それから実に多くの作戦に携わった。
<レギオン>の大攻勢に、人類側の逆侵攻。
電磁加速砲型の撃破に、共和国領侵攻。
本当に多くの作戦にだ。
それまでにも自分たちは数々の場所を回ってきた。
街の中に存在する巨大な水族館。
一面が砂の砂漠地帯。
地面が泥濘んでいる熱帯地帯。
巨大なマスドライバーの存在する近未来的な都市。
水平線まで見える巨大な水上都市。
衝撃波で朽ちて植物の蔓延る旧市街地。
この国の歴史や自分たちの暮らしてきた場所と全く違う景色、周囲の環境。
そこらで触れて来た全てにおいて自分達は託された任務を全うしているつもりでいた。
生きて、そこで見た景色を伝える。
別れ際、彼らと約束した最後の会話だった。
負傷して、そこで共に逝く事が出来なかったから賜った我々の死神からの命令。
しかしそれは、人とは残酷と思っていた自分達には眩しいと思っていた光景だった。
煌びやかな灯りの付く街中で、自分達だけが取り残された様に周囲の人間は進み続けていた。
街の情景が変わる度に置いて行かれているようで、自分達は一生そこにいるべきなのかと思ってしまうほどだった。
ただ自分達は与えられた使命を果たす為、合州国のいろいろな場所を巡った。
自分達が初めて訪れた外の世界、合州国。
そこで見た景色は常に死が隣り合わせだったあの戦場とはかけ離れた、ただただ静かな空間が広がっていた。
戦場を忘れる事が怖く、自分達は懇願して軍人になった。半年の訓練の後、自分達はフェルドレスに乗り込んで再び戦場を走った。
そして<レギオン>と対峙して戦っている時、自分達は取り残されていないのだと実感できた。まだ生きていると感じられた。
ただ、それだけでよかったと思っていた。
リノに連れられ、書類上の家であり。一度も訪れた事の無かった孤児院。そこに居た十二人の子供達は自分達と同じく。戦争で家族を失い、運命を狂わされた子供達だった。
彼らを見ていて、自分達はその子達の幸せな顔を見て『あり得たかもしれない未来』を見てしまった気がした。
それが少し羨ましいとも思ってしまった自分がそこには居た。
だけど、羨ましいと思っていても自分達の過去を変える事は出来ない。それはもう、結果論でしかないのだ。
だけど、そこで自分達は家族がいない事に成れていて、それでいて明日と言う未知の景色を笑顔で迎えられる子供達に遠い懐かしさを覚えた。
そしてそこで暮らす子供達は事情を知った後、自分達にこう言った。
『私たちと同じ!家族!』
親を失い、一人孤独となったその少女は自分を見て家族と言った。そう言われて嬉しいと思う自分が何処かに居たのかもしれない。
そこで自分達は教えられたのだ。たとえ本当の家族を失っても、心優しい人物と巡り会い、そして家族となる。
家族とはなんなのか、家族の定義とはなんだろうか。
永遠に答えられないであろうその疑問を抱きながら、自分はこの場所に居心地の良さを覚えた。
八六区で味わった仲間と過ごすあの空間の居心地ではなく、とうの昔に忘れていた温かみを……
帰りたいと思う家がある心地よさを……
帰れる場所があると言う安心を……
もう必要ないと思って昔に切り捨てていたその懐かしさを、この国に来て二人は思い出していたのだ。
明日に向かって歩く事に縛られる必要は無い。
それを縛っていたのは自分だったのだと気づくのにそう時間はかからなかった。
自分のみたい将来を探したい。
好きな事をしたい。
明日はどんな事をしようか。
そんな当たり前な事を望んでも良い。望む権利があるのだと、自分達は知った。
ごく普通の、当たり前な生活を過ごしても良いんだ。
その為には明日も生き残らなければならない。
今日生きなければ、明日と言う未来は一生訪れる事がないのだ。
ただ、『戦い抜く誇り』はいつでも自分の心の中に残っていた。
その日、作戦終了後に二ヶ月と言う今までで最も長い休暇をもらったハルト達は初めに一週間ほど孤児院に帰って子供達の面倒を見ていた。
そして一週間ほど泊まった後は合州国のコロニーを回る旅に出た。資金に関しては特別手当を貰っていたので休暇を乗り切っても問題ないくらいだった。
好きな場所を巡り、そこでさまざまな経験をして、時折失敗もあった。
だけど、そんな失敗すら自分達は面白いと感じていた。
そして旅も終わりの頃、今は建設途中で止まっているサイド7のダイナーに寄り道をした時の話だ。
「奢りだ、飲みな」
ダイナーでスペアリブを食した後に店の店主から奢りでコーヒーカップが出された。突然の奢りに驚いていると、その店主は言う。
「良い食いっぷりだ。若々しくて羨ましいよ」
「そうですか……」
「ありがたく頂きます」
そう言い、二人は店主から出されたコーヒーを飲み始める。
すると店主は皿洗いをしながらハルト達に聞いてきた。
「ここら辺じゃあ見かけないけど。どこから来たんだい?」
その問いにハルト達は陸地から来たと答えた。
「本土から来たのかい。そりゃあ見かけないわけだ」
そう言い、店主はハルト達にさらに聞いた。
「観光かい?こんな田舎じゃあ、特に見る所もないだろう」
そんな問いかけにレッカが答える。
「いえ、陸住みの私たちにとっては。こんな海の上での生活が羨ましいものです」
「うちらの様な輩には、この海の上での生活が疎ましく思う事もある。船酔いも起こらなくなるってな」
そう言い、店主は洗った皿を片付ける。
「……ずっとここに住んでいるんですか?」
「ああ、今更手放す気にはなれないね」
ハルトの問いかけにそう言い店主は皿を片付け終えると、二人の前に座り込んで一瞬二人をじっと眺めた、
「見た感じ、軍人さんかい?」
「分かりますか?」
レッカが店主に聞くと、彼は頷いた。
「ああ、私の若い頃にそっくりだ」
そう言うと店主は店の天井近くに掛けられた額縁を見る。そこにはおそらく配属された部隊なのだろう、ジムを前に大勢の人が集まって写真を撮っていた。
「私も退役した軍人でね。まぁ、一年戦争をなんとか生き残った人間だ」
そう言いながら店主はキセルを見せると、ハルト達は軽く頷く。そして店主はキセルに火をつけてタバコを吸い始める。
「ふぅ……あの戦争はとにかく生きるのに精一杯だった」
どこか懐かしげにその店主は語る。
「戦場で一つ星が輝いたと思えば、それは誰かが死んだと言う事だった。あの戦争で、私達は多くの事を学んだ。
当時の連邦政府とコロニーの関係。上層部の腐敗。
海に出た人間と陸に残った人間の意識の差。
あの時の私は何も知らなかった……」
店主は後悔も交えた表情でその時の状況を語る。
「一年戦争が始まる前の状況は、それはもう散々だったそうだ。
急激な人口爆発で大陸の至る所に人が住み、合州国はその人口の自重で押し潰される寸前だったと言う。
そこで、その問題を解決するために始めたのが海上移民だった。
一部じゃあ棄民政策だったと言われているが、望んで出て行った連中も大勢いた。もう帰れないと覚悟してな……」
「……大変だったんですね」
「だがそれも、一年戦争で元の木阿弥になっちまった……」
店主はそう言うと、空から落ちてくる無数の流れ星を思い出した。
「その時、連邦軍の一人として働いていた私は自分達の生活はコロニーあっての物だと自負しているつもりだった。
だがそれは、コロニーに住まう人々に対するある種の侮辱に過ぎなかったのさ」
「「……」」
店主の話にハルト達は静かに話を聞いていた。
「私は、何も知らなかったんだ。コロニーに対する認識も、彼らがなぜそこまで我々に怒りを向けていたのかも。
そして戦後、私は軍を辞めてここに住む様になった。まぁ、せめてもの罪滅ぼしに近いな」
そう言い、店主はキセルに口を付けてタバコを吸う。
「私はただ知りたかった。コロニーでの生活で、彼らがどんな苦労をしてきたのかをね」
「……その答えは見つかったんですか?」
そんな問いに店主は軽く首を振った。
「いや、まだ見つかっていないよ。ここに住み続けているが、満足のいく答えはまだ……ね」
店主はやや失笑して答えると、今度はハルト達に聞いた。
「君たちはこの前の侵攻作戦には参加したのかい?」
「え、ええ…」
「はい」
ハルト達はそう答えると、次に店主は店に張り出されている募集兵ポスターを眺めた。
「あの募集兵ポスターの語り文句は、ついこの前まで『共に帝国を倒せ』だったのになぁ……」
そう言い、今はられているポスターには『共にレギオンを倒せ』と書かれたポスターがあった。
「常に仮想敵国だった帝国亡き今、政府も慌てて戦争士気維持のために奔走しているんだ。この前、ポスターの確認のために憲兵が訪れた事もあった」
そう言い、店主はその時の光景を口にした。
「我々合州国の子として生まれたら必ずと言って良いほど教え込まれる対帝国……今から何十年も前まで、帝国という脅威に脅かされていたこの国には国民皆兵制度があったくらいだ」
「……どうしてそこまで帝国を恐れていたんでしょうか?」
そんなレッカの問いに店主は自分の考えを明かす。
「それは多分、
「呪い……?」
ハルトが首を傾げると、店主は頷く。
「そう、長年続いた習慣は半分呪いみたいなものだ。宗教の規則なんかも、初めは与えられた環境の下で生きるための習慣だった物だ。そして私も、一年戦争で呪いを受けた身だ」
そう言うと、店主はゆらゆらと浮かぶタバコの煙を見る。
「一年戦争最後の戦い、ア・バオア・クーの直前。私は仲間と共に戦争が終わるまで生き残ろうと約束した。だが……結局生き残ったのは自分だけだった」
そう言うと、店主はハルト達に注意する様に言う。
「二人も気をつけなさい。度が過ぎた約束というのは、呪いとなんら変わりない。約束が呪いとなって己を縛り付けてしまう事もある」
「「……」」
その瞬間、店の入り口から誰かが入ってきた。
「マスター、まだ空いているかい?」
「ああ、この時間はまだやっているよ」
そう答えると、入ってきた中年らしき男性はそのままハルト達の横のカウンター席に座った。
「はい、いつもの奴ね」
そう言い、店主はハンバーガーを慣れた手つきで出す。
「……マスター、この子達は?」
そう言い、横に座った茶色い天パが特徴的な男性が聞く。
「本土から来た若い子さ。この前の共和国にも行ったことがあるらしいぞ」
「…なるほど……」
そこで男性は水を飲む。
「こんな子供が最前線に?」
「らしいねぇ」
「まぁ、一年戦争の時よりは幾分マシなんじゃないのか?」
そう答えると、その人はハルト達を見ながら聞いてきた。
「その顔は随分と厳しい死線をくぐり抜けて来たみたいだね」
「え?」
するとその男性はそのままハンバーガーを食べ終え、代金を置くとそのまま店を後にする。
「また来るよ。マスター」
一瞬で出て行ってしまったその人にどこか既視感があると思っていると、店主が呟く。
「全く、今じゃこんな田舎でコロニーの仕事をしているけど、あれでも一年戦争じゃあすごい英雄だったんだぞ?」
「え?」
「誰なんですか?あの人」
ハルトが聞くと店主は少し茶目っ気に答える。
「ん?君たちもよく知っている人物さ」
星暦二一五〇年 一月一日
その日、一年戦争終結を記念した追悼集会が全国で行われていた。
合州国の軍人として式典に参列するハルト達はその手に菊の花を持って献花台の列に並んでいた。
ドドォン!ドドォン!
遠くでは弔砲の空砲が響く。三十年近くも前だと言うのに、未だ風化する様子すら見せない一年戦争。今では<レギオン>という脅威に晒されているが、それでも規模を縮小してでも行われているこの行事は。確かにさまざまな面においてこの国の転換期を表しているかもしれない。
<レギオン>支配域への侵攻作戦終了より二ヶ月ほど、遂に市民に公表される事となった共和国の虐殺の惨劇。相変わらず国内での共和国や白系種に対する批判は強まっていき、合州国に前々から暮らしていた白系種に対してまでも暴力の魔の手が伸び始めていた。
そして共和国まで向かった自分達もその懐かしくも恨めしい共和国の領土に再び足を踏んでいた。正直、共和国が滅んでいた事に興味はない。ただ、かつての自分達のいた場所に帰って来たのだと思った。だが……
「(今の私たちの居場所は、あそこじゃないから)」
撤収直前、ハルトとレッカは共和国の大地に色とりどりのスイートピーを、自分たちの背中から突きつけていた大要塞壁群に置いた。
帰る家がある。だけど戦場を忘れたくもない。
そんなわがままな自分達はあの後も軍人で居続けている。
なぜか?それは、会いたいと思う人が軍にいるからだ。春先に会うのは嘗て我々の死神だった人と戦友。今から楽しみだ。
「さて、次はどこに行く?」
献花を終え、過去の英霊達を慰めた後。ハルトはレッカに手を差し出しながら聞いてくる。
「そうね……私はデパートにでも行こうかしら」
「おっ!良いじゃん」
レッカにハルトは頷きながら反応すると、今度はレッカが聞く。
「ハルトは?」
「ん?俺はどうしようかなぁ……あっ、今映画やっているんだ。そいつを見に行こうかな」
「じゃあ、ここで別れたほうが良さそうね」
場所を思い返し、レッカが言うとハルトが答える。
「あっ、でもうまい店見つけたから。後でそこに行こう」
「オッケー、じゃあそうしましょう。終わったら連絡頂戴」
「りょーかい!」
確認を取り、二人は反対方向に歩く。
その足取りはとても軽いもので、二人の表情も同じように明るいものだった。
今までの苦労も悩みも、全てが晴れきった様な。年相応の若さ故に出来る時間の使い方をしていた。
二人とも毎日を生きる事への有り難みを感じながら、悔いの無い生き方を模索し始めたばかりであった。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい