ハルトの予測を聞き、それを一つの懸念として置いておき。攻性工廠型との戦闘が再開した以上、反論の余地はないと、シンの代わりにレーナは言う。
「各位。ーー聖教国を救おうとは、思わなくて構いません。貴方たちは英雄なんかじゃない。貴方たちが戦うのは、貴方たちの戦う理由だけで良い」
彼だけに責任を押し付けるのは約束を破る。このままで良いわけがない。
「そして戦い抜くが誇りであっても、戦うのが運命ではない。貴方たちは無人機でも兵器でもなく、だからあのような戯言に惑わされる必要もない!ですが作戦はーー攻性工廠型の撃破は完遂します!」
不満はシンではなく自分に。恨まれるのも将の役目。自分はエイティシックスが戴く女王。戦場では己が血を流さぬ代わりに、部下よりも冷徹となるのな己の任だ。
「そのためにもまずは、包囲の突破を目指します!ミルメコレオ連隊、第十三グループと協力し、敵部隊の間隙をこじ開けなさい」
言ってから不意に違和感を感じる。
ーー全周包囲。
すると、ドミトルから知覚同調で通信が入る。
『なぁ、これって可笑しくねえか?』
そうだ、確かにおかしい。軍は撤退をする際が最も弱い。だから基本的に包囲した際はあえて出口を作るのが定石。逃げ道があれば、兵はそこに目掛けて逃げ出すから。
聖教国が自国にエイティシックスを取り込む気なら、今のような布陣はおかしい。
加えて不可解な強襲のタイミングと、脱出までほとんど接しなかった衛兵。
そう、レーナと管制員を人質に取らずーーそして大国たる連邦や連合王国、合州国と対立してまで、たかだか三個連隊を望む奇妙さ。
もしかしてヒェルナの目的は……
この矛盾だらけの状況を望んだのは、聖教国や軍ではなく。
「(キーツ少尉の推測が……当たるかもしれませんね)」
ならば。
「……当然、傍受していますよね。ヒェルナ」
周波数を聖教国の司令官用に合わせて、低く言う。
何か一言言ってやらないと気が済まないから。
「聞いた通りです。貴方は間違っています、ヒェルナ。エイティシックスたちが戦場に立つのは、それが誇りであり、運命だからではない。彼らが戦うのは、それが課された運命だからではなくーーこの戦争を終わらせるためです!」
「ーー違うよそんなの」
むすりとクレナは吐き捨てる。言ったのがレーナだからまだしも、他の者が訳知り顔に、そんな事を口にすれば憤りでは済まなかっただろう。
終わらせるためじゃない。レーナがそう言ったのだって、彼女がシンの傍にいるからだ。戦争を終わらせたいと、望むようになったシンの事を一番に見ているから。
自分だってこの戦争は終わればいいと思うが。シンが望んでいるから、良いと思うだけで。でも、戦争が終われば自分は誇りさえなくなってしまって、自分の居場所はシンの隣にはもう無くて、彼を助けてあげることもできなくて。
でも。
堂々巡りの思考に、クレナは混乱する。自分はどうしたら良いのだろう。どうしたかったのだろう。
ーー決まっている。今のままでいい。今のままがいい。自分は戦場でシンの、仲間たちの助けになれて。居場所があって。シンは八六区の頃よりもずいぶん楽になれたようで、毎日それなりに楽しくて。そうなるためには。
セオの言葉を思い出した。
船団国群に行く直前。彼が戦場を離れる前の。
ーー終わってほしくないって言ってるみたいだよ。
ーー違うもん。
あの時はそう言ったけど。本当はそうじゃ無くて、
自分は。
思いついた言葉を、まるで照らし出すように鋭く咆哮が轟く。
『ーーーいいえ!』
ヒェルナの。
「そんなはずありません!共和国人がーー奪い取る側の人間がよくもそんな口を!」
火を噴くようにヒェルナは叫ぶ。知らないだけだ、お前こそ何も。
何もかも奪われた者の、最後に一つ寄り縋るものへの執着を。
「だってエイティシックスは、戦いが運命とし向けられたのでしょう。共和国から、生まれ育った祖国から、戦場でしか生きられないよう仕立てられたのでしょう。戦争以外の全てを奪われ、奪われ尽くしたなら戦場で生きる運命しかないのに、奪われた果ての傷以外何も無いのに、その運命を、
知らず指揮杖を握りしめる。眼前にまるで今起きているかのように蘇る、かつての悪夢。
十年を経た今でも忘れられない。彼女の家族を襲った無惨。
「私もそうです。私だってそうです!誰が忘れてやるものかーーわたくしを悲劇の聖女と祭り上げた聖人どもを。戦乱という災禍を前に国民の団結を図るため、わたくしを悲劇で飾りたてて戦果の聖女に仕立て上げた、我が聖教国の行いを!」
『何をーー……』
「私の家族はーーレェゼの家門は、開戦と同時に全員が〈レギオン〉に殺された」
ハッとレーナは息を呑む。
開戦直後にレェゼの一族は彼女以外全滅するなど……。
「憎むべき〈レギオン〉に愛する家族を奪われ、たった一人生き残った幼き聖女。か弱い少女の身で恐るべき暴威に立ち向かう、悲憤を胸の孤高に戦う聖教国の抵抗の象徴。そんなものに仕立て上げるためにーーわたくしの家族は、聖教国と軍に見捨てられた」
開戦直後に軍団司令所が〈レギオン〉の強襲を受け、その時に限って護衛の部隊は誤った指示で引き離され、救援部隊もその時に限って見落とされた。〈レギオン〉の伏兵に足止めされ、間に合わなかった。
その時に限って祖父母らと回線越しに話をしていた幼いヒェルナはーー回線越しとはいえ目の前で、その全員の無惨な死を見た。
忘れるものか、あの悪夢。あの光景。
あの醜悪な、同胞の顔を。
「父が、母が、祖父母が、叔父が、兄と姉が〈レギオン〉に引き裂かれる前で、その指示を出した聖者どもはーー苦渋の決断を下し、多大なる犠牲を払い、その結果見事試練を乗り越えた己の崇高に感動し、涙を流して酔いしれていました」
『家族は祖国に奪われ、だから祖国ももはや、愛せはしない。戦火の聖女の運命しか無い私は、だからこそこの運命は、この傷だけは奪わせはしない。手放すことなどできるはずもないのです!』
もはやその声はクレナには鏡越しの自分が叫んでいるようだ。
家族と故郷を奪われた子供。戦場で戦うのが役目だと押し付けられた子供。戦場で生きる運命だけがーー誇りだけが唯一残ったものとなったこども。
自分が飲み込んでしまった事を、ヒェルナが変わって言ってくれているようだ。苛烈に叫ぶ、金の瞳。
そう、ヒェルナの言う通り。
奪い去られて何もなくなり、唯一抱えた己の形定めるものを、それが傷だとしてもクレナは手放したくない。傷だとしても奪い取られたくない。ましてーー……
「それをわからない何て、言われたくない。ーー貴方だけには、取られたくない」
同じ傷を抱えていた筈のシンには。だって手放したくないと、奪われたくないと彼だって知っている筈なのだから取られたくない。未来なんかクレナは望めずにいると、分かっているのだから戦争だなんて。
終わらせてほしくない。
奪わないで。
戦場以外に存在しない、私のーー居場所を。
ヒェルナは悲鳴のように叫ぶ。
「貴方たちは、貴方たちも知っているでしょう、生きながら戦場を彷徨う亡霊とされ、戦禍に生きざるを得なくなった少年兵達!神なき戦野で報われぬ者たちに、神の代わりの救いとなった首なき死神も!こんな世界で、奪われるばかりで与えられることなんかない。正義も善意も、ーー振り翳したところで何の意味もないのだと!」
その言葉に、シンは目を伏せる。
かつて、同じ事を思った。
正義も善意も、何の意味もないと言うのに。
八六区で。半年後の無意味な戦死を定められた、あのスピアヘッド戦隊の隊舎で。あの時には疑いもしなかった。
それだけだ世界の真理だとそう、思っていた。
同じ言葉を言っている。
自分達エイティシックス達と同じ、人の悪意で織り成された戦場に放り込まれた子供が、『八六区』の真理を振り翳している。立ち止まったまま。閉じ込められたまま。
それしか持たない傷に、支配されたままで。
一方レーナとドミトルは目を見開く。これで確信した。
〈ヴァナヴィース〉のホロウィンドウの一つ、広域マップに変更したその地図に一つ反応が出る。包囲下にある〈レギンレイヴ〉その一機が捉えた新たな機影。敵味方識別ーー応答あり。聖教国軍第二機甲軍団イ=タファカ。その斥候小隊。
見て取るなりレーナは叫んだ。接触したのはーー〈グレムリン〉。シミター戦隊所属機。
「グレムリン!」
思いがけない聖教国の裏切りと、灰の妨害。的中に空挺部隊が取り残された為に困惑と焦燥はジリジリと腹の底を焦がす。
だから突然なった警報に、〈グレムリン〉は不覚にも息を呑んだ。
現れた〈ファ=マラス〉、部隊章は聖教国軍第二機甲軍団。
「もう来たのかよ!?」
咄嗟に機銃を向ける。真珠色の防塵装甲服姿の兵士が慌てた様子で手を振る。
知覚同調越しにレーナが叫んだ。
『グレムリン、ーー
「っ!?」
反射的に銃口を逸らし、飛び去る。そしてそこでようやく、相手が乗機から降りていたことに気づく。それはつまり、相手は攻撃の意思がないと言う事。相手の意図を感じ、無線を聖教国軍のそれに合わせた。
この至近距離では流石につながる、少し辿々しい連邦の言語で。
『我々は敵じゃない、話を聞いてくれエイティシックス!』
知覚同調越しにレーナは話を聞き、確信する。ああ、やっぱり。
「ヒェルナ。この企みーー
聖教国、あるいは軍全体の、裏切りでは無く。
聖教国第八師団、伏兵部隊との戦闘は続く。けれどミチヒの中から混乱と同様は続いたままだ。それは強襲から時間が経つごとに一層強くなる。恐らくはヒェルナの過去を聞いたからだろう。
あれはまるで、自分の話だ。自分達エイティシックスを襲ったのと同じ理不尽。
あんなことがこんな遠く離れた地でも、もしかしたらありとあらゆる所で。
自分は一体何と戦っているのだろう。そんな疑問がよぎる。いつもより操縦桿の操作も、トリガを引く手も。遅いと自覚するが、どうにもならない。
まるで自分自身が戦っておるかのような錯覚が、ミチヒの、歴戦のはずのエイティシックスたちの手を鈍らせる。
ーー考えたら駄目なのです。それより早く、この包囲網を抜け出さないと。
首を振り、なぜか泣き出したいような奇妙な、幼い惑乱をどうにか押し除ける。
敵の指揮は〈ファ=マラス〉と、その子機群たる〈リャノ=シュ〉。だから指揮官機を撃てば終わるが、敢えて〈リャノ=シュ〉を撃つ。
だって人を撃つのは嫌だ。
人を殺すのは嫌だ。戦い抜く彼女たちの誇りだが、そこに人殺しは入らない。〈レギオン〉との戦いで生きてきたエイティシックスはこれが初めて人と対峙する戦闘。正直な所、戦いたくない。
人殺しはしたくない。
またしても一機の〈リャノ=シュ〉がこちらを向く。普段の感覚で飛べば、コケる。だから踏みとどまったまま機関砲を旋回させる。左右の脚部に集中して砲弾を叩き込む。
足から潰して動きを止めるミチヒとの戦闘パターン。四〇ミリ機関砲は八八ミリ砲ほどの威力はない。激しく引き裂かれても原型を残す〈リャノ=シュ〉の残骸で、まるでコックピットハッチが開くように正面装甲が跳ね上がる。
その奥から転げ落ちるように、小さな手が転げていた。
「……え」
ミチヒは目を見開く。
ちいさな、こどもの手。
ミチヒは混乱する。思考が迷走して、定まらない。正体はわかっているのに、それを脳が受け付けない。目に映るものを認識できない。
跳ね上がった〈リャノ=シュ〉の正面装甲のーー否、
まだ十にも満たないくらいの、小さな少女の亡骸だった。
昨日あった一幕
友「主って二次小説書いてるよね」
主「おん」
友「小説書くのって楽しいの?」
主「いや、書くのはちょっと嫌い」
友「えっ!?嫌いなの?」
主「こう言うのはちょっと嫌いなくらいが長続きするねん」
何事もちょっと嫌いくらいが一番長続きすると思うのは俺だけか?
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
-
やってほしい
-
やらなくていい