86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

130 / 186
#130 星が堕ちた日④

今度の<レギオン>の大攻勢は、大陸中に生存していた国家群に多大なる打撃を与える事となった。

 

「少なくとも、現時点で確認されている人類圏全ての戦線が後退したわ」

 

リュストカマー基地、そこに集う旅団長レーナ以下各機甲グループ総隊長達や、整備班などの後方勤務要員の班長達。

連合王国からヴィーカとザイシャ、盟約同盟のオリヴィアなどの他国の将官はそれぞれの祖国の戦況を確認しに西方方面軍統合司令部に出向いていて、ここにはいなかった。

その室内を軽く見回してから、シンはグレーテに視線を戻す。

 

シン達エイティシックスは反抗作戦(オーバーロード)に備えるべく休暇が与えられ、その休暇先の学校から一日足らずで急遽呼び戻されたかたちだ。慣れ親しみ始めた『平和』からの突然の招集に、たった一日であまりにも激変してしまった戦局に、さしもの戦慣れた彼等も意識の切り替えが追いつかない。

 

 

一体、何がどうなったのか。

 

 

そんな中、視線を集めたグレーテはホロウィンドウに映し出す。

 

「連邦西部戦線に侵入した<レギオン>五個軍団は、現在、第二予備防衛陣地地帯、センティス=ヒストリクス線にて侵攻を停止。散発的な戦闘は続いているけど、戦線全体としては膠着したまま。東部戦線、および北部・南部の第一から第四戦線も同様に予備防衛陣地地帯で膠着してる」

 

そこで連邦全体の戦域図を表示、東西に長い連邦の南北にそれぞれ四つある戦線と、東部と西部の戦線の現在位置を青いラインで表示する。

連邦は西部以外は山や川などの天然の擁壁に囲まれていることで比較的少ない戦力で防衛を可能とし、四カ国街道と言う国を結んでいた唯一の幹線を守っていた。

 

その全ての戦線が、どれも要害を破壊しながら、後方の開豁地や沼沢地まで後退させられた。

開豁地では重量の厳しい重戦車型(ディノザウリア)戦車型(レーヴェ)は最強である。今の膠着状態がどれほど続くかは分からない。

 

「ノイリャナルセ聖教国をはじめとした極西諸国との通信は通信途絶。アストリア合州国は信託統治領のノース・アストリア州の防衛失敗。ジークフリート要塞戦線に撤退を行なったわ。

レグキード船団国群は最終防衛戦を突破され、現在残存兵力がソリア船団国領土にて遅滞戦を展開。残存船団国民の連合王国・連邦への避難要請を受諾。事実上、ーー滅亡ということになるわね」

 

ホロウィンドウを展開し、次々と映し出される戦況図。

大陸極西、大陸北方、大陸東部、大陸南部…そして盟約同盟と連合王国の戦域図を出す。

 

「盟約同盟は第二防衛戦を放棄し、最終絶対防衛線に後退。連合王国は竜骸山脈を失陥し、竜骸基底トンネルの連合王国側出口を爆破処理した上で山嶺まで後退。防戦しつつ、後背の平野部に防衛陣地帯を突貫作業で構築中。

以降、両国とも連絡はないけれど、無線は傍受できている。現在も戦闘継続中よ」

 

通信が途絶えるほど戦況は逼迫している。

 

見上げる地図には連邦・連合王国・盟約同盟・合州国。その間に分厚く敵性勢力(レギオン)の紅い部隊記号(ブリップ)がひしめく。

数日前まで確かに存在していた街道には無数のそれらが存在し、埋め尽くしている。

三国とも前線が後退し、昨年の第一次大攻勢時よりも勢力圏が縮小した。…合州国を除いて。

これでは軍の協同は愚か、ネズミ一匹の通行すらままならないだろう。

これだけの距離を空けられてもなお、無線が傍受できているのは奇跡というべきだ。<レギオン>の展開に阻電撹乱型(アインタークスフリーゲ)の展開が追いついていないのだ。

 

 

それほどの、急激。

 

 

連邦は西部戦線においては大河を挟んで<レギオン>と睨み合っており、大量の散布地雷を叩き込んで防備を固めていた。

そしてその距離はこのリュストカマー基地から比較的近く、時折砲号の遠雷を感じていた。

万一に備えて住民の避難も始まっていた。

 

シンはそこでどこにいても聞き取ることのできなかった<レギオン>の声に首を傾げた。

 

「ですが、何が起きたのですか?各戦線を破壊した最初の一斉砲撃は一体ーー把握していない電磁加速砲型(モルフォ)が、大量に配備されていたのでしょうか」

「いいえ」

 

グレーテは首を横に振って新たにホロウィンドウに映す。

 

映し出されたのは夜空の映像。地上の建物が一つもない、どこかの天文台で撮られたのだろう周りに何も映っていない高空のそれ。白くノイズの粒子がちらつく中、切り裂くように空を何条もの堕ちる焔の流星群。

 

ふと、シンはそこで既視感が脳裏を掠めた。

同じものを見た気がしたのだ。自分の親族の青年とともに。

 

『流れ星、でしょうか』

『この時間あんなところに星はないはずだから、だと思うが』

 

瞬いて消えた、焔のあかいろをした、あるはずのない星。

あれが、各戦線に降り注いだーーー…。

 

「砲撃の正体は、人工衛星を転用した弾道ミサイルと推定されているわ」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「事態は急を要する事となった」

 

同刻、ジャブロー会議室において緊急の閣僚会議が開かれていた。

出席した将校達は全員、最低でも少将という顔ぶれ。明らかに全員が暗い顔つきで報告書を見る。

 

「奴らめ…内戦と同じ手を使ってくるとは…」

「事前に情報部が懸念した事案が功を奏しましたな」

 

そこでどこか安堵している様子でもある将官達。

以前より合州国の進んだ宇宙開発技術の産物であるケリフォニアベースのマスドライバー、そこの使用された痕跡を前に数年前から<衛星落とし>を警戒していた。

そしてその事実が確証に至った時、合州国は世界中に向けて最大出力で警戒を促すことを行った。だが船団国群(兄弟)は間に合わなかった。

 

「しかしそれでも防げなかったか…」

 

そこである少将が破壊されたソーラ・システムの映像を見る、近くで護衛していた宇宙戦艦から映し出されたものだ。<レギオン>の攻撃でソーラ・システムは通常時の三〇%の出力でしか照射できなくなった。これでは、精々阻電撹乱型(アインタークスフリーゲ)を焼き払うのが限界であった。

 

「(二八年前と同じか…)」

 

しかしあの時とは世界は大きく変わったものだ。

少なくとも、二度目の<ブリティッシュ作戦>は防ぐことができたのだから。

 

「しかし陸戦艇が破壊されたのは痛いな…」

「敵に情報は?」

「はっ、その前に自爆させております。その時の閃光は他部隊において多数報告があります」

「宜しい」

 

何としても<レギオン>に核融合炉の情報を渡すわけにはいかない。そのためならば自爆をしてでも証拠を消せというように言明していた。

 

「現在の戦況は?」

「はっ、現在我が第五軍団は信託統治領ノース・アストリア州防衛を放棄しました」

「そこは…ヘリウムの産地と聞いたが?」

 

連邦に発覚したことを認知したことで共和国と正式に結ばれた信託統治領ノース・アストリア州。

かつては共和国の領土として健在であったその地域は、数日前までは有数のヘリウム3の採掘地として機能していた。

 

「公団からの報告ですと、すでに二〇年分の採掘を確保しており、少量ではあるものの完全地下化された工場よりパイプはいまだ接続しております」

「そうか…」

 

そこで将官達、特に補給将校達は安堵する。ヘリウムの鉱山は多いことに越したことはなかった。

 

「では今後の国土防衛方針だが…」

「閣下」

 

そこで陸軍元帥は傍に現れた秘書の話を耳にすると、そこで大きくため息をついた。

 

「諸君、敵の攻撃の詳細が分かった。どうやら完全な再現ではなく、通常弾頭を搭載した超大型弾道ミサイルとでもいうべき存在のようだ」

「「「「……」」」」

 

そこに将官達の驚きはなかった。なにせ彼らは二八年前に同じことを経験していたからだ。

 

「連邦に避難した船団国群の市民は、我が国の要請を受けて南方に移動を開始した」

「では…」

「うむ、救援に必要な戦力の抽出を行なってくれ。海軍・宇宙軍にも遠慮なく協力を要請してくれたまえ」

「はっ!」

 

そこで直ちに陸上艦隊を指揮する中将はすぐさま指示を出す。彼らは民族的兄弟である船団国群を見捨てることなどしない。

すでに南部のコロニーにおいて船団国群の亡命政府が樹立された。それに合わせるように、建造途中であったコロニーに船団国群の市民達が移住を開始。コロニー防衛艦隊として船団国群の屈強は海の男達は合州国軍の艦艇を譲り受けていた。

 

「現在、後退した第五軍団は第七戦域において停滞。コンペイトウの支援砲撃の後に敵部隊は停止を確認」

「ストーン・ヘンジの方は?」

「そちらは現在、四番砲が先の攻撃により損傷。現在復旧作業を行なっております」

 

国土を守り抜いたことでその必要性を証明することとなった巨大砲台陣地。用意された砲弾はまだ潤沢にあった。

これのせいで戦艦が二隻ずつ消えたと文句をこぼした海軍と宇宙軍だったが、両者共に落ちてくる大量の衛星爆弾を前に迎撃に一部失敗しており、その上で国土防空の守護神として君臨したストーンヘンジの威力をまざまざと見せつけられた。陣地は攻撃を受けたが、国土は対空ミサイルと相待って完璧に防護することができた。

 

「そして拙いのは、現在共和国には第四号特別派遣憲兵大隊が取り残されていることだ」

「「「……」」」

 

そこで全員の顔色が悪くなる。

その部隊は通称『白の督戦隊』とこちらでは呼称していた部隊だ。現地人からは『マンハンター』と言われ恐れられているそうで、その名称を気に入った部隊長の進言でそのように名前を改める予定でもあった。

 

「この部隊を救出する必要がある」

「ですな…」

 

かの部隊の構成員は大半が希望者である予備役の兵士達、我々合州国市民である。

 

「海軍は?」

「現在、メール河河口沖にてジュットランド級・ヒマラヤ級による支援砲撃を実施中であります」

「宇宙軍は?」

「残存艦隊を招集し、各基地航空隊とも合流。第五軍団の支援にあたっています」

 

そこで順序通りに、火急的事項は量子コンピューター<15-13>の提案通りに戦力の再配置を行なっていた。

 

「…」

 

その会議を横目にアーノルド・フィッシャーはそこで部下からの報告を聞くために一時退席をする。

 

「…私だ」

 

そこで彼は軽く数回頷いた。

 

「そうか…引き続き『第609試験隊』には作戦続行を指示。共和国方面に動かす準備を」

 

彼の指示に電話の向こうの人物は頷いた。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

  • やってほしい
  • やらなくていい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。