86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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なんかオリンピックがゲロまみれと聞いて少しドン引き。
イギリス人にメシマズと言われるの恥辱の極みだろ……。


#115 再起動

『イエスと言ってくれないと、戦場に散ることになりますよ』

 

クレナはその言葉を呆然と聞く。

華奢で繊弱な、いかにも善良な少女は、初めて会った時も、作戦直前にも、武運を祈ってくれていたのに。

助けてと言う言葉に、確かの応えたはずなのに。

不意に石ころのような感情が込み上げ、奥歯を噛み締める。

 

あの可愛らしい振る舞いも、笑った顔も。向けられた笑顔も。

全部、嘘。

 

「……よくも、」

 

どうして信じたのだろう。

助けてなんて、それは自分たちの代わりに戦ってくれなんて望む言葉じゃないか。

まるきり共和国の白ブタの言い草で振る舞いだ。

そして白ブタは何処にでもいるのだ。聖教国でも、それ以外の国でも。甘い言葉で、優しそうな笑顔で。ありもしない希望を騙って。そうやって誰もが仲間達を利用しようとする。

 

いつでも、何処でもそうだ。

 

仲間達以外は、いつだって彼女の仲間を、家族を都合よく利用し、そして無慈悲に、無造作に奪おうとする。エイティシックスだから当然のように。死という形を持って、哀れみだとか優しさだとか言って。そして聖教国のように、英雄だなんて身勝手な役目を押し付けて。

 

それが当然だと、世界の理なのだという顔をして。

開けていた目の前が、まるで紗幕がかかったようになる。

そう、所詮人間なんてこんなものだ。冷酷で無慈悲で、残忍で卑劣。望めば望むほど、奪われるばかり。

両親のように。年上()()()姉のように。共に闘い抜きながらその誇りを奪われたセオのように。

 

信じられるのは自分だけ。

仲間以外は敵になっていないだけの何かだ。

人も。世界も。未来も。ーー戦争の終わり、なんてものも。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

《駆動系の冷却完了。プラン・フェアディナント、再起動》

《警告。電磁加速砲型一番から五番の制御系大破。一番の制御系を複製元とし、修復開始》

《メジュリーヌ・ツー、生成開始。完了。メジュリーヌ・スリー、生成開始。完了。メジュリーヌーー……》

《メジュリーヌ・シックス、生成完了》

《電磁加速砲一番から五番ーー再始動》

《予備兵力、起動。目標、モビルスーツ隊》

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

蹲っていた攻性工廠型の振動が変わる。攻性工廠型を動かす強力無比な駆動系のを動かす振動。オーバーヒートで一時停止していた、駆動系が再起動する。地響きを起こしそうな巨大が起き上がる。

 

《ーー寒い》

 

攻性工廠型が立ち上がると、同時に途絶えたはずの少女の悲嘆がこぼれ落ちる。最後の思惟が霹靂の轟音でーー五門の砲がそれぞれどうじに。

 

《寒い《さむい《寒い寒い》寒《寒い寒い寒い》いさ《サムいサむイ》イィぃイィぃイィぃーーーー!!》

 

『ぐっ……!』

『ひゃっ……!!』

 

初めて実践で聞くザイシャとオリヴィアが咄嗟に知覚同調を切る。

それほどの怨嗟。ーー機械仕掛けの狂気。

復活したレールガンは天を睨み、そこ目掛けて一斉射撃。合わせて何十トンもの散弾の雨を降らせ、取り付いていた羽虫の如き〈レギンレイヴ〉を飛び退かせる。

そして、最低限の砲撃の間合に入り、仰角ゼロ。水平を向いた。

 

「っ……!」

『くそっ、またかよ……!』

『こいつは…近くで聞くにはつらいな』

 

何年も戦ってきたライデン達ですら、重圧がのしかかる。

 

『シン!平気か!?』

「ああ。……距離が近い時は、少し辛いけど。この距離なら」

 

レールガンが流体の蝶を補充せぬまま復活したのは驚きだが、そもそも自分で補充したのかと納得する。

少し遅れて繋げてきたザイシャが気丈に告げる。

 

『さ、再起動まで二〇〇秒ーー想定よりも回復が早いです、ノウゼン大尉!〈トラオアシュヴァーン〉の進路が妨害されている可能性がありますし、残弾も足りなくなると予想されます』

 

続けて各所から言われる。

 

『シン君、ミサイルランチャは残り七。砲兵隊の榴弾は〈トラオアシュヴァーン〉の射撃阻止に使いたいから、言う通り何度も止められないわ』

『リジーナも合わせて六発しかない。無駄撃ちはもうできねえ!』

『戦車砲弾、機関砲弾もそう余裕ねえな。流石にこの空旅にファイドのやつは連れて来なかったしな』

「ああ。だから、最悪無力化はできなくても〈トラオアシュヴァーン〉を攻撃させなければいい。ブレードパイルが有効な事は確認できた。後は攻性工廠型を排除できれば、目的は達成される」

 

いずれは連邦などを脅かす脅威だ。可能であれば敵機から情報か部品を回収するために。何よりできる限り全員で、生還するために。

そのために。

 

「クローリク。攻性工廠型の光学映像を共有する。冷却型の配管は探せるか?」

『了解、ミサイルが弾切れになった時の対策ね。直ちに』

「シデン。ーもう一度〈シャナ〉の相手を頼めるか」

 

ずっと無言だったシデン。酷だとはわかっていた。一度とならず、二度も己の手で葬ってやれとはーーあまりに酷だ。

けれど返った言葉は、存外に平静だった。

 

『あぁ任せろ。ーーんな声出すな、死神ちゃん』

 

あろうことか苦笑さえはらんで。

 

『何度でも倒してやる。あいつを葬ってやるのは、この私だ』

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

司令室に銃の持ち込みは禁止されている。それはレーナ達も同様で、銃を預けていた。自動小銃も大きさ的に持つこともできなかった。強行突破どころか身を守る武器すらない状態でレーナ達には、応じる以外に身を守る術が無いが。

 

「ーーいいえ、お断りです」

 

冷然とレーナが言い捨てると同時。

彼女の傍にいた管制官の少女が椅子を蹴立てて立ち上がる。鋼色の、管制官の一人だろう聖教国軍人は思っていた少女。

実際、一瞥しただけで()()()は、人間と見分けがつかない。違いと言えば、鮮やかすぎる色彩の髪と、透明な硝子の質感の髪。額の擬似神経結晶。

 

〈シリン〉。

 

「想定状況、赤の八。ーー応戦開始」

 

跳ね上げた両の掌の先、扉を守る衛兵が立て続けに鮮血を吹いてよろめく。ーー腕の機構の隙間に仕込んでいた連発式の銃。

レーナ達は確かに銃を預けていたが、だからこそ()()()銃を隠し持てる〈シリン〉の存在は、ヒェルナも想定外だ。

 

「ーー走って!」

 

直後、司令部全体に響くように衝撃が走り、ヒェルナ達はまたも驚愕する。

一斉に司令部から飛び出し、長い廊下を走る。

遠くでは銃声が聞こえ、その音を頼りにレーナ達は駆け出し、〈シリン〉も後を追いかける。

僅かに顔を顰めたマルセルに、速度を落として並走した管制官が問う。

 

「大丈夫か、マルセル」

「短距離走るくらいならまだ、そこらのチンピラよりは」

 

ただ、〈ヴァナルガンド〉の操縦士で足を怪我して管制官に転向した。反応が操縦士の基準よりも遅くなってしまっただけで、走れないほどでは無いが。

 

「……長距離はヤバいかもです。最悪置いていってください」

「そう言うわけにもいかんだろ」

「ええ、殿は我ら〈シリン〉の役目なれば」

 

そう言うと、角を曲がり。脚を止めると覆っていた軍服を捲り上げ。思わず息を呑んだ。

今までは肌色を見せていたそこには、金属の骨しかなかった。人工筋肉さえ無く、代わりに何丁もの機関拳銃が詰まっていた。

 

「万が一に備えての、殿下の心尽くしです。特注の高速尖頭弾。対人仕様なればここを切り抜けるにはお役に立つかと」

 

簡単なボディーアーマーを貫通できる仕様。ヴィーカにしてみれば聖教国のーー人間の裏切りを備えておいて当然と言うわけか。

作戦参謀が自分の確認するように言う。

 

「ーー屑鉄なら兎も角。人に向けるおもちゃでは有りませんから」

 

〈シリン〉の少女が頷く。

 

「後はお願いしますわ、人間がた。……私は長く走れませんので、ここで足止めをせねば」

 

必要最低限の歩くことしかできない脚では、走れても短期間しかダメなのだろう。

笑う彼女の背後、後にしてきた司令室で、ーー爆薬の炸裂する大音響が、香の香る空気と真珠色の壁を揺らして響き渡った。

 

すると目の前にちょうど運良くアノラ率いる合州国の軽装戦闘服に身を包んだ歩兵部隊がM72A1を持って現れた。

 

「こっちだ!急げ!!」

 

そう言って足の遅いマルセルを隊員の一人が簡単に持ち上げてそのまま走り出す。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

陽動をしていた聖教国軍第三軍団が進軍を中止しても、〈レギオン〉には関係のない話だ。一部の部隊が反転し、攻性工廠型に向かうも、それ以外は依然として敵性存在の各師団に喰らいつく。これにより拘束していたはずの聖教国軍が、逆に〈レギオン〉に拘束された形となった。

そもそも一個師団という大きな単位では方向転換もそう容易ではない。

その巨体さ故にまともに動けずにいた。だからもし、聖教国軍が裏切っていたとしても、派遣旅団本隊が交戦に入ったのは前方に伏せていた伏兵部隊と、後方から強襲してきた第八師団だけだ。

それでも三個連隊に比べれば多い軍勢。しかし、相手は陸戦においてフェルドレス相手に圧倒的優位性を持つモビルスールに連邦の新鋭機〈ヴァナルガンド〉と〈レギンレイヴ〉。そのために接近する部隊にも対応ができた。

 

けれど。

 

流石に有人機の〈ファ=マラス〉を虫のように踏み潰したりする戦法は、リトやエイティシックス達に出来ない。〈ジャガーノート〉のように歩く棺桶じゃない、戦車型や〈ヴァナルガンド〉、〈ザク〉並の強固な機体でもできない。

 

だって中に人がいる。

 

「なんで……!」

 

今まで会ってきた子供達だって嘘なんかついていないと、はっきりわかるのに、それならどうして。

 

警報。

 

ーースポッティングライフルとか言う。レーザー照準が阻害されるこの地で、照準を合わせるための専用のライフル。

スポッティングライフルの次の射撃には、主砲の砲撃が飛ぶ。

回避しつつ照準を合わせると斜線の先にいたのはーー〈ファ=マラス〉だった。

その中はもしかしたら菓子を分け合った、競い合った、一緒に遊んだ誰かが。

咄嗟にリトは射撃と戸惑う。しかし、相手はーー躊躇わず撃った。

外部スピーカーから聞こえる声は、聖教国の言葉だが何と言っているかはわかる。

 

ーーごめん。

 

そい言いながら、それなのにどうして。

 

「っ……!」

 

戦車砲弾はかろうじて〈ミラン〉をかすめ、飛び過ぎたところで自爆。至近距離の砲弾片が光学スクリーンを叩き割り、その破片が頭から降りかかる。

 

『ーーリト!?』

「平気、怪我しただけ。だたーーごめん。指揮は取るけど、戦闘は厳しい」

 

スクリーンの破片で右目の上を斬ったようで、視界が赤く染まる。すぐに止まらないと、感覚的に分かる。

無駄だが、拭い、その後に吐き捨てるように言う。

 

「なんでだよ……!」

 

 

 

 

 

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