「帝国人は相変わらず、戦さ狂いなのですね」
たった一人で抗戦した挙句、あろう事か自爆した
ただの爆圧が散弾へと変貌し、銃を撃ち切ってなお投降しない少女に異変を感じた管制官二人が飛び付かなければ……。その身を盾にしていなければ、司令所の全員が無事ではなかっただろう。
無数の金属片と血肉の撒き散らした司令所の中。ヒェルナは庇われて傷ひとつなかった。その白い面に飛んだ鮮血が、唯一の損害だ。
「ご無事ですか、姫様」
「ええ。ありがとう。犠牲となった二人も」
人体の強力な盾に守られてきた。犠牲を払いながらこの国を守ってきたのに。
「己の運命に従い、運命のままに戦死する。なんと言う幸福な事。ーー羨ましい」
目元の血を拭い、文字通り血化粧を刻んだ彼女はそう呟いた。
灰色の〈ジム〉が回避の遅れた〈レギンレイヴ〉の前にシールドを突き刺し、無反動砲の衝撃を真正面から受け止める。堅牢な装甲はメタルジェットも貫通せず、反対に応射された九〇ミリ弾は脆弱な〈リャノ=シュ〉をあっさり撃破した。
『無事か、餓鬼』
『あ……ありがとう』
『気にすんな。これは俺たちの命令だ』
無線越しに聞こえる、大人と子供の会話。目にした光景に、改めて礼を言おうとフレデリカは口を開く。〈レギンレイヴ〉の隊列中央に今も守られた、〈トラオアシュヴァーン〉の脚部操作室の中。
レーナは脱出中で、代理たる大隊長らは戦闘中。なんの権限もないマスコットでも礼をくらいは良いだろう。さらに横では〈ヴァナルガンド〉が相手の一二〇ミリ砲を弾き返し、それを見ていたのだろうスヴェンヤが無線に割り込んだ。無遠慮に。
『今のを見ていてでしょう、エイティシックス共!ーーミルメコレオ連隊の〈ヴァナルガンド〉が盾となります、〈レギンレイヴ〉はその後ろに隠れなさい!我らが真紅の桿馬には、鼠賊の矢弾など通じはーー……』
即座にフレデリカは怒鳴り返す。マスコットが他の戦隊に何を言うかと思えば。
「正面装甲なら、の話であろ。動きの遅い〈ヴァナルガンド〉が固まれば良い的じゃ。そもそも自隊指揮の権限もなしに他隊に指示など越権じゃ、下がりおれ、お飾り!!」
『ひっ!?』
それならよっぽど〈ジム〉のシールドを突き立てた方がマシだ。
そんな少女の思考とは裏腹にズヴェンヤは無線越しでも分かるほどすくみ上がる。
『言う通りだ、指揮系統を混乱させてすまない。ただーー姫殿下に対してあまり大声を出さないでもらえるかな。姫殿下は叱られるのが苦手なんだ』
「……まあ、プロセッサーはそもそも聞いておらぬであろうがの」
知覚同調で無駄口叩いていたと言う共和国の指揮官になれているのが彼らだ。知らないマスコットの言葉など誰も聞いていない。その証拠に、今も〈ヴァナルガンド〉の影に隠れる機体は一つもない。
言ってフレデリカは鼻面に皺を寄せる。無線は、だから混乱を招かないが。
「したが、大声を出すなと言うがそもそも其方が戦場での振る舞いを教えておかなんだのが大本じゃ。気は払ってやろう。じゃが過ちを叱責するなとは何事じゃ。それでもそなた兄弟か」
『……すまない』
直後のマンリヒャーの『今の子供って、おっかねぇ……』と言う呟きは聞かなかったことにしておこう。
「……さすがはノウゼン大尉の『妹君』だな。しっかりしてる。姫殿下」
苦笑いを浮かべつつ無線を切り、キルヴィースは苦労して背後の砲手席を振り返る。
子供であるスヴェンヤには大きい席の中で、彼女は震えて縮こまり。意識して穏やかな声をかける。
「怒鳴ったのは、大公閣下じゃない。大公閣下が君に事を叱ってるんじゃない。大丈夫だ。怖がらないで」
「は、い……」
そろそろと顔を上げる。けれど金色の双眸からは未だ去らない涙と恐慌の心配。
シンの側を離れないのだから、あのマスコットもノウゼン家の縁の子供なのだろう。それともシンの養父の、エルンスト暫定大統領の関わりだろうか。大統領は革命前は軍人で、帝国では軍人は貴族か、その所有連隊に属する領民だ。つまりいずこかの領主の配下だ。その元領主から預かった隠し子と言うことは十分ある。
いずれにしろ、夜黒種の家門に連なるのだろう、焔紅種の混血の少女。
同じ混血の彼女が叱責を極度に恐れるのが想像できない。なにせ、大の大人のキルヴィースに平然と反論し、何ら恐れる事も無い。
「……いけないな、なんと言うか。理不尽な気分だ」
無知を恐れずに育つのは、別段あのマスコットの罪じゃない。夜黒種どもには
「おーーお兄様。そうです、それなら『お父様』にご報告を。聖教国如き二流国にこのような裏切り、『お父様』にご注進申し上げれば直ぐにでも懲罰がーー……」
「知らせられればな……姫殿下。我々は現状、阻電撹乱型の電磁妨害で本国への直接連絡ができない」
「……あ、」
連邦と聖教国の間には共和国と極西諸国、そして<レギオン>との競合区域や支配域が存在し、その支配域は<レギオン>の電磁妨害で無線通信が出来ない。つまり今、聖教国で起こっている事を連邦本国には通報できない。
状況打開の為の救援、あるいは圧力を求められない。
機動打撃群には知覚同調と言うマイカ侯家の異能は完全再現はできなかったが、電磁妨害も貫いて通信ができる。
だがそもそも直接的な救援が来るはずがない。今の戦況では連邦や合州国といえど、他国と戦争をする余力はない。
実質的には三個連隊の損失で、それを取り戻す為の戦争なんて……
「……これだからはみ出し者の部隊なんてものは」
「けど、何の意味があるんだ?」
怪訝にシンは独言る。この状況下で考えることではないが、腑に落ちない。
連邦や合州国と戦争が起きるとは思わないが、まず間違いなく関係は悪化する。共和国ほどではないが、悪評を負い。三個連隊では見合わない。
いや、それ以前にそもそも……
「……どうして、このタイミングで」
そこからおかしいとレーナは思う。何しろ攻性工廠型はオーバーヒートで動きを止めているだけだ。聖教国にとって最優先で忌むべき巨砲。それが健在のまま<レギオン>の前線部隊と戦闘しつつ、小規模な派遣旅団への裏切りを敢行したのか。
今の所<レギオン>の情報も攻性工廠型の撃破もできていない。
裏切るなら作戦終了後の方がいいはずだ。それこそ、夜襲でも仕掛ければ生身のエイティシックスは強くない。
そう、最も聖教国が美味しくないこのタイミングで。それなのにどうして……
横をアノラ達歩兵部隊が抑え、接近してくる敵を射撃していく。四.八ミリのライフル弾は軽装甲の相手であれば簡単に貫通できる威力があった。
今自分達の持つ歩兵装備の中では一番強力な武器だった。
「急げ!!」
司令所の格納庫では<ブラッドハウンド>が停車し、レーナ達を収容。格納庫の外では既に<ロト>が待機していた。
司令部に振動が走った時、レーナ達はそれが<ロト>からの支援砲撃であると瞬時に理解できた。
わざわざ
『乗ったら教えろ。こじ開ける』
レーナは<ヴァナヴィース>に乗り、他の乗り切れない面々は近場のホバートラックにに乗り込んでいく。
「乗りました!」
その瞬間、シャッターからビーム・バーナーのが飛び出し、シャッターを<ヴァナヴィース>と<ブラッドハウンド>が出れる大きさに切られる。その瞬間、車列は飛び出し。<ロト>と<レギンレイヴ>に囲まれるように隊列を組む。
最後尾の<ブラッドハウンド>が搭載されていた密閉型に改造された砲塔から二〇ミリガトリングガンが発射され、聖教国兵の接近を許さなかった。
ミカの<ブルーベル>が<トラオアシュヴァーン>の鼻先で吹き飛ばされる。
「ミカ!」
その光景を見てクレナは叫ぶ。恐らく負傷した。左前部の脚がコックピットの側面ごと抉り取られる。<ブルーベル>は回収のために僚機と<スカベンジャー>が近づく。その彼らを追い、真珠色の機影が迫る。
リトも負傷して後方に下がったと聞いた。固定されて動けない<ガンスリンガー>の中、クレナはキツく両手を握りしめる。
「……どうして」
そんな平気で騙せる、こんな奴らのために。
利用してくる奴らのために。
辛いことを誰かに、押し付けて知らないふりをしようとしている奴らのために。
胸の中央に閊えた石のような感情が怒りだと気づく。脳裏に煮え立たせるでもない、腹の底を焦がすでもない。冷たく硬く、異物と閊えて消える事の無い、凝り固まり常に居座る凍てつく毒。
「どうして、あたし達が。ーー戦わないといけないの」
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい