「自分が言うのもなんですが……貴方は教官として連邦に派遣されてんだよな、オリビア大尉」
迎撃された時や指揮継承権を鑑み、ライデン達はシンとは同時には進発しない。
〈アルメ・フュリウーズ〉のカタパルト上で、発進指示を待つシン達と共に進発を待つ第三小隊の中。純白の機体群の中にポツリと異質な焦茶の〈ストレンヴルム〉。
第三小隊は前衛を務めるセオが抜けて、その穴埋めとして近接戦闘を得手とするオリヴィアが加わるのは有り難いが……。
「実戦部隊まで加わっちまって良かったのか?ましてや挺進部隊に」
『さて、教官が前線に出てはいかんと言う法があったかね?』
〈アンナマリア〉の中でオリヴィアは髪を結い直し、その音はまるで弓兵は弓弦を張る様に。
『〈アルメ・フュリウーズ〉はこれが初実戦。〈羽衣〉を用いて挺進するのも君たちは実戦では初めて。ーー経験者の教官が、同行するのは当然だろう』
『ーー様、許容される重量の範疇で追加装甲は施してございますが、〈アルカノスト〉は軽装甲です。どうぞ、普段の感覚では戦われませぬよう』
「承知しています。ありがとう、大尉」
恭しく部下が告げ、挺進大隊の一角でザイシャは応じる。彼女が普段駆るのは通信・電子戦能力を強化した専用の〈バルシュカ・マトゥシュカ〉だが、重量の関係で挺進部隊に加われないので急遽電子戦に特化した〈アルカノスト〉を拵え、これが今回のザイシャの乗機となっていた。装備には合州国から提供されたレーザー通信装置も備え、一時的に孤立してしまう挺進部隊の通信を補助する役割を担う。
通信の中継任務についてはいずれは〈シリン〉が担当すべきだが、〈アルメ・フュリウーズ〉を使うのは機動打撃群でもこれが初めてだ。何が起こるか分からない戦場で融通が効かない〈シリン〉には任せられないとザイシャ自身が志願していた。
全てはこの身を捧げて尽くすべき主君の。
「我らがヴィークトル殿下の御為に。ーークローリク、務めを果たして参ります。地上部隊の指揮はよしなに」
「……こちら、ドミトル大尉だ。総員に通達する」
格納庫の中、遠くに映るエイティシックス達を見ながら知覚同調の通信を入れる。相手は第十三グループ。
「これより我が部隊は作戦行動を開始する。秘匿通信〇三を開いたまま各機待機。MS隊は通信あるまで現任務を続行せよ」
今回、まるで一年戦争に戻った頃の様な編成で聖教国にやって来た。その為、MS隊を管制する為のホバートラックも持ち込み。現在は殆どが〈トラオアシュヴァーン〉の護衛に当たっていた。かく言うドミトル達もすでに格納庫を出発し、トラックと共に移動を行っていた。脚部ユニットの不具合で進発が遅れていたのだ。
「挺進したスピアヘッド戦隊援護のために、ザク小隊はバズーカを持って前に出ろ」
『『『了解』』』
確認をとり、ドミトルは柄にもなく指示を出していた。前まではただ命令を聞いて動いていただけだったが、いざ指揮をするとなるとこうも緊張感が溢れる。それを思うと、あの若い隊長はよくやっていたと感心せざるを得ない。
「進発した部隊は恐らく出てくるであろう敵モビルスーツの撃破を最優先とせよ」
そう言うと、ドミトルは通信機を切っていた。
『各国派遣旅団の、連邦・合州国軍人とエイティシックスの皆様。こちらは聖教国軍第三軍団軍団長、ヒェメルナーデ・レェゼです。ーーこれより攻性工廠型討滅、どうぞよろしくお願い致します』
つくづく戦時中の階級はおかしくなるとは言うが、まさかあんな少女が一国の軍団長をしているとは誰が思うだろうか。狂国には狂国なりの考えがあるのだろうかと思いながら、幼女趣味の輩が出てこない様に祈っていた。ただ……
「(あの眼は少し気になったな……)」
それは、ブリーフィングの際。初めであった時の、あの強い感情を纏った少女の眼に少しだけ危機感を感じていた。
ーーそれこそ無理に背負わなくてもいいと思う。
誇りを、命尽きる最期の瞬間まで、戦い抜くと言うエイティシックスの有り様を。
「それはっ……!」
おおよそ、受け入れ難い言葉だ。思わず言葉を返そうと思ったが、そこでシンが片手を上げて遮る。僅かに鋭利を帯びた目で向ける視線に、不満を飲み込みつつクレナもその方へと目を向ける。
すると、柱の影で半ば隠れて、まるで妖精の様な少女が立ちすくんでいた。
「すっ、すみません……!お邪魔を、その、決して覗き見るつもりはなくて……」
「ーーちっ、違うから!あたしそんなんじゃないから!」
一体何語誤解したのかを悟り、クレナは慌てて否定する。それもシンの前で。
「聖教国軍の軍団長、ですよね?レェゼ聖二将でしたか、……どうしてわざわざこちらに?」
「軍団長!?」
「いっ、いえ、わたくしはただ父母の跡を継いだだけでして……。どうにか気を落ち着けてから……」
驚くクレナにオドオドとするヒェルナ。
真剣な顔。溶け落ちる陽の、金色の。
「ご挨拶をしたいと思って来たんです。エイティシックス達。おっしゃる通り、わたくしは軍団長ですから我が軍団を代表して、わたくしたちを救って下さる貴方がたに」
まだあどけなさが残った清楚な顔が笑みに綻ぶ。
「私と同じ、幼い身で戦火を戦い抜いてきたあなた方に」
同じ声が、無線の無粋な雑音を超えてなお、玲瓏と響く。
『どうか、私たちを救ってください。異国からの英雄達。……御身に地の姫神の祝福と守りが、鋼鉄の騎馬に大地の堅固と峻厳が宿ります様』
きっとあどけなさを引き締めて、精一杯行っているだろう彼女。
私達を救ってください。
「うん、任せて」
ーー同じ言葉をいつか言った。無意識に右手が太腿に止めた拳銃に触れる。
九ミリ口径、自決と介錯用に渡される内蔵撃針式の自動拳銃。クレナは未だ、その用途で使った事はない。
その役目を八六区にいた頃から、皆の代わりに負っていたのは……。
「ノウゼン大尉。時期に挺進部隊の進発が始まります。ーー〈アルメ・フュリウーズ〉を用いる初の作戦です。どうか十全に……いつも以上に気をつけて」
挺進部隊の進発先は今回も〈レギオン〉支配域奥地。何か一つの手違いで、敵の軍勢の真っ只中に取り残されてしまう。
その恐怖は本当はいつも、作戦の間レーナの心臓を冷やす。
加えてこの作戦では万一警戒管制型か、対空砲兵型に見つかれば挺進大隊になす術はない。危険性で言えば、これまでよりも高い。
背筋に氷塊が通った様にレーナは身が震える。戦慄を必死に押し殺そうとしているのが分かったのだろう。シンは苦笑した様だ。
『船団国群から帰る時の命令は、忘れていませんよレーナ。……あれは流石に忘れられそうにない』
「シンーー……!」
揶揄する響きにレーナは思わず声を上げる。だって今、シンは確実に唇に触れた。知覚同調越しでもわかる。
同調しているのがお互いだけだからいいものの……いや、記録には残るからダメだ。あれにはシンも何度か痛い目を見させられ、その上リノやダイヤ達は面白がって携帯の着信音にしたときなんかは大喧嘩になっていた。
それで、シンは対策をしたのだろうが、約束とはなんだと聞かれた場合はどうするつもりなんだ。……どうもしない、そうなったらシンに説明させてやる。
作戦前、レーナが軽くつけたブーゲンビリアの香水の香りがヴァナヴィースの自分の席に軽く漂う。……シンと同じ匂いのする香水。
船団国群からの帰りにカイエから渡されたリノからの土産。
「仕返しのつもりなんでしょうけど。その時はシンも道連れですからね」
『ああ、仕返しされる自覚はあったんですね。船団国群まで一ヶ月もほっとかれて、そろそろ拗ねてもいいと思っていたのですが……』
「そうですけど……だって、言い訳になってしまいますが訓練センターは物理的に回線がないし手紙も禁止だし、そのせいで一ヶ月も空いてしまって気まずくて……その……」
言ってから自分でもあんまりだと思った。
「……ごめんなさい」
くつくつと笑い声が返る。
『ようやく答えてもらえたんですから、すぐに死ぬ様な真似をしませんよ。長生きするつもりです』
だからそんなに心配しなくて大丈夫です。
言外にそう言われ、レーナは微笑む。そうだった、そうレーナが望んで、奇跡を願ってあの誓いがあったんじゃないか。
それから
「ええ……それとシン。実は〈ツィカーダ〉を着るのにまた上着を借りています。……シンの香りがしますのでなんだか落ち着きますね」
その瞬間、シンが激しく咳き込むのが聞こえた。思わぬ不意打ちにむせたらしい。ざまあみろとか思いつつ、レーナはすまして続ける。
「これからは作戦ごとに借りていきますね。不安な時とかはぎゅーっとしたりしますね」
『…………』
何を想像したか黙り込んでしまった。流石にこれ以上いじるのは作戦前に良くないか。
「先線が終わったら、直返しにいきます。……これからの全部の作戦で、借りて、返させてきださい」
どうか。無事で。
「行ってらっしゃい」
『ええ……』
言いさしてふっとシンは口を噤む。そして言い直した。
『ーー
レーナは目を見開く。行ってきます、ではなく。
それからくすぐったく笑った。
作戦開始の直前だと言うのに……上官ではなく戦友に、あるいはーー共に生きると誓った相手に向けるその言葉使いが、無性に嬉しかった。
「はい。ーー気をつけて」
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい