86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#11 慌ただしい退院

星暦二一四八年 十一月三〇日 午前十一時頃

アストリア合州国 ダーラム州 ダーリントン アメリア・ファルコ記念病院

 

この日、休暇二ヶ月目に入るかどうかの頃。リノはこの病院に入院するある人物に会いに来ていた。

受付からカードを受け取り、エレベーターのリーダにタッチをする。

カードが無ければ入れない病棟に入ったリノは病室に入り、見舞いをする。

 

「回復したようだな。ハルト」

「おう、この通り」

 

病室のベットで折れていた右腕を回す。

彼は骨折の治療の為に元は軍病院に入院していたのだが。噂を聞きつけたマスコミが殺到し、半ば逃げるようにここに避難していた。

精神的な観点から白系種を接触させないと言う徹底ぶりである。

その横で病院着のレッカが見舞いに来たリノに言う。

 

「ごめん、色々と任せちゃったみたいで……」

「いつもの報告書提出に比べたらたら楽チンだ」

「そ、そう……」

 

どこか遠い目をするリノにレッカは微妙な反応しかすることができなかった。

レッカとハルトから摘出された擬似神経結晶とリノの持ち帰った知覚同調のデバイスは技術部に回収され、解析が行われた。

一ヶ月で結果が出るのは随分と早いと感じ、それでいて試験結果が良好だった事から既に量産体制に入ろうとしているのだから恐ろしい。

二ヶ月後には前線の兵士に配られる手筈となって居るそうだ。

 

「二人の退院はいつ頃なんだ?」

 

リノの問いにレッカは答える。

 

「大体一ヶ月後だってさ。私もハルトも同じ日に退院する予定よ」

「そうか、ならそろそろこれも決めないとな……」

 

そう言ってリノは二人の前に紙を取り出す。

 

「なにこれ?」

「君達はもう合州国市民だ。よって君たちには職業選択の自由が与えられる。退院した後にどんな生活をするのかを君たちには決めて欲しい」

 

リノが渡した紙は学校への編入手続きの書類であった。

リノとしては過酷な戦場を生きてきた彼らは戦争から離れたいと思って居ると思い、普通の学生として生きる道を与えていたのだ。

この一件に関しては上官から許可を得て自分から説明をさせて貰っていた。

その時の書類に大統領府の印鑑が押されていた事には苦笑を隠せなかったが……

ハルト達は紙に書かれた文字を読むとリノに聞いた。

 

「なあ、リノ。()()()()()学校は無いのか?」

「それは……」

 

レッカの問いにリノは驚いて居るとハルトがその訳を話した。

 

「ほら、俺達。思ったんだ、シンたちと別れる前にリノが襲ってきた白豚を逆に倒していたじゃん。それを見て俺たちって、やっぱり軍人じゃ無いんだって……思ったんだ」

「……」

 

ハルトの告白にリノは驚きつつも何も言わずにハルトの話を聞いていた。

いつもお調子者と言われていたハルトはいつになく真剣な表情で言っていた。

 

「ほら、俺っておちゃらけてるって言うか、その……「お調子者なのよ」うん、まぁそうなんだけどさ……」

 

レッカのツッコミにハルトは苦笑してしまうも、ハルトは本心を言う。

 

「ハンパは嫌だからさ。生き残ったんならちゃんとした軍人の学校に行って、キチンとした軍人になるんだ」

「それは私も同じ。それに学校なんだから勉強もできるし一石二鳥でしょ?」

 

レッカの言葉にリノは少し絶句した後やれやれと言った様子でため息を吐く。

 

「……やれやれ、もう戦場なんか懲り懲りだと思っていたが……」

「行けるのか?」

「まぁ……軍はいいけど政府がな……」

「ま、俺たちにそこまでのことはわかんねえし。あとは任せるぞ!」

「気安く言ってくれるなぁ……」

 

リノは胃が痛くなるのを錯覚しながらハルト達を見る。

事実、ハルト達の意思を伝えたところ役人から「嘘でしょ?」と言う返答が返ってきて、慌てて担当者が飛んできて何度もハルト達に確認をとり、それが本心であると確認を取った上でさまざまな機関の許可証を得て一ヶ月後にようやく士官学校への編入手続きが行われた。

 

リノはハルト達はもはや平穏の時の生き方を忘れてしまう程なのだと哀しんでいた。

いくら周りが薦めようとも、ハルト達は変わらないだろう。

個人に意思に干渉することしにくい合州国は結局彼らを士官学校に編入するのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

星暦二一四八年 十二月二八日

この日、退院するレッカとハルトは窓にカーテンが覆われたバンに乗り込む。

 

「なあ、なんでこんな人が多いんだ?」

 

ハルトが同乗するリノにそう聞くとリノはため息を吐きながら理由を言う。

休暇明けのリノはライトグレーの合州国の軍服を着ており、忌々しげにつぶやく。

 

「マスコミが嗅ぎつけたんだ。今は病院の前にカメラマンがごった返して居るよ」

 

そう言ってバンの天井から折りたたみ式のテレビの電源を付ける。

そこにはリポーターの姿と映像に映る病院や三脚を立てて居るカメラマン。病院の前には警官がいたりと物々しい雰囲気であった。

テロップには『エイティシックスの退院間近か?』や『共和国の愚策が生んだ悲惨な運命の子ども達』などと書かれていた。

 

「これ……」

「私達のこと?」

「じゃなかったら一体誰の事だよ。うわ、あいつらヘリまで出してきやがった……」

 

上空からの映像をみたリノは苦笑しながら無線機で連絡を取る。

 

「輸送班、奴さんヘリまで出している。ルートCで目的地まで向かう」

『了解、ルートCで目的地まで向かう』

 

無線機で通信を終えるとリノは二人に喋りかける。

 

「二人とも、今から行く所は戦時士官学校と言う簡単な訓練と一定以上の勉学を行う場所だ。訓練に関しては問題ないと思うが、勉学は頑張れよ」

「おう!」

「任せて頂戴」

 

ハルト達もライトグレーの合州国の候補生軍服を着ており、準備は万端であった。

 

「じゃあ、そろそろ出るぞ。椅子にしっかり座っとけ」

 

そう言うとバンは動き出し、病院を後にする。

ニュースも車が出てきた事を報道するが、レッカはそこで疑問に思う。

 

「あれ?これうちらの乗ってる車ある?」

 

病院から出る車は黒塗りの公用車で、今レッカ達が乗って居るのは白いのバンである。

公用車にカメラが向けられる中、リノはニヤリと笑ってその訳を話す。

 

「今見えて居るのは偽物で、この車は救急車専用出入り口を出ている。その為にわざわざ塗装も救急車に似せているんだ」

 

そう言って公用車に無駄にシャッターを焚いている映像を見ながらリノの悪い笑みを見て背筋がゾッとしていた。

さらにヘリを撒くために裏口からまた別の車も出し、少し遅いタイミングでハルト達の車を出すという徹底ぶりである。

そして車は特に大きな問題もなくダーリントン郊外の特別士官学校に到着する。

二人を下ろすとリノはハルト達の手を握る。

 

「では、また会おう。どこでかは分からないが」

「ああ」

「そうね。じゃあ……」

 

レッカとハルトはリノに一時的な別れの挨拶をするとリノは車に乗って去って行った。

ハルトとレッカはそのまま出てきた学校長に案内され、早速士官となるための教育を施され始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ハルト達を送り届けたリノはそのまま陸軍基地まで戻り、そこでエリノラと合流した時に予想外の来客を受けていた。

 

「アーノルド・フィッシャー閣下!?」

「ああ、お邪魔させてもらっているよ。リノ少佐、いつも息子が世話になっているね」

 

アーノルド・フィッシャー少将

アストリア合州国陸軍参謀本部人事局局長であり、テオの養父でもある。

柔軟な戦闘編成を模索し、合州国をレギオンの攻勢から守り抜いた優秀な指揮官である。

普段はあまり顔を合わせることはないのだが、今回基地に来ていた事に驚きを隠せなかった。

リノは驚いて居るとアーノルドはリノにここに居る訳を話した。

 

「今日ここによる用事があってね、ついでに君たちに挨拶をさせてもらった。随分とこの前の作戦は大変だったそうじゃないか」

「ハッ!」

 

リノは少将に敬礼をしたまま話をする。

すると少将はリノに囁く。

 

「共和国から亡命してきた二名が戦時士官学校に入ったのは知っている。そこで、前々から合州国が検討していた計画に彼らを参加させようかと考えている」

「……」

 

少将の思いがけない提案にリノはハッとすると少将に答える。

 

「自分は少将のご指示に従うのみであります」

「そうか、ではまた会おう。息子にも会ったからな」

「お気を付けて」

「君も頑張りたまえ。試験の結果を楽しみにしているよ」

 

そう言い残すと少将は将官用のジェット機に乗り込むとそのまま基地を後にして行った。

高官の間では話題に事欠かないリノを守ってくれているのが少将だ。

リノは所属で言えば今はマルゼイ中将の部下であるが、少将の事を最も慕っているだろう。

リノはそんな少将の期待に応えるためにもさっきの将官用のジェット機とは異なり、陸軍の輸送機に乗り込んでアバティーン性能試験場に向かって空の人となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピピッ

カチカチッ

 

真っ暗な視界が、機械類の電源が入り、明るく照らされる。

 

《Start-up》の文字が浮かび上がり、真っ黒な映像は一気に明転し、アスファルトの長距離滑走路と、その端で滑走路を走る作業員が映し出される。

観測器とテントが設営され、白衣を着た軍人が通信機に手を当てる。

 

『リノ少佐、準備はどうかね?』

「問題ありません。システムオークグリーン。核融合炉始動を確認、運転も安全に行われています」

『了解、直ぐに実験を開始する』

「了解、試作モビルスーツの実験を開始する」

 

カチッ……キィィィィィイイイ!!

 

リノがレバーを全て前に押し出すと滑走路を走り出し、加速をすると後ろ方向に重力が掛かり、揺れが収まる。

それと同時に地面が離れていく。そして空を飛んでいることを確認すると通信が入る。

 

『離陸を確認した。続いて空中における可変試験を開始せよ』

「了解」

 

カコン、キンッ!

 

空を飛ぶ中、押される感覚が起こり、視点が変わった。

そして空を飛ぶ中、その他諸々必要な試験を行う。

 

射撃試験、制動試験、加速試験etc……

 

その様子を見ていた研究者達が後ろで歓喜の声を上げ、その声が聞こえて居る中。主任研究者の声がリノの耳に通る。

 

『全項目において試験クリア。おつかれさん。リノ。機体の整備を行うから戻ってきてくれ』

「了解、これより帰投します」

 

リノはそう返答をするとレバーを動かして性能試験場の滑走路に着陸をした。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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