86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#105 見舞客

「坊主もとうとう明日で帰国か……」

 

船団国群に残った重症者は順に連邦に戻っていき、すでに合州国兵は殆どが帰国の途についていた。そしてセオ達最後の移送対象者の帰国が明日だ。長いようであっという間だった。北の海辺での滞在。

連日、ひっきりなしにやって来る旅客機や列車を眺めていた。合州国製の義手をつける提案を受け、セオは暫く悩んだ後。その一件を一旦保留にしていた。合州国はモビルスーツ製造で培った技術を用いて、戦闘はできないものの日常生活までであれば違和感なしで動かせられる義手があるそうだ。極めて魅力的だが、セオは一旦考えさせてほしいと答えるのを長引かせていた。

 

「うん。……その、お世話になりました」

 

セオは軽く低頭する。

 

「やめてくれ。頭を下げるのはこっちだ」

「だって、艦長」

「もう艦長じゃねえよ」

「……大佐、忙しいのにしょっちゅう見舞いに来てくれたでしょう」

 

無駄に薔薇の花束を抱えたり、逃げられないからって地元民が旅行者を揶揄う類の珍味を持ち込んだり。初めの頃はシーツを被ったおばけの振りなんて言うベタな悪戯をしたので、思わず怒鳴って物を投げてしまった。もうとにかく鬱陶しくてうるさくて……ありがたかった。一人でそっとされていたらもっと鬱々と、余計な事を考えていた。

ーー最初からちゃんと話を聞いて、もっと考えていたら良かったかもしれない。

誇りなんて、大事に抱え込んでいたつもりでもこんな世界で、それさえ失うかもしれないと言う事を。それでも生きなければならないと言う事を。

言葉は知らず、涙が溢れる。

 

「……言って良い?」

 

たとえシンにも、言えない言葉。仲間達に知られたくない弱音だから言えない言葉。

でも。この人ならきっと、ーー受け止めてくれる。

 

「プロセッサー、やめたくない」

 

言うと、ぼたぼたと何かが床に落ちる。……涙だ。

 

「戦いたいわけじゃないけど、みんなと一緒に最後まで戦いたかった。次の作戦も、一緒に行きたかった。……こんなの嫌だ。こんな中途半端な、終わり方なんか……」

「ーーそうだな」

 

イシュマエルは深く頷く。

そのふかい、知らない南の海のような翠の瞳。

もう顔も碌に覚えていない、父親の眼もきっとこんな色彩をしていた。

 

「そうだな。わかる、なんて軽く言えた事じゃねえが」

「わかってくれるでしょ。だってーー〈ステラマリス〉も」

「……ああ、最後の出撃だった」

 

あの巨艦は、船団国群市民が南の海のサイド7に移民する事から解体が決まった。元より動けない軍艦を置いておくわけにはいかず、資材転用する事が決まった。すでに、解体作業の序盤は始まりつつあった。もう、征海艦隊の再建はできなかった。

たとえ戦争が終わっても、再建なんかきっと、何十年も先だろう。船団国群の艦艇はその殆どが帝国製だ。〈レギオン〉戦争には不要な造船技術。一体どこまで継承されているのか。今でも合州国は水上艦の建造を行っているそうだが、あそこから船団国群まで軍艦を運ぶにも時間がかかる。二度と再建なんて出来ないかもしれない。そもそも、再びこの地に戻って来れるかどうか……

 

「俺は征海氏族じゃなくなった。ーー本当は屑鉄狩りに征海艦隊を持ち出した頃からずっとそうだったんだ」

 

それでも生きている。生きていかなくてはならない。

生きているのだから、失った誰かに恥じぬ様には生きられない。

イシュマエルも。自分も。

その為に。

 

「僕にも見つかるかな。次の何かって」

「見つかるさ。それに急ぐ必要もねえよ。俺だって何年も悩んだ。だから……わけわかんなくなっちまったら相談くらい乗るよ。千年前の親戚だもんな」

 

摩天貝楼拠点攻略の前にも聞いた、その言い回しにセオは苦笑する。あの時の闇雲な反発はもう、感じなかった。

 

人とは血と地の縁で作られる。

 

以前、フレデリカが言っていた言葉だ。だが、それは正解でもあり、間違いでもあった。

確かに人は、己一人では形を保てない。帰る場所が、共に生きる誰かが、誰であっても必要だ。

でも、自分達はーーあの時も今も、一人じゃなかった。

仲間がいた。その仲間こそが、居場所であり彼を作る縁だ。互いに形作り、支え合う同胞。戦えなくなった今でも、望めばいつでもそこに帰れるのだと今なら自分は信じられるーーだから自分の形を見失わなくて済む。

仲間達がそうと、信じさせてくれる。

同時に、連邦が自分達に求めていたものも、今ならわかる。

血の縁と、地の縁。自分達が失った物。それは取り戻せる。

失っても、それに変わる居場所を見つけろと。辛い時に辛いと言える場所を。弱った時に寄りかかれる相手を作れと、それは同じ形の同胞だけでなく、その外にも。

目の前の千年前の、親戚の様に。

 

「……ありがと、おじさん」

「そこはせめて兄さんくらいにしてくれや。イシュマエル兄貴でいいぜって言ったろ」

 

セオは笑う。

たまに会う歳の近い叔父に、彼くらいの年齢の甥っ子がそうする様に。

 

「やだね」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……戦隊長」

 

イシュマエルが去り、窓の外を眺めるセオ。今となっては、リノが言っていた事もよくわかる。確かに、自分は八六区と言うものに甘えていたのかもしれない。ただ、余計なお世話だと言いたい気分だが……。

リノにその事を言ってやりたいと思っているが、彼はここには居ない。見舞いに来たイシュマエルに聞いても、教えてもらえなかった。ただ、なんとなくどんな状況なのかは想像できた。想像できるからこそ、申し訳なくも思ってしまった。

 

ーー長生きしろよ。

 

それは今の自分にとっては呪いの様なものだ。未来や希望を望んでいいと言う願いを託したのだろうその最後の言葉。

まるであの頃の戦隊長の様に自分には……

 

 

 

 

 

ーー大人になったな……。

 

その幻聴とも取れるやけに脳裏に響く声に、思わずセオは振り向いてしまう。しかし、そこには誰も居なかった。

 

「今の声は……」

 

セオは目を見開き、その声のした方を見たまま固まった後、再び視線を窓に戻した時。扉がノックされた。やや驚きつつも返事をし、そして入ってきたのはクラウとテオだった。

 

「失礼するわね」

「あ、ああ……」

 

気のせいだったのかと思いながらセオは答える。目の前にいる二人はリノの幼馴染だ。もしかしたら、リノの話を知っているかもしれない。ただ、聞きたいけど知りたくない。相反する気持ちが、セオの中を埋めきながら今日来た理由をまずは聞く。

 

「珍しいね、二人が来るなんて」

 

そう言うと、クラウは椅子に座りながら答える。

 

「ええ、私たちは今日の夜の定期便で帰国するから……最後に挨拶にね」

「ああ……そう言えばストライカー戦闘大隊は今の任務で解散するんだっけ……」

 

シン達から聞いた話を思い返しながらセオは口にすると、テオは片手に紙袋を持ちながらセオに言う。

 

「本当は明日まで居たかったんだけどね。……上から呼び出されたから」

「そうなんだ……」

 

すると、テオは持っていた紙袋をセオの前に置く。

 

「だから、ちっと早い退院祝い」

 

そう言い、中に入っていたものを見て思わずセオは苦笑する。

 

「絵の具に画材か……」

「君はこう言うのが得意だって聞いているからね」

「うんまあ、そうなんだけどさ……」

 

確かにサービスでリノのパーソナルマークとか書いたけどさ……。

セオは返答に困るプレゼントを受け取った後、少し間を置いた後にクラウに問いかける。

 

「……クラウさん」

「?何かしら?」

 

セオはそこで少し間を置いた後に口を開く。

 

「その……義手の件なんだけどさ。…お願いしようかなって……」

「……」

 

クラウは少し驚いた後に、セオに聞き返す。

 

「……どう言う風の吹き回し?」

 

今まで返答を渋ってきたセオがこうもあっさり決めた事に驚いていると、セオはさらに続ける。

 

「戦えないけど、手はあった方がやっぱり良いなって……次にやりたい事を見つける為にも。……まぁ、生殺しみたいになっちゃうかもだけど」

「……そう」

 

セオの返答を聞き、クラウはテオに目をやるとそのまま病室を出て電話をかけていた。そんな中、クラウはセオに言う。

 

「実を言うとね、連邦からの依頼でリッカくんの義手はすでに完成していたのよ。だから、すぐに取り付ける事ができる」

「……」

 

いつに間にと思ってしまったが、と言うかそもそも僕が義手を拒否していたらどうするつもりだったんだろうか。

 

「だから、君が帰国したら連邦の病院で義手の取り付け作業に入るわ。忙しいけど、大丈夫?」

「ええ、大丈夫」

 

そう言うと、病室にテオが戻ってきて連絡がついたと報告を入れた。その話を聞き、クラウは席を立つ。

 

「じゃあ、私はこれで。またいつか、会えたら会いましょう」

「うん、そうだね……」

 

結局リノの現状を聞かぬままセオは軽く手を振る。クラウ達は病室を去ろうとした時、思い出したかの様にセオにやや疑問になって聞く。

 

「ああ、そう言えばさ。私達の前に誰かここに来た?」

「え?あぁ〜、イシュマエルが居たよ」

「あぁ、イシュマエル艦長じゃなくてさ」

 

クラウが否定すると、テオがセオにその人物の特徴を言う。

 

「白系種だったよ。ちょっと長身でさ……セオにそんな人物いた?」

 

それも見舞いに来る様な白系種の人が。クラウはエイティシックスであるセオに、シンのように白系種の知り合いなんていたかと疑問に思っていた。

途端、セオはその特徴を聞いて内心凍りつく。あれは偽物ではなかったのかと……。

 

「い、いいや…分かんないや……」

 

セオは荒くなりそうな息を殺しながら見覚えがないと言うと、今度こそクラウ達は疑問に思いながらも病室を後にして行った。

残ったセオは、息を改めて整えながら窓の外を見るとどこか嬉しそうにしながらふと呟く。

 

「……ありがとう」

 

わざわざ見舞いに来てくれて……。

 

自分やエイティシックスは神や天国などは信じないタチだが、この時だけは一瞬本物の幽霊を信じてしまいそうだった。だって、あの声といいクラウ達が見た人影と言い、余りにも心当たりがありすぎた。なんでここに居たのかは分からないが、お節介な人だ……

 

 

 

ただ、セオは少しだけ心の奥底にあった何かが温まっている様な気がした。




主の近況報告

ブルアカの新ストーリーを読む前
新章来チャァァアアア!\( ‘ω’)/ヒィヤッハァァァァァァァア!!!



ストーリー読後
(੭ ᐕ))ハニャ?FXで有り金全部溶かした人の顔

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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