86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

109 / 186
#109 戦争が終わったら

電磁砲艦型の存在自体が予想外だった摩天貝楼拠点は仕方ないが、初めての遭遇以外は既知の敵。何の対策も立てずに向かうのは愚の骨頂。

聖教国には征海艦はいない。損傷した〈ステラマリス〉の支援も期待できないし、合州国も然り。電磁砲艦型の経験から、かの〈レギオン〉には対ビームコーティングを施されいると予想している為、ビーム兵器は使えない。かと言って実弾兵器で接近しようものなら恐らくは艦載機代わりに搭載されているだろうレギオンザクがまず間違いなく出てくる上に、……気持ち的な問題だがあの囚人兵を使いたくなかった。

つまり、次は機動打撃群の八八ミリ砲だけで、かの巨軀を鎮める必要があった。

 

一斉強襲作戦を前に、準備で慌ただしい機動打撃群本部リュストカマー基地。その会議室の一つでシンとツイリ、カンナとスイウの各戦隊長はその隷下の隊員達を交えて連日議論していた。

 

相手は〈レギオン〉真っ当な手段では手続きに時間もかかる上にすでに対策済みと推定。……となると、()()()()()()()手段を考える必要がある。

そもそも射程四〇〇キロと言う長距離砲とフェルドレスでは真っ向の撃ち合いでは勝負にならない。砲撃された時点でジ・エンド。

だからまずは()()()()()。レールガン射撃前より三〇メートルの砲身のその間合いに滑り込む。ーーその安全圏に取り憑いて、かの巨竜を屠る。その技を見出さなければならない。

せっかく三個機甲グループがそれぞれ出るのだ。うまくすれば三つの案の是非を同時に試せる。

 

第二機甲グループはレールガン搭載機が必ず持つ排熱用の翅、〈レギオン〉特有の排熱フィンにさらに加えて冷却がいるなら、そこを狙ってはどうかと結論づける。

第三機甲グループはこれまでの自動工場型や発電プラント型と同様に制御中枢を狙い、搬入口やメンテナンスハッチをこじ開けて内部を制圧する案を採用。

そしてシン率いる第一機甲グループは。

 

 

 

 

 

「ーー結局破壊優先でレールガン使うことになったけど。第一としちゃあの装甲をぶち抜いてやりたいとこだよな」

 

口火を切ったのは第四戦隊の小隊長クロード。赤い髪と眼鏡に隠した鋭い月白の双眸が印象的な少年。

機甲グループ毎に異なる対策をとり、第一機甲グループの隊長格があつまる会議室。幾つものホロスクリーンに投影された電磁加速砲型や電磁砲艦型の光学映像に交戦記録、推定諸元と、なぜか再生されっぱなしの怪獣映画。

視線の先でシンは肩をすくめる。

 

「不確定要素の多い搦手よりも正攻法、は分かるけど。実行可能な要員が一人しかいない対策は対策とは言えないぞ」

「お前が頑張ってお前に教える。で、あとは全員が頑張って覚える、とかは?」

「それが出来たら苦労はしない。これまでの七年で高周波ブレードを使いこなすバカがこいつ一人って事態にはなってねえんだよな」

 

続けて第三小隊隊長となったトールが言う。

 

「小口径一発で貫徹できなくても、同じ場所に何度も当てたらよ。えっと……アレだ。なんつぅんだっけ。的に当てた矢の、矢筈にもう一度命中させるあれ」

「継矢、なのです?」

「そうそれ。そんな感じにさ、命中させた弾に次弾ぶつけて押し込んでくの。それなら攻性工廠型も、電磁砲艦型みてーなとんでもねえ装甲でも、最後じゃ貫通するはずだよな」

「んな、芸当クレナじゃなきゃできないだろう。実行可能な要員が一人なら対策じゃない」

「いや、いい線じゃない?〈ステラマリス〉や〈アレグランサ〉も何発も主砲当てていたし、同じ場所じゃなくても、近い場所に何発も当てれば……」

「はい!攻性工廠型のレールガンを撃ち返してぶち抜く!」

「名案だけどさ、リト。それなら特大バットがいる」

「あら、でも大きさなら砲の仰角次第ではいけそうだけど」

「あれは?〈リジーナ〉で吹き飛ばす。有線誘導だし、良いんじゃない?」

「いやぁ……あれは照準から弾着まで時間あるし、有線も百メートルくらいしかないからな……というか持てる数が少ないから全部MSの対処に持って行かれる」

「待て待て待て!リトもアンジュもハルトも取り敢えず待て。話がとっ散らかるから順番に話そうぜ。取り敢えずトールからリト、ハルトの順で検討だ。収集がつかなくなる」

 

ライデンが止めに入るが、既に収集がつかない一歩手前だ。超高速で会議の議事録をとっているオリヴィアが苦笑していた。そんな中でクレナは雰囲気に呑まれて立ち尽くしてしまう。何か発言すべきだと、思うのだが、皆の熱意にどうしてもついていけない気がして何も言葉が浮かばない。

すると基地の食等に務める青年が傍らにトレイを持って回る。また昼食をすっぽかしたようで、何日も同じことを繰り返しているせいか、向こうも察してくれて片手で食べられる物を用意してくれていた。ただ、機嫌は悪かったが……。

今日も議論の議論の合間に青年は会釈しつつも、軽食をそのまま機械的に片手を掴んで運ばせる。サンドウィッチやらマグカップスープやら。

瞬間、喧騒に包まれていた議論がぴたりと止み、全員が目を見開く。

 

「ーー美味いなこれ。ひき肉のパン粉揚げ挟んでいるのか」

 

ライデン曰くバカ舌のシンまでも珍しくてにしたサンドウィッチを見下ろしている。

 

「そうだな、ピクスルとか……カラシか?効いてて美味い」

「あ、こっちはチーズと煮たイチジクね」

「スープも美味しい。干しキノコの味凄い濃いわね」

 

白熱してて忘れていたが、すっかり昼食の時間は過ぎており、腹の虫も鳴っていたために会議そっちのけで食事に夢中になり、青年が鼻を鳴らす。

 

「お前らが何日も、人が丹精込めて作ったもん上の空で食いやがるからコック長がブチギレてな。『こうなったら料理人の意地にかけて、俺の飯で会議を中断させてやる!』ってんで今日のコレだ。どうだ参ったか」

「ごめんなさい」「悪ぃ」「すみません」

 

全員が口を動かしかなら頭を下げたが、青年は満足げに頷く。

 

「コック長の故郷の、郷土料理でな。……本当はもう一種類油漬けのニシンのがあるんだけど、そっちは今作るのが難しいから、戦争が終わったら食わせてやるってよ」

 

連邦の唯一の港は〈レギオン〉に奪われたままで、だからニシンも当然獲れない。

魚自体は合州国でも取れるが、ニシンは冷たい北の海しか生息していないのだと言う。

ともあれクレナはビクリとなる。『戦争が終わったら』、またその話題。そんなことがあるはずがないのに。

トーリが口を開く。

 

「そーいや俺も子供の頃、魚料理よく食ったなぁ」

 

視線が集まり、トールが肩をすくめる。

 

「俺海の近くの出身でさ、そういや魚料理多かったなって。じーちゃんの得意料理でさ、そうだ、じーちゃん漁師で。代々伝わる秘伝の味がって……共和国には別に帰りたかねぇけど、あれだけはちょっと、懐かしいな」

 

思い出す顔で笑う彼とは裏腹、クレナは余計憂鬱になる。懐かしくても、それはもう食べられない、トールのお祖父さんは共和国に殺されて、だから料理も食べられない。

一方さらりとクロードが言う。当然の事を言うように、あっさりと。

 

「作りゃいいだろう。それこそ戦争が終わったら海とかも行けるんだし、その時に」

「あそっか。よっしゃ、じゃあ俺戦争終わったら、じーちゃんの味を再現する」

「料理かよ」

「まあ、良いんじゃない?戦争が終わった後の進路なんか、みんなまだ決まっちゃ居ないんだろうし。取り敢えずやってみたいことでも」

「おじいちゃんとかママの味かぁ……そう言えばママどこの国出身だったかなぁ。戦争終わったら旅行がてら行ってみようかな」

 

クレナは目を見開く。シンや、ライデンや、仲間達が、どうしてこんなに真剣に攻性工廠型対策を話し合っていたのか、ようやく分かった。

 

戦争を、終わらせたいから。

 

「あっ、そう言えば俺。まだ合州国巡行途中で辞めちゃってたな……」

「良いだろう、戦争が終わった後でも」

 

ハルトはそう言い、トールがやや羨ましそうに言う。

 

「いいなぁ、ハルトは進路決まってんじゃん」

「そうなんだけどさ……でも、資金がなぁ……」

「困ったら言えよ。俺たちの給料渡してやるから」

「あはは、そうなったら頼もうかな」

 

ハルトは頭を軽く掻きながら言う。

 

この〈レギオン〉戦争を終わらせて、……戦場の外へ行きたいからーー……

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その日、その場所で、大勢のエンジニアと科学者が集まって遠くに映る演習場を眺めていた。演習用の木製の的に砲弾が命中し破砕する。形は戦車型を模しており、他には斥候型、近接猟兵型、重戦車型、レギオンザク。果てには電磁加速砲型のシルエットの的まで置かれていた。

 

しかしその全てを的確に撃ち抜くのは、漆黒に塗られた〈ザクⅡ改〉であった。その機体は旧式ではあるものの、実戦で通用する性能を有した機体であり現在も改修されて前線で活躍する機体でもあった。ジオン系のMSではあるが、その高い汎用性から現場の兵士からも好評であった。

 

本当は一年戦争時の旧式機で行きたいところではあるが、今では生産されていない上にその殆どが懲罰部隊に回されており、そもそもザクⅡなどの旧式機ではコンピュータが負荷に耐えきれない可能性がある上に実験機に回せる機体が無かった。その為、余っていた機体として新システムに対応できるコンピュータを内蔵したこの〈ザクⅡ改〉が実験機として採用されていた。

 

「〈タロス〉のシステムに問題なし。全ての的を撃破」

「映像認識に問題なし。自己学習プログラムも順調に進んでいます」

「実戦データの収集も開始し、このまま行けば来月には最終試験に移れます」

 

科学者がそう言い、やや興奮気味の声を上げる後ろではこの計画の責任者に任命されていたアーノルドが頷いた。

 

「そうか……なるべく早く完成を急いでくれ」

「はっ!」

 

燃え落ちる的を双眼鏡で確認しながら、その成果にアーノルドは薄らと焦りの感情も混ざっていた。しかしその内心、喜びも混ざっていた。

 

「(これで、合州国は〈レギオン〉に()()()……!!)」

 

漆黒に塗装された〈ザクⅡ改〉を見ながら、アーノルドはそう感じていた。

視線の先に映る〈ザクⅡ改〉のモノアイは、撃破した〈レギオン〉の的を眺めながら佇んでいた。その姿はまるで、その名の通り神話に出てくる巨人のようであった。

 

そして試験場には他にも幾つかの機種のMSが並んでおり、各種試験が行われていた。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

  • やってほしい
  • やらなくていい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。