86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#102 頼りにされている。

『ーーヴァナビースより挺身大隊各位。第二フェーズに移行。準備を』

「了解」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それが分かるなり、シデンはシンの元へ向かった。

聖教国に派遣された、その日の夜。()()を聞き取ったその日のうちに。

 

「連れてけ。あたしを。ーー()()()を討つのはこのあたしだ」

 

シンの異能が聞き取れる範囲は、かつては共和国全戦線の把握ができる極めて広範囲。

大陸の西の方の聖教国は近づきさえすれば多くのことが分かる。

機動打撃群が追う電磁砲艦型が、この戦場に逃げてきたか否かも。

 

「シデン」

「隠していたつもりなら余計なお世話だ」

 

両手で胸倉を掴み、睨め上げれば文字通り眼前に双眸が迫る。ーー冷えて硬い、血赤の双眸。

最初に見た時から気に食わなかったその冷徹が、今は憎らしいほど……。

 

「あたしがあいつを倒す権利を、横取りするなんざたとえお前にもーー」

()()()

 

よく通る、ーーかつて八六区に君臨した戦神の声。

斬りつけられたように口を噤む。逆にネクタイごと掴まれ、引き寄せられる。

 

「頭を冷やせ。ーーお前自身が言った事だ。今のお前は作戦には連れて行けない」

 

かつて、シンはシデンに同じことを言われた。竜牙大山拠点攻略作戦の前に……。

 

()()を倒して、その後は?そのまま刺し違えても構わないなんて思ってるなら連れて行けない。それは刺し違えても構わないじゃない。()()()()()()だ。そんなつもりの奴は連れて行けない。死にたがりが一人でもいれば部隊全員が危険に晒される。足手纏いだ」

 

ぎりっとシデンは歯を軋らせる。

悔しいがーー分かる。それが指揮官として当然の判断だ。足手纏いは連れて行けない。そいつの感情を考慮に入れる必要さえない。こんな綱渡りの作戦だけでなく、あらゆる戦闘において、部下全員の命を預かる身としては当然の判断。持つべき冷徹。

理屈ではわかっているが、感情はそうはいかない。

なんてお前なんかが……知った風な口を……。

 

「刺し違えたいとか。……なんでそんなことが、お前に分かるって言うんだよ!」

「知っているからだ。ーー俺は特別偵察で、兄さんを倒すつもりだった」

 

シデンは目を見開く。それはかつて、エイティシックスを確実に滅ぼす為に共和国が下した生還率ゼロの偵察任務。二年前にシン達が課された事実上の死刑宣告。

そして兄をーー同じエイティシックスの兄を『倒す』ということは。〈レギオン〉に。

 

「その為だけに八六区を戦っていた。倒してそのまま死ぬつもりだった。……それなのに死にきれず生き延びた果てが、電磁加速砲型との戦闘後の俺だ」

 

碧い機械仕掛けの蝶が舞う中で途方に暮れた様子だった、磨いた骨の純白の、ボロボロだった〈レギンレイヴ〉。

なんて情けないと、シデン自身が。

 

「お前がみっともないと言った姿だ。レーナが居なければそのまま死んでいたあの姿が。今のお前の行き着く先だ。たとえお前だろうと、死にに行かせるわけにはいかない」

 

その瞬間、シデンは肩をやや強引に掴まれる。いつの間にか後ろに立っていたアノラ中尉だ。さすがは正式な対人戦も教え込まれた軍人。ものの数秒でシデンを取り押さえる。シデンは抵抗するも、腕は微動だにしなかった。

 

「……こんな時でも言ってくれる。最後の言葉は余計だろ」

 

ふん、とシンは鼻を鳴らす。

 

「その程度の軽口も出なかっただろう。らしくない」

「はいはいそうですねー仰る通りでございますよーハイ」

 

いかにも嫌味ったらしく目を逸らしたままアノラに掴まれたまま言う。いかにも普段通りの様に。

 

「……アノラ中尉、離してもらって構いません」

 

そう言い、アノラはシデンの拘束を解き、シデンは一旦よれた制服を整え直しながら言う。

 

「……そうだな。らしくなかった。どうにか作戦前までには、らしくなっておくさ。だから、」

 

腹の底で荒れ狂う憤懣を、噛み殺す様に押し出す。

 

「あたしを外すかどうか決めんのは、ギリギリまで待ってくれ」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『ーーで、どうにか私は、挺進部隊に加えてもらうのに間に合ったわけだけどよ』

 

現在シデンと〈キュプクロス〉が配備されているのはノルトリヒト戦隊。シン率いるスピアヘッド戦隊の半分と共に、進発順は最初だ。〈アルメ・フュリウーズ〉への作業が進む〈アンダーテイカー〉の中で、視線だけを彼女に向ける。

連邦語と聖教国語の交互のアナウンスが、挺進大隊進発の準備を告げる。

 

『格納庫のシャッターを開放。プロセッサーはキャノピー封鎖を確認。防塵装備の無い要員は至急退避』

 

からかいではなく、案じる響き。

 

『クレナは良いのかよ。置いてっちまって』

 

シンは一つ瞬き、シャッターが開いて見えた灰色を見上げて言った。

 

「置いていくわけじゃ無いし、そのつもりは無い。……クレナは狙撃手だ。向いてる役割は別にある」

 

 

 

 

 

見慣れた〈ガンスリンガー〉のコックピットは増設されたコンソールやサブウィンドウ、テープで無理に繋ぎ止められたコードなどで実に乱雑だ。

 

そんな狭苦しいコックピットの中。クレナはウキウキと進発開始を待つ。

陽動で戦闘を続ける聖教国軍と、後方で発進準備を待つ挺進部隊。そのさらに後方、進発順に待機を続ける派遣旅団本隊の、潜む隠れ臨時格納庫。見慣れた〈レギンレイヴ〉や辰砂の〈ヴァナルガンド〉、灰色の〈ハイザック〉。それ等と共に詰め込まれた試作レールガン〈トラオアシュヴァーン〉の、架台上に固定された〈ガンスリンガー〉の中。

 

電磁加速砲型やストーンヘンジの対抗馬として開発された〈トラオアシュヴァーン〉はその電磁加速砲型とほぼ同じ大きさ。しかし、その見た目は名の通りに首の長い白鳥が地にふせたような形状を持つ。ーー好意的に表現すればの話だが。

 

何せ、実験施設の試作品の流用品だ。急造で取り付けられた如何にもテクニカル感が溢れる。挙句にスパゲッティの様に何本ものコードが溢れて〈ガンスリンガー〉に直接魔改造連結されていた。FCSが未完成で〈レギンレイヴ〉で代用するしかなかったのだ。

 

とても不恰好な、その兵器を任され。クレナはいたく上機嫌だ。まるで子供の様に足をばたつかせ、お出かけが待ちきれない小さな子供の様に。

だって嬉しい。この役目を、クレナに任せたのは……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーークレナ」

 

シンが渡した〈トラオアシュヴァーン〉のマニュアルが、その時は御伽話の舞踏会の招待状にも見えた。そんな物を、ドキドキしながら受け取る。

 

「ブリーフィングで話した通りだ。〈トラオアシュヴァーン〉の射手はお前に任せる」

「っ、うん……!」

 

大まかな性能諸元と懸案は、ブリーフィングで説明を受けた。何しろ射撃はできても火器管制系が未完成。戦闘に耐えうる冷却系も、自動装填装置も。一応追加はされているが、再装填に二百秒かかる。

いくら相手が遅いとはいえ、これでは撃てても二発が限界。照準を人が行い、尚且つ必中で当てなければならない。

 

そんな重大な任務を、自分に。

 

まだ頼りにしれくれている。

 

シンはまだ、自分を必要としてくれている。

 

これはその証だ。これならもっと小さな目標だって、今なら百発百中で当てれる気がした。

しかし同時に、今度こそは失敗できないと、頭の片隅に氷塊が蟠る。その正体は焦燥、緊張、闇雲な不安だ。信用して任せてくれた。だからこそ決して失敗できない。

 

裏切れない。

 

今度こそ、シンや皆んなの役に立たないと。

 

「任せて」

 

戦い抜く誇りしか、あなたの傍で戦い抜くための技量しか、自分には無いのだからーー……。

 

「今度はぜったい、外さないから。だからーー安心して、任せて」

 

シンは困った様に、気遣う様に眉を寄せる。

 

「そう気負わなくても、お前のことは信頼している。……見捨てたりしないから」

 

ーー見捨てないで。

船団国群からの撤収時にクレナがつい、縋っていった言葉。

 

「うん」

 

クレナは頷いて笑う。

 

「うん。それは、分かってる。分かってるけど、でもあたしは、あたしも、エイティシックスだから」

 

戦い抜く者だから。

 

「戦い抜くって、あたし達誇りをーーあたしもちゃんと、守りたいから」

 

シンは何故かーー痛みを堪える様に、僅かに顔を歪めた。これも船団国群での撤収の直前に、縋ったクレナと同じ様に。

言うべきかしばし間を置き、ーー今度は静かに口を開く。

 

「変わらなくても良いと、前に言ってたな」

「……うん」

 

ーー苦しいなら、無理に変わろうとしないで。

 

「クレナが変わりたく無いなら、変わらないままでもそれは良いと思う。けど、()()()()()と思っているなら。誇りを呪いの様に、考えているなら」

 

シンはどこか深い目をしている。

連合王国では薄氷の張りを亘ような脆く焦燥に駆られた、八六区では厳冬の湖水のように凍てついた血赤の双眸は、いつの間にか雪解け、穏やかに凪いで。

その双眸がクレナを映す。気遣う様に、痛みを堪える様に。

目の前にいるのに、どうしてこんなにーー遠いのだろう。

 

「……それこそ無理に、背負わなくても良いと思う」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『ーーカタパルトレールの冷却完了。全ジョイントロックを確認。最終チェックリストの全項目を完了』

 

全長九〇メートル、二条一対のレールが、反動吸収用鋤状部品と陣地転換用の二対の脚部の上で金属の軋る叫喚で回る。

格納時には折りたたまれていたが、それでも四〇メートル。かの電磁加速砲型にも比肩する大きさだ。塗装は、連邦の鋼色でも盟約同盟の焦茶でも、合州国のオリーブドラブでもなく。亡霊騎行の名にちなんだ青みの漆黒。

 

ふと、無線越しに通信が入る。

 

『ーーエイティシックスの餓鬼共』

 

相手はドミトルだった。今頃は横で護衛をしているはずだが、そんな彼が通信をしてきた。こちらに聞こえる様に。

 

『俺達が迎えに行ってやる。……だから必ず、全員で戻ってこい。……俺たちからはそれだけだ』

 

まるで、前の隊長の意思を引き継いだのか如く。自分達にそう言う。

自分達は何も言わない。ただ、全員が思っている。口にはしないが、全員は大体同じことを勘付いている。その人物が最後に残した言葉。

 

自分達エイティシックスに未来を望む事を願って託した……最後の言葉。

 

『ーーMk1〈アルメ・フュリウーズ〉、投射準備完了』

 

実に二四基の宵闇色の爬竜が、レール上にそれぞれ〈レギンレイヴ〉を乗せてゆっくりと立ち上がる。

 

 

 

 

 




主の近況報告
シン・エヴァの大人シンジの声が神木隆之介だった事実に今更ながら驚愕。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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