共和国市民の脱出を行う中、イレクス市内の連邦軍と合州国軍の合同警備区画に指定された地域でレーナは顔見知りと再開していた。
「お久しぶりです。フィッシャー中佐」
「お久しぶりです。ミリーゼ大佐殿」
そこで敬礼をして天幕に入ってきた合州国軍の士官服を纏った男に敬礼を行う。
中佐に昇進した見知った顔である彼は、現地の案内人として味方部隊撤退の後に行われる共和国市民避難誘導の合州国側の責任者としてここに立っていた。
連邦と合州国で半分になるように分けられた官僚や軍人。彼等を最初に避難させ、市民のヘイトを向けさせる。だがその事を表立ってレーナに言うことは無かった。
「まさかこんな時にお会いするとは思っても見ませんでした」
「ええ、私もです」
レーナはシンと別れ、連邦軍の機動打撃群の司令官として、この作戦で防衛を担当する合州国側の部隊と話したばかりであった。
「いかがでしたか?将軍とのお話は」
「あはは…恥ずかしながら、少し疲れてしまいました…」
彼女は軽くため息をついて先ほど話したパットン将軍から肩をバンバンと叩かれて絶賛されていたのを思い出す。
比較対象が酷すぎると言うのもあるのだろうが…、彼女の武勇伝は将軍も知っていた様子だった。
『お嬢さん、俺の部下にならないか?俺の部下になればいくらでも権限をやるぞ?』
そう言って憚らない将軍に周りの将校が疲れた様子で将軍を後ろに下がらせていた。無論、レーナは丁重にお断りしていたのだが、いかんせん快活なお方ゆえにレーナもその熱に当てられた様子だった。
「では、私はこれで」
「はい。市街地の警備、よろしくお願いします」
「おまかせを」
テオパルドはレーナに笑顔で承諾すると、その直後に彼女に話す。
「ああ、ミリーゼ大佐」
そこで彼はレーナにあることを告げる。
「他の機動打撃群の面々にもお伝えください。『もし見たい場所、写真に収めたい場所があるなら事前に行っておきなさい』と」
「?…分かりました」
「大佐殿も、見たい場所があれば必ず一度は見にいくことをお勧めします」
「…」
テオバルドはレーナに強く進言すると、その深い意味のある眼差しに彼女はやや怪訝に思いながらテントを後にした。
合州国軍と連邦軍の合同警備区域で<レギンレイブ>、<バーントテイル>と<ファルケ>の二台はコックピットを開けていた。
その傍に立っていた二人の視線の先には、行列を成して紺色の制服を纏った軍人が囲んでいた簡易の柵に囲まれていた市民を見つめていた。
その列の向こうでは一機のモビルスーツ…機種は確か<ドワッジ>だ。全く、モビルスーツの機種は多くて敵わない。
派生系や実験機も含めたら把握不可能なので、最近はこの戦争に合わせて機種統合が急速に進んでいた。
「…」
その機体のコックピットは開いており、その中で合州国軍の兵士が休憩していた。その手にジム・マシンガンが握られており、高初速の90mm弾頭は一般的な<レギオン>を薙ぎ払うことができた。
するとその合州国兵はこの純白の<レギンレイブ>を前に手を振ってきたので、ハルト達も手を振って返す。
「はぁ…」
別に監視を行なっているわけではない。ただそこに居るだけで共和国の白豚どもは怯えて黙々とその行列に並んでいた。
「何ていうか、
「ええ、見てよアイツらの顔」
レッカはそこで顔を俯かせて歩く市民を見つめる。
ーーなんだ。
そこで小さく嘆息する。
あんなに威張っていた共和国が、あんなに恐ろしいと思っていた共和国が…。
今ではちっぽけな犬のように見えた。怯えて声も出せていない犬のように見えた。
囚われていたのは
怖いものに、本当に恐れていた<レギオン>に立ち向かう勇気を捨て、目を背け、耳と目を塞いだ。
その結果が強制収容所とグラン・ミュール。八六区とエイティシックスだ。
あんなに大攻勢で死んだにも関わらず、他の場所では軍人と市民で罵り合っているという。まるで地獄の犬のようだ。
結局、それも全てまやかしに過ぎなかったのだ。
いつまでも脅威に怯え、現実から目を逸らし、まともな対策もせず、それで恐怖に囚われて動けない。
それを自分の所為だとは断じて認められなくて…この十年の人生を否定できなくて…。
その結果が目の前の景色だ。身一つでこいと言われたにも関わらず、鞄を抱えている人が多く散見される。鞄ならまだ良いが、ひどいとスーツケースを持っている市民もいた。
開戦時に壊滅した共和国軍が悪い。
動かなかったグラン・ミュールが悪い。
エイティシックスが悪い。
軍が悪い。
戦わなかった市民が悪い。
自分以外の誰かが悪い。
きっと、この後もそのように彼等はそう叫ぶことになるのだろう。そう言い訳をして、雁字搦めになって、動けなくなって…それでも喚き続けるのだ。
「…恨んでいるのもバカらしくなってくるわね」
「ああ、そんな事にリソースを割くわけにもいかねえだろ」
レッカにハルトは頷くと、目の前に
「よう、元気にやっているか?」
「「っ!!」」
そして乗っていた一人の軍人が話しかけると、二人は驚いた様子だった。
「テオバルド?」
「久しぶり〜」
乗っていた青年を見て二人は再会に驚いていた。
「どうしてここに?」
「避難する市民を乗せるのと、共和国までの先導役」
「なるほど…」
二人は久しぶりの再会に驚くと、次に彼の階級章を見た。
「中佐…」
「そうそう。この前、情報部に異動になってね。悲しいことにもうモビルスーツには乗れないと来た」
「え、そうなんだ…」
「じゃあ乗らないの?」
「訓練と必要運転時間で乗る時以外はね」
彼はそう話すと、運転席に座っていた士官がテオパルドに耳打ちをした。
「…うん、了解。銃で殴ってもいいから乗せて」
「分かりました」
彼は端的に指示を行うと、聞いていたハルトは少々怪訝に見てきていたので彼は言った。
「ああ、避難中の市民だよ。どうも移動用のカーゴが怖いと喚いたらしくってね」
「「…」」
その時、二人はテオバルドの当たり前のように指示をしたことに違和感を感じていた。
今までの付き合いで彼に対する印象というと、どちらかというとほんわかとした温厚な印象があったからだ。リノという飛び抜けた才能の陰に隠れてしまっている印象があったのだ。
「それから…」
「「?」」
そこで彼は二人に言った。
「君たちも、もし市内で行きたいところがあったら必ず行くことをお勧めするよ」
その意味深な言葉は確信を持った様子だった。そのことがとても疑問になり、二人の中で引っ掛かりを覚えた。
「じゃあ、僕はこの辺で。そろそろ行かないといけないから」
「ああ…」
「うん、気をつけて…」
必要な言付けを終えた様子で彼は再び車に乗り込むと、その直後に彼の部下であるだろう年上の雰囲気のある軍人がアクセルを踏んで走り出していった。
「…どう言うこと?」
「さあ…?」
走り去った後、そのテールランプの灯る車を見送って二人は首を傾げていた。
その頃、確保した高速鉄道路線近辺の地域。本国の領土から蜘蛛の糸のように伸びていたその街道は現在、二本の轍が出来上がっていた。
そこを走っていく無数の巨大な列車。しかしそれは軌条を使うことなく走り抜けていく。
連結された<グランペルリ>は、中に最初に味方部隊の人員や装備を乗せて最優先救助対象を救出した後、続いて共和国市民の添乗を行なっていく。
連結されたカーゴユニットの上では複数の<ジャガーノート>が自衛用に配備されていた。乗っているのは共和国で教育を受けた数少ない志願兵たちだった。
そのカーゴの下に乗っているのは
とはいえ、この十年の重みは想定以上に彼等に『責任』と言う形でのしかかった。
走る<グランペルリ>はそのまま到着先である合州国の防衛線以内に用意された乗降場で列車は停車して大量に内包した共和国の軍人や政府高官を下ろしていく。
連邦側が使用する高速鉄道よりも何倍も人員の収容ができるこの列車は、この第一便でほぼほぼ行政に必要な人材やその家族、資料を運搬できた。
「こっちよ」
「はい…」
そこで人目を避けるように私服姿のその親子は手を繋いで乗り換えるバスに乗り込んでいく。
「孤児はこっちだ」
「気をつけろ!」
下ろされた先で無数のフラッシュが炊かれる。先んじて合州国が派遣した報道機関の面々だ。配慮して政府高官や軍人を撮影しているが、彼等からの白眼視は止まる事を知らない。
そして降車を完了させると、対して中身の確認もせずに前後にプッシュプル方式で機関車が連結されていたその便は進行方向を変えて走り出していった。
「ひっ…!!」
その時の轟音と激しい振動に一部の市民が怯えた声を漏らしたが、すぐに銃を持って立哨していた兵士に睨まれてトボトボと歩き出した。
自分たちが晒し者にされているのだと理解せざるを得ない。
しかし今の自分たちは何も持っていない。抵抗する拳すら、十年前に捨ててしまっていた。
彼等はそこで用意されていた軍用トラックやバスに乗り込んで南に向かっていった。
その巨大な車列を護衛するのはギャロップを中心に編成された小規模部隊だ。街道を点で繋ぎ合わせて作られたその警戒線は、ギャロップを仮設の補給基地として
「哀れなものだ」
その中の一つの小隊が二機の<マラサイ>を載せたベースジャバーの離陸を確認する。
「故郷を失うとはな…」
「いえ、ある意味で正しい結果なのでしょう?これも…」
そこで迷彩を施された車列は多数の共和国の市民を抱えながら避難していた。
「そろそろ司令部からの部隊が到着する。丁重に向かえ入れろよ?」
「了解です」
そう話した時、彼等の前に二機のベースジャバーが四機のモビルスーツを搭載して着陸してきた。
「ストーンヘンジからの観測隊、到着しました」
「迎えに行くぞ。司令部直属の部隊だからな」
「はっ!」
そこで<マラサイ>を動かしてパイロットは回線を接続すると、<EWACジェガン>に乗り込んでいたパイロットが話した。
『ストーンヘンジ観測隊、隊長のクラウ・フリッツ大尉です。短い間ですが、お世話になります』
「エレウィン・ケベック少尉です。大尉殿、よろしくお願いします」
偉い人を前に彼は口調も整えて答えた。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい