86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#131 星が堕ちた日⑤

かつて、自分たちの上官だったある青年がいた。

金髪に青い瞳、後にその瞳の色は作られた偽物であると言う事実を知った。

 

初めて出会ったのは、本当に偶然だった。

あの共和国の東部第一戦区での偶然の出会い。

 

あの出会いは、俺たちに確かな変化をもたらした。

おかげで今は五体満足でこうして生きている。

 

あの共和国の捨てられた街の会合は、俺たちに新しい刺激を与えた。

 

 

 

「…」

 

リュストカマー基地の格納庫、ハルトは地面に座り込んで反対の空となった自分たちのものとはまた違う大きさを有した格納庫を見る。

今は自分達のフェルドレスの予備機を置いておく場所だが、それにしては場所を持て余していた。

かつてそこでモビルスーツを率いていた人はもう居ない。船団国群の任務で意識不明、そのあと合州国の病院で死んだからだ。

 

人の死には慣れているつもりだった。

あの戦場では、それが当たり前だったから。

 

しかし、『平和』と言うものが慣れた自分たちにとって、肩を並べた外国人の…親しいエイティシックスじゃない人が死んだのは初めてだった。

 

「お別れ…しときゃあよかったなぁ…」

 

そんなハルトのぼやきを聞いていたのか、すぐ横で座り込む人が一人。

 

「そうだな…」

「あっ、隊長…」

 

隣に座ったのはシンだった。もう良いのかと思ったが、最近の彼がここにいると言うことは会議は終わったと言うことだ。

 

「あの人には、世話になった」

「…あぁ」

 

ハルトはそこでシンの見る場所と同じ格納庫を見る。かつてそこには巨大ロボットが佇んでいた。

 

「…」

 

その時、シンエイ・ノウゼンは少し陽気で、少し無理をしていても気にかけていたあの外国人の事を思い返す。

特に彼の場合、『知っていたこと』もあり、それを伝えられないまま終わった事を悩んでいた。

 

「家族を残して死ぬって…どんな気持ちなんだろう」

「…」

 

ハルトは呟くと、シンはそこで考える。

少なくとも今まで想像すらした事のない領域の話で、自分たちが経験するのかどうかも分からない事だ。判断は難しい。

 

「俺の両親は…どんな感じだったんでしょうね」

「…さぁ」

 

シンはそこで答えると、ハルトは内心『変わったなぁ…』と実感せざるを得なかった。

少なくとも、こう言うことに話しかけてくる人ではなかったし、ましてや返答をする事もほぼない人だった。なんというか…ちゃんとした軍人らしくなったというべきだろう。

 

「でも…そんな事もこの数日で丸ごと吹っ飛んじまった」

「そうだな…」

 

今も目まぐるしく変化している戦況。遠くで聞こえる砲声。

何もかもが変わってしまい、同時にまるで昔の頃にどんどん近づいているような気がした。

この二年間の努力が一瞬にして間に喫して、それどころか押し込まれつつある状況。

 

「(このまま…あの戦場に戻るのか?)」

 

少なくともあの頃と大きく違う自分達。少なくともエイティシックスからハルトの生き方を見つけたような気がした矢先に、この攻勢。

曲がりなりにも訓練と教育を受けた身だ。この状況がどう言う事なのか、理解しているつもりだ。

だから、あの時と違うことも十分に理解している。

 

 

ーー今の自分達は、遠くに見えているのは死ではない。

 

 

だから、生きなければならない。

明日のために、終わりを見るために。

 

「おや、二人が座り込むとは珍しいね」

 

するとそこで黒髪で縛った髪を見せるようにカイエが二人を見下ろす。

 

「あっ、煙草だ」

「カイエ…吸っていたのか?」

 

そこでシンは火をつけてなかなか様になっているカイエに聞くと、頷いた。

 

「あぁ、吸い方を教えてもらったからにはな」

 

そう言って彼女は笑う。

無論、煙草の吸い方を教えたのは誰なのか、二人は容易に推測できた。

 

「リノと同じ銘柄じゃないんだな」

「あぁ…こっちの方が軽くで吸いやすい」

 

カイエはそう言い一服吸う。

 

「じゃあ吸わなきゃ良いのに…」

「これが辞められないの」

 

彼女は言うと、そこで指で吸っていた一本を掴んで紫煙を吐き出す。酒保で買う事のできるそれら嗜好品、無論ここの部隊にも煙草を吸う人は一定数いた。

そしてカイエの部屋や機体には必ず煙草の箱が一つ用意され、また燐寸(マッチ)も常に持ち合わせていた。

 

「俺にも一本」

「駄目だよ。お前はまだお子ちゃまだろ?」

「ぐぬぬ、くそぉ…」

 

カイエに軽くあしらわれ、未成年であることを今も恨むハルトは格納庫の壁に背を預けて座り込む。煙草を吸うかどうかはさておき、吸えるなら少し試してみたいと思っていた。

 

「はぁ〜あ、なんだか疲れちゃったなぁ…」

「そりゃそうさ。あまりにも数日で変わりすぎたからな」

 

そこでカイエが空を見たことでハルトも釣られて空を見上げる。

 

「宇宙か…」

「あぁ、スンゲェ遠い場所だよ」

 

<レギオン>はすでにそこまで魔の手を伸ばしていた。

シン達が今まで追いかけていたものはすべてこのための囮であったのだ。あの噂の<レギオン>もただ利用されていただけで、本質は隠されたまま数日前を迎えた。

それはゼレーネですら知るところではなく、我々は完全に騙された形で終わる。

 

前に共和国での作戦で、ある〈レギオン〉が警告を出したことがあった。あれが示していたのは高機動型でも無く、その背後にあった打ち上げ装置だったのだ。

 

「おかげで宇宙に浮かんでいた合州国の艦隊は甚大な被害だそうだ」

「ははっ、あのヤバいやつが?」

「マジかよ…」

 

シンの言葉に二人は唖然となる。

あの連合王国で試射された、一年戦争の頃の産物であるソーラ・システム。上から降り注いだ閃光は平等に地上の<レギオン>を焼き払っていた。

焼け跡にはドロドロに溶けた<レギオン>の残骸が残されており、それを見てとても恐ろしい何かを見た気がした。

 

「…なぁハルト」

「ん?」

 

その宇宙を見ながら、カイエは唐突に聞いた。

 

「合州国って…どんな国だった?」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

現在の合州国の領土は、数万年前は別の島であったと言う。

長い長い時間をかけて海を渡り、その果てで現在の大陸の南方に到着。大陸南方とぶつかり合う事で現在のマッキー山脈を作ったと言う。

その調査はマッキー山脈の南北で行われた地質調査ですでに判明した歴史である。標高数千メートルの地点で発見された貝の化石は、かつてそこが海であった事を指し示していた。

 

「…」

 

合州国という国の創設経緯は、一重に帝国の存在があったからだ。

山脈を超えた場所で猛威を払っていたその脅威はついに山脈を境に相対した。

当時の人々の感情はもはや知る由もないが、その後の戦争で我々は帝国に打ち勝ち、帝国を北の山脈から遠ざけた。

 

「…」

 

そうしえ得た新しき大地は、すぐさま山脈以南を守るための緩衝地帯としての機能を果たす。

 

「撃ぇっ!!」

 

ッーーー!!ッーーー!!

 

ここは連邦軍がかつて建造した大陸最大級の要塞〈ルナツー〉。かつては山脈以南でジオン軍のために建造された要塞だったが、一年戦争後に役目を終え、戦前から移設計画が立っていた超巨大施設だ。

現在この要塞は移設工事を完了させ、解体したマゼラン級やチベ級の主砲を砲台陣地に改造した陣地が完成していた。

また現在駆逐中のサラミス改から取られた主砲も混在している。

 

「敵部隊、攻勢を強めています」

「要塞前面に誘い込め。一一五歩兵師団はB2ブロックまで後退、二四機甲師団はB4ブロックまで退避」

「了解」

「各砲台に通達!全砲台第二射用意〜!」

「バストライナー、並びに各装甲砲台(マクシム・ゴーリキー)は射撃用意!」

 

合州国が己の物量を、余力があるうちに全力で投入して作られた要塞と前線は、その能力を遺憾なく発揮する。

全長数千キロの前線を三つの要塞、〈ルナツー〉〈コンペイトウ〉〈セダンの門〉を中心にそれぞれ軍司令部を設置。その隙間に方面側司令部として陸上戦艦や宇宙戦艦による艦隊が置かれる。

 

「各メガ粒子砲、エネルギー充填」

「エネルギー充填率一〇〇%突破」

「敵部隊、射程に捉えました」

 

すでに要塞全域には戦闘濃度のミノフスキー粒子を散布済。これにより<レギオン>は性能を落とさざる得ない状況で侵攻を行う必要があった。

 

「エネルギー充填率一二〇%」

「発射!」

「撃ぇっ!」

 

直後、要塞の前に飛び出した<レギオン>は一斉に放たれたメガ粒子砲と対空機銃の銃撃で一掃される。

しかし進軍は止まらない。馬鹿の一つ覚えとはまさにこの事を言うべきか…。

 

ッーッーッー!!

 

一面焼き払い、その直後に再び現れた部隊に爆発炎が登る。

 

「近くのザメル隊の砲撃です」

「まもなく第三陸上艦隊が射程圏内に到達します」

 

戦後に改修を施され、680mmカノン砲の折り畳み機構を排して射撃制度向上を行なった。元々、折り畳み式の砲身では暴発が多々あり、危険と判断されていた。

 

「だんちゃーーーく!今っ!!」

 

砲術長の声に合わせ、地面に複数着弾する。グラン・ザンドレル級陸上戦艦の砲撃である。実体弾が複数着弾し、併用するメガ粒子砲と併せて<レギオン>の掃討に入る。

 

「上からは?」

「現在、砲弾衛星の確認はありません」

 

そこで〈ルナツー〉司令官に答えると、そこで彼は軽く頷いた後に軽く吐息する。

 

「全く…我が国も難儀な事を強いられたものだ」

 

そこでさらに駆けつけたギャロップ陸戦艇の支援砲撃も加わり、<レギオン>の侵攻部隊はここでようやく撤退を決め込んだ。

 

「第五軍団の方はどうなっている?」

「信託統治領から撤退したのちは、第四管区にて再編を行なっております」

「そうか…」

 

共和国との協定で決められた信託統治領ノース・アストリア州。

そこに展開していた陸軍第五軍団は撤退を完了し、陸戦艇一つと引き換えに要塞戦線に立て籠った。

 

「問題なのは共和国にまだ市民がいる事です」

「ああ、時期に救援部隊を派遣することになる。一応、抽出できる戦力は用意してくれ」

「はっ!」

 

前線の中央部にある<ルナツー>、共和国救援となるとその担当になるのは最も場所が近い〈コンペイトウ〉となる。

 

「(流石に市民を救出しないわけには行かないからな…)」

 

司令官を含めた数名の幕僚は静かに共和国方面の地図を見た。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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