翌日、フリッツ孤児院ではこれから大陸南端のダウン・アンダー島に向かうハルト達を見送る為に孤児やリノ達が孤児院の入り口に訪れていた。
「んじゃ、行って来まーす」
荷物を持ってハルト達は私服姿で孤児院の入り口に立つ。
「「「「「行ってらっしゃーい!」」」」」
「休暇ギリギリで帰ってくるなよ」
「怪我しないでね」
リノやクラウも二人を見送るために孤児院の門で見送ると、最後にアイダが二人を見て言う。
「気をつけて。もし何かあったら、此処にきてちょうだいね」
「……はい」
レッカが答えると、そのまま二人は荷物を持って孤児院を後にして行った。
書類上の家であるフリッツ孤児院を出た二人はそのまま空港に向かう。
今回の目的地はかなり遠く、航空機に乗っての移動だ。巨大な半島国家である合州国は多くの空港が設置されていた。そして大小問わず民間機や軍用機が離発着していた。
これから向かうのは沿岸部に存在するいくつかの島の一つ、大陸最大の島であるルナリス島に続いて二番目に大きいダウン・アンダー島だ。
ここは二七年前の一年戦争時にあの悪名高き戦術、『衛星落とし』によって都市の六〇%が壊滅したセドニーと呼ばれる都市がある。
現在この都市は沿岸部に巨大なクレーターや衛星落としの衝撃波で残された都市部もその大半が破壊され、まともに人が住むことさえできない場所であり。近くにはトリントン基地と呼ばれる連邦軍の後方基地が置かれていた。
一部ではセドニーの残された建築物を使った戦争史博物館があると言う事で、そこが今回の旅の目的地であった。
『エア・ユナ79便、アデレート行きは。現在、保安検査を行なっております。チケットをお持ちの方はーーーー』
空港に到着し、今では慣れた携帯を触りながら保安検査を行う。
ハルト達はこれから超音速旅客機に乗って南部に飛ぶ。特徴的な白鳥のような見た目の航空機は目的地まで二時間ほどで到着してしまう。
官民共用の空港だからか滑走路にはミデアやセイバーフィッシュなどの軍用機が駐機しており、いつでも出撃が可能になっていた。
またセイバーフィッシュは<レギオン>勢力圏でもまともに運用できるように宇宙用の熱核ロケットエンジンを搭載した機体だった。
「……」
そんな軍用機が置かれている景色が見える中でも、航空機の利用者は気にする素振りすら無くゲートで待機する。
合州国では一般的な超音速旅客機の他にも、マスドライバーを備える場所では宇宙空間まで物資を打ち出すシャトルなどがある。
民間用のシャトルに乗れば簡単に宇宙空間まで旅行に行けるそうだが、その分値段も高い。行けたとしても当分先の未来だろう。
ゲートの前で席に座って待っているハルト達はそのまま呆然と空港の景色を見ていると、遠くで何やら騒いでいる様子の声が聞こえてきた。
「急いでいるんだ!」
「お待ちください!」
ハルト達もその声のする方を見ると、そこでは一人のスーツ姿の男が乗務員の制止を振り切って慌てている様子だった。
「私は連邦議会の議員だぞ!」
そう言い、その男は半分強引に隣のゲートに割り込んで行った。
「何あの人?」
「横暴だなぁ……」
思わずそう呟くと、後ろでヒソヒソと誰かが文句を言う。
「ったく、政府特権だよ」
「くそっ、これだから特権階級は……」
そんな文句が吹き出し、ハルト達は先ほど割り込んで行った男に不快感を露わにしていた。
「政府特権……」
「なんか、政府高官の特権のようね」
「ふーん」
携帯で調べて出てきた情報を見て、レッカはハルトに教える。
「ああやって優先的に飛行機に乗れたり、特別な機体に乗れたり。色々優遇されるんだってさ」
「羨ましいねぇ……」
「うわっ、このサイト悪口ばっか書かれてる」
そう言いレッカは特権のついて文句を書いているネットの掲示板を読んでいた。
「全く、国境線じゃあ<レギオン>が居るってのに……」
そこに書かれた内容は散々なもので、政府の腐敗に関する情報も載っていた。
「わぁ、このサイトすごいや。政治の不正の証拠をみんなで集めてる」
「そいつはすごいな」
離陸直前、席に座った二人はそんなネットの掲示板を見ていた。
「みんなでいい政治にしようって思う人は多いんだね」
「あっ、共和国にどうするべきかとか書かれている掲示板とかあるんだ……」
そんな国内の政治批判以外にも噂の共和国に関する掲示板も複数できていた。
現在、合州国の世論として『共和国に対する制裁』を政府は前向きに検討していた。その為に共和国派遣軍団の編成を行うとこの前発表した。
バグラチオン作戦における損害はすでに補填しており、いつでも帝国への侵攻作戦の準備は進んでいた。
共和国における有色種の迫害に国民は怒り、共和国救済の名の下に彼らは拳を高らかに挙げる。
その光景はまるで……二七年前、海に出た人類の独立を掲げて連邦との戦争を行ったジオン公国国民のようであった。
『これは、愚劣なる合州国市民に対する裁きの鉄槌である!
神の放ったメギドの火に、必ずや彼らは屈するであろう!!』
ブリティッシュ作戦時、ジオン公国総帥ギレン・ザビが行った演説の内容である。
ここはトリントン市の郊外にある戦争史博物館。衛星落としの影響でまともに機能しなくなった都市の一部を使い、一年戦争のような悲劇を繰り返さぬ為にレビル将軍肝入りで作られた場所であった。
その博物館で、一年戦争と言う合州国の内戦の歴史をハルト達は見物していた。
此処には一年戦争時に活躍したモビルスーツや数々の兵器が展示されており、中には損傷したまま展示されているのもあった。
「すげぇ……」
ハルトはその中の一機、一年戦争時に多大な戦果を上げた<RX-78ガンダム>だった。もちろんレプリカではあるものの、その偉業はハルト達を驚かせるのには十分なものだった。
特徴的なトリコロールカラーの機体はリノの駆るガンダムとはまた違う
「これが連邦初のガンダムなのか……」
此処は連邦軍のブースであり、他にも<RX-77ガンキャノン>や<RX−75ガンタンク>、<RGM-79ジム>など多様なモビルスーツやボールと呼ばれる戦闘用ポッドなどが展示されていた。
巨大な敷地には連邦系やジオン系のモビルスーツが展示され、それらは最前線基地でも見てきた機体もあった。
「そういえばリノは初めはジムに載っていたんだっけ?」
「なんか、旧式機も引っ張り出してるって聞いたわね」
「それだけ数が足りないのかな……?」
そんな疑問を感じながら二人は博物館で次にあのレビル将軍が行った事で有名な『ジオンに兵無し』演説を聞いていた。
『ーー現在、スコット・シティに於て休戦条約の交渉が行われていることは知っております。
しかしっ、現時点での休戦はなりません!
それは「休戦」ではありません!「降伏」であります!
永き歴史と文化・文明を有するこの地球市民が専制と独裁に屈するということであります!!ーー』
演説を聞き、ハルト達は力強く話す一人の軍人を見る。
『ーー人的・物的資源がもとより限られているコロニー国家ジオンは、長く困難な戦いを戦い得ない!
それ故にジオンは早期講和を望んでいる! その思惑に乗るべきではない!
戦い続けるべきである!
ジオンに兵無し!
我々は必ず勝利する!!』
攻撃的な演説を聞き、ハルト達はそこで心中に抱いた思いがあった。
このレビル将軍の演説によって、当時講和条約と言う名の事実上の降伏勧告を受けていた連邦は一気に掌を返して戦時条約の制定に踏み切った。そしてこれがジオンを泥沼の長期戦に引き摺り込み、連邦勝利に導いた。ただ……
「(この演説のせいで、一年戦争がより一層過激化したんじゃないか?)」
二人はそう思うようになった。実際、連邦軍の敗北はなかったものの同時に戦争の長期化の原因となったのではないかと思ってしまった。
正直、三十年近くも前の話で当時の状況を知る人も今ではいい年になっているような時期だ。あくまでも自分たちは歴史上の一つの出来事でしかなかった。
この博物館は一年戦争の系譜になるように順路が決まっており、戦局の推移をこの目で確かめることができた。
「うわぁ、この時期の連邦軍って相当腐敗してたんだ……」
「こんなんじゃ帝国が攻めてきたらまともに対応できなかったんじゃない?」
そしてそのブースでは主にレビル派と呼ばれる人間が、当時の連邦軍の腐敗を大っぴらに曝け出し。より良い政治を未来に残す努力をしていた。というより、これは吊し上げに近いのかもしれない。
「拳銃をまともに撃てない士官って……」
「ウチらより終わってんじゃん……」
予想以上の堕落さに思わず二人は苦笑してしまった。此処にあるのが誇張だと思いたいくらいな話だ。
「少なくともリノじゃああり得ない話だな」
「そうね……」
少なくとも、自分たちが旅立つ直前に容赦無く白ブタを撃ち殺していたあの光景は自分たちは軍人ではない事を示しているかのようだった。
「あれからウチらは少しくらい成長したのかしらね」
「さぁ?俺にはわかんないや」
そう答えると、二人はそのままブースを進み。
次に南極条約締結後のジオン軍による連邦本土上陸作戦や、合州国のMS開発計画『V作戦』の概要などが書かれていた。
『鷲は舞い降りる!
これはシーノイドにとって大きな飛躍なのである。
ギレン総帥は決断されたのだ。
ジオン独立戦争開戦劈頭…我々は正義の剣を大陸へと打ち込んだ…。
然るに、連邦議会の者どもは未だ大陸に呪縛され惰眠を貪っている。
総帥はこのキシリアに命じられた…。
最早、我が腕により正義の鉄槌を下すため。大陸戦線を形成すると!
真の自由のために、我々は大陸のルツボへと舞い降り。大陸の解放を約するものであると!
我が第一地上機動師団は既にして、橋頭堡をケリフォルニア方面に構築し、全土を平らげるべく進軍しつつあり!』
大陸上陸作戦時、ジオン公国軍突撃機動軍司令キシリア・ザビの行った演説だ。
これ以降、戦線は大陸へと移り。後のオデーサの戦いに置けるまで、戦局はジオン軍が優勢となっていた。
元は、合州国の建造したコロニーに大陸本土では支えきれない人間を住まわせた……一部では棄民政策とも呼ばれた当時の合州国軍の姿勢に反抗する目的で行われた独立戦争はいつの間にか、選民思想との戦いに変わっていた。その時、ギレン総帥が口にしたのが『ニュータイプ』だった。
一般的にニュータイプはおとぎ話程度の話であり、それが何なのかはよく分からなかった。
エスパーとも言えるかもしれないが、そもそもそんな人間がいるなんてことが信じられなかった。
帝国などにいる異能者とも違うのかと、とにかく分からない事だらけで合州国ではよく笑い話に使われていた。
少なくともハルト達はそんなふうに考えていた。
オデッサから先はまたいつか書く予定なり。(予定は未定)
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい