「ーーー全て無に喫したわけね」
リュストカマー基地の一室、グレーテは独言る。
その傍には一枚の報告書があり、そこにはある軍人の死亡診断書が出された事実を報告していた。
「…」
グレーテや一部連邦軍の閣僚達。遠縁に連合王国や盟約同盟、果ては人類にとっても、それは小さくない損害を密かに与えた。
かつてここにいた合州国の英雄、リノ・フリッツとゼレーネ・ビルケンバウムには遺伝子的にかなり近しい存在であることは連邦に残された研究施設の報告で分かっている。
彼の年齢を鑑み、おそらくは彼女の子供…孤児として育てられた彼は軍人として一時彼と出会していた。
そしてその事を早期に理解していた連邦は、彼には申し訳ないが『脅し』に使えるかもしれないと踏んでいた。
まだ<レギオン>に前の人だった頃の国があるのか、それは定かでは無かったが、後に会話ができると分かってからはその方での準備も密かに進めていた。
エルンストならば、これを許すことはなかっただろう。
だが、使える手があるのを知っておきながら何もしないのは愚かである。
だがその前に彼は死亡し、その直後にこの第二次大攻勢である。
「必要な時に…必要なものが足りないとはね…」
これなら、彼をすぐにでも基地の部屋に隔離をしておけばよかったか。あるいは真実を伝えるべきだったか、などと思いながらグレーテはその報告書を放棄する。無論、情報が漏れないようにシュレッダーにて細かく刻んでから。
「…」
しかし今は、そのようなすでに終わった問題を中止することは難しい状況下にあった。
「むしろ僕は、ザンクト・イェデルが狙われていないことのが怖いかな」
後方の負傷兵のリハビリなどを行う病院でユートは、後方支援部隊に移籍するセオと話していた。
ここには他にも負傷した他のエイティシックス達の姿もあり、その中にはこの前の聖教国の作戦で負傷をしたダスティンの姿あった。
「弾道ミサイルとか、人工衛星とか。説明聞いててもやっぱ上手く想像できないけど。でも連邦全部の戦線に砲撃できたなら、それって要するに連邦のどこでも自由に狙えたってことでしょ?真っ先に首都をーー連邦の頭脳部分を狙ったって良かったはず。それなのに」
連邦は現在は共和制国体である。君主制と違い、首脳を一掃されたところで国としての機能が失われるわけではない。
「正直…少しそれが怖いよ」
ユートの隣で腕を骨折したダスティンが言う。先の聖教国での作戦中に運悪く左腕にヒビの入った彼はここでリハビリを受けていた。
彼は、まだ第86独立機動打撃群当初にアンジュに一目惚れをしていた。
無論、彼女にはダイアというお相手がいたので早々に諦めていた。
初めこそその落胆具合を前に誰もいうことは無かったが、ある日を境に彼の表情に変化があり、どういうことかとハルトとダイヤが探りを入れた結果。彼はなんと会いたい人がいて、尚且つその人と『彼女になった』というのだから、それからはもう散々そのネタで擦られまくっていた。主にハルトとダイヤから。
「なんだか、こっちを殺したいのに…昔やってた、百足とかの足を一本ずつ抜いて蠢くのを見て笑ってた見たいな…そういう、不気味さがある気がするんだ」
蟻みたいに、集団が獲物を覆って所構わず噛み千切るような、そんな雰囲気があるとダスティンが言ったところで、そこでセオはややジト目で言った。
「…君って、結構残虐な事をしていたんだね」
セオの呟きにダスティンは聞き返す。
「子供って、結構そういうことするだろ?」
「…どうだったかな?」
そんな昔のこと、自分達が覚えているはずもなかった。
「連邦・連合王国・盟約同盟・合州国、そして共和国…どこも<レギオン>は僕達を外側からすり潰していくってことが、実際にできるから。だから尚更、不気味だと思う」
ダスティンはそう締めくくって大きく息を吐いた。
「一度見ていたのに…!飾りだなんて思い込むなんて!!」
シャリテ市の、蓄電用プラットホームを目撃したのはシンだ。だがマスドライバーの本体はアネットが直接見ていた。
「気持ちはわかるけど、…それどころじゃなかったもの。仕方ないと思うわ、アネット」
執務室でアネットに向かい合って座っていたレーナは小さく首を振った。
その時、アネットは多くの仕事を抱えていたのだ。
直後の
全<レギオン>の知性化に、<
それらの事象が一気に起こっては、一見無意味なオブジェクトにしか見えないレールなど、アネットはもちろん。レーナもまた気にも留めていなかった。
あの時気付いていれば、とレーナも思ってしまった。
二八年前、合州国の内戦で生み出された悪名高き戦法の<衛星落とし>を学んでいたばかりに、それは一層強かった。
「それに、仮にあのレールから打ち上げられたとして、気づかなかったのは共和国よ。貴方じゃないわ」
そこで軽く歯軋りをするアネット。
「…でも、その共和国は砲弾衛星の攻撃を受けなかった」
「…えぇ」
連邦が存在を確認していた人類の生存圏の中で唯一、たとえ安否を知れない国家であってもおそらく唯一。<レギオン>の攻撃を受けなかったのが共和国だ。
連邦西部の着弾から、極西諸国への着弾。そして東部戦線への着弾。この間の数時間の時間差は、連邦が確認していない他の人類勢力圏への砲撃に使われたと推測され、同時に合州国方面でいくつかの巨大な閃光を視認していた。
皮肉なことに、この攻撃で他の人類勢力圏を把握していた。
そして攻撃を受けてからも生き残っているのかは定かではないが…。
「他の国はあれで滅んだのかも知れないのに。目の前に打ち上げ施設があったにも関わらず気づかなかった共和国は生き残った。その後の第二次大攻勢でも。気づかなかった共和国が。気づかなかったあたしが…!!」
「アネット」
静かに、しかし強い言葉でレーナはその続きを遮る。
そこで彼女はふと、シンに最初に会った時に言われた言葉を思い出した。
ーーその悲壮面、やめてください。
「あなたのせいじゃないわ。…反省するのはいいけど。でもあなたの罪じゃないことを、あなたの罪だって言っては駄目。悲壮面の聖女を、演じたら駄目よ」
アネットは息を詰まらせる。
「ごめん。…そうね。今は…それどころじゃないんだし」
そして長く、吐き出すように息を吐く。
「ゼレーネからのメッセージを見た時に、フライホイールがあったのが皮肉だな。高機動型とメッセージに、完全に気を取られていた」
他人事のように述懐するシンにライデンは眉を顰めた。その状況なら誰でも騙されるに違いないと思ったから。
「…騙された、としてもそれはお前のせいじゃねえだろうよ」
誰も彼も、鹵獲したゼレーネの言葉に踊らされたのだから。
「騙したんならゼレーネのせいで、見抜けなかったのは情報部だの上の連中だのだろ。どっちもお前のせいじゃねえ」
本来であれば戦闘に従事するべきのシンが負う責任ではない。
真摯にライデンは言うと、けれどシンは小さく吹いた。
「…お前な」
「悪い。でも心配性だな…いや、散々気を遣わせたものな」
「ああ、それは分かってる。俺のせいだとは思ってない」
その時のシンを見たライデンはふっと笑った。
「というか、騙されたのはゼレーネもだと思うから」
シンは気遣うように目を伏せる。
「彼女は嘘は、吐いていなかったと思う。信じたい、と俺が思っているせいかも知れないけど
捕えられてまで伝えたかった言葉は、」
そこで彼女の願いを思い出す。
「…嘘じゃなかったと思う」
それと同時、後悔が込み上がってくる。
近くにいながらも真実を伝えられなかったのは、どうするべきだったのか。今もわからない。
ライデンはふむと鼻から息を吐く。
「そうだとして問題は…誰が、どこまで騙されてたか、か」
「ああ」
<レギオン>全停止の情報の真偽。その鍵がフレデリカと発信基地の二つ、と言うのは事実なのか。その情報の再検討と精査を、この先情報部はするだろうが。
ふと、そこでシンは思い出す。船団国群で彼女が言いかけた言葉。
停止命令は、専用の通信衛星を経由して各本拠と指揮官機に。落とせば直近の
そして人工衛星はステルス化しにくいことをグレーテから聞いていた。
「それなら通信衛星はーーもしかして、探せる、のか?」
「なあ、俺たちの機体の改修って終わったのか?」
ハルトは横に座るレッカに聞くと、そこで彼女は軽く頷く。
「ええ、それどころか他の<レギンレイヴ>も装備しているわよ」
二人はこの第86独立機動打撃群の中でも異端児的存在であり、合州国と連邦の二つの士官候補生課程を突破している。
一年近いアドバンテージにより、二人の学校での成績は常に上位であった。
初期の頃はぶっちぎりの一位であったが、その成績に愕然とし、密かに闘志を燃やしたダイヤ達によってその成績は危ぶまれていた。
「でも集中的に使うのは俺たちだろ?」
「そうね…私らの中じゃあ。対MS要員だし」
二人の乗る<レギンレイヴ>は少々特徴的で、二人の使う武器は対MS重誘導弾。その連邦製である。
<レギオン>がMSを持ち出したことで合州国がほぼタダ同然で主要国に設計図を渡した一年戦争時の、連邦軍がまだMSを持っていなかった頃の、本当に初期の武器。有線誘導なので通信妨害がされていても誘導ができた。
合州国が『ブリキの人形』と評するほど脆い<レギオンザク>であるなら簡単に貫通を起こしてしまう威力である。
だが有線誘導式なのにほぼその方法での使用は行っていない。
運用?照準器からはみ出るくらいまで接近して至近距離でぶっ放せば良い。そうすれば一発でMSは倒せる。
そしてこの武器、名前が
「俺たちは女王の命令で
ハルトが言ったその一言はレーナを含めた全員が笑い、その後に少し流行った。
対MS重誘導弾にはそれほどの威力があり、有効で頼もしい存在だと言うのが垣間見えた。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい