86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#101 戦果稼ぎ

先進技術研究局設計案一七二〇、〈黒死鳥(トラオアシュヴァーン)〉。

合州国で建造されたストーンヘンジを倣って開発が進められ、電磁砲艦型や攻性工廠型の登場で戦線投入が決まった()()()()()()()()()である。

フェルドレスが破壊するのが困難な攻性工廠型を完全に破壊する作戦の要。今はミチヒ達旅団本隊に配備され、モビルスーツの護衛を受けながら進む予定の派遣旅団の切り札だ。四〇〇キロの射程を持つ常識はずれの巨砲に、同じ距離で反撃を加え、一撃で仕留める為に開発された、大口径の超長距離砲。ただし現時点では。

 

「未完成の試作品だから仕方ないとはいえ、大人しくストーンヘンジの砲撃に頼ればいいと思うがな」

 

常識はずれの大口径超長距離砲ーーになるはずだった、()()()()()()()である。

そもそも大口径は電磁加速砲型と同じ八〇〇ミリ口径のストーンヘンジに取られ、初速も二三〇〇メートルと電磁加速砲型やストーンヘンジにも遠く及ばない。射出可能な弾頭重量も然り。それでも戦車型くらいなら数百キロ離れていても破壊できるが、攻性工廠型ほどの装甲であれば試算では一〇キロ地点まで距離を積めなければならない。長距離砲が名折れするレベルの超至近距離だ。と言うか、そもそもストーンヘンジを使った場合。全てが木端になる可能性があり、事情を知るエルンスト自身が待ったをかけていた。

 

軍靴を鳴らして歩み寄ってきた辰砂の搭乗服の一団が近づき、先頭の金髪の女性大尉がーー見事なまでにシン達に一瞥もせず敬礼をした。

 

「少佐。ーーそろそろ出立のお時間なれば」

「分かった、ティルダ。姫殿下、行こう。話をしてくれてありがとう、ノウゼン大尉」

「はい、お兄様」

 

女性大尉には何も感じないが、続く言葉に違和感を感じる。

 

「ーー最前線にまでマスコットを?」

 

〈ヴァナルガンド〉のコックピットは複座式だが、片方に機能を集約することができる。だから問題はないのだが……

 

「勝利の女神だ。……当然だろう?」

 

いかにも育ちのいい、純朴な。人の良さそうな笑顔のまま平然と頷いた。

 

 

 

 

 

辰砂の集団が去るのをみて、フレデリカが見上げる。

 

「観測員の名目で妾を〈トラオアシュヴァーン〉配備とし、その割に妾の進発をも遅らせたのは、彼奴と顔が合わせるのを避けようとしたのじゃな、シンエイ」

「……ああ」

 

結果としては裏目に出たが……

 

「ブラントローテについて何を教わったかは知らぬが、そう警戒せずとも大丈夫じゃ」

「………。確かに、それもあったけど」

 

派遣前に、リヒャルト少将から教わった帝国自体の確執。

新帝朝派の領袖であるブラントローテ家は、帝国最後の女帝アウグスタのーーフレデリカの敵だ。

女帝であるフレデリカにはーー新帝朝派にとって簒奪するつ価値はあった。

ただ、キルヴィースをシンが警戒したのはそれだけではなかった。

 

「派閥以前に、あの男が信用に置けないと思った。……うまくいえないけど、なんと言うか」

 

不本意ながらそれがなんなのかわ感じる。虚無の匂いというべきか、目的さえ果たせばあとはどうでも良いという、者の気配。

 

「八六区にいた頃の俺と…同じ感じがする」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

時は戻り、作戦開始前まで遡る。ミルメコレオ連隊と顔合わせしたのと同時期。合州国から派遣された部隊……合州国の民間軍事会社〈トリントン・グループ〉と合流した。先の作戦で大幅に人員削減を行なったストライカー戦闘大隊はその面影すら感じず、今回はドミトルと言った一応の知り合いが代表を務めていた。正直、休暇後の人員が変わりすぎてよく分からなくなってきてしまう。

 

今まで合州国に派遣されてきたストライカー戦闘大隊は今回の任務を最後に部隊の解体が決まった。それもそうかもしれない。十五機のモビルスーツが堕とされ、隊長も大怪我を負った。八六区では隊長が死んでも特に問題はなかったが、こういう時に上が居ないと意見を言うこともできない上に指揮系統の混乱もあるのだろう。部隊解体の話はトントン拍子で進んだそうだ。もっとも、最新のモビルスーツを外国に持って行くなという機密部分での懸念が第一だそうだが……。

 

そして、その穴埋めとして派遣されたのがこの民間軍事会社の部隊だった。自分たちはよく目にしてきた〈M61A5E3〉や〈ハイザック〉、〈ジム〉を主戦力とする合州国が建てた公営の民間軍事会社だった。見知った人物は〈ロト〉に乗ってきたドミトル大尉やアノラ大尉達だけだった。しかし、ドミトル達はその〈トリントン・グループ〉の隊員達をまるで監視する様に見ていた事から、疑問に感じているとアノラ大尉がその訳をあまり大きな声で話さず教えてくれた。

 

「あいつらは軍隊内外で問題を起こして刑務所に収監されていた()()だ。ただ、刑期の短縮と犯罪歴の抹消を条件に軽犯罪を犯した兵士を雇用しているのさ」

 

そう言われ、シン達は思わず驚きながら怪訝な目で彼らを見てしまった。つまり、あそこにいるのは犯罪者。そんな人物を外国に派遣するのかという合州国の高官に小一時間ほど問い詰めたい話だったが、そこでアノラは自分達に注意する様にいう。

 

「だから、あまり近づかない事をお勧めしておくよ。もし、あいつらが粗相を起こした場合は遠慮なく殴って良いし、遠慮なく私達を頼ってくれ」

 

そう言うと、今度はドミトルが続ける。

 

「少なくとも粗相を起こした場合は、あいつらに暴行を加える権利は君たちにも与えられる。だから心配しなくても良い」

 

一体どこが心配しなくても良いのか分からないが、シン達は取り敢えず近づかない事を決めて最低限の接触で終わらせていた。ドミトル達はそんな第十三部隊の看守役としての任務が大きいと言う。

 

「俺たちの任務は初心に帰って督戦隊だ。まぁ、あまり気乗りはしないがな……」

 

そう言うと、ドミトルさん達は嫌そうな顔をして去っていった。その時、ハルト達がやや驚いた様子を見せていた。

 

 

 

 

 

しかし、そんな彼らと決定的に決裂したのは訓練の最中で休憩していた彼らの与太話にあった。

 

「なぁ、聞いたかよ。例の噂」

「?」

「〈戦果呼び〉が死んだって噂だよ」

「あー、例の〈レギオン〉の戦艦のやつか」

 

正直囚人の話なんぞ興味も無かったが、続く言葉に耳を疑った。

 

「〈ガンダム〉に乗ってておっ死んじまったとさ」

「ほぅ…それが本当なら俺たちは安心して寝られるってもんだ」

 

そのあと、豪快に笑い飛ばしていた。しかし、その声で聞き耳を立てていたシン達は驚愕する。あの戦場でガンダムに乗っていたのは一人だけ。思わず誰かが、その話を詳しく聞き出していた。すると、その囚人兵はやや脚色しつつ、面白そうに話し出した。

 

「五年前、二〇三高地の戦闘で二個小隊が〈レギオン〉の大部隊と戦闘になった。合州国はそこで増援を送ったものの、その二個小隊の生存は諦めていた。だが、現地に到着してみたら、一機の〈ジム〉がコックピットが切り取られた状態で擱座していて、その中で一人だけ生き残っていた奴がリノ・フリッツだ。その時、モビルスーツに乗って初めての実戦だったそうだ。

戦闘後に勲章を授与されたが、たった一機の旧式MSで〈レギオン〉の四個重機甲師団を破壊できるわけがねえ。だから俺たちはあいつが戦果を上げるために<レギオン>に自分の居場所を教えいるんじゃないかwっwてwなww!!」

 

だからついた渾名は<戦果呼び>。

旧式機ではあり得ぬ戦果を出した新兵に対する合州国兵の嫉妬と妬みの混ざった……侮辱の渾名。

 

「〈レギオン〉に情報を流してるって噂はよく聞いていたぜ。まぁ、勲章授与式の映像以外。姿を見たことがなかったから、いい機会だと思ってたんだがなぁ……」

「ああ、まったくだ。おまけに、勤務中に同期の士官を孕ませたって噂が本当かどうか聞きたかったんだがな…」

 

そう言うと、またその囚人兵はやや汚い笑い声をあげていた。

それを聞いて憤慨しないわけがなく、カイエやハルト達に至っては殴りかかろうとして拳を強く握っていた。しかし、相手は犯罪者。下手に相手取ろうもんなら返り討ちに会ってしまう。仮にもこの数ヶ月を、それも先の作戦では電磁砲艦型と相討ちになってまで戦い抜いた相手が、ここまで侮辱されれば流石のシンも目元を眇めてしまう。

そして、ここにレーナが居なくて助かったと思っていた。こんな奴らにレーナを合わせたくない。こんな汚い連中の話なんか、聞かせたくなかった。

 

「貴様ら!何をしている!!」

 

途端、割って入る様にアノラ率いる歩兵部隊が手に小銃を持ってやってくると、その囚人兵に向かって叫ぶ。

 

「囚人どもはとっとと仕事に戻れ!」

 

そう言って銃を突きつけるその姿は、エイティシックスが強制収容所に移送される時の光景そのものだった。向こうは慣れているのか、へいへいと言ってそのまま演習場から消えていった。

厳しい目をしたままのアノラ中尉は囚人兵を見届けた後、申し訳なさそうに言った。

 

「すまない、監視が行き届いていなくて……」

「……いえ、構いません。それよりも〈戦果呼び〉とは……どういう事ですか?」

「っ!…あの野郎……」

 

アノラ中尉は思わず囚人兵の行った先を睨みつけてしまうと、シン達には少しゆっくりと話した。

 

「初陣で大戦果を飾った中佐に、戦果で負けた奴らの遠吠えに過ぎない。ざっくりと言うなら『新兵如きが出しゃばるな』と言う何も知らない奴らの嫉妬に過ぎん……だから、君達は気にしなくていい。これは合州国の問題だ。それに、そう言うのは一部の人間だけだ」

 

そう言うと、アノラ中尉はシンの肩を軽く叩く。

合州国の戦闘服を身に纏い、防弾仕様のフルフェイスヘルメットを被った歩兵部隊は。今回は督戦隊として、囚人兵の後ろで銃を突き立てるのが仕事だと言う。

 

督戦隊とは部隊を後方より監視し、自軍兵士が命令無しに勝手に戦闘から退却或いは降伏する様な行動を採れば攻撃を加え、強制的に戦闘を続行させる任務を持った部隊の事だ。そしてドミトル達には自由裁量権が与えられ、最悪の場合は殺してもいいと指示を受けている。

 

「すまない、君たちには不快な話を聞かせてしまったね」

 

そう言うと、アノラ中尉達はそのまま訓練施設を後にし。その囚人兵の監視任務についていた。その光景に、少しトラウマが蘇ったような気がした。

 

 

 

 

 

この一件で、自分達は囚人兵とは決定的な溝が出来上がっていた。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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