86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

145 / 186
外伝#11 南方見聞録その11

コテージ作戦の直後にギアーデ帝国がギアーデ連邦と民主化革命を起こした事を知ってからおよそ一週間後。

 

「不満そうね」

 

基地の屋上でタバコを吸うリノにエリノラが声をかける。

 

「これで不満じゃないと?」

 

リノは逆に聞き返すと、彼女も思うところがあるのだろう。首を軽く横に振った。

 

「何が民主化革命だ。クソッタレ」

「まあまあ落ち着いて。またドミトルさんにぶっ飛ばされるよ」

「……」

 

エリノラに言われて一本吸い終えて大きく息を吐くと、リノは視線の先に映る最前線を見てつぶやいた。

 

「向こうのトップは余程のインテリさんかねぇ……」

「さあ?会ったこともないから分かんないけど……」

 

少なくともこの情報に合州国市民は懐疑的な目線を向けている事だろう。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

合州国は建国以来、仮想敵国としてギアーデ帝国が存在していた。

 

それはこの国が始まって数百年と続く伝統であった。

 

元々の建国理念が大陸南方を帝国の手から守る事だった。

 

大陸南方は何年も前に、元は巨大な島だった現在の合州国本土が大陸と合流して出来た場所だ。

その時のエネルギーは今でもマッキー山脈の高度が伸びている程の膨大なエネルギーだ。

恐らく、連邦中のミノフスキー核融合炉を併せても届かないだろうそのエネルギー量は、この大地に住まう人間と山脈の向こうに住む人間との大きな壁を形成していた。

 

ここは我らの土地であるという強い地元愛は山脈の奥から襲ってくる魔の手を異様に恐れた。

毎年のように地図が大きく変わり、国が消滅している強大な軍事力を持つ帝国に、我らの先祖は地の利を生かした戦法と、規格化で対抗していた。それから独創性と個人の自由。

これら共和国とも違う個人の自由を第一とする完全な立憲革命を成した合州国はその根底に『帝国の脅威』を感じていた。

 

今から二百年程前、帝国が我が国に侵攻を始めた際は事前に情報をキャッチしており、山脈上から撃ち下ろされた無数の規格化された砲弾は帝国侵攻軍を壊滅させるに至った。そしてその結果、合州国はついに山脈を越える事となった。

 

『帝国技術局に送られた設計図は三日後に連邦軍工廠に届いている』と噂されたほど、諜報に力を入れていた合州国は呉越同舟とも言うべき関係で連合王国との同盟も交わしていた。ヴァルト盟約同盟は武装中立国家であった事から、親密な関係になろうとは思っていなかった。

 

連合王国・共和国・合州国と三方を囲まれた帝国はその次に東方へと足を伸ばしていた。

さしもの帝国も、当時は三国を相手に戦えるとは思って居なかったのだ。だからこそ、特に親交の深かった南北の大国を仮想敵国として居たのだ。

何よりマッキー山脈からの砲撃で痛い目を見た帝国軍はこの山脈超えの為にあらゆる手段を考えていた。

 

まず南部に海を持たぬ帝国は海を手に入れる為に東方に進出したが、合州国や連合王国の莫大な軍事事支援を受け思うように占領は進まず、補給限界が来てこれを断念。

 

次に山脈を丸ごと破壊するために八〇センチ列車砲などと言う珍兵器を開発。そしてその後に生まれたのが弾道ロケットだった。

元々はマッキー山脈を上から破壊する予定が、それ超えて合州国内の都市をいつでも攻撃可能なミサイルへと運用方針が切り替わっていた。

そしれそれら情報は当然の如く合州国も掴み、対抗したミサイルを配備していた。

 

そしてそれら兵器の行き着く先が、核兵器だった。

合州国は核兵器を発明し、帝国もパワーバランス崩壊を危惧して数ヶ月後に核兵器の開発に成功させた。

 

 

 

 

 

そんな仮想敵国として数百年続いた歴史は、たった一夜にして崩壊したのだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「合州国の敵は帝国……どれだけ聞かされて来たことやら」

「まぁ、歴史を見れば一目瞭然だからね」

 

士官学校で散々言われてきた事だ。

リノ達は冷戦関係であった帝国が一夜にして崩壊した事実に唖然となって居た。

 

「あれだけ長い期間戦争と侵略を続けていれば国内が疲弊するか……」

「彼方と違って補給が持たないんだろうね。対してこっちは守りを固めれば良いだけだし」

 

合州国としては帝国を滅ぼす手段として戦前から確かに国内で暴動を起こさせて居た。多民族国家の専制君主制である事を利用し、その弱点である民族同士の対立を煽って居た。

 

常に対帝国を幼少期から叩き込まれ、国境線の奥の帝国と言う国に多少なりとも危機感を抱いて居た。

 

「所が蓋を開ければ帝国は崩壊、建国以来の強敵は消えたか……」

「ある意味では平和になったのかな?」

 

少なくとも、一年戦争時ですら帝国の防衛を欠かさなかったくらいだ。

開戦当時、ジオン公国は帝国と交渉をしたと言われているが、折り合いが悪かった為に結局帝国の援助はなかったと言われている。当時の文書は未だ発見されて居ないが、関係者の証言によるとマッキー山脈以北の領土全て()()()()()()()()()()()()()()()を条件にジオン公国の援助をすると言ったとか何とか……

この条件に当然の如くジオン公国は譲歩をねだったが、結局は破談となったと言われている。

 

「だが、問題なのはこれからの政治だよ」

 

基地の格納庫を歩きながらリノは言う。

 

「どうして?」

 

そんなリノにエリノラが聞くと、彼は答える。

 

「今までの戦争目的は『帝国に報復する為』だったのがその肝心の帝国がいないんだ。これからどうプロパガンダをするのか……」

 

そう言い、脳裏に町に貼られている募集兵の広告を思い返す。

そこには果敢にレギオンに立ち向かうMSや兵士の絵と共に『帝国を倒せ!』と書かれたはずだ。

 

「少なくとも全部広告は貼り直しだね」

「大変だろうなぁ」

 

そんな事を呟きながら二人は格納庫に閉まっている二機のガンダムを見る。

 

「そう言えば()()()()勉強って最近やってる?」

「忙しくてあまり出来て居ないな……」

「やっときなよ?今度マルコ兄さんが見にくるし」

 

エリノラに指摘され、リノは少し考える。

 

「そうだな……もう少しで俺も転属できるか?」

「うーん、それはどうだろうね」

 

赤と青にそれぞれ塗装が施され、それぞれパーソナルマークを貰っていた。

これでも<レギオン>の重戦車型や機甲部隊を何機も落としてきたエースだ。個人のパーソナルマークを持てる時点でそれなりの実力を持っていた。

試作ガンダムの性能実験(倉庫の肥やしのお払い箱)として拝領したこの二機の試作ガンダムは元の計画がオジャンになった事で試作品として解体もされずに倉庫の端でお寝んねしていた所を引き摺り出されていた。

元々は完全空中戦用の超高速攻撃機だったが、実戦用に脚部をZガンダムの物に換装していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

今次戦争において数多の機種のMSが戦場を駆け回っている影響で、この前の作戦前のように補給物資に手違いが起こっている。正直、整備班もこの代替に配属された機種の多さに悲鳴をあげている現状だ。おまけにガンタンクはとんでもない旧式機と来た。

 

今の連邦系の主力はジェガン、ジオン系の主力はギラ・ズールだった。急ピッチで生産が行われているも、それでも前線の消耗もあって昔の自分の居た部隊のようにジムを引っ張り出す所まである。

 

おまけに共和国の出来事もあってMSの需要はさらに高まっていた。

 

「こうなると分かっていたなら、共和国まで偵察行かなかったんだけどなぁ……」

「旅は道連れって感じじゃない?」

 

基地の司令室でタブレットを開いてリノはブツブツと言うと、横でクラウが席に座って本を読みながらコーヒーを飲んでいた。

するとリノが呆れたようにクラウに言う。

 

「ったく、今勉強中なんだが?」

「あら、行けなかった?」

「別に良いけどよ……」

 

いつもの四人の中でもフリッツの名を持つ二人はエリノラ達とは違ってある意味で本物の孤児だ。一番長い付き合いであり、一つ下のリノにしてみれば妹みたいな存在だ。

だからこそ、クラウが何もしないと分かっている為にリノも強く言わなかった。

 

「どう?技術士官に成れそうかしら」

「まぁ、ぼちぼちって所かな」

 

そう言い彼はシャーペンを走らせる。タブレットにはMSの構造やパーツの場所と名前が記されており、膨大なページ数が収められていた。

 

「この前、マルコ義兄さんには良い評価貰ったんだ。技術士官見習い程度で雇ってもらいたいね」

「その前にまず学士課程を終わらせなきゃねー」

「それをまとめて消化しているんだろう?」

 

そう答え、彼は授業動画を流し見ていた。

 

 

 

すでに士官学校を出ているリノ達はその前は大学に通っており。戦時下と言う異例事態に際し、休学と言う形でリノ達は士官学校に入っていた。

そして士官学校での半年の訓練を経た後にとある諸事情でリノ以外の三人は大学の課程を終わらせていた。

 

「全く、士官学校最後最後の初陣であんな戦果を叩き出したから、今では苦労しているよ」

「良いじゃないの。お陰で大学から色々と優遇されているんだから」

 

映像授業を流し見て恨めしそうに呟くリノにクラウは飄々と言った様子で答える。

 

「その映像授業も貴方の為に特別に作って貰っているんでしょう?それにレポートと論文を出せば単位取れるんだから文句言わない事ね」

「へいへい分かっていますとも」

 

リノは適当にあしらうと映像授業を眺めたままレポートを並列で書いていた。

 

「しっかし、あの子供達の勉強を見ろって言われた時は驚いたものだったわ」

「そうか?」

「まぁ、予想以上に勉学に関して知らない事が多かったわね」

 

そう言い、彼女は初めはハルト達に小学生の勉強を教えていたと言う。

 

「それが今じゃ高校の内容まで行ったのか……」

「おまけに吸収力もすごいから教えるのも簡単でありがたいわ」

「そうでもしなきゃすぐ死ぬような環境だったものな。吸収力は抜群だろうよ」

 

そう言い、あのすぐ横に死が待っていたあの戦場で生き残った理由でもある技の習得性の高さを言う。

元々は士官学校で教官にも教えられていたのだが。上の大馬鹿野郎、足りない部分は全部こっちに丸投げしやがった。

 

「ねぇ、今度数学教えてあげれない?私歴史とかの方しか詳しく教えてられないから」

「あいよ……ってかエラに任せちゃダメなのか?」

 

同じ理系のエリノラじゃダメなのかと聞くと、クラウは首を軽く横に振る。

 

「無理に決まってんでしょう。エラの教え方だと逆にあの子達が混乱するわよ」

「あっ、そうか……」

 

そこでリノはハッとなって軽く頭を抱えた。

 

「なんちゃって理系だものな……」

 

そう言い彼は仕方ないと言った様子でレポートを仕上げ、次の授業動画を見始めていた。

 

 

 

 

 




個人的に復讐のレクイエムのザクマシンガンの音と見た目が好きになりました。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

  • やってほしい
  • やらなくていい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。