86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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ラン・スルー・ザ・バトルフロント
#10 アストリア合州国


 

 

 

 

 

ーーー後ろの席で泣いている者がいる。

 

 

 

言うまでもなく、それは骨折で特別偵察任務に行けなかったハルトだ。

今まで一緒だった仲間達との別れはやはり辛いだろう。

俺たちは半年間だったが、俺よりも彼らと共にした時間が長いハルトはさらに辛いし、悔しいだろう。

基地が見えなくなってからハルトは嗚咽声を漏らしながら大粒の涙を溢していた。

平原をを歩いていると目の前に赤い花が一面に咲いていた。

 

「おぉ、彼岸花か……これは縁起がいい」

「ん?どうしてだ?」

 

ハルトの問いに答える。

 

「彼岸花は今のハルトにぴったりな花言葉があるのさ」

「へぇ、そうなのか。どんなのなんだ?」

「『また会う日を楽しみに』。たとえ死んでも、向こうの世界で会いましょう。という意味だ」

 

そう言うとハルトは真っ赤になった目頭を擦りながら彼岸花を見ていた。

そういえばカイエから花壇で育てていた花をコンテナに詰めていたか。それと大量のプラスチック爆薬。

残りの二機の合流地点まで五キロほど、合衆国国境までは一〇〇キロ程、この速度であれば二日もすれば通信圏内だろう。

帰ったら色々と忙しいだろうが、それは半分諦めていた。

二機の〈ジェガン〉はまだまだ動かせるが、関節のパーツにそろそろ限界がき始めて居る。極力戦闘は控えたい所だ。

すると通信機に連絡が入る。

 

『隊長、こっちは合流ポイントに到着。隊長たちの現在位置と合流予定時刻を報告してください』

「こちら隊長機、ポイントB5、三三〇,二二四に巡行速度で合流地点に向かっている。予定到着時刻は一六〇〇を予定」

『……了解』

「それと本国に連絡。共和国からの亡命希望者二名を護送中とも伝えてくれ」

『了解です』

 

通信を終えるとリノはハルトに声をかける。

 

「ハルト、少し揺れるぞ。痛かったら言えよ」

「ああ」

 

そう言うとリノは知覚同調を起動するとレッカに通信をする。

 

「レッカにハルト。本国に着いたらそのまま入院する。ハルトは言わずもがな、レッカは脊椎にある擬似神経結晶を取り除く。最低一ヶ月は入院を覚悟したほうがいいかも知れない。その途中で亡命に必要な事項はこちらでやっておく」

『了解』

「オッケー」

「じゃあ、少し速度を上げる。レッカもしっかり着いてこいよ」

 

そう言うとリノはレバーを前に倒して速度を上げる。コックピット全体が上下する感覚が生まれ、外の景色が変わる速度が上がる。

 

ドシン、ドシン、と機械の足が台地を踏む音が聞こえ、揺れに耐えて居るとやがて平原の一角の岩山の麓に二機のジェガンが二人を待っていた。

一機は背中に大きなリュックサックの様な物を背負い、もう一機は片手に大きな狙撃銃の様な物を持っていた。

二機のジェガンはリノ達のジェガンを確認すると手を振り、リノも同じように手を動かして手を振る。

するとまた通信機に連絡が入る。

 

『隊長、お帰りなさい。……そして、また壊しましたか』

「いつもより被害は抑えて居るつもりだ」

『塗装ハゲハゲじゃ無いか』

『これはオーバーホール物ね』

 

最後のエリノラの他に二人の男女の声が聞こえ、合流して久し振りに集まった第一一二MS小隊は進路を南東方向に向けて歩く。

その間、ホーンドアウルと名乗ったジェガンが通信を入れて来た。

こんな所に伏兵がいたから本国との通信ができていたのだろうかと、簡単な推測をハルト達は立てていた。

 

『隊長、本国から通信です。第四二号前線基地に入り、亡命者の手続と治療を行うそうです』

 

「了解、第四二号前線基地ね……」

 

確認をとったリノはレバーを動かして動き始める。

戦闘もなくこのままの速度であれば明後日の朝には到着するだろう。

リノは共和国まで来た道を戻っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

星暦二一四八年 一〇月一二日

 

朝起きると車の走る音がする。

アパートの前では街を人が闊歩し、道には電気自動車が街を走り回っていた。

 

ーーーあぁ、帰って来たのか。

 

リノはベットから起き上がると横で寝て居るエリノラを起こす。

今いるのはリノとエリノラが借りているアパートである。

 

「起きろ、朝だぞ」

「んー、まだ寝る……」

「はぁ……」

 

リノはため息をつくとキッチンでコーヒーを淹れる。

テレビを付けると朝のニュースが天気予報を知らせて居る。

 

『今日のダーリントンの天気は晴れのち曇り。気温は一八度、湿度二〇%、洗濯物は午前中の干すのがいいでしょう』

 

ニュースを聞き、リノはコーヒーを口につける。

共和国の帰還後、健康調査やハルト達の亡命手続、報告書の提出などで怒涛の日々が続き、リノ達は昨日から二ヶ月ほどの長期休暇を貰っていた。

眠たい体を動かしながらリノはコーヒーを飲みながらニュースを見ていた。

テロップには『共和国とついに開戦か!?政府の対応は如何に』と書かれ、議事堂で討論をしている政治家の映像が映っていた。

 

『共和国のエイティシックスを救うのだ!!』

『貴殿は分かっていないのか!今はギアーデ帝国と戦争をしているのだぞ!!ここで共和国と戦争をすれば二正面作戦になり、戦力が分散される可能性がある!!そうしたら我々は国土を守りきれなくなる!!』

『分からんのか!今この時間にも幼い子供が死んでいるのだぞ!共和国の愚行をみすみす見過ごすつもりか!!』

『しかし!』

『しかしもへちまもあるか!共和国にいるエイティシックスの子供達を……』

 

大激論が行われ、遂には突かみ合いになり一時中断された議会をニュースは報道していた。

そのニュースを見てリノは少しだけ険しい表情になると寝室からボッサボサに髪が爆発したエリノラが目を擦って出てきた。

 

「んはよぅ……」

「おはよう」

 

リノはエリノラにコーヒーを渡すとエリノラは意識がはっきりとして、ニュースを見てつぶやく。

 

「大変な事になっているね……」

「ああ、合州国には共和国からの移民者が多いからな。生まれ故郷がこんな事になっているなんて思っていなかったのだろうな」

 

実際、内地の基地に戻った時に基地の外で『共和国と開戦しろ!!』と書かれたプラカードを持って『エイティシックスを守れ!子供達を救え!』とシュプレヒコールを叫ぶデモ団体が道を練り歩いていた。

そのデモ団体の多くは共和国出身の者である。彼らは戦争序盤から祖国の事を思い、共和国で生まれてきた事を誇りに思う彼らは祖国が行った非道さに悲しみ、怒りを抱いた。

 

『共和国を真の姿に取り戻すのだ!!』

『共和国に制裁を!!』

『共和国に革命を!!』

 

このようなスローガンが掲げられ、未だに共和国に対して何も行動を起こしていない軍に怒りを抱き、自ら武装組織を設立するものまで現れていると言う。

軍も軍で何もしていないわけではなく、対共和国戦の為に徴兵を行う準備を始めていた。

国内世論は共和国開戦派と慎重派に分かれていたが、圧倒的に開戦派の人数が多いと言えた。

 

「まぁ、私達の情報を秘匿してくれたのは感謝しかないわね」

「ああ、そうだな」

 

そう言いノンビリとしているとインターホンが鳴った。

宅配の予定なんか無いと思っていると扉の奥から声が聞こえる。

 

『リノ、エラ。居るかー?』

「テオか、今開ける」

 

リノが席を立ち扉を開けるとそこにはテオとクラウが待っていた。

 

「おはようテオ、クラウ」

「おはようって……今昼の十二時だよ?」

「俺たちにとっては朝なんだよ」

「全く、私生活はボロボロね」

 

クラウが呆れながらズカズカと家に入り、テオもそれに続く。

 

「ん?クラウか〜。おはよ〜」

「エラ、またそんな髪で……梳かしてあげるから座っててよ」

「ホーイ」

「リノ、なんか適当に作ってて良い?」

「おう良いぞ。昨日色々と買っておいたからな」

「じゃあ遠慮なく使わせてもらうよ」

 

そう言うとテオは冷蔵庫を見て適当に食材を取り出すとキッチンにあった調理器具を使って料理を作り始めていた。

テーブルではクラウが洗面所から櫛を持ってきてエリノラの赤い髪の毛を樋ていた。

リノも洗濯物を洗濯機に叩き込み、ボタンを押して洗濯が終わるのを待っているとリビングから声が聞こえてきた。

 

『リノ!ご飯作ったよ!』

「おう、今行く」

 

リノはリビングに戻るとテオがオムレツを四人分作ってテーブルに置いていた。

 

「おお、相変わらずテオの料理は美味そうだな」

「と言うかあんたらの家事スキルが酷すぎるのよ。ちょっとは練習しなさいよ!」

「うんまぁ……」

「そう言ってもらえて何より」

 

四人はそう言いながら料理を食べているとニュースを見ていたのか少しだけ表情は暗い様子だった。

 

「政府も大激論ね」

「……ああ、恐らく共和国に宣戦布告をする気満々だろうな」

「戦力が分散されないの?」

「その可能性は大いにある。だが、世論は共和国開戦に偏ってしまっている。なんなら共和国に移り住んだ元合州国国民の有色種もいる」

「あっ……」

「そうなれば合州国は民主主義を脅かす危険な存在、合州国を脅かす国として共和国に宣戦布告する口実ができる」

「二正面戦争……」

 

エリノラの言葉に全員が一瞬だけ沈黙する。

重々しくなってしまった所をリノが手を叩いて霧散させる。

 

「さ、こんな重い話はヤメヤメ。今日から休暇なんだから。休養とるぞ。呼び出し喰らう可能性もあるしな」

「そ、そうね」

「全く、夜中に叩き越すのだけは勘弁してほしいわ」

「同感」

「私もう一回寝てくる」

「「「食べるの早っ!?」」」

 

綺麗になった皿を見ながらそう叫ぶとエリノラはそのまま寝室へと戻っていく。

それを見てリノ達も眠気が襲う。

 

「ふわぁ、ヤベ。眠くなってきた」

「私も」

「俺もだ」

 

三人もこうして食事を終えると睡魔に襲われながらソファーやクッションの上で寝始めていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「流石に寝過ぎた……」

 

今の時刻は午後四時、昼からこの時間までずっと寝てしまっていた。

昨日は買い物で終わってしまいバタンキューであったが、まだ疲れが取れていないのだろう。四人は寝てしまっていた。

最初に起きたのがリノで、さらには二度寝までしてしまったのだから堕落しているだろう。

休暇初っ端からこんな生活をしており、リノは溜め息を吐いていた。

 

「はぁ、休暇後が心配になってくるな」

 

堕落しきっている仲間を見てリノはそんな心配事をしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

数日後、リノ達は両手に大量の食料、玩具を持ってある場所に来ていた。

街の一角にある建物。煉瓦作りの建物がいくつも並び、周りを石壁で囲われていた。

金属の柵でできたの門には《フリッツ孤児院》と書かれた看板が下げられていた。

リノ達は実家に帰った時の様な表情で門をくぐると、そこでは何人もの子供達が庭にある砂場や遊具で遊んでいた。

すると一人の子供がリノ達に気づくと大声で叫ぶ。

 

「マザー!リノ兄ちゃんが帰ってきたよ!」

 

そう言うと声に気づいた他の子供達も一斉にリノ達に集まり、持っていた玩具を見て欲しそうに見ていた。するとエリノラがそんな子供達に言う。

 

「こら、持って行こうとしないの。じゃないとあげないわよ?」

 

そう言うと子供達をかき分けるように一人の女性がリノに近づく。

その女性は黒髪に白い瞳を持つ。ぱっと見、四〇代ほどの女性であった。

 

「おかえりなさい。リノ」

「帰ったよオバア」

「オバア言うんじゃない!」

「イテッ」

 

その女性から軽いゲンコツをくらい、リノが少しだけ痛そうにするとテオが持っていた袋を差し出す。

 

「アイダさん。いつもの食料と今回寄付する服です」

「いつもごめんなさいね。養父さんには宜しくと伝えて」

「ええ、分かっていますよ」

 

そう言うとリノ達はアイダと呼ばれた女性の案内で建物の中に入る。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

彼女の名前はアイダ・フリッツ。この《フリッツ孤児院》を経営する責任者であり、俺たちの育ての親でもある。

少なくとも俺とクラウは幼い頃からずっとこの人に育てられてきた。だから俺とクラウはアイダさんからフリッツの苗字を貰って軍に所属している。

俺の場合は赤ん坊の頃に街の教会で捨てられていた所をこの人が保護をしてくれたそうだ。

《この子の名前はリノ、後をお願いします》と言う手紙と共に教会前にカゴごと置かれていたそうだ。

以後、俺はこの孤児院で育ち、今日里帰りにしに来ていた。

俺が士官学校に入るまで暮らしていた寮の入相室で四人はアイダのお茶を飲んでいた。

 

「あぁ〜、マザーのお茶は美味しい……」

「そうだね」

「癒されるわ……」

「この味だけはここに来ないと飲めないな」

「あら、ありがと」

 

ぱっと見、四〇歳に見えるが実年齢は六〇代を超えていると言う年齢詐欺もいい所である。

ちなみに、これほどの若さを保ち続けているのは秘密だそうだ。

 

 

 

そんな感じでお茶を飲み終えたリノにアイダがリノの買ってきた荷物を見て呟く。

 

「こんなに貰うとあなた達の生活が心配になってくるわね。ちゃんと食べているの?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

「マザーに散々言われたからな。特に今回はボーナスもあったし」

 

「私としては軍に入っているあなた達の方が心配だわ」

 

リノが軍に入った理由は簡単で、この孤児院の手助けをするため。

軍に入ればすぐに給与が出るし、仕送りもできる。さらに昇進すれば給与は増える。

少しでも孤児院の暮らしを楽にさせたいとエリノラ、テオ、クラウと共に入隊手続きにサインをした。

 

 

 

テオとエリノラはレギオン戦争序盤に親を戦争で亡くした戦争孤児で、十一歳の時にこの孤児院にやってきた。

テオは半年後に親戚の養父に引き取られ、施設から出て行ってしまったが、それでも休暇の時には毎回ここにくる様にしていた。

エリノラは天涯孤独で、なおかつギアーデ帝国を象徴する焔紅種だった事からいじめに遭っていた。そんな所をよく喧嘩っ早かった俺がボコボコにしていたと思い出しながらまたお茶を啜っていた。

するとアイダがリノ達に聞く。

 

「あなた達は今日ここに泊まるの?」

 

アイダの問いにクラウが申し訳なさそうに言う。

 

「ごめんなさいアイダさん、いつ軍から呼び出しされるかわからない状況だから今日は泊まれない……」

「そう……」

 

アイダは残念そうにし、俺たちも心が痛んでしまった。

しかし、アイダはハッとした様子でリノ達に提案をする。

 

「あっ!そうだわ、今日一日だけあの子達の相手をお願いできる?」

 

そう言って外で遊んでいる子供達を見る。

今フリッツ孤児院にいる子供は十二人、多い時には三十人近くいたのだが。そのほとんどは孤児院を出てどこかの会社に就職するか、奨学金を借りて大学に進学する者もいた。

そしてその様な人たちは仕送りで食料や日用品、資金なんかを送ってきたりしていた。

俺達も、軍の技術部にいた人にフリッツの苗字を持つ人がおり、その人に士官学校への推薦状を書いてもらったと言う過去がある。

テオの養父の人も軍の高官でその人に俺たちは士官学校で戦術や軍隊格闘技などを教えてもらっていた。

俺たちはそんないろんな人に助けられながらここまで来ていた。そのことには感謝するしかなかった。

 

 

そしてアイダの提案に俺たちは快く引き受けるとその日は子供達の相手をすることになった。

 

真っ先に子供達からは軍人に関する話を聞かれ。エリノラがそれを引き受け、子供達に話す。エリノラの周りには男子達が集まり興味深そうに聞く。

こうした話をしていた影響か、軍人になりたいと思っている子供も少なくなかった。

しかし、俺やクラウがそれを必死に止めて今のところ軍人になったものは誰もいなかった。

どんな夢を持っていようとマザーを悲しませたくないと言うのが心の底にはあるからだ。

俺たちが軍に入ろうとした時もマザーは必死に止めようとし、俺が初陣で死にかけた時なんかはわざわざ病院まで飛んできて泣きながら頼んでいたか……

ともあれ、エリノラ以外の俺たちは子供達の遊び相手となって一日を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

子供達の面倒を見ているとあっという間に時間は過ぎるものであり、俺たちは孤児院の門の前でマザーに挨拶をする。

 

「じゃあ、また来るよ」

「ええ、その時まで待っているわ」

 

リノとアイダはお互いに別れの挨拶をすると次にクラウがアイダに挨拶をする。

 

「必要なものがあったら言ってください。こっちから送りますから」

「ええ、でも今は大丈夫よ。あなた達が色々と持ってきてくれたから」

 

そう言うとアイダはテオの方を見て言う。

 

「養父母さんにも宜しく伝えてね」

「はい、養父にもしっかりと伝えておきます」

 

そして最後にエリノラがアイダと子供達を見て手を振りながら言う。

 

「行ってきます」

「「「「「行ってらっしゃーい!!」」」」」

「気をつけてね」

 

子供達とアイダの見送りを受け、リノ達は孤児院を後にする。

リノ達は今日の子供達を見ながら他愛もない事を言いながら家に帰っていった。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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