86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

133 / 186
#133 星が堕ちた日⑦

この第二次大攻勢において<レギオン>以上にその事態に驚いたことがある。

 

打ち込まれた砲弾衛星の数は群を抜いて多く、それでいて両足で何もなかったかの如く仁王立ちをして<レギオン>を睨みつけた国家、合州国だ。

あの国は前線にある三つの要塞とそれを繋ぐ陸上艦隊、洋上の艦隊が苛烈な物量を用いてこれを撃退していた。

 

信託統治領であった地域は、もともと他国のものでしたと言わんばかりに彼の国の軍隊は撤退を行った。

現在の共和国政府との条約により、信託統治領という名の事実上の賠償のような形で点線の国境線が敷かれていた。

 

「各作業員は進発準備を急がせろ」

「はっ!」

 

ジークフリート要塞戦線の後方ではある準備が進められていた。

 

方面軍司令部も兼ねている三隻で構成される陸上艦隊。編成はグラン・ザンドレル級三隻が大半である。

その一つの青灰色の迷彩色塗装が施されたグラン・ザンドレルには必要最低限のモビルスーツ隊が積載され、そのそばで同様の迷彩の施された<グランペルリ>がカーゴユニットを繋げられるだけ連結し、現地改修として戦艦用の連装対空機銃を装備していた。

 

「まさか、こんな事になるとはね…」

 

その中、クラウは大尉の階級章を下げて横の中佐の階級章を下げるテオに話しかけた。

 

「あの場所に三回も行ったのは僕たちだけだ。その点を見越して父さんは部隊長をやらせたに違いないさ」

「ふふふっ、まあそうよね」

 

それ以外に考えられないし。

クラウはそこでこの救援部隊について行く事となった経緯を想像する。

テオの義父は軍内部の情報部に移籍した軍人だ。ただ情報部に移動した人とはいえ、彼の仕事はある実験部隊の責任者でもあった。

 

「あら、ギャロップも連れて行くの?」

「輸送隊の直掩だ。護衛はあった方が強いだろう?」

「なるほど」

 

そこで護衛の<マラサイ>を乗り込ませている<ギャロップ>を見たクラウが聞いた。

この攻勢を受けてフェルドレスの生産中止を発表して間もない頃、合州国陸軍はある作戦を立てていた。

 

ーー共和国への、友軍救援。

 

戦艦はその持てる火力を全力で投球し、道を切り開く。そして残された人員と物資を全て回収していく。

ギャロップも(直接支援はできないが)主砲を備えており、輸送隊の護衛にはもってこいの大きさである。

これほどの陣営で行うのだから、作戦の重要度としては最高位の位置にあった。

 

「テオパルド中佐殿。司令官が作戦室でお待ちです」

「わかりました」

 

そこでジャブローから派遣された彼にある士官が話しかけると、そこでテオはクラウを見て言った。

 

「じゃあ後のことお願いするよ」

「ええまかせて」

 

クラウは頷くとそのままテオを見送った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「…厳しい任務になりそうですね」

 

リュストカマー基地のレーナの執務室で、彼女は唸った。

必要な情報を貰い、それと同時に地図を投影したその視線の先、今回の作戦を聞いた。

 

「てっきり、マスドライバーの破壊かと思っていましたが…」

「共和国に取り残されてる、連邦軍救援派遣軍の撤退支援。ーー旧高速鉄道の南側ルート四百キロを撤退路として、機動打撃群と派遣軍で後退完了まで維持する、か」

 

向かい合うシンは作戦を聞いて少し渋い顔をした。

現在、共和国に取り残されている連邦軍派遣部隊は数個旅団から構成される大きな部隊。五万を超す人員に七百輌以上ある<ヴァナルガンド>、輸送車両。装備・燃料・資材まで含めればその量は膨大である。街一つを移動させると言っても過言ではないほどだ。

 

そんな量を四百キロも移動させる。

 

その道中を現地部隊と合同で行う。<ヴァナルガンド>は自重五十トンを超える戦闘機械である。当然、移動するためには燃料を必要とし、そのための補給点も作る必要がある。

この際だ、資材や什器などは置いていくこととなるだろう。

 

「支援、憲兵旅団の人員と一部の歩兵は、輸送に鉄道車両を利用するにしても。不整地では速度の出ない輸送トラックに、燃料輸送車の随伴が必要な装甲兵員輸送車と<ヴァナルガンド>。多脚機甲兵器(フェルドレス)は四百キロもの長距離を無整備で自走するのは想定にはなってませんし、ただ移動するだけでも相応の時間がかかります。ましてや戦闘が発生したら」

 

<ヴァナルガンド>は時速一〇〇キロ近い巡航速度を叩き出すが、戦闘重量五〇トンもの巨体でそんな機動を行う代償として、燃費が極端に悪い。長距離移動には燃料輸送車の随伴が必須。だから支配域四百キロを一息に、最高速度で駆け抜けるわけにはいかない。非武装な上に足の遅い、燃料輸送車の警護も必要だ。

 

加えてトラックは装甲がないので彼らに随伴するしかなく、派遣軍も全ても物資を持って一度に輸送できる手段を有していない。

あまりにもトラックの数が足りていないので、ただでさえ長い車列を、鈍重な速度で、何度も往復する必要があった。

 

「派遣軍から撤退計画はまだ来ていないけど、向こうも重要度の低い装備や備品は破棄していく想定で撤退計画を立てているはずだ。というより、人員と車両さえ持ち帰ればいい想定でいると思う。ーーこういう言い方はレーナは嫌だろうけど、連邦にとっても今は人が一番、貴重な資源だから。倫理的にも実際的にも」

「…ええ」

 

連邦はいまだ広大な国土を有する大国である。ゆえに必要な資源は採掘を行えば補充ができる。だがさすがに<ヴァナルガンド>などの兵器を捨てることはない。

おまけに人は育成に多くの資源を使用し、成長するまで十数年とかかる。すでに一部部隊では少年兵の動員が進んでいる中、これ以上の無駄な損失は出せなかった。

 

「だから派遣軍の撤退支援だけなら、厳しいけどまだなんとかなるとは思う。ーー<レギオン>主力部隊も連邦西方方面軍と対峙したまま膠着しているから、支配域内に残る<レギオン>はそう多くない。高速鉄道南ルートは、去年の電磁加速砲型(モルフォ)追撃作戦で制圧してそのまま復旧した場所だから正確な地図もある。一番足の早い<レギンレイヴ>は<ヴァナルガンド>を先に帰してからでも帰りつける」

 

高機動型(フォニクス)がしつこく出で来なければ。という前提があるが。

何かとシン達と因縁深い高機動型(フォニクス)だが、近接武器ばかりを有する彼らは一定の距離さえ空いていれば砲撃を一方的に浴び続ける事となる。軽量で薄い装甲、故に歩兵よりはマシ程度だった。まずここで投入されることはないはずだ。

 

「ただ、派遣軍の撤退が最優先で、第二目標に過ぎないとはいえ。ーー共和国全市民の、連邦と合州国への避難の支援。これは正直、厳しいと思う」

 

防衛施設の不十分、自国防衛部隊の不完全な育成、戦力不足などを理由に現共和国政府は連邦と合州国に国民全員の避難民受け入れを要請。人道的見地より両国は承諾をした。

 

両国の派遣軍撤退後の、高速鉄道車両と大型陸船艇による前代未聞の大量輸送作戦。使えるものはなんでも使う方針で、貨物列車も動員される。

何便もの列車と輸送船が昼夜を問わずに往復させて市民全員の輸送に尽力する。

だが去年の大攻勢で十分の一まで減らされた人口であっても、一国の住人、実に数百万の大集団だ。

 

「可能だと思いますか?」

「防衛戦の維持は()()()八四時間、というところだ。計画通りに進捗すればーー乗車順番の振り分けから整列、乗車と下車まで最大限効率的に進められれば、ギリギリ可能だとは思うけど、不測の事態が起きればその八四時間も厳しいし、訓練もしていない市民の相手をぶっつけ本番だ。避難自体、嫌がる者も中にはいるだろうし」

「妙な主張をする人もいますしね…」

 

ありきたりな所で言えば共和国軍の陰謀や、政府の陰謀、連邦含めた諸外国の陰謀。巷ではオオサンショウウオ型の地底人が仕掛けた陰謀だとか、そんな荒唐無稽なものさえ、大攻勢ではまことしやかに語られた。

 

「ただ、繰り返すけどそれを考えるのは機動打撃群じゃなくて、この場合は共和国政府だ。機動打撃群の任務である撤退路の維持に変わりないし、列車から飛び降りる馬鹿さえいなければ、影響も少なくて済むと思う」

 

おまけに運ぶのは()()鉄道。時速三〇〇キロで走る列車から飛び降りようとする連中はいないだろう。

 

「言ってはなんだけど、あくまで連邦軍撤退支援のついでだ。間に合わない分はーー仕方ないと思った方がいいかと」

 

シンはそこで言ってから、失言に気がついた。

 

「ーー悪い。レーナに言うことじゃないな」

 

シンにとってどうでも良くても、レーナにとっては祖国である。それが滅亡しようとしている今この時に、彼女に聞かせる言葉ではなかった。

 

「いいえ。覚悟はずっと前から、していますし、」

 

そこでレーナは思う。

 

「それに実のところーー初めてでもありませんから。共和国が滅びるのは」

 

あの時、グラン・ミュールを突破された時から思っていたことだ。

 

「それに今はーーそう言うことを言っている場合ではありませんから」

 

色々と彼女も共和国に対しては思うところはあり、それを前にシンは微苦笑する。

 

「…そうだな。今は、遠慮はしておいておこう、お互いに」

「ええ」

 

そこでレーナは少しそれかけた話を戻す。

 

「幸い、我々と共に第四号特別派遣憲兵大隊救援のために合州国軍からも救援部隊が向かうとの事。そこで支援要請も行えます」

「…陸上戦艦まであるんですか」

 

もはや呆れた様子でシンは派遣される部隊の陣容を見る。その中の陸上戦艦は、まるでフェルドレスが蟻のように小さくなるほどの巨躯。少し前に聖教国で相対した攻勢工廠型(ハルシオン)を彷彿とさせる威容だ。

 

「ええ、あの国は心底恐ろしいものがあります」

 

レーナもその意見に同感し、そこで派遣される陸戦艇や陸上戦艦。輸送部隊の編成を見た。

 

「第四号特別派遣憲兵大隊は以前より共和国から撤収を行なっていた部隊。彼らの撤収はすぐに終わるので、その後は我々と協同して共和国全市民の避難誘導を行うとの事です」

「…」

 

レーナからの話を聞き、シンは改めて少し厳しいものがあると思った。

かの合州国の部隊の支援があるとは言え、全市民を救援する事は叶わない。

 

連邦と合州国、双方に分かれるように避難民を乗せるのは一人でも多く人命を救う為と両国は声明を出すに違いない。過去にどんな事をしていようと人の命は平等であり、杜撰に扱ってはならない。

 

そこで敢えて共和国のエイティシックスの事実と併せて報道するに違いない。自分に政治というのはとことん向かないなと内心で思いながらレーナを一瞬だけ見た。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

  • やってほしい
  • やらなくていい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。