ハルトが大広間で子供達にゲームの洗礼を受けている頃、孤児院の浴場ではレッカとクラウが五人の女児達の体を洗っていた。
「わーい!お風呂だー!」
「こらっ!走るんじゃない!」
湯気の立ちこめる浴場に走る少女にクラウが軽く怒鳴る。
此処の孤児院は設立者であるアイダの両親の意向で極東の地の文化が取り入れられていた。その一つがこの大浴場だった。
「……」
湯の張られた浴槽を見てレッカは唖然となってしまう。前線基地ですら見た事のない大量のお湯を使った浴場はレッカにとっては物珍しい光景だった。
「はず初めに体を洗ってから入るのよ」
「そうなの?」
「ええ、そう言うルールなの」
そう言い、すでに何人かの子供達は浴場に置かれた椅子に座って石鹸で体を洗っていた。
この孤児院にいる十二人の子供の内、一番上が十二歳、一番下は八歳だった。男子七人、女子五人が共に暮らしており。皆<レギオン>によって家族を失った子供達だった。
「もっと多いと四十人くらいはいたんだけどね」
「そんなに……?」
体を洗いながらクラウとレッカは話す。
「ええ、戦争が始まってまだ序盤の頃。マッキー山脈まで軍が後退した影響で多くの孤児が発生して、そう言った子供達が事態が落ち着くまで孤児院に預けられていたの。政府から助成金も出された状態でね」
「そうだったの……」
レッカはその当時の状況を想像し、少し表情が曇った。
「まぁ、私やリノは戦争の前から孤児院育ちの人間だったから。いきなり家族がいっぱいやってきた程度の感覚だったけどね」
「戦争前から孤児だったの?」
レッカが聞くと、クラウは頷いた。
「ええ、リノは教会の前で籠の中に入れられて捨てられ。私は人身売買の闇業者の中に居たらしいわ」
「っ……!!」
しれっと語られた惨劇にレッカは一瞬固まってしまった。するとクラウは他人事のように語る。
「警察が摘発した人身売買業者で、高額で売られていたそうよ。あたしにそんな価値があるのかって思っちゃうけどね」
異能が使えるような貴種でも無いのにと、彼女は淡々と語る。そんな彼女の態度にレッカは驚愕してしまっていた。
「そんな簡単言える事なのか?」
「いやぁ、記憶にないくらいだし。生まれなんて気にしていないからね。私にとっての家族は此処だから」
そう言い、後ろの浴槽に使って疲れを癒している子供達を一瞥する。
彼女達は浴槽に使ったまま非常に緩んだ顔をしていた。
「ああ言う子供達の面倒を見るのも悪くないでしょう?」
「……」
レッカはそんなゆったりしている少女達を見て、少し微笑んでしまう。悪くないと思ったからだ。
「滅多にこう言うことをしてこなかったでしょう?」
「ええ、まぁ……」
するとクラウは少し微笑んでレッカに言った。
「だったら、此処での経験はいい思い出になると思うわ」
そう言うと彼女は桶を使ってからだから石鹸を洗い流すとそのまま湯船に浸かり始めていた。
そしてそれに釣られるようにレッカも体を洗い流して浴槽に恐る恐る入ると、全身が暖かくなるその感覚に違和感と気持ちよさを覚えた。
あの地獄のように冷たいシャワーを浴び続けてきたレッカにとっては温かいシャワーですら初めは違和感しか感じなかったが、この浴槽に浸かる感覚はそんなシャワーとも違う常に温められている気分だった。基地で味わったサウナとも違う程よい湿度の空気に思わす、
「はぁぁぁぁ……」
と大きく溜息が漏れてしまった。
するとその溜息を聴いた少女が少し笑ってレッカを見て言う。
「疲れているんだね」
「……」
指摘されて少し顔が赤くなってしまうと、別の少女がレッカを見て言った。
「じゃあマッサージをしよう!」
「マッサージ?」
レッカが首を傾げると、クラウは少し微笑んで言う。
「マッサージね、いいんじゃない?此処のところ忙しかったしね」
「じゃあお風呂出たらやろう!」
「じゃあついでに私もやってくれる?」
クラウがそう言うと、少女達はやや渋い顔を浮かべる。
「えー、クラウ姉ちゃんはいいよ」
「何で?」
「だっていつもやってるもん」
「おまけに疲れちゃう」
「えー、そうかしら?」
そう言って彼女達はクラウのマッサージを拒否すると、レッカはその光景に軽く吹き出しそうになってしまった。
「賑やかね」
「ええ、この子達が起きている間はいつもこんな感じよ」
そう言い、クラウ達は湯船に浸かる彼女達を見ていた。
それから少しして時間になって浴場を出た彼女達は脱衣所で濡れた体や髪をタオルで拭き取り、ドライヤーで髪を乾かしていた。
「もうちょっと水分を取るようにタオルを使うの」
「こう?」
「そうそう、そんな感じ」
そして脱衣所でドライヤーを使ってレッカはクラウの指導の元、先ほどレッカにマッサージを提案した少女の髪を乾かしていた。
「レッカお姉ちゃん」
「何?」
髪を乾かす間、その少女はレッカに聞く。
「お姉ちゃん達って、どうして此処に来たの?」
「っ……」
その問いにレッカは返答に詰まる。
自分達はエイティシックスで、共和国から亡命して来て身分を隠すため。とは言えるはずもなく、どう答えればいいかと困っていると横でクラウが代わりに答えた。
「レッカとハルトはね、戦争で家族が遠い場所に行っちゃってね。それでうちで預かることになったの」
「そうなんだ!」
クラウがうまく誤魔化して答えると、少女はレッカを鏡越しで見ながら言った。
「じゃあ私たちと同じなんだね」
「え?」
少女は嬉しそうな表情を浮かべてレッカに言う。
「私たち同じ!家族!」
そう言って彼女はレッカを家族と呼んだ。その事にレッカは唖然となってしまう。
「家族……」
自分の家族は戦争が始まった時に収容所に連れて行かれて、そのまま死んだ。
残ったのは自分一人で、他は誰も残っていなかった。
「家族か……」
レッカは髪を乾かしながら不意に呟く。すると少女は呟いた。
「私、戦争が始まった時は赤ちゃんで何にも覚えていないの」
「そうなのか?」
「そう、だけど私の家族はいっぱいいる」
そう言うと、少女は着替えて髪を乾かしている他の子供達を見る。
「そう……強いのね」
そんな少女を見てレッカは思わず呟くと、少女は軽く首を横に振った。
「そんな私は強くないよ。だって転んで怪我したら泣いちゃうし。友達が引き取られていくのを見て羨ましく思っちゃったもん」
そう答えると少女は自分の髪を乾かしてくれているレッカに優しい表情で言う。
「本当の親がいなくてもリノお兄ちゃんやクラウお姉ちゃん、アイダさん見たいな家族がいるから私は此処にいられるの」
とても十一の子供とは思えないくらい大人びた言葉を連ねる。
「たとえ本当の家族を失っても、こうやって新しい家族にいつかきっと巡り会えるんだって」
「……」
レッカは目の前に座っている少女が自分よりも幾分大人に見えた。
するとその少女は特徴的な金髪の髪を確認するとレッカに椅子を降りながら言う。
「じゃあ、この後のマッサージ楽しみにしててね」
「え、えぇ……」
そう言い残すと少女は脱衣所から後にして行った。
先に風呂に入ったレッカ達は浴場を出て孤児院の大広間の方に行くと、そこで何やら盛り上がっている声が聞こえた。
「そこだー!!」
「行けー!!」
「負けんじゃねえぞ!!」
男達の盛り上がる声と共に大広間ではハルトと少年がテレビゲームに白熱していた。
「……何してんの?」
レッカが思わず聞くと近くにいた少年が教えてくれた。
「ハルト兄ちゃん、ゲーム下手すぎて盛り上がってんの」
「凄いハンデ出してんのに五連敗!」
「逆に天才だよこれは」
どこか興奮気味に語る彼らにクラウやレッカは半分呆れていた。何で盛り上がっているかと思えば……
「はい勝ちー!!」
「くそぉぉおおおっ!!」
六連敗し、肩を落とすハルトの姿にレッカは苦笑する。
「何してんの?」
「ん?あ、いやぁ……このゲーム難しくってね」
「ふーん……」
対して興味のなかった為に適当にあしらうと、クラウが彼らを見て言った。
「とりあえず、あんた達。風呂空いたから入って来なさい」
「「「「「はーい!」」」」」
そして一目散に男児達は風呂場に向かって走って行く。
「俺が一番乗りだ!」
「おい待てよ!」
「ずるいぞ!!」
どこまでもどんちゃん騒ぎする彼らにクラウは半分呆れた様子で呟く。
「ったく、リノはどこ行ってんのよ」
そしてクラウはそのまま廊下に向かって叫んだ。
「ちょっとリノ!あんた何処に居んの?!もう子供達が風呂場に行ったわよ!」
すると上の階から返事があった。
『おう、今行く』
そう言うと上の階から片付け終えたリノが降りてくるとそのままハルトを引き連れて風呂場の方に向かう。
「ハルト、行くぞ。お前も風呂だ」
「え?俺も行くの?」
「当たり前だ。一人でヤンチャガキども見てられるかよ」
ハルトが驚いていると、彼は女児達に軽く背中を押されながら言われる。
「ほら、早く出てってください。今からレッカ姉ちゃんにマッサージなんですから」
「は?マッサージ?」
困惑するハルトにクラウが少し茶化しながら言う。
「あら、女の子がマッサージ見ているところを見たいの?」
「男の子だもんねー」
「ちっ、ちげえし!!」
べっの女児に煽られて慌ててハルトは否定すると、すでに風呂場に向かったリノから呼びかけられる。
『おい!早く来い!』
「わ、分かったよ!!」
そこでハルトは広間を後にすると、そのまま風呂場に向かって風呂に入って行った。
そしてそこで、ハルトが浴場の大きさに調子に乗ってダイブしようとした所をリノにぶっ飛ばされたのは言うまでもないだろう。
そしてリノは七人の男児相手に何か浴槽でやらかさないかなどの監視を兼ねて彼らを見ていた。
「なんか悲鳴が聞こえなかった?」
「さぁ?気のせいじゃない?」
女子しかいない大広間でレッカの疑問にクラウが答えると、レッカは少女達に半分強制的にうつ伏せに寝かされた。
「じゃあマッサージしていきまーす!」
そう宣言すると、その通り少女達はレッカの背中から腕にかけてその小さな手に力を込めてマッサージをし始めた。
五人の少女に身体中を触られる感覚にくすぐったく思いながらも、レッカはせっかくの好意に甘えることにしていた。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい