86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#108 高い士気

高層ビルの谷間をこの街路から見ることはできないが、滑空中に見た攻性工廠型の背後にはうず高く瓦礫の山が築かれていた筈だ。金属部分を食い散らかした残骸。この怪物がここで足を止めたのは資源採掘の意味合いもあるのだろう。

合州国が撃破した〈レギオン〉の残骸を使ってMSを増産しているのと同様。〈レギオン〉もこうして資源を補給していた。そして、補給をしているということは、

 

……体内の残弾も十分。

 

「(厄介な……)」

 

自走地雷は数が多すぎて全員に警告は出せない。変に斥候型を使うよりも、使い捨てで諸々吹き飛ばす自走地雷の方が経済的では有る。

 

「各機。ーーすまないが此処の自走地雷の判別は流石に難しい。攻性工廠型の砲撃については、タイミングはわかるからーー……」

『ああ、だからその警告はしなくていい、シン』

『お前と同調しているんだ。攻性工廠型の声は制御中枢もレールガンも聞こえている。どの声が喚いたら撃ってくるかはわかる』

 

遮られ、虚をつかれたシンはまばたく。言ったのはサリッサ戦隊とフルミナータ戦隊の戦隊長ら二人。しかし異論は誰も上がらない。

 

『自走地雷の位置も、わざわざ教えてもらわなくてもこっちでなんとかする。忘れてるみたいだが、こっちはあんたがいない八六区も大攻勢も生き残った』

「……」

 

シンは一つ、息を吐く。

 

「そうだな。すまない」

『そっちはそっちの任務に集中してくれ。……以上』

 

作戦中は繋いだままのことが多い知覚同調で、無意味な無線擁護で締める。並走する〈ヴェアヴォルフ〉がチラリとこちらを見る。

 

『言うようになってきたな、連中も。…鎖弾とか言うのも自走地雷も予想外だが、どうする?心配ならスピアヘッド戦隊から多少、自走地雷担当の人手は出してやれるが』

「……いや、」

 

少し考えて首を振る。ーー任せたのだからやり遂げると、信頼すべきだ。

 

「対応しきれないほどの想定外じゃ無い。まだ当初の作戦通りで良いだろう。……対策を考えてきたのは」

 

言い差し、シンは冷徹に目を細める。

 

「攻性工廠型だけじゃ無いから」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ーー要するに。下手に地面踏むと灰で滑って危ないって事なんだから」

 

本隊と〈レギオン〉の交戦で〈レギンレイヴ〉として先陣を切ったリトの第二大隊とミチヒの第三大隊。何度も自機の〈ミラン〉は転けて、酷い時はモビルスーツに救助され、次第にこの灰だらけの戦場の戦い方が分かってくる。

地を這うような設計の〈レギンレイヴ〉は吸気口に灰を吸い込んでしまいやすいので、防塵フィルターの目詰まりまで時間も心配だ。それなら。

 

「地面に降りないで走ればーー良いってことでしょ!」

 

純白の機体が宙を舞う。

センサの精度の低い戦車型や近接猟兵型は目の代わりに斥候型を連れてきている。その斥候型を足場に、

迎撃しようとした近接猟兵型のランチャーも踏みつけ、戦車型に接近。俊敏な動きで即座に動けないほんの寸毫に砲塔上に取り憑く。

文字通りの零距離射撃。頽れる様は目にもくれず次の足場となる敵機の位置を探して飛び出す。

 

「てぇ……いっ!」

 

そこでジャイアントバズの攻撃も刺さり、灰の戦場に爆炎と衝撃波が広がる。船団国群の作戦に参加していたサラミス改級を一撃で損傷するレベルの威力だとか言うそのロケット弾に吹き飛ばされそうになるも、〈ミラン〉は先陣を切って戦車型を狙う。戦略価値の高い戦車型を守ろうと近接猟兵型が攀じ登って高周波ブレードを展開するが、ワイヤーアンカーを地面に射出。

 

「別に、なるべく降りたく無いだけだし」

 

跳躍の軌道を変更し、着地と同時にもう一方のアンカーを射出。近接猟兵型の頭のその一撃を叩き込む。最後に崩れた近接猟兵型のミサイルランチャーにダメ押しの機銃掃射。曳光弾が誘爆し、内部で爆発したミサイルが戦車型と共に誘爆する。

そして最後に八八ミリ砲を叩き込む。もしここにシンがいれば、その有無も分かるのだが……。

 

『すげーなリト。今の』

「でしょう!ちょっと工夫してみた。隊長がリッカ少尉みたいじゃなかった?」

 

笑ってリトは応じる。しかめつらく、副長が言う。

 

『俺もやろ』

 

 

 

 

 

「ーーったく、大人の肝が冷える……」

 

リトと第二大隊の奮戦を見ながらマンリヒャーは苦笑する。下で走るリト達の無鉄砲には心底肝が冷える。なるほど、カルロスがお守りは嫌だと駄々を捏ねる理由がわかる。

 

重量に対しパワーパックの出力が高い〈レギンレイヴ〉だからできる技。こっちのジャイアントバズで粗方吹き飛ばしているとはいえ、やれてもやりたく無い。おまけに、第二大隊はまるで大尉の真似をするように同じ軌道で〈レギオン〉の隊列を食い破る。まるで狼のように。今では狙撃用の〈レギンレイヴ〉以外が参加し、もはや苦笑しか出ない。

 

「大隊各機、友軍誤射には注意しろ」

 

もはや言うことはこれしか無い。今の所〈レギオンザク〉の気配も無いし、出てきたらこっちの出番だ。それまでは大人しく面制圧を行うとしよう。

 

『ーー左四五度!』ドドンドドンッ!!

 

地上では陸戦の王者〈M61A5E3〉の一五五ミリ滑空砲二門の凄まじい反動と砲撃が響く。

〈レギオン〉戦争に辺り引っ張り出した旧式機に、兵員輸送の為の空間を砲手用の席に改装し、車長は索敵と目標指示に専念出来るように改造した戦時急造の改造品。我が第十三グループには八両が配備されていた。ボールやオッゴを渡されるよりは断然良いが。正直、これを渡すなら強襲用ガンタンクが欲しい。一年戦争時の品な上に試作品だから再生産されることはないだろうが……。

 

一気に火を吹き、その絶大な破壊力を持った一五五ミリ装弾筒付翼安定徹甲弾は連なる戦車型を可貫通。一気に四両を撃破していた。

 

『命中!』

『嘘だろ……?』

『へっ!連装砲はこうやって使うんだぁっ!!』

 

その功績に思わずそんな声が漏れてしまう。確か彼らはもう少しで刑期を終える人員だった筈だ。だから士気もこう旺盛なのか。

 

 

 

しかし、士気旺盛なのは下の子供達もであった。少なくとも最近の合州国の戦線では滅多に見かけないほどの士気の高さ。

〈レギオン〉後背の射撃陣地に榴弾砲の砲撃が飛ぶ。ついつい母国の感覚で狂ってしまうが、一五五ミリ榴弾砲は下にいる〈レギンレイヴ〉や〈ヴァナルガンド〉には危険なレベルの口径だ。攻撃の観測は〈アルカノスト〉が行い、その無慈悲な驟雨の合間に銀鈴の声が知覚同調を亘る。俺たちであれば話すら聞きたく無い共和国出身の白系種司令官の命令。

 

『ヴァナヴィースより各機。また灰の嵐が来ます。切り込んだ各機は一時後退。敵集団の予想位置を送信。友軍誤射防止の為に、指定範囲外が撃たないように。ーー撃て』

 

しかし、そんな彼らに迫害されてきたエイティシックス自身が彼女の命令に忠実に従っている。そこには、ごく一般的な上官と部下の関係……と、彼らを導く死神と鮮血の女王の甘酸っぱい関係。遠くから見ていてもわかるあの甘い空間。思わず青春を思い出してしまうその空間。

 

そんな過去は目の前の爆炎と轟音で掻き消される。ジャイアントバズの三六〇ミリロケット弾や一五五ミリ榴弾、多連装ミサイルや機関砲の射撃。ーー見えざる戦場をよそ機だけで見通す、エイティシックスの鮮血の女王の託宣。

 

『……すげぇな。あの餓鬼ども…』

 

傍ら、副長を務める僚機がつぶやく。その心情にマンリヒャーも思わず同感する。

 

「ああ…そうだな……」

 

なんと言うか……まるで自分達の手で戦争を終わらせるような勢いだ。その熱意に思わず……。

 

 

 

 

その瞬間、センサーに感。接近して来るのは……

 

『敵モビルスーツ……数六!早い!!』

「噂の速いボロザクか……?!」

 

すると、数機の〈ハイザック〉と〈ジム〉が飛び出す。

 

『モビルスーツの相手は任せなぁっ!!』

『うおぉぉおっ!獲物は俺のもんだぁあ!!』

 

ビームサーベルをとった〈ジム〉とヒートホーク片手に走る〈ハイザック〉と共に一旦推進剤を使って宙に浮かび、接近して来たボロザクに向けて真っ赤な刀身を振りかぶって両断する。〈レギオン〉もそれを分かっていて、射撃を行って近づけないようにしていた筈だが……。

 

『無駄無駄ぁ!!』

 

相手は戦車型搭載の改造版とオリジナル版の混成で戦車砲が射撃をするも、するすると避けてその間合いに入る。最近は近接猟兵型のミサイルポッドを肩に搭載しているやつも散見されているが、ここにはいない様だった。

 

『本物のモビルスーツの戦い方ってやつを教え込んでやらぁっ!!』

 

そう言い、カルロスは両手にヒートホークを持った状態で接近戦を仕掛けて無双する。

胴体部分が真っ二つにされ、推進剤や弾薬に引火。大体爆発する。

 

『何十機でもかかって来やがれ!!ひゃひゃひゃひゃ!!』

 

カルロスはもはや気が狂ったような笑い声を上げていた。

そしてその無双っぷりを見ていたエイティシックス達は、その光景にただただ脱帽していた。

 

『すげぇ……』

 

あんな技が、身のこなし方が存在するのか……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その勇戦は同じく本隊で移動中の〈トラオアシュヴァーン〉とクレナにも届く。かく言う真横に立つ〈ジム〉がハイパーバズーカを発射したばかりであった。〈トラオアシュヴァーン〉は各部隊に囲まれる形で守られている。

まるでお姫様のように仰々しくも大切に守られた、でも本当は役に立たないから押し込まれているような配置。野戦仕様ではない急増の実験機。ーー厄介者の黒鳥。

そもそも本当は〈トラオアシュヴァーン〉なんて、シンにも機動打撃群の仲間の誰にも必要なかったのかもしれない。この兵器の投入が決まったのは、クレナ達が聖教国の派遣させると決まったあと。攻性工廠型から電磁砲艦型に関連する可能性が高いと判断され、情報収集のための制御系鹵獲ではなく、破壊を優先になり、その手段として渡された〈トラオアシュヴァーン〉。それをシンはクレナに任せて。

 

でも。

 

そもそも本当は、元々は。

 

機動打撃群はーーシン達は〈トラオアシュヴァーン〉や〈ステラマリス〉みたいな大型兵器を借りずに電磁砲艦型や攻性工廠型の超大型〈レギオン〉を最低限、無力化する方法を……考えていたのだ。

 

 

 

 

 

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