86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#111 固定武装

「あの……あのね、」

 

八六区の最前線。地雷原に囲まれた基地。死神の異名を持つ戦隊長の青年に、配属されたばかりのよくわからない彼を見上げて。少しでも伝われば良いと思いながら。

 

「痛く、ないの?」

「………?」

 

肝心な部分が抜け、シンはキョトンとなった。それは眼前にいるからかろうじてわかるほどの、ごくわずかな表情の変化の。クレナは初めて見た冷徹な年齢相応の子供の顔だった。それだけでこの人がーーまだ自分と同じ十代の少年なのだと気づいてしまった。

 

「昨日、ジュート撃ったの、痛く無かったの?ノウゼン隊長は」

 

心などない死神のように、静謐と引き金を引いていた。

 

「隠してただけで本当は、……痛かったんじゃ、ないの……?」

 

シンは束の間、沈黙する。ーー抱えたものを共有しているかのように。

 

「……少しだけ」

「……そう。そう、だよね……」

 

痛くないはずがない。それが分かってて何故か、クレナはホッとする。

それなら。

 

「次は、私が代わってもいいよ」

 

血赤の瞳が瞬くも、怖く無かった。まっすぐ見上げてクレナは言い募る。

 

「あたし、銃、得意だから。あんな近くなら絶対、外したりしないから。だから……あたしがやっても良いよ」

 

痛みを分かち合うことは、ーー重荷を少し、代わって背負うくらいなら。

 

震えそうになる手を押し殺す。だって恐ろしい。死に切れず、助からないから、〈レギオン〉に取り込まれるよりはマシだから、仲間を撃つ。そうしてやるのが情けだとは言っても、人殺しだ。怖い。本当はそんな事やりたくない。

でも、だからこそ。あなた一人だけには。

 

シンなそんなクレナを黙って見つめ、その後首を横に振る。

 

「あいつらと約束をしたのは俺だから。……俺がやるべきだと思う」

「……うん……」

 

クレナは肩を落とす。そしてホッとしてしまった自分が恥ずかしかった。けれど、そんな少女を見てーー死神の異名の少年は、この時初めて目の前で微笑んだ。

 

「けど、……ありがとう」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

あの時、言ったのは。得意だった銃の腕を、さらに磨いたのは。役に立ってそばに置いてもらう為じゃない。たとえいつか死んでも、その時までは共に戦う為に。

自ら負った死神の役目が、それでどうしても痛く耐えられない日が来た時には、その時だけでも代わるために。

 

少しでも助けに、なる為に。

 

血の繋がらない、けれど家族のような。兄のような。大切な自分の、ーー同胞の。

 

ーーノウゼン大尉も、何があろうといつまでも、あなたの兄上に変わりはないのでしょう。

 

船団国群でエステル大佐に、誇りを失った征海氏族の女性士官に言われた言葉。

変わらなかった。確かにシンは、クレナを見捨てなかった。呪いにするくらいなら手放しても良いと、心底クレナを案じる顔で。彼女の痛みに心を寄せて。

意識を向ければ知覚同調越しにも、彼の思いが伝わってくる。

知覚同調の言葉に加え、顔を合わせて話す程度の感情も伝わる。シンが、そしてライデンや他のみんなも、今もクレナを案じている。

それをーー疑って自分で、損なう所だった。

 

「ギュンター少佐、その。……ありがとう、ございます」

 

 

 

 

 

自走地雷の触雷の爆発音を、攻性工廠型が照準の目当てにしていることを。他の面々は逆手に取り始めていた。五門のレールガンが明らかに見当違いな方向に撃っているのにシンは気づく。八六区の、連邦の。廃墟の戦闘で磨いた経験を元に自走地雷を一旦やり過ごし、十分離れたところで重機関銃を撃って爆発させる。そして、レールガンは次第に、戦隊の進軍の邪魔となる瓦礫の撤去に貢献していた。

 

ついにビルディングの柱と荒れた街路の向こう、攻性工廠型の鉄色の背が行く手に覗いた。ーー五個戦隊の陽動に、大きく弧を描いた形で廃墟の都市を疾走し、攻性工廠型の背後を突く位置にまでスピアヘッド戦隊は進出。半身を抉り取られるように攻性工廠型に食いちぎられた倒壊したビルディングの陰に散会して潜伏。すぐ後にレギオンザクを片付けたハルト達も合流した。

 

「ー大隊各位。スピアヘッド戦隊は配置に付いた」

『了解。ーークォレル、アーチャー戦隊も配置完了。いつでも行ける』

『サイス戦隊以下、陽動の五個は接近中。距離は大体二千ってとこ。ーー戦車砲の間合に入った』

 

嫣然と、傲然と、サイス戦隊の戦隊長は笑う。

 

『じゃあ、そろそろ、……見せつけてやりましょ?』

「ああ」

 

目の前の巨躯はまるで我が物顔で居座っているが。

 

「ここは機動打撃群のーー〈レギンレイヴ〉の戦場だ」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

食後にと今度はコック長がご機嫌そのもので持ってきた砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを飲み終え、ようやく会議は再開する。血糖値上昇か一息ついたからか、最前までの議論がだいぶ煮詰まっていたと気づく。

何しろ前提が抜けていたくらいだ。

 

「ーー前提の話に、戻るんだけど」

 

一斉に言ったシンに視線が集まる。

 

「砲戦に持ち込まれたら敵わない、だから射撃準備を完了させる前に、こちらの存在に気づかれる前に間合いを詰め切る。〈アルメ・フュリウーズ〉を使えばそれも難しくはなくなる。……また海戦になった場合は、今度は嵐が来ないことを祈るしかないけど」

「それでも海戦ならなおさら、野郎に乗り込まなきゃ勝負にならねえ。いくら〈レギンレイヴ〉でも、海面は走れねえ」

 

「次は陸上だから、実のところは電磁加速砲型戦よりも難しくないと思う。あの時は進撃路上で敵守備隊の撹乱に戦力を割いたから、最後はほぼ対マンだった。けど空挺で超えられるならーー戦力を裂かずにレールガンまで到達できるなら、俊敏に動けないレールガンは単なる的だ。取り付くのに苦労する相手じゃない」

 

初めて対峙した一年前の時だって、誘き出して砲撃した後、電磁加速砲型は撤退した。伏撃に成功したのに……。あの時は全員が健在だった。あの戦場は廃墟で、電磁加速砲型の周りにはビルが乱立ししていた。

 

()()()逃げた。

 

市街地の戦闘で多数のフェルドレス相手に不利になると判断したからーーあの巨砲は街から逃走した。

 

「……ああ、」

「さっきの継矢の話だけど。……俺達はレールガンが射撃できない三〇メートル圏内まで侵入した状態を、つまり攻性工廠型に取り付いた状態を前提としていたはずだ。遠くから砲で狙うわけじゃない」

「「「「「あっ……!!」」」」」

 

全員が声を上げた。あるではないか。特定の場所に正確に、けれどプロセッサー全員が損傷を与えられる兵装。

敵機に取り付いた状況でしか使えない。

 

〈レギンレイヴ〉の固定武装。

 

「ーーパイルドライバ!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

レールガンを惹きつけつつ接近した戦隊がビルの影を抜けて呼び出す。地を駆ける彼らを迎撃する、八〇〇ミリが旋回。さらにその砲身にヤマアラシが毛を逆立てる様に無数の対空機関砲が現れる。

 

『ーーだろうと思ったよ馬鹿野郎!』

 

転瞬、俯角を取った機関砲を嘲笑うかの如く純白の機影がビルディングの屋上や高層階に、ーー砲の狙いが一つも向かぬ高所に姿を現した。

戦闘の支援をする砲兵仕様の〈レギンレイヴ〉、榴弾砲装備のクォラル、アーチャーの二個戦隊。

〈レギンレイヴ〉は元々市街戦や森林などを主戦場とする為に作られたフェルドレス。多くの機構兵器が苦手な市街地戦闘を、厚い装甲と大口径砲で重すぎる戦車には望んでもなし得ぬ、建造物をも足場とした立体的な戦闘をこそ本領とする機体。そのための俊敏と高出力を与えられた機体が姿を現す。

機構兵器の弱点の一つ、上部の比較的薄い装甲を狙える場所。あえて進撃路に選ばなかった高所に。

 

『地べた這いずり回って下に目ぇ慣らせるところまでこっちの狙いだーー見事に引っかかってくれたな!!』

 

同時に砲撃。至近距離の迎撃の備えていただろう対空機関砲が虚しく吹き飛ばされる。直後に上へ行った注意の隙をついて接近する五個戦隊の狙撃小隊が弾種を切り替え、砲撃。殺到した榴弾が一対のレールガンの八〇〇ミリの隙間に到達、炸裂する。ーー電磁砲艦型との戦闘で、セオが成し遂げた射撃直前での砲撃阻止。

あの時は偶然、成形炸薬弾が当たって炸裂した。だが、今回は信管を設定し、また破壊半径の大きい榴弾なら同じ現象を狙って起こせる。弾体射出の電磁場を構成する流体金属が、秒速八〇〇〇メートルの衝撃波と砲弾片に引き摺られて灰の空に噴き散った。

 

その隙に、五個戦隊も接近。残り三〇メートル、敵の懐中に入った。

ワイヤーアンカーを射出し、砲塔によじ登る。振り落とそうと足掻く巨躯は四基のパイルドライバのうち三基で固定する。

砲塔から生える二対の翅がまた振り下ろされるも、先んじて後方のクォレル、アーチャーの放つ榴弾でワイヤーを跳ね返す。

 

榴弾の爆圧を盾に駆け抜け、ついに五門のレールガン砲塔上にそれぞれ到達。八八ミリ戦車砲を突きつけ、砲撃。

秒速一六〇〇メートルの高速徹甲弾が、ーー火花を散らして弾かれた。戦車型や重戦車型とは違い、機動性入らない。だから多少の重量増加に目を瞑って装甲を厚くしていたか。だが……

 

想定の内だ。

 

兵装選択、変更。左前の五七ミリパイルドライバ。先ほど登攀に使わなかった、最後の一基。

確か合州国では、こういう物を『テクニカル』と呼ぶのだろう。有り合わせの物を使って急造の兵器を作る。幸いにもそのための余剰パーツは()()を使うのが機動打撃群の中でも一人しかいない為に潤沢にあった。

左前脚のパイルドライバが起動。電磁パイルが食い込んだ直後、取り付けられた()()()()()()()が爆発ボルトを付加飛ばしても、取り付けられたガイドレールを滑り落ちる。

 

切り先を下にーー砲塔の装甲に向けて。

 

厚い装甲を水の様に切り裂く。そのまま深々と切り裂くのを確認する間も無く〈レギンレイヴ〉はブレードをパイルドライバごとパージ。飛び退いた直後に爆圧の楯を逃れたワイヤーの斬撃が砲塔を叩いた。

その振動で重心が傾いたパイルドライバは深く食い込んだ高周波ブレードごと滑り落ちて切り裂いていく。

 

「ーー改良したら、同じ挙動起こせる様になるのかな」

『その方がありがたいわね。穴はデカい方が狙いやすい!』

 

予想外の挙動に驚いていると、次々に高周波ブレードが落下する。獣が引き裂いたような、砲塔内部まで残る傷跡ができる。

ワイヤーを避けて飛び退き、残ったパイルドライバやワイヤーアンカーで取り付いていた〈レギンレイヴ〉と、援護の為に残っていた者達と。

 

その全機が一斉に。トリガを引いた。

 

 

 

 

 

 

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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