グラン・ミュールの外、撤退計画の司令所として与えられた
事前にシンより<レギオン>の全部隊をマッピングした情報を受け取り、全部隊に共有させていた。これにより、事前の撤退計画との差異と問題点の洗い出しを行なっていた。
本国の前線からここまでの数百キロの行軍ともなると、広範囲にわたって多くのモビルスーツや陸戦艇を整然と、遅滞なく、順番通りに撤退させる計画を立て、実行させるのが指揮官の仕事だ。
「至急、将軍に連絡をとってくれ」
「了解しました」
そこで年上の部下となってしまった副官に言うと、彼は夜戦電話で接続していた旗艦に連絡をとっていた。
これほどの規模の部隊を展開させると、すべての部隊に撤退の順序と各々が辿る経路、警戒時の担当区域の割り当て、整備・補給・休息の順番もあらかじめ設定して通達を行う必要があった。
しかもそこでは共和国の移送する市民を満載した<グランペルリ>の作った轍を事前のダイアグラム通りに運行させる必要があった。
「数分の遅れも許されない。乗り込み拒否する場合は置いて行っても構わん。改めてその旨を全体に通達」
「はっ!」
テオパルドは指示を行うと、士官服を纏う兵士たちは走る。すると一人の連絡員が彼に耳打ちをした。
「中佐殿、司令部付きの観測隊がポイントγに到着しました」
「よし、展開するすべての部隊は一時間おきの定時連絡を必ず取れる場所に一個中隊を待機させておけ」
「了解しました」
そこで警戒待機させているいくつかの部隊を、八五区の郊外に点在させた小隊に接近させていた。そして市民の避難計画の推移を確認してから戦況図を見つめる。
シンの異能で敵情偵察要らずというのはとてもありがたい。現状、攻勢に出た<レギオン>はそのまま戦線に張り付いて動く気配は感じられない。
幸い、とはとても言えないが。
こんな状況を見たら、そりゃあジャブローの会議室で将軍たちが嫌味の一つでも言いたくなるわけだ。
誘い込まれたにしては攻撃といった抵抗も一切なく、何かしらの意図があることは明白だ。警戒するに越したことはない。
最初に陸上戦艦で<レギオン>を引き潰して以来、攻撃が一切確認できなかったのが気味が悪かった。
「中佐殿、デプロッグとディッシュの用意が完了したそうです」
「了解した。すぐに飛ばすように言ってくれ」
「はっ。直ちに」
そこで戦略爆撃機と早期警戒機が本国から離陸するのを聞くと、次に彼は聞いた。
「大尉、『作戦命令第35号』の状況は?」
「現在、特別物資がストーン・ヘンジ放題に到着。必要な物資を受け取り、砲撃準備完了は五分後を予定」
「了解。すぐに我々も移動できるよう、最低人員を残して陸戦艇に搭乗を」
「分かりました」
テキパキと合州国軍の兵士たちは動くと、その中で僅かに雷鳴の塔に轟く音がする。
「派手に打ち上げますな」
「全くだ。将軍の好戦ぶりには頭が痛いよ」
「はははっ、少なくとも補給将校は怒鳴り込みに向かうでしょうな」
そこで近くで垂直離着陸をして<マラサイ>を二機載せた<ベースジャバー>が着陸してくる。自分たちの護衛を担当する機体で、交代時間になってこの場所に着陸していた。
その機体を見上げながら次に彼は聞いた。
「で、作戦中の味方部隊の撤退支援はどこか?」
「はっ、『T3部隊』が新狩りを担当します」
「…」
その直後、その部隊名を聞いてから一瞬の沈黙がされた。そして小さな嘆息。
「…分かりました」
その部隊の名を聞き、僅かに彼の目元が鋭くなると事情を察した様子で彼のことを知る副官は話す。
「この部隊は
「それどころか、八五区全体も守れそうだがな…」
「しかし数が多くありません。まだ<タロス>の運用も万全でありませんし、指揮官機は必要不可欠です」
「無論だ。自立で動かせる兵器は実用化されから即座に我が軍は運用するに決まっているだろう」
「それはそうですが…」
そこで彼等は次々と遠くで進発を行なっていく<グランペルリ>の轟音と振動を感じ取る。連結されたカーゴユニットには整然…とは言えないが、着の身着のままで登場していく共和国の市民が乗り込んでいく。
「連邦軍の方は?」
「高速鉄道がひっきりなしに走ってます。とにかく人を詰め込むって話で、市民の大半は有蓋貨車にも詰め込まれていますよ」
「…無事だった車両をかき集めたわけか」
「そういうことです」
高速鉄道の軌条の復旧作業も最低限で済ませ、欠陥工事寸前で作戦行動を行った連邦軍の工兵隊には脱帽する。
確かに合州国より共和国に建材を中心とした復旧資材を与えた。しかし世の中『タダで動く国家』なんてものは存在しない。そこにはしっかりとした合州国側の思惑があった。
周辺国もそのことはわかっていたので、それゆえにこの国は一体何を目的に共和国に復興資材を送り続けたのだろうかと諜報員を使って調査させていたが、今日までその理由が判明することはなかった。
「まあ、良い気味といったら悪いですが…少なくとも多くの国民は同じことを思うでしょうな」
「よせ、彼等とて人間だ。それに彼等は難民として正当な手続きを踏んだ共和国市民だ」
「同じことを思える市民が一体どれだけいるのか…」
そこで彼等は今回の避難する共和国市民に与えられる土地と、そこを監視する部隊の編成に政府の思惑を感じざるを得なかった。
「今回再編成を受けた監視部隊は、全員が白系種の民族で構成された部隊だそうです」
「ああ、聞いている。市民とのいざこざを抑える目的で編成された部隊だろう?」
「はい。戦友がいなくなるというのはいささか悲しいですが…」
「仕方あるまい。余計な衝突を抑えるためにはな…」
そう言うと彼は疲れた様子で改めて帽子を被り直していた。
「はぁ…」
そして陽の傾いた秋の空を見つめると、彼はそこで耳打ちされた。
「中佐殿、そろそろお食事の時間です」
「あれ、もうそんな時間かい?」
「はい。どうぞこちらへ」
そこで彼はギャロップに案内されると、そこでふと立ち止まって彼は廃墟となったグラン・ミュールを見ていく。
走り出していく<グランペルリ>には下士官とその家族の移送も終わりを迎え、一般市民の避難がすでに始まっていた。
「今日の夕食は?」
「料理長が腕によりをかけたハンバーグステーキだそうで」
「おお、それは楽しみだ」
そこで休息をしていた他の兵士とともに彼等は食事をとり始めた。
その頃、遠くにグラン・ミュールを見下ろすことの可能な小高い丘の裾野でクラウ率いる小隊も食事を取っていた。
戦闘糧食のアルファ米を温めながら彼女は今日のメニューである中華丼を食べる。
小隊に配属された機体は二機が<EWACジェガン>で構成され、残りは<ジェガンD型>で編成されていた。
「はぁ…」
湯気の立っているその食事を前に彼女は軽くため息をもたすと、直後に通信が入る。
『大尉殿。お食事をご用意したのですが、いかがでしょう?』
話しかけてきたのは、付近で自分たちの後衛を担当する護衛部隊の隊長であった。自分より階級が下であることで経緯を持って話しているが、そこから垣間見えるご機嫌伺いはどうも好かなかった。
「いえ、こちらでももう食事を用意してしまいましたので…申し訳ありません」
『おお、それは失礼いたしました』
そこで彼は軽く謝罪を行ってから通信を切ると、直後に軽くため息をついた。
「やれやれ、私にご機嫌伺いをしたところで意味ないでしょうに…」
『まあ、隊長はフィッシャー中佐殿と仲がよろしいではありませんか』
そこで知覚同調を用いで話しかけてきた僚機に彼女は苦笑気味に返す。
「だからってねえ?私は司令部直属の観測隊の隊長なだけだし…」
『見る目はあると思いますよ?ただ隊長は
「そこが問題点なの…!」
彼女は文句を垂れながらスプーンで作った中華丼を掬って口に頬張る。熱々の餡に絡まった木耳やうずらの卵が口の中で軽く火傷を引き起こしそうになる。
「あちっ…で、観測機の方は?」
『はっ、本国からディッシュとデプロックが進発したと連絡がありました』
そこで僚機の観測機が報告を行うと、少々意外にクラウは聞き返した。
「へえ、カモノハシじゃないんだ…」
『司令部によりますと、いずれも作戦後の撤退支援を目的に展開するそうです』
「了解。予定通りね…」
彼女は夕食を食べると、そこで一つ文句をこぼした。
「あーあー、どうせ今頃テオのやつはうまい飯食ってんだろうな〜…」
『隊長が中佐殿の副官になってついていけばよかったのに…』
「それができたら苦労しねえってんだ」
クラウはそう愚痴ると、聞いていた面々の笑いを誘っていた。
同時刻
コンペイトウ
その場所で一つの
「離陸完了」
ミノフスキー・クラフトを使用して空中に浮かんだその艦艇は、まだ試験段階であることを示す白と赤色に塗装されていた。
「アスワン改、離陸確認しました」
「了解した」
そこで離陸していった艦艇を見上げて要塞の司令官が報告を受けて頷く。
「可哀想なことだ…」
司令官は離陸したその艦艇を見つめて嘯くと、隣で副司令官がが話した。
「もしグラン・ミュールが<レギオン>に使われる場合、我が前線は危険に晒されることとなります」
「ああ、分かっているとも」
その艦艇に装備された機体を前に彼等はため息を漏らさざるを得ない。
「それより、ストーン・ヘンジからの連絡はまだか?」
「少々お待ちを…」
そこで副司令官が答えた直後、持っていたタブレットに連絡が届いた。
「只今、運用可能なすべての砲の砲撃準備が完了しました」
「弾着観測は?」
「ポイントΔまでの観測隊の展開を完了させています」
今回の救援部隊の総司令官も兼任していた要塞司令官は、そこで離陸した艦艇に装備された三機のモビルスーツを見つめた。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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