86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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ついに…百話ですか……。
あとついでにガンダムの日という事で頑張って連日投稿しました。
そこで休憩挟んで次は11日に投稿します。


#100 仔猫の喧嘩

真珠色の臨時格納庫を走り回っているのは、ちょうど小学校にでも行ってそうな年齢の少女だ。

水晶をくり抜いたらしい香炉を聖教国軍の兵士達の上で振り回しては何か唱えており、出撃前のお祈りか何かだろう。次にベルノルトやとある諸事情で一個小隊だけ残っていたドミトルの元にも走ってきて同じ様に香炉をかざしたので、なんとなく頭を下げる。

聖教国軍の通訳係の兵士が慌てて駆け寄ってきた。

 

「失礼、連邦と合州国の方々。出陣の前に祝福を受けるのが我が国の慣わしなのですが、ご不快に思われたのでしたらーー……」

「ああいや、ありがてえっすよ」

「ありがとよ、嬢ちゃん」

 

礼を言われたと分かったのか、少女はパッと輝く様に破顔する。丁度、協同するミルメコレオ連隊の、特徴的な色彩の一団が格納庫につながる通路を通るのが見え、ベルノルトが声をかける。

 

「あんらたもどうっすか。初陣前に祝福を頂いたら、」

 

言葉は愚か返事すらない。

いかにも育ちの良さそうな集団はベルノルト達がそこにいない様に歩み去る。まるで、犬でも扱っているかの様に。

ふんと戦闘属領兵の一人が鼻を鳴らす。

 

「もう慣れましたけど。ほんっと感じ悪いですね連中」

「合州国じゃあ慣れん光景だな…気味が悪い……」

 

帝国貴族は同じ貴族しか人間と見做さない。臣民も人獣も、彼らにとっては同じ土俵にすら上がっていないのだ。それはある意味では平等、だから今更腹も立たないが……。

 

「うちっとこの元ご主人様は、俺らが嫁もらっただのガキ生まれただのって度に宴席の酒を樽ごと寄越してくれましたがね」

「そりゃ、アンタらの殿様は戦上手の夜黒種だからな」

「ああー……て事はひょっとしなくてもそれありますね」

 

ベルノルト達が夜黒種の元手駒なら、焔紅種の子弟にはなおさら目障りだと言う事だろう。

一瞥もせず去って行った真紅の髪か双眸の、焔紅種の士官達。貴公子、淑女を体現した様な……。

とそこでふと、ドミトルは引っ掛かりを感じた。

焔紅種の、真紅の髪か双眸。()()()()をした士官。

 

「……まさか、」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

二人の少女による罵り合いは、なおも続く。

 

「大体何が『我らが黒鳥』じゃ。あの鳥めはーー〈トラオアシュヴァーン〉は先技研が開発したものであろう。直衛として機動打撃群が任されておると言うのに、図々しい」

「聖教国までの移送を任されたのは我がミルメコレオ連隊の勇士達ですわ!野卑なエイティシックスには、この様な繊細な兵器を運ぶことなどできるはずもありませんから当然です!」

「それは確かに言うとおりじゃ。ーーのろまの〈ヴァナルガンド〉には、駄馬の役割こそお似合いじゃからの」

「そっ、そちらこそ脚に任せて逃げ回るだけの卑怯者〈レギンレイヴ〉が……!そなただってその様な貧相な軍服で、何が勝利の女神(マスコット)ですの!」

「戦場と舞踏会場を間違えたような御令嬢は流石、言う事は違うのう。その役にも立たない大層なドレスで、よもや〈レギオン〉を魅了するつもりかや」

 

ライデンは知らぬ素振りで〈ヴェアヴォルフ〉の影に退避する。一方でシンは袖を掴まれているせいで逃げられなかった。少女は地団駄を踏んでいた。

 

「もー!なんですの!そうやって兄君の背中に隠れて、臆病者!」

「羨ましいのかの、役立たず」

「こっ…この…つるぺた!」

「ちんちくりん!」

 

流石にシンもたまらなくなった。

 

「良い加減にしろ、大人気ない……」

「そろそろ淑女の振舞いじゃないぞ、姫殿下」

 

少女達がぴたりと止まる。互いに敵意を剥き出しにし、仔猫の喧嘩のような雰囲気に辟易しつつ、シンは新たに割り込んだ声の相手に目を向ける。今まで何度か会って言葉を交わした相手。

 

「うちのマスコットが失礼を、大尉。マスコットのお嬢さんも」

 

旧帝国特有の体躯。辰砂の派手な機甲搭乗服に、腕章には獅子と大蟻の混ざり合った奇怪な怪物の部隊章。旧ブラントローテ大公領、義勇機甲連隊ミルメコレオ連隊長ーー

 

「……ギュンター少佐」

「キルヴィースでいい、と会うたびに言っているんだけどな」

 

肩を落として寄ってくる二〇歳とそこそこ若い緋色の髪と血赤の双眸が特徴の。

くるりと身を翻して少女がキルヴィースに泣きつく。

 

「あーん、お兄様!やはり下賎なエイティシックス風情が、お兄様を差し置いて主力面をするのは許せませんわ!今からでも交代させられませんの!?」

「またなんて事を言うんだ……非礼にも程があるぞ、姫殿下。それと、大尉とも機動打撃群のマスコットの子とも初対面なんだから、まずはきちんと挨拶をしなさい」

 

人の良さそうな顔たちを精一杯厳しくたしなめ、不満を露わにしつつも姫殿下が見上げるのにも動じない。結局姫殿下はドレスの裾を軽く持ち上げて渋々と一礼する。

 

「……義勇機甲連隊ミルメコレオが勝利の女神、スヴェンヤ・ブラントローテですわ。よろしくお見知りおきを、シンエイ・()()()()大尉。あと生意気な腰巾着」

 

ブラントローテ家はミルメコレオ連隊の主人であり、帝国では夜黒種の棟梁たるノウゼン家と対立した焔紅種の権門。

フレデリカがまた何か言おうとしたので取り合えず黙らせる。こう言う時、子供の扱いに慣れているあの四人のうち誰かがいてくれたらと心底思う。

……ところで。

 

「ミルメコレオ連隊は派遣旅団本隊配備でしょう。少佐は今、ミチヒ少尉たちと前線に移動しているはずでは?」

「いや、実は……恥ずかしながら姫殿下が寝坊して。昨日緊張で寝られなかったらしくて」

「お兄様!」

 

スヴェンヤが顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「貴婦人の見繕いを待つのは騎士の義務とはいえ、まさか作戦開始を遅らせるわけにもいかない。だから一個小隊だけ残して先に行ってもらったんだ。〈ヴァナルガンド〉なら進発時刻前に到着できる。……それに、作戦が始まる前に一度、君と話がしたかった。ノウゼン大尉」

 

見返した先、キルヴィースは肩をすくめる。

 

「エイティシックスを率いる死神、混血の『ノウゼン』。ーー何を思って戦っているのか、ずっと気になっていてね。君は俺たちと同じなんだろうと思っていたから」

「……」

 

不意に気がつく。彼の髪は兄や母、今は居ないエリノラの真紅の髪とは違う、染めたのだろう緋色の髪。スヴェンヤの陽金種の混血を示す金色の双眸に、思い返せば誰もが焔紅種との混血だった、ミルメコレオの士官達。

混血を忌む、帝国の価値観はいまだに薄れていない。だからか……

 

蟻獅子。獅子の頭と蟻の胴の混成怪物。ーーことなる二種が混じり合った存在。

貴族の血を引きながら、一族とは認められない、混血の子弟からなる部隊。

 

「まあ、どうやら違ったみたいだな。ノウゼン候は、君にはいいお祖父さんなんだろう。ただ……それなら君は、どうして戦うんだ?」

「……」

 

シンは嘆息する。以前にも、同じことを聞かれたか。

 

「……ギュンター少佐、作戦は開始しています。あまり時間は」

「ああ、だからこれだけ教えてもらえたら。……俺としては嬉しいよ」

 

帝国貴種に連なる混血ながら、家門の道具として扱われていないシンに。

 

「ーーーー。……戦争を、」

 

家族、戦友。八六区では自由と未来を奪い去っていた災禍を。セオの片腕を未来をーー飲み込んだ鉄の暴虐を。

 

「終わらせたいので。ーーそれをおかしいと少佐はお思いでしょうか」

()()。だって、この戦争が終われば、君達は今の英雄扱いからただの子供だ。君達は優れた戦士だけど、それ以外に何も持たない。それなのに?」

「英雄になんて、なりたいと思ったことがありませんから」

 

前の作戦で、戦友に長生きをしろと言われた。

それはおそらく、俺たちに未来を見る希望を得たくしたかったが故に呟いた言葉なのだろう。出なければ、あんな事を言わない。長生きする事に、英雄の称号なんて要らない。特に彼等から()()()()()()()後では特に……。

 

「そうか。……羨ましいな。俺はーー俺たちは、そんな風に強くは在れない。なれるのならなりたいよ。今からでも」

 

英雄に。

混血であるが故に貴族と認められない。認められないからこそ、貴種たる一人と証明するために。

神妙な顔でスヴェンヤが、辰砂の搭乗服の袖を引いて訴える。

 

「ですから、そうなのですからやはりお兄様!」

「姫殿下、だから駄目だって」

「ーーご兄妹なのですか?」

 

苗字は違うが、出自からしてあり得そうだ。

 

「あ、初めて質問してくれたな」

 

思わず鼻白んだシンに、笑って続ける。

 

「似た様なものだ。姫殿下だけじゃなくて、俺たちミルメコレオは全員同胞で、きょうだいだ。ーー君たちもそうだろう?」

 

少し考えてシンは頷く。その点においてはミルメコレオ連隊とエイティシックスとは関連性があった。

 

「……そうですね。では『妹』を頼みます。少佐」

「ククミラ大尉だな。任せてくれ、大尉」

 

力強く頷いて見せたキルヴィースは、それからふっと肩の力を抜く様に苦笑した。

 

「ついでにあの厄介者の黒鳥も」

「ーーええ、」

 

 

 

 

 

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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