ドンッ!
と、強く白手袋が黒檀のデスクに叩きつけられる。
西方方面軍参謀長ヴィレム・エーレンフリートは、無意識に自らが行ったその感情的な行動に気づいていない。
昨年の
かつて帝国を支配していた大貴族の裔として、数多の兵を預かりながらも使い潰す将の一人として、感情を、動揺を、他人に曝け出すことを彼は良しとしない。
そのように幼時より育てられ、また己に課し律し続けて、今や習慣よりも無意識よりも深く、本能とさえ言えるほどに染み付いた振舞。
身のうちに刻み込まれたそれを、けれど一時を失うほどの緊迫と焦燥。
周囲のホロウィンドウに映し出されているのは、ある構造物についての解析結果だ。
レグキード船団国群北方、沿岸より三百キロ先の海上に建設された<レギオン>砲陣地拠点、識別名・摩天貝楼。
同拠点で旋回飛行による支援攻撃を行なってた<強襲型ガンペリー>が回収し、不足分をイリャナルセ聖教国の戦場奥、
投影されたホロウィンドウ上、青白い線で精密に組み上げられたその指揮官御報告にもない構造が付与されていた。
報告したのは単に彼らの目に留まらなかったから。
エイティシックスの少年兵たちも作戦指揮官である少女も、…同行した連合王国の異能の王子も、曰く付きの戦死した合州国の英雄も、おそらくそれを意識しなかった。
彼らが知っているそこは、すでに
…この場合、備えもせずそこから攻撃を受けていないのが奇跡と言えるだろう。
もしかすると合州国は既に…いや、だとするなら既にこちらに表裏ともに情報が上がって来るはずだ。隠していても被害が大きいばかりに少しばかりでも漏れるはずだ。
あの国の事だ、掃除を終えて今も<レギオン>の手が届かない場所から高みの見物と洒落込んでいるに違いない。
今回は
それはわかっていて、けれど忸怩たる思いが拭えない。
ホログラムの三次元構造図には、摩天貝楼の広大な内部空間に、塔全体を斜めに貫く巨大な円筒形構造が書き加えられて明滅している。
最下層から海上百余メートルの最上層へ、急な弧を描木、頂上付近ではほぼ垂直に天を目指す。
八条のレールから成る筒。計算上は列車の車両さえ内部に収めて疾走させられるだろう、それほどの直径の円筒だ。
無論、その中に収められ、
なぜ今まで気づかなかった。
知っていながら想像さえしなかったか?
ーー十一年前の、帝国の革命の最中。
帝国が保有していた人工衛星は革命軍へ趨勢が傾くや否や、ほぼ全てが帝室派の司令拠点から自壊命令を発令され、その通りに機能を果たした。
この時、破片が散らばるように分解した為、近い軌道を周回する他の国の衛星も巻き込んだ。
数トンもなる質量の破片に直撃を受け、それがねずみ算のように連鎖した。
結果、各軌道上には大量のデブリが飛散。質量の大きなデブリはそう簡単に高度を落とさないので、秒速数千メートルの速度で今も軌道上に滞留している。
元より、合州国の内戦である一年戦争の<衛星落とし>により、多数の人工衛星が巻き込まれて軌道上には多数の遺留物が残っており、戦後に合州国は賠償と謝罪の意味を込めてその軌道上のデブリの清掃の為に<ソーラ・システム>を打ち上げた。
今でこそ前線の<レギオン>を天から焼き尽くしている<ソーラ・システム>であるが、元々は平和と戦後処理の為に建造されたものであった。
事実、宇宙空間に打ち上げられた艦隊の最初の任務は自分に危険を晒す浮遊するデブリの処理であった。
なので、こんな状況では綿密に計算された状態で打ち上げる他ない。
合州国は各艦艇の装甲板を追加して無理矢理宇宙に飛ばすと言う強硬手段で打ち上げたが、あれは例外中の例外だ。参考にするだけアホらしいと言うもの。
元より莫大な予算と燃料を必要とし、ないかつ今は戦時下である今、大陸最大級の国家である連邦でさえもそれは難しい。
無論、デブリの滞留する低高度を突き抜けて飛ぶ弾道ミサイルも。
ただ、<レギオン>とてそれは同じだ。
元々、<レギオン>とは兵卒から下級士官を代替すべく開発されたもの、戦略兵器である弾道ミサイルの運用を開発者は想定しているはずもなかろうし、念の為
そしてそれは遠い過去のものとして条約で禁止され、ヴィレムも、より上位の統合参謀本部も、
<レギオン>が衛星軌道の利用を、人工衛星かそれに準ずる類の兵器の打ち上げを、禁じられてはいない別の手段でやり遂げる可能性。
船団国群の碧い大海での戦場で、聖教国の灰降る戦場で。報告された六芒星の鋼鉄の塔。
あれは。
軌道上へと彼らの人工衛星を、打ち上げるための。
「
「ーーー以上より、報告を終えます」
その時、ジャブローの地下。そこでアーノルドは言うと、プロジェクターが上がる。
元々、ケリフォルニアベースにて大気圏打ち上げ設備に使用された痕跡があった事実は既に把握されており、その解明の任を受けていたのが情報部であった。
そこでそこの部長を務めていたアーノルドは今さっき結果報告を今までの戦闘記録と併せて行っていた。無論、そこには摩天貝楼の情報もあった。
連邦が察知するより前より…引いては今次戦争以前より合州国は一年戦争以降、かねてより二度目の<衛星落とし>に警戒をしていた。
それはたとえ相手がジオン残党であろうと、<レギオン>であろうと。
かつて国内に壊滅的被害を与えたその攻撃は、今もジオン公国が大陸中に落とした厄災の種であり、その後の反発運動の際も最も警戒されていた。
そしてその対策の為に十年以上の歳月をかけて全土の綿密な防空網の構築や、あんな
その時、<衛星落とし>にどれだけ政財界の人間が恐怖していたのかが窺い知れる。それほど当時としては衝撃的で、尚且つ戦後の処理も面倒になる悩みの種でもあると言う事だ。
事実、戦後に我が国は破壊した他国の人工衛星を賠償する為に軍事費を大きく削減していたのだから。
その報告を聞いた面々の反応は様々であったが、やる事は分かりきっていた。
「了解した」
席の反対に立つ一人の軍人は頷くと、部下に指示を出す。
「ストーンヘンジ守備隊に下命、対空警戒体制だ」
するとそこで電話一本で下された命令に下士官たちも走り出す。
そしてその他各部隊に次々と蜘蛛の巣が作られるように次々と命令が下されていく。
こう言う時に、正規な文書を前に動ける体制が出来上がったのも、戦後のレビル将軍と、それを受けた国民意識のおかげだと内心アーノルドは思う。
「敵の目標は…」
「えぇ、おそらく…ソーラ・システム」
そう言い、最前線で今日も<レギオン>に人工の太陽を落としているコストパーフォーマンスの高い兵器の名を呟く。
「だろうな…」
その兵器は自分達によってすれば神の杖とも呼ぶべきありがたい兵器であるが、<レギオン>からすれば自分たちの手の届かない場所から何処にでも攻撃ができる目の上のたん瘤、対処しないわけがなかった。
「宇宙艦隊にも伝えておけ。これから攻撃の可能性ありとな」
「レビル閣下は…」
「一ヶ月前に帰って来ている。あの歳では宇宙はキツかった様子だ」
そう言うと、部屋にいた全員が元々パフォーマンスの為だとしていたので大して気にした様子もなかった。
と言うより、ここでその話題を出すとは不可思議な人物だ。
「しかし、まさか機械如きが我々の真似をするか…」
すると一人の、ジオン共和国出身の軍人が口にする。
「馬鹿言え、元はと言えば彼らも元人間だ」
「最も、戦死した亡霊だがな」
そこで一人の将校が言うと、他の将校は笑っていた。だが、アーノルドはそこで笑う事はなかった。
なにせその亡霊には自国の軍人も含まれている事を考慮すると、彼としては笑うことができなかった。寧ろ彼らはその事を考慮して物事を言うべきだと後悔していた。
最初期に亡霊の話を知っていた彼であったが、後の戦争行為の士気に関わる問題としてこれらの諸問題はこの部屋から出て行く事はなかった。
こればかりはこの情報を持ち帰ってきたその軍人に嫌味の一つでも言いたかったが、彼は今は墓の中だった。
「(全く、色々と問題を起こしてくれる輩だったな…)」
アーノルドはそう溢しながら<レギオン>に対する今後の方針転換に軽くため息を漏らしていた。
人工衛星とは、その名の通り衛星として惑星を周回して通信・中継・偵察・測位・気象観測などを行う機械類の総称である。
役割によって高度や軌道は様々であるが、原則として投入された高度と軌道を寿命の間は維持して辿り続ける。
人工衛星を見つけると、それは全く動いていないように見えるが、実際は動いているのだ。
そう、
宇宙空間と言う場所において、一部の人間は無重力で人工衛星は
万有引力がどれだけ惑星から距離が離れていようと力として働いているように、重力や引力もまた人工衛星には働き続けている。
それではいずれ地上に落下してしまうのではないかと思うだろうが、ある一定の速度を超えると丸い惑星を周回する軌道に入ってしまう。
それは俗に第一宇宙速度と呼ばれ、発射された物体が地面に落下する事なく永遠と浮いているように
遙か高空を秒速八〇〇〇メートルで、地平線の彼方に
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい