今回開発されたフェルドレスはホバートラックのような指揮通信と索敵に加え、恐らくガンタンクのような長距離砲撃支援も加味されているかもしれない。でなけれはあんな二〇〇ミリなどと言う巨砲を積む必要はないからだ。
すでにザメルやガンタンクⅡが陸上戦艦の送り出せ無かったり、それほどの必要が無いような地帯向けに小改良を加えた状態で生産が行われているが、それでも数が足りていないのは事実。
だからフェルドレスが作られない理由はなかった。
「このフェルドレスを前線運用を考えて居ないのであれば、十分強力なんじゃないかな?」
「ええ、軍からも元々後方支援用の機体としてガンタンクとほぼ同じ運用思想ですからね、一応この車体を元に兵員輸送型とホバー型の開発も入って居ます」
「ホバー型って……?」
リノが首を傾げると技師はその詳細を語った。
「制作しているのはハービック社ですね。今でこそAE社の傘下にありますが、あそこも再び独立したいと考えているようですからね」
「ああ……」
そこでリノは納得できた。
ハービック社とヴィックウェリントン社は老舗企業であり、呉越同舟のような関係だった。
しかし一年戦争後、MSの登場で戦闘機を専門に扱って居たハービック社は急激に売り上げが伸び悩み、最終的にAE社に買収されていた。
だが、老舗企業としての誇りがまだ残って居たハービック社はいずれは独立して再び再出発を図りたいと思って居た。
そして、今回のフェルドレス開発はまさに絶好の機会だった。
使える技術の全てを導入したが、結果はヴィックウェリントン社の機体が採用された。しかし、試作機にホバー機能を取り入れた高速移動は軍部高官の目に留まり、ヴィックウェリントン社の機体にホバー機能を組み込む改造を会社に要望した。
そしてそのままホバー機構を取り入れた機体は〈ハンティング・ドックⅡ〉として採用され、我が国に於けるフェルドレス開発は一時の夢と終わった。
多脚戦車と言う不安定な新技術より、輸送機を流用したホバー走行と言う合州国では確立した技術を使う方が安上がりな上に機械的信頼性も高かったのだ。まあそれもガンタンクⅡと言うすでに量産されていた似たようなコンセプトの車両がいるわけだが……。
「長距離支援車両なら十分かな」
「まぁ、うちらが乗ることはあり得ないわ」
「だろうな。元々あのフェルドレスだって前線運用を考えて居ない機体だからな」
だから標準装備でアンダーグラウンド・ソナーを装備しているのだ。
ただこれも、あくまでも数の足りないEWACジェガンなどの電子戦用MSの数が揃うまでと言う繋ぎ的役割なのだが……。
予定では一年後に始まるとされる帝国領侵攻作戦に間に合うように製造が行われていた。
「あのフェルドレスはすでに改修が始まっているんだとさ」
「もう?まだ生産が始まったばかりなのに?」
「マジかよ」
接待としてヴィックウェリントン社の応接室で出された紅茶を飲みながらハルトとレッカはリノに聞く。
「まぁ、ここら辺は複雑な事情があるから詳しく言わないが。まぁ、少なくともフェルドレスの制作はあの機体だけで終わるかもな」
「なんで?」
ハルトの疑問にリノはわかりやすく教える。
「考えてもみろ、すでに我が国にはMSと言う優秀な兵器が存在している。元々もフェルドレスの開発目的である『戦闘車両と歩兵を複合した汎用型陸戦兵器』の概要を思い返してみな」
「え?うーん……」
「ああ、そう言う事ね」
そこでレッカが納得した表情を浮かべた。何気にこの国に来て必死でお勉強した甲斐あってか、ハルトもその点に気がついた表情でリノを見て言う。
「なるほど!モビルスーツは人型だけど突進だけで時速六〇キロ出るし、ドムに至っては二二〇キロ出せる」
「おまけに武装もフェルドレスよりも圧倒的に豊富で高火力」
そう答えるとリノは正解だと言わんばかりに首を振った。
「そう、だから本来この国にフェルドレスの需要はあまりないって事だ。成長したな」
「そりゃ、きちんと学びましたから」
「流石に小学生に負けたら努力するよ……」
そう言い、軽く胸を張るハルトにレッカが答えた。なるほど、プライドがズタズタにされたわけね。そりゃ真面目に勉強するわけだ。
最近はミノフスキー物理学に興味があるようで今度学んで見たいとも語っていた。
だが、予定は未定であり。当初予定されているよりも違う時期に行われるのはよくある話だ。
だが、予定よりも早い段階で作戦を行うのは歴史上でも珍しいと思う。
リノ達がフェルドレスの視察を行った一週間後、突如として帝国領侵攻作戦の開始日が大幅に繰り上げられる旨が伝えられる事となった。
「ったく、忙しいったりゃありゃしない」
突然の作戦開始に伴い、リノは前線基地で書類整理に追われて居た。予定より一年も早く行われる事になったこの作戦で、前線には多少の混乱が生まれて居た。そもそも、予定より早く作戦開始となったのには共和国が関わって居た。
現在、国内でも大きな話題となっているエイティシックス。彼らを救出することは国民の願いであり、共和国の凶行に祖国である白系種が主に声をあげて居た。そして、それら兵士は義勇軍『白の督戦隊』として現在は軍の管轄下の元で訓練を受けていた。
帝国領侵攻作戦の後に行われる作戦であり、共和国領侵攻作戦はあくまでも
「補給目録はどうだ?」
「実弾はウチらほぼ使わないから問題ないわよ」
「強いて言えばバルカン砲とガンタンク、あとはあの試作機くらいじゃない?」
そう答え、共に確認をするクラウとエリノラは答える。
今回は急遽繰り上げとなった帝国領侵攻作戦の為に急遽補給物資の確認をとっていた。
「ったく、なんでウチらのところに一七〇ミリ弾薬が届くんだよ」
間違えて届く補給物資の確認をとりながらリノは受話器を取って補給将校に一報を入れる。
「あぁ、もしもし。補給物資にウチらで使わないのあるんで引き取りに来てください。はい…はい……よろしくお願いします」
そう答え、リノは受話器を置く。なにせフェルドレスがまだ間に合っていない現状での侵攻作戦だ。すでに帝国領に侵攻できる戦力と物資があるとは言え、まだ対共和国戦の準備もできていない現状。政府や軍上層部に殴り込みに行きたい気分だ。
すると自分たちの直属の上司であるアーノルド少将の養子のテオが部屋に入ってきた。どうして作戦が繰り上げられたのか聞きに向かったのだ。
「親父から連絡来たよ。なんでも対共和国戦を始めろと議会に国民が押し寄せたんだって。それで政府も立ち行かなくなって先に帝国領に進んである程度行った所……目標はヴァルト盟約同盟南方。政府は山脈に囲まれたあの場所まで行くらしいよ」
「はーあ、随分と長い行軍距離な事で……」
地図を見ながら考えると、思わずそんな言葉が漏れてしまう。
「上は盟約同盟が生き残っていれば国交を、滅んでいれば占領をするらしいね」
「飛んだ火事場泥棒じゃないの」
「世界一大きな火事場泥棒ね」
まさかの作戦に思わず苦笑してしまうと、いつもの四人は基地の倉庫で待機するMSを見る。
「ったく、共和国も俺たちに余計な仕事増やしやがって……」
「そもそもなんで迫害なんてしたんだろうね」
「さぁな、少なくとも俺たちじゃあ考えられない事でもあったんじゃねえか?」
リノは考えを放棄した声で言うと、倉庫で試作フェルドレスの上で楽しげに食事をする二人を見ていた。
「……」
そんな共和国の悲しき子供として名前や顔もわからないと言うのに白の督戦隊の首魁として祀り上げられている。
ある意味で彼らに関する情報が漏れていない事にこの国の情報管理能力に舌を巻くべきと言えばいいのだろうか。
「ともあれ、上が彼らを消す事を考えてなきゃ良いけど……」
素の状態のリノがそう呟くとテオがやや驚いた様子でリノに言う。
「なんだ、てっきり厄介者はお払い箱って言いそうだったけど」
「馬鹿言え、そこまで馬鹿じゃねえよ。共和国と同じことしてたまるかってんだ」
「あははっ、冗談だよ」
そう言い、リノはややきつい目線をしながらテオに返した。
「ったく、あのままこの四人で小隊やるだけかと思ってたんだがな……」
「まぁ、仕方ないよ。元々士官学校出の僕達はただでさえ今の時代は珍しい存在なんだから……」
「おかげでコンタクトを取れる機会が減ったよ」
「そもそも取るなって医者から言われてるでしょうに」
「違和感があるんだよ」
リノは不満げに答え、青い相貌で見てきた。
「まぁ、生きているだけ物種ってものよ。世の中生きている方が重要なんだから」
「そうそう、死んだらお金になるだけでそれだけなんだからさ」
クラウとエリノラが言うと、リノも理解しているために何も言い返さずに基地の一室で仕事を再開する。
バグラチオンと同等の作戦が始まるのだ。
「全く、何が『戦死まで戦いぬく』だ。死んだら誰かの記憶の中でしか生きられないんだ」
「……」
その時のリノの呟きに一瞬エリノラは手が止まる。あながち間違っていない事ではあるが、それは彼らの誇りを侮辱しているようなものだった。
「まっ、彼らなりの秩序があるなら俺も口出ししないが……」
「そうね……あまり他所様の感情に口出ししてもね」
リノの意見にクラウが賛同すると、テオが最後に言う。
「だけどあんな子供すらあんなに変わってしまうのが戦争なんだもんね……」
「「「……」」」
その事にダンマリしてしまう。幼い頃から念仏の様に聞かされた一年戦争の話を思い出してしまう。
この国では目を閉じていても言えるくらい覚えさせられる、一年戦争の残酷さをこの歳になって自覚する事になるなんて……。
「……取り敢えずEパックの確認しとけよ」
「はいよー」
「了解……って言ってもウチらはジェガン用の奴が有り余っているけどね」
そう言い基地の倉庫の一角に置かれているジェガン用のEパックの山を見た。
「少将には感謝だな」
「さすがはゴップ元帥の一番弟子」
「補給を第一にする人だからね。父さんは」
どこか誇らしげに言うと、リノは改めて補給目録のリストを確認する。
「取り敢えず、作戦の為に補給を忘れるな。特にあの試作機は中身の人間も死んだら俺たちの首が飛ぶ」
「それ考えるととんでもない爆弾だよね?」
「下手したら核兵器より厄介な爆弾かもね」
「はははっ、あながちが違いじゃないかもね」
そう言い四人はコテージ作戦の為の準備を着々と進めていた。
そしてしばらくして作戦が始まり、作戦初期段階でオオコケするとともに『史上最大の軍事演習』や『世紀の空振り』と揶揄される事になるコテージ作戦に於いて、ガンダムの馬鹿げた性能を生かしたリノは不完全燃焼のまま基地に帰還するのであった。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい