーがコーヒーより紅茶の方が好きだと言うから付き合っているだけの男としては、とりあえず味が出とけば良いだろ程度のものでしかなかった。

 

「せっかくの茶葉なんだから、次はもっとちゃんと入れてよねっ!」

 

「はいはい。なんかお嬢みたいなこと言うやつだな」

 

「紅茶が好きなら誰だって同じこと言うよ」

 

「わかったよ。ちょっと待ってな。ポットに残り湯があるから持ってくる」

 

男はポットを持ってくると、テイオーのカップに静かにお湯を注いだ。

それを礼儀正しく見守っていたテイオーは、差し湯が終わったことを確認してから、ゆっくりと丁寧な所作でカップを口に運んだ。

 

「うん。美味しい。完璧には程遠いけど、やっぱりこの紅茶は美味しいね」

 

「それは良かった。ウエハースも食いな。おかわりもあるぞ」

 

これを機に、いつの間にかストックしてあった子ども向けの菓子を片付けてしまいたい男が勧める。

 

「紅茶が終わったらね。一緒には合わないよ。…………ねえ」

 

「ん? 何か足りないか?」

 

「そうじゃなくてさ。……また来ていいかな?」

 

少しだけ不安そうにテイオーが言った。

 

「え!?」

 

「えって……なんで驚くの?」

 

「さっきまで、やれ触った! とか、やれ揉みすぎだ! とか文句言ってたのに、1時間も経たないうちに切り替えてきたなって……」

 

「それは誰だって文句言うから! 絶対にボクだけじゃないから! ……ほら、ボクの体の状況がわかったから、それに合わせて練習をしていくけどさ、状態がどうなっているかは見て欲しいなって思うんだ」

 

「それはいいけど……またマッサージすることになるぞ?」

 

「ま、また!?」

 

「そもそも診察は診るだけで、マッサージで固まった筋肉とか癖を取り除く必要があるからな。診察だけだと片手落ちだぞ」

 

診察しただけでは体調は回復しない。その後の治療によって病気やケガは治るものだと男は言った。

 

「うう……そうだよね。結局、ケガの原因が予想できても、それを回避できないと意味ないもんね」

 

「そうそう。しかも本格的に練習を開始するなら、次回は今回よりも時間をかけてしっかりと行うからな。なんなら同意書を書かせるから」

 

「なんか詐欺っぽいよ!」

 

「そうでもしないとテイオーみたいなおこちゃまは、ギャーギャー騒ぎ立てるだろ。いくらこっちには欠片もそんな気はないって言っても、それを世間様が聞いたら弱者の言い分が通ってしまうのが世の中だ。生きづらい社会だよ」

 

大学でも、家族からも異性に対する診察の怖さを男は教わっていた。

なんだかんだでテイオーはそんなことしないと信じている男だったが、テイオーの保護者がなにを言うかわからないと、少し警戒心も持っていた。

 

しかし、テイオーとしては子どもだから信頼されていないと思い、少しだけショックを感じていた。

 

「なんだよう。どうせボクはチンチクリンだよ。スーパークリークとかマルゼンスキーとかとは違うさ」

 

「マルゼンスキーか。アイツって本格化始まった頃からあのスタイルだろ。あれを見て、うまだっちするな! は苦行だろ」

 

「ええ、そうですね! スタイル良い子は違うよね!」

 

子どもらしい嫉妬を正しく読み取った男が、内心では一丁前に色気づいてんのかこいつ、なんて考えつつ、慰めの言葉を発した。

 

「……いや普通にテイオーは可愛いと思ってるぞ。将来は絶対に美人さんになると思う」

 

「! ほ、ほら! 散々ボクのことガキだなんだって言うけど、実はボクに欲情してるんでしょ! 本性が見えてるんじゃないの!」

 

男は思いっきり鼻で笑った。

 

「本性? だったらスーパークリークかマルゼンスキー連れて来い」

 

「やっぱり変態だー!!」

 

 

 

 

 

 

スタミナが20上がった

体力が50回復した

やる気が上がった

トウカイテイオーの秘められた力が覚醒した!

「コーナー回復○」を覚えた

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