86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#117 作戦継続

<レギンレイヴ>と<ロト>に守られて〈ヴァナヴィース〉は軍団司令所を抜けて灰の荒野を疾走する。

なるべく戦闘を避ける為に〈ロト〉も戦車形態で姿勢を低くして聖教国軍に見つからないようにややレーナから離れたところを走る。

どうにか旅団本隊を包囲下から抜け出させ、合流を図らなければ。今は逃げ延びたが、再び捕まった場合、人質になる可能性がある。ーーそう、前線から十五キロ後方にいる、〈アルメ・フュリウーズ〉の整備クルー達も回収しなければ。無事だと良いが。

 

「オリヤ少尉、ミチヒ少尉!状況は!?」

『全周包囲されてます、大佐!』

『私たちから見て三時方向、第八師団と伏兵連隊との結合部が薄いのです!その部分の突破を目指しています』

 

続けてフレデリカが報告する。

 

『聖教国軍のもう一翼、第二軍団もついにこちらの向けて動き出したようじゃ。〈レギオン〉との戦闘も続けておる故、包囲に加わるにはまだかかるじゃろうが。……無邪気な子供のふりをして、聖教国軍の将兵らの間を歩き回った甲斐があったの』

 

レーナは瞬く、そんな場合ではないのだが。

 

「フレデリカ、……聖教国の言葉が?」

 

見知ったものの現在を見る彼女の異能は、最低限名前を知り、言葉を交わさねば対象とはならない筈。

 

『会話には困らぬ程度にの。したが、それと知る真似などせぬわ。言うたであろ、無邪気な子供の顔をして、と。いたいけな外の国の女子がニコニコ笑って名前を繰り返して言えば相手も察して名を返す。それでも異能の条件は揃う。……ここは連邦や合州国、共和国からも遠き異国なれば、念の為、の』

 

横で知覚同調を繋いだままだったドミトルが『あぁ、今の子供って末恐ろしい……』なんて言ってしまう始末だが、それはフレデリカができるなりの……。

 

『少しは役立ったかの。ヴィラディレーナ』

「もちろん、フレデリカ。……ありがとう、助かりました」

 

満足そうなフレデリカとは一転。レーナは深刻に、彼女からの情報を吟味する。

 

第二軍団も動き出したか……。

 

流石に一国の軍隊相手では勝ち目はない。()()()()も、空挺大隊の消耗を考えればあまり長引かせられないがーー……。

 

『ーーて、言うかさ。大佐』

 

不意に大隊長の一人が割り込む。〈レギンレイヴ〉の砲兵使用のその一つの大隊長。ミツダ。

レーナに対するものじゃない、けれど隠そうともせず不満を声音に滲ませ、淡々と平然と続けた。

 

 

 

『シン達攻性工廠型の所から戻って来させてさ。そんで俺ら、帰ったら駄目なの?』

 

 

 

レーナは小さく息を呑んで硬直する。その間にもミツダは続く。

 

『特に攻性工廠型は、一時的に止めただけで健在なんだろ。放置したら聖教国の連中は、そっちの対処で手一杯にあるんじゃねえの?元々あれが手に負えないからって連邦に助けを求めてきたんだし。その間に俺ら、帰ればいいんじゃねえの?』

 

聖教国と無意味に戦うことなく。ーー共に戦う仲間に余計な損失を出さぬ為に。

 

「それは……」

 

できるかどうかと言われれば……可能だ。空挺部隊と合流し、それから前線の混乱に乗じて聖教国を離脱するくらいは何とかなる。〈トラオアシュヴァーン〉や〈アルメ・フュリウーズ〉は爆破処分して行くことになるが、一国を相手に絶望的な戦闘を繰り広げるくらいなら多くの命が助かる。

その隠しきれない嫌悪と怨嗟を滲ませて言う。

 

『戦い抜くのが俺たちの誇りだからって。俺らがそれを貫きたい意志を連邦とかが利用してるのも、貫かせてくれるんならまあ良いかなって思ってるからって。……利用されて当然、自己犠牲払って当然のヒーロー役なんてもっぱらゴメンだ』

 

 

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、ミチヒはまるで心を読まれたかのように身を震わせる。否定しようにもリトは考えてしまう。

 

『そうだよ!』

 

心の奥深くから同意してクレナも頷く。エイティシックスの誰もが己の内に燻っていた同じ疑念を、不満を、憤りを呼び覚まされ。

 

こんな奴らのための戦わなきゃいけないのか?

 

戦い抜くのがエイティシックスだからと言って、それがエイティシックスの誇りだからと言って。それは姦計にかけられ、砲口を向けられ、戦えと強制されてなお粛々と、受け入れねばならぬものか?

 

そもそも自分達は八六区にいた頃から、己の誇りのために戦ってきた。結果的にそれが白ブタを守ってしまうのは癪だが、そう思って。

 

連邦が自分達を〈レギオン〉の重点を貫く槍先として、外交の道具として、宣伝の材料として扱っているのはわかる。報道のみ見てエイティシックスを悲劇の主人公のように、英雄のように見ているのも知っている。その一方で連邦が与えてくれるのもある。だから仕方ないと思っているが、道具に、宣伝材料に、英雄になりたいと思ってそうしているわけじゃない。

 

自分達が戦うのは自分のため。

自分達の誇りと、こうありたいと思う形を、貫き通すためだ。誰のためでもない。

こんな奴らのためには、八六区を出た今は。そしてこれからも。

戦わなくても。

 

見捨ててしまっても、良いのではないかーー……?

 

 

 

 

 

エイティシックス達を一瞬、確かに支配した。その疑念を切り裂くかのように。

 

『アンダーテイカーよりヴァナヴィース』

 

静謐な、鋭利な声が張る。

 

『空挺大隊は任務を続行する。ーー当初の決定通りだ。こちらは〈トラオアシュヴァーン〉前進完了まで、作戦域制圧を維持する』

 

作戦の放棄はしない。その事にエティシックス達は、レーナはその名を呟く。

 

「シン……」

 

 

 

攻性工廠型はまだ排除できていない。ーー作戦はまだ継続中だ。

 

 

 

仲間達の気持ちもわかる。それはシンも同じだ。共和国と同じような奴らのための死にたくない。

それを嫌だと、死にたくないと自分達は言って良いのだと、ようやく分かるようになった。

ただ。

 

「不満はわかる。けど、攻性工廠型を残して、連邦の戦線に出現しないとは限らない。指揮官の制御中枢をーー〈レギオン〉の秘匿情報か、レールガンそのものを鹵獲しなければ連邦もどこの国も後がない。感情に任せて放置して良い作戦じゃない」

 

もう、感情に任せて動いて良いわけでない。攻性工廠型の中に帝国軍人はいない。それでも。

 

『シンーーけど。けどよ……』

「ミツダ。言ったろ、不満なのはわかる。それは間違っていない。だから身を賭してやる必要はない。危なくなるようならその時に、撤退について考えればいい」

『ーーー。了解』

 

不承不承にだが、頷いて知覚同調が切れる。確認してシンも本隊と連絡を切る。するとライデンが苦笑する。

 

『ま、ミツダが言うほどには、俺らが作戦域から帰るのは簡単じゃねえから仕方ねえな』

 

元々前線の排除は聖教国の仕事だ。だが、それがされていない以上撤退するのも厳しい。

 

「ああ。ーー各機、聞いての通りだ。作戦はこのまま続行する」

 

ライデンと同じ認識を持っているのは確かで、ただ張り詰めた緊迫の気配。

作戦続行。ーーただし、彼らが待つ〈トラオアシュヴァーン〉の進出完了はどれほど遅れるだろうか。

 

「冷却系の解析結果次第では、〈トラオアシュヴァーン〉を待たず破壊できる可能性もある。その場合は即座に実行する。ーーそれまでなるべく無駄弾は使うな」

 

 

 

 

 

八六区の絶死の戦場で、連邦の戦野で。信仰のように慕った彼女の死神の言葉を、信じられずクレナは聞く。

 

「ーーどうして」

 

どうしてーーこの戦争が終わるなんて、こんな状況でも言えるの?

 

どうしてまだ、こんな世界なんて信じられるの。

 

笑いながらパパとママを撃ち殺すようなこんな世界を。

 

戦い抜くセオから、その戦い抜くための腕を奪い去るような世界を。

家族を白ブタに連れて行かれたのは、同じはずなのに。

セオが片手を失ったのは、あなたも見ていたはずなのに。

 

どうして、それを……。

 

決定的な亀裂がある事を、ーー自分達とシン達の間を隔ていた事をついに意識する。

 

八六区を出てしまった、出られない自分達を置いて行ってしまう彼ら。

 

「ーー置いておくの?ねえーー」

 

我らが死神。そのはずだった貴方。

 

 

あたし達をーー同胞の筈のあたし達を、見捨てて。

 

 

その瞬間、誰からクレナの肩を持った。

 

ーーそれはどうかな?

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『空挺大隊は任務を続行する。ーー当初の決定通りだ。こちらは〈トラオアシュヴァーン〉前進完了まで、作戦域制圧を維持する』

 

あろうことか。

決然と、凛然と発っされたエイティシックス達のその長の言葉に、ヒェルナは思わず目を見開く。まさか、まさか、エイティシックス自身がそんな事を。

 

いや、……やはり。

 

どうしようもなく笑いが込み上げる。

 

「ほら、あなた達の戦神は、あなた達の死神はああ言ってますよ。エイティシックス達」

 

それはひどく歪んで。

 

そして何処かーー自嘲に似ていた。

 

「それがあなた達の役目ですもの。地の姫神がそうと思し召し、この世界が与えた運命ですもの。貴方たちは戦場の民。戦場でしか生きられない。戦場でいきて戦場で死ぬのがーー貴方たちの唯一の、運命なのですから」

 

わたくしたちと、同じように。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ふと、知覚同調が無造作に繋がる。誰だと思ったが、相手はハルトだった。レーナや各隊長、ドミトルにも繋げられて、疑問げに言う。

 

『はいはーい、ちょっと疑問に思ったんで話しても良いですか?』

「?何だ?」

 

ハルトから繋いでくるとは珍しいと思い、思わず耳を傾ける。今彼は、新たに飛び出してきたレギオンザクの相手をしている筈だ。

 

『ちょっと、実際に見ていないから憶測で終わるけどさーー……』

 

そう言い、ハルトの推測に思わずレーナはから呆れに近い返答が返ってくる。

 

『…流石に無理があるのでは……?』

 

そんな答えが返ってきてしまった。しかし、ハルトは続けた。

 

『俺も、状況しか聞いてないから分からないけど、もしそうだったら色々と辻褄が合わない?』

 

あんまり自信ないけど。そう締めくくるとハルトは知覚同調から去っていった。

まさかとは思いつつも、一旦は目の前のことに集中するためにその事を頭の片隅に置いた。

 

 

 

 

 

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