風呂に入り、汗を流した後。十二人の孤児達は消灯時間になるまで自由時間だった。
小学生ばかりのこの孤児院は学校の課題を終わらせたりしており、その課題に苦労しながら傍でリノやクラウが教えていた。
その間、ハルト達はアイダに今日泊まる部屋の案内をされて居た。
「今日はここに泊まってくれるかしら?」
そう言い、案内されたのは孤児院の職員用と思われる一人部屋だった。近くには孤児達の寝る部屋があり、アイダの私室もあった。
「分かりました」
レッカが答えるとそれぞれ割り当てられた部屋に荷物を持って入る。
士官学校の部屋と同じような質素な部屋で軽く荷解きをしていると、ハルトが部屋に入って聞いてくる。
「レッカ」
「?」
「……ここでの生活、どう思った?」
ハルトの問いはここの孤児院に来た感想だった。
初めはリノに半強制的に連れてこられた場所だったが、来てみれば思いの外心地いいと思えるような場所だった。
「すごく、良いと思った」
「そうだよなぁ……」
ハルトも同じように子供相手に舐められたりしてはいるが、ここに来て良かったと思って居た。
少なくとも、本当に戦時下なのかと思ってしまうほど平和な生活がここにはあった。
そして、こんな生活に憧れている自分がいた。
「どうしてだろうね。私、あの子達が羨ましく思えたわ」
「俺も、何だか昔自分が望んだ光景を見ているみたいで何とも……」
二人は同じ感情を抱きながら話す。
今日見てきた後悔はいつかの自分が見れて居たかもしれない光景を見ている様で、羨ましくもホッとした感情があった。
迫害さえ無ければ。
収容所送りじゃなければ。
もしかしたらあったかも知れないその光景に二人は何とも言えない感情が生まれた。
二人ともそんな思いに馳せていると二人の後ろから声をかけられた。
「二人とも、ちょっと良いかしら?」
声を掛けたのはアイダだった。突然の呼び出しにハルト達はやや首を傾げながら頷く。
「はい?」
「良いですよ」
そう答え、二人は孤児院の応接室に向かって行った。
応接室に移動した二人はそこでアイダから茶を淹れて渡される。
「これくらいしかないけれど」
「あ、いえ……」
「全然、ありがたいです」
そう答えて湯呑みを受け取った二人はそのまま中のお茶を飲むと、応接室に飾られた写真を見た。
「ここに居た子供達や友達の写真よ」
「一杯あるんですね」
「ああ、私の親の世代からここはあるからね」
そう言い、二人は写真を見ているとそこに見知った顔の映る写真を見た。
「リノ……」
そこには幼い頃のリノなのだろう、鼻に絆創膏を貼って今よりも鋭い目線の少年が片手に野球バットを持って写真に写って居た。
すると同じ写真を見たアイダは懐かしむ様に口にする。
「その頃はリノはやんちゃな子でね……よく他の子と喧嘩をやって居たわ…」
「そうなんですか……あれ?」
レッカはそこで写真をよく見て違和感を感じた。
「目が赤い……?」
写真に映るリノは何故か目が赤かったのだ。可笑しい、リノの瞳の色は確か青色な筈だ。
そんなレッカの疑問にハルトも同じように驚いていると、アイダは忌々しげにその訳を話した。
「今でも思い出すわ……もう四年も前の話。軍に入ったリノは軍の実験に参加して、その時の副作用で眼の色が変わってしまったのよ」
「軍の実験……?」
ハルトは首を傾げると、アイダは短く頷いた。
「ええそう、軍に入隊した彼は初陣で夥しい戦果を上げて勲章を取った。でもその時に右眼を損傷してしまってね。眼の治療の実験台として、彼は自らその実験に志願した」
「それで……その後は?」
「実験をうまく行って、右目は治ったけど……彼、右眼は青色になってしまったのよ」
アイダはそう話すと、さらにハルト達に続けて言う。
「治療した右眼は異物を入れられないからカラーコンタクトもダメで、オッドアイだと色々と面倒だからって左眼に青色のコンタクトをつけて生活しているのよ」
「そうなんですか……」
写真と目の色が違う事情を知り、二人は少し考えてしまう。
つまり、元は赤系種の混血であると言う事になるわけかなどと考えているとアイダはハルト達を見ながら聞いてくる。
「あなたたちも軍に所属しているんでしたっけ?」
「ええ…」
「それ以外に自分達がやりたいと思ったことも見つかりませんから」
「そう……」
ハルト達の話を聞き、アイダは悲しげな表情を浮かべる。それもそのはずだろう、幼い頃から消耗品として戦場でこき使われ、使い捨てられて来たのだから。
「私としても、貴方達には戦場から離れた場所で暮らして欲しいとは思うのだけれどね……」
「「……」」
それは無理だと、二人は思った。戦場こそが生き抜く誇りであった彼らはそれに縋る事でしか自分を見出せなかった。
「戦場という非日常に呑まれたら、貴方達の様な子供も一定数は生まれてしまうけれど……」
アイダはそこで忠告するようにハルト達に言った。
「貴方達がこれから軍人として生きるなら、これだけはよく覚えておきなさい。
戦争と日常は切り離して生活する事。
ある所で線引きをしないと、永遠の苦しみを受けることになるわ」
アイダはキッパリと断言する。それはまるで、知っているかのような口ぶりだった。
その忠告を聞き、ハルト達は不思議にも心に残ったその言葉を胸に留めた。
するとアイダは打って変わってハルト達に柔らかな口調で話しかける。
「今日はわざわざ来てくれて感謝するわ。ついでに面倒も見てくれて……」
「いえ、なかなかなかった経験ですから」
「むしろ有難いくらいです」
この国に来てマナーを学んだハルトは丁寧な口調で答えると、アイダも満足げな様子を見せた。
すると、応接室の扉をリノが叩いた。
『おーい、ハルト達居るか?』
「ここにいるわよ」
レッカが答えると扉を開けてリノが二人を呼んだ。
「ハルト、レッカ。今さっき連絡が来て、帰ったら報告書の訂正をして欲しいそうだ」
「えぇ、まじかよ……」
ただでさえ書類仕事の嫌いなハルトが悲鳴を上げると、アイダは時計を見てソファから立ち上がった。
「さて、そろそろ消灯時間ね」
「あっ、見守りこっちでやっとくわ」
「お願いできる?」
「まかせろ、お袋も無理しすぎんなよ」
そう言い、アイダが応接間を後にすると部屋には三人が残った。
「……ねぇ、リノ」
「ん?」
三人になったところでレッカはリノに目の話を聞いた。
「リノって元々赤目だったんだね」
「……お袋から聞いたか?」
「そんな所」
ハルトが答えると、リノは軽く溜め息をついた。
「はぁ……あまり言うなって行ってんだけどな」
そう答えると彼は応接間のソファに座った。
「どこまで聞いたんだ?」
「軍の実験で右目を治したところまで」
「結構ガッツリ話したのな……」
やや苦笑気味にリノはレッカから聞くと、彼は応接室のソファに深く座り込んだ。そして、どこか懐かしむように彼はその時の状況をざっくり話す。
「四年前、俺が初陣でジムに乗ってた時に〈レギオン〉の奇襲攻撃に出会した。
俺は文字通り死に体になりながら戦い、最後は重戦車型の直射で乗って居たジムは倒れた。
そん時に俺は右眼を一回やっちまったのさ」
「よく生きて来れたね」
軽く話を聞き、思わずそんな言葉が漏れる。
「あん時は俺も疑問に思ったさ。目覚めたら軍病院のベットの上だ。おまけに激痛で動けない」
「うわぁ……」
その痛みが想像できてしまい、思わずそんな言葉が漏れる。少なくとも自分も骨折をしたからこの国に来たわけで、骨折した後の処置の痛みはハルトも十分理解して居た。
「それで、そのあと右眼が見えなくなったのを聞かされ、それが治るかもしれないと言われたら。普通飛びつくだろう?」
「そうだな」
「そうね」
眼が見えないのは戦場において死を意味する。視覚が制限されると、それだけで直ちに作戦行動に影響する。片目で生活となるとまず苦労するのは目に見えてわかる。
「そんで、俺は軍の手術を行った結果。眼が見えるようになった代わりに右眼の色が変わっちまったわけだ」
「大変だったのね……」
「いやぁ、確かに片目だけの生活期間だったり術後は苦労したが、おかげで普通に生活できてるんだ。有難い話だよ」
彼はそう答えると、ハルト達に言う。
「そろそろ寝ておけよ。お前たちは明日飛ぶんだろう?」
ハルト達は休暇で今度、大陸南端に存在するダウン・アンダー島に向かう予定となっている。そのための準備も済ませて状態だった。
時刻を見ると午後十一時、既に子供達は寝ている時間だった。
「あっ、もうこんな時間だったんだ」
「明日朝早いから寝るわ」
そう言い、二人は応接室を出る。それを眺め、リノはそこでまた一息吐いた。
二人に託された役目である合州国旅行は次第に彼らに生きる楽しみを与える行事となって居た。その証拠に、二人で次の旅行先を決める時の楽しげな会話や戦闘前の無駄話も増えて居た。
仲間がいると言う強い支えもあるかもしれないが、それ以上に次の休暇まで
「(いい意味で働き始めたようで何よりだな……)」
リノとしては毎度のごとくこっちの肝が冷えるような戦闘は避けて欲しいし、何よりエイティシックスが戦争で死亡したなどと言われれば国内で大ブーイングものだ。そもそも、エイティシックスが自ら望んで軍人になった事も徹底的に秘匿されているんだ。むしろ、こっちとしては退職金をがっぽり出すから軍をやめて欲しいと思っていた。
だからこそ、新設された大隊は主に後方任務ばかり行わせていたのだ。
「リノ、ハルト達って寝た?」
「……あぁ、明日からアイツらはまた旅行だからな」
「……何があった?」
リノの間の置いた答え方にクラウは首を傾げると、彼は答えた。
「お袋が右眼の事を話したようだ」
「……」
話を聞き、クラウはやや目線が細くなる。
「お袋がハルト達を此処に連れてきた時点でもしかしてとは思っていたが……」
「まぁ、あの人も全部知っているわけじゃないから大丈夫だろうけど……」
彼女はそう言うと、リノは軽く失笑してクラウに言う。
「少なくともお袋に言えるわけがないだろう。ましてや余所者のエイティシックス達には……」
リノはそう呟くと、付けていたコンタクトレンズを取る。オッドアイの青と赤の瞳はもう見慣れたものであった。
するとクラウはそんな彼を見ながら言う。
「貴方ほど連邦軍に恨みを持つ人間もいなさそうね」
「だが、俺はその連邦軍の保護下にいないと命が危ない……なんとも矛盾した話だ」
失笑しながらリノはコンタクトレンズを取って、少しすっきりした表情を見せていた。
「全く、エイティシックスと出会ったのが運の尽きかな……」
08小隊全部流すの太っ腹すぎるやろ、公式さん……(・Д・)
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい