〈キュプクロス〉が飛び出したのをまるで号砲のように、空挺大隊の八個戦隊が飛び出す。鋼鉄の巨獣をそれぞれ目指し、灰の海に沈む廃墟を疾走する。
敵機の行動不能を狙い、まずは攻性工廠型に取り憑くことを目的とするスピアヘッド戦隊は、街を大きく迂回するルートで巨獣の背後へ。対レールガン戦闘の援護を目的とする砲兵仕様大隊は射撃位置となる攻性工廠型の懐を目指し、いずれも見つからぬよう、廃都市の影を縫って進む。
五門のレールガンを担当する五個戦隊は、巨砲の照準を散らすべく廃都市全体に扇状に展開し、これも喉元を狙って迫る。彼らはまた攻性工廠型へ隠密接近するスピアヘッド戦隊を隠す陽動でもあった。
敢えて身を晒し、けれど総数は把握させぬように疾走するその五個戦隊の〈レギンレイヴ〉を、攻性工廠型のセンサが次々に捉える。
凶器のような砲身が、轟音と共に旋回。明らかに獲物を狙う直線的な動きで、呼応するように断末魔の絶叫が増加する。
「っ……!」
聖教国の都市らしい碁盤の目の様に引かれた街路の一つを駆ける〈アンダーテイカー〉の中、聞き取ったそれにシンは目を上げる。伏撃の凍結機が起動したわけではない。増えたのは攻性工廠型の
直後に何かを射出。放物線の軌道。先ほどの〈高機動型試作ザク〉よりも何倍も遅い。無数の膝を抱える様に身を丸めたーー……。
ーー自走地雷?
けれどなぜーー今更自走地雷などを?
意図がつかめない。だからこそ警告を発する。彼らを生き残らせたいと願う経験が告げている。
「各機。目標内部より自走地雷が放出された。意図が不明だが。なるべく接触はーー……」
『っ、ーーレールガンが狙点固定!』
鋭い警告が走る。通信支援と戦況分析の為に高所を陣取る利を生かしザイシャが買って出た回避行動の支援。
『〈キュプクロス〉、〈フレキ・スリー〉、〈ヴルコドラグ〉、退避!〈イジドラ〉と〈ギセラ〉に対しては第二射を警戒ーー……』
転瞬。
五門のレールガン。その全てが咆哮する。
直後に起きた事象を、その瞬間に把握できた者は誰もいなかった。
廃墟の風景が、ごっそりと
射線上の一点ではない。見えざる五本の巨大な腕が、掴み取ったかの様に五箇所それぞれ五〇メートルほどの範囲が、ありとあらゆる建物を消し飛ばす。オリヴィアの未来視の異能で発せられた警告通りの範囲が。
遅れて聴覚センサが風切り音を捉える。ほぼ零距離射撃に近い莫大な運動エネルギーが地を砕く大音響は聞こえない。
斬り刻まれた奇妙にまっすぐな建材の瓦礫が思い出したかの様に廃墟の傷跡に降り注いで積み上がる。
間一髪で警告が間に合った。元よりエイティシックスの習慣として、敵機正面に立つことはほぼ無いこともありーー火力が低く薄っぺらい装甲のアルミの棺桶で、戦車型や重戦車型に挑むのは自殺行為ーー、異様に広い破壊半径に巻き込まれた〈ジャガーノート〉は一機も居ない。けれど……
「一体ーー……」
廃都市の複数箇所で、立て続けに爆発音が轟く。回避に専念せざるを得ず、自走地雷に爆発された様だ。すると、その爆発を頼りにレールガンが旋回する。そこでシンは自走地雷が撒かれた理由を悟る。
データリンク上は全員が生存。脚の速い〈レギンレイヴ〉や装甲の厚い〈ヴァナルガンド〉も、そう容易く自走地雷風情にやられない。だから、自走地雷をばら撒いたのは……
「触雷した機は回避を続行しろ!
見通しの悪い戦場で敵機の位置を知らせる、効率的な方法。その瞬間、レールガンが咆哮し、廃墟にまたも穴を穿つ。それも辛くも回避してのけたプロセッサー達が息を吐く。その一人のベルノルトが続けて舌打ちをする。
『地雷の使い方っちゃそうですね。ありゃ確かに警告にも使いますから……踏んだら一瞬で自分の場所がバレる』
再び瓦礫が降り注ぐ。まるで刃物に斬られた様な残骸に、砲弾の直径を見合わない破砕痕。破片がどこにも見えない事から榴弾でも無さそうだ。接近しすぎた〈ジャガーノート〉では追えないが、後方の〈クローリク〉ならば。
「クローリク、そっちの光学センサでは捉えられたか?解析は……」
『二射目をどうにか……敵砲弾は鎖弾です』
解析結果が転送され、射撃直後の荒い映像が映る。直径八〇〇ミリの砲弾が直後に五〇メートルの何かに変形している。なんというか、投網の様な……。
『砲口を離れた直後に砲弾が分裂。円形に散開。蜘蛛の巣状にワイヤーが直径五〇メートルの範囲の物体を破砕、あるいは切断します。…帆船の時代に敵船を繋ぐための砲弾と似た様なものでしょう』
レーヴィチ要塞でリノが高機動型に行っていた『面』での攻撃を真似たか。確かに至近距離であれば有効な手段だ。
「……対フェルドレスのーー〈レギンレイヴ〉への対策か」
これまで二度に渡りレールガンを仕留めてきた機動打撃群への…。
同じ頃、都市の一区画で〈レギンレイヴ〉を探し出す為に放出された〈高機動試作型ザク〉は推進剤節約の為に街中を歩き出す。武器にヒートホークを持って、射出された六機のザクは攻性工廠型に近づくフェルドレスを警戒していた。
少なくともビルの建材くらいはバターの様に切り付けられるヒートホーク
するとその瞬間、割れた廃ビルの窓ガラスの隙間から真っ直ぐ、ザクの圧延鋼板の胸部装甲に一発のミサイルが着弾し、爆発。撃破されて頽れる。組んでいた二機目が飛んできた方に接近すると今度は背中側から撃たれ、爆発をした。そして、内部に溜めていた推進剤に引火し、爆発を起こしてついでに衝撃波で廃ビルが崩れる。
「ーー撃破確認」
廃ビルの中に隠れていたレッカはそう呟き、倒した〈レギオンザク〉を見て一言。
「シン、進路上の〈ザク〉は仕留めた」
『了解、ーー他の〈ザク〉は……』
『おう、任されて。その為にわざわざ換装した武器だ』
そう言い、八八ミリ砲から換装した二人に与えられた新たな武器を見る。その兵装は単砲身と言えるほど短い筒を持ち、今は自動装填で弾倉から新たにミサイルが差し込まれていた。
〈M101A3 リジーナ〉
それが今回搭載した武器の名前だ。対MS用に歩兵単位で扱える武器として一年戦争時に開発され、未だに現役のミサイル兵器であった。対MS重誘導弾を搭載し、圧延鋼板よりもやや高い硬度を誇る超硬スチール合金を撃破するには何発も当てなければならないが、〈レギオンザク〉程度であれば弱点に当てれば一発で撃破可能だ。
レーナが対MS戦闘用に手配してくれたこの兵器は最もMSとの訓練経験があるハルトとレッカが担当する事となっていた。一三九ミリという大口径のミサイル兵器はレーザー照準で射撃中は止まらなければならないという致命的欠陥があったが、二人は無誘導ロケット弾のように至近で発射した直後に移動すると言う頭の悪そうな戦法でレギオンザクを撃破していた。
「MSは全部こっちで引き受けるから。後は任せな」
『ーーああ、頼んだ』
シンは二人を信頼してそのまま街を疾走していった。
陽動部隊が〈レギオン〉の大半を引きつけても、〈トラオアシュヴァーン〉の征路は無人にはならない。
挺進部隊の戦闘開始を受け、進軍を開始した本隊は射撃予定地点の二〇キロ手前で〈レギオン〉の迎撃部隊と会敵する。最初に攻撃したのは第一三グループの〈ハイザック〉が持つジャイアントバズの攻撃だった。それと同時に各部隊を菱形に編成し、さらに前方には斥候部隊を配置した。本隊の〈レギンレイヴ〉二個大隊と菱形の先頭の頂点を務める義勇連隊ミルメコレオと、その周囲を囲むトリントン第十三グループ。
それらの相手をするのはここでも虫のように湧く、無数の機械仕掛けの亡霊の群。
加えて連邦や合州国の戦場には無い、この白紙地帯特有のーー……
「っ……!?」
戦車型の部隊を照準に収めた途端。〈モックタートル〉の前脚が沈みキルヴィースは息を呑む。ーー灰の層に隠れた窪みを、気づかずに踏み抜いた。
咄嗟に横に座るスヴェンヤの悲鳴も他所に操縦桿を握り、撃発。一二〇ミリ戦車砲の強烈な反動が響き、獰猛な戦車型が真横から撃ち抜かれ頽れる。
強烈な反動を生かして〈モックタートル〉は踏み抜いた脚部を引き抜いて立て直すと、目の前にまたも戦車型が現れ、トリガを引こうとした瞬間。
ガシャン、と絶対に普通ではあり得ない金属が押し潰される音が聞こえ、戦車型を真上から灰色の巨大な脚が踏み潰していた。それこそ、人が虫を踏み潰す様に。
見上げると、そこには一機のジャイアントバズを備えた〈ハイザック〉が立っていた。
一瞬呆然となるも、キルヴィースは詰めていた息を吐いた。
「すまない、姫殿下。大丈夫か?」
「え、…ええ、これくらい何ともありませんわ、お兄様」
反動で頭を軽く打ったらしい、頭を軽く擦りながらマスコットの少女は健気に涙目になりながら頷いてみせた。
乱れたドレスの裾を直しながら言った。ーーブラントローテ大公の『娘』として、御料部隊の象徴として、戦場であろうと僅かな服装の乱れも許されない。
見回せば僚機の〈ヴァナルガンド〉や随伴する装甲歩兵達。更には前方に展開する〈レギンレイヴ〉や〈ハイザック〉さえも脆い灰の地層に足を取られ、酷い時はMSに抱えられて救助されていた。唯一まともに走れるのは古い履帯式の足回りの〈M61A5E3〉のみであった。加えて光学スクリーンに点在する僅かな濁り。高機動のたびに僅かに削られる光学センサのレンズの微細な傷だ。
何より最悪なのは。
『ッ、測距レーザーが、また……!』
悲鳴が無線を駆け抜ける。ーー強い風で舞い上がった灰の帳が主砲照準のためのレーザーを阻害。必中のために必要な火器管制系もこれでは正しく働けない。
キルヴィースは舌打ちを堪えて呟く。あらゆる戦場で経験はあった筈だが……。
「……これは、想定外だ。白紙地帯の支配者は〈レギオン〉ではなく灰か」
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい