86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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外伝#16 その日、大陸は業火に包まれたⅣ

六〇人と言う予想外の人数の孤児を収容してからのフリッツ孤児院は多忙を極めることとなった。

いくらお上から義援金が出るとは言え、それでも十人の赤ん坊を育てながら五十人の、下は一歳から上は十三歳と言う華広い年齢層の子供達を相手取るのは疲労困憊にならざるを得なかった。

 

「おい!お前の皿の方が多いだろうが!」

「そんなわけねえだろう!」

「寄越せ!」

「やだよ!」

 

食堂でそんな喧嘩が起こる。前までは静かなものだったこの無駄に広かった食堂が、今では非常に狭く感じる。

 

「そんなくだらねぇことで喧嘩すんじゃねえ!!」

 

だから怒声が飛び交うのはもはや当たり前のことだったかもしれない。

片手に竹刀を持ち、リノが喧嘩を始めようとする二人を叱る。子供だけで五〇人いるこの孤児院ではすでにキャパオーバーしており、こうして先に住んでいたリノがボスのようになって全員を見ていた。

正直、とっとと引き取り手の人が来て欲しいと思いたくなる惨状だ。

 

「そっちの子のおしめ交換してくれる?」

「はいはい!」

「そっちの子はミルクを作ってあげて」

「はいはい〜!!」

 

揺籠のある場所で赤ん坊を相手にアイダとクラウは奔走する。

 

孤児達を受け入れてから三週間。

時々子供の名前を確認しに来る電話がある程度で、まだ本格的な身元照会は行われていないのだろう。

学校に行くだけで精一杯と、とにかく死ぬほど忙しい。ヘルパーもまだ来ていないのでアイダはほぼワンオペで孤児院を経営していた。

一応それなりの義援金が払われたらしいが、それでも食費で手一杯で生理用品など半分は寄付頼りだった。

 

「大丈夫か?」

「あ?あぁ……なんとか、な」

 

学校で机に突っ伏していると普段から仲良くしている友人が声をかけてくる。

間も無く中学生になると言うこの時期に卒業どころじゃなくなってきており、それを察したのか今まで自分に厳しく当たることの多かった教師ですら授業中にぶっ倒れていても注意する事は無かった。

 

「死にかけてんじゃん。本当に大丈夫?」

「炊事洗濯家事掃除……あぁ、また赤ん坊が鳴いているのか……?」

「……」

 

変わり果てたリノの姿にさしもの旧友ですら顔を青くしていた。

 

「先生!リノがうなされてます!」

「……そっとしておきなさい。今、リノ君の家は色々と忙しいんだから」

 

 

 

 

 

「大丈夫?クラウ」

「うぅ……」

 

そしてクラウのいる教室でも、彼女はリノと同じように疲れ切った顔でぶっ倒れていた。目元は隈で真っ黒になっており、明らかに寝不足であった。

 

「あぁ……ミルクの時間ですか??」

 

そう言い、幻聴が聞こえたのかクラウがゆっくりと立ち上がって徘徊を始める。夜中は親が居ない事で心配になったり、その時のトラウマが蘇ったりして泣き始める子供や、赤ん坊が腹を空かしたりお漏らししたりしてミルクやオムツを付け替えたりでまともに寝たのがいつかすら怪しかった。

 

「先生!クラウがもう限界みたいです!保健室に!」

「えぇ、すぐさま寝かしつけてきて」

 

授業中に徘徊し始めたクラウを見かねて教師もクラウを保健室に連れて行かせた。

赤ん坊の世話をしたり、トラウマで泣く子供達相手にあやしたりとアイダはヘルパーがまだ居ない状態なのでほぼワンオペで動かしていた。

 

「う、うーん……」

「あぁ、喧嘩すんじゃねぇよ……」

 

保健室で悪夢にうなされるが如く普段とはかけ離れた姿になった二人を見て彼らの友人は労っていた。

 

「……今度母さんに相談して手伝いに行こうかな?」

「あんた赤ちゃんのおむつ変えられるの?」

「ミルク作るぐらいはできんだろ」

 

そう話しながら彼らはこの前転校してきた子供達を思い返していた。

 

 

 

 

 

ここら辺で大規模な孤児院がなのがフリッツ孤児院だ。そこに大勢の子供達が卒業間近の小学校に転校してきたのはつまりそう言う事なわけで……特に怪我を負った子供達もおり、教師から言われずとも戦闘に巻き込まれて出来た傷なのだと理解できた。

 

仲良くするようにと言われてきたが、正直気味が悪いと言うのがあった。

戦争で親を失い、その時のショックでまともに話せる子供達が少ないと言うのもあるのだろう。転校してきた彼らにあまり親密な関係になろうと思う生徒は少なかった。

ただ、ここまで友人が憔悴しているのを見過ごすと言うのは出来なかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

放課後まで保健室でぐったりしていたリノ達は学校が終わると同時に保健室の先生に『困ったことがあれば相談して』と言われたが、ただひたすらに『孤児院に人を送ってほしい』と言ってしまった。

 

ここ数日は昼夜逆転生活となっており、どんな徹夜よりも大変だった。

下手しなくとも喧嘩の時よりも疲れる『子守』という作業に元々寂れていて人数もほぼいなかった孤児院にはきついものがあった。

 

「あぁ…これからまたあいつらの面倒見なきゃいけないのか」

「今日も寝られないわね……」

 

二人はいつも空いているからと個室を使っていたが、その個室ですら最近はまともに寝れていなかった。

 

「よっ、リノ」

「クラウ!」

 

そんな帰り道、二人はそれぞれの友人に声をかけられる。

 

「あぁ……」

「どうした……?」

 

二人はおぼつかない足取りで近づくと彼らは何人か引き連れてリノに言う。

 

「さっき母さん達に言って色々と手伝おうって話になったんだ」

「今から孤児院に行こうって話してたの」

 

すると奥からゾロゾロと同級生達が現れ、その手には親から渡されたのだろう生理用品などがぶら下がっていた。

 

「「っ……!!」」

 

それを見てリノ達の表情が明るくなる。そして思わず涙目になりながら抱きついた。

 

「今から孤児院に行こうって……」

「「ありがとう……!!」」

「顔!顔!」

「女の子がしちゃいけない顔しているよ!?」

 

 

 

 

 

手伝いに来た人の中には彼らの親も含まれており、孤児院に来た後は親は赤ん坊の手伝いをしてくれた。

 

「ありがとうございます。本当に」

「いえいえ、普段からリノ君達にはお世話になってきていますし。……何よりこんな状況ですから」

「アイダさんはゆっくり休んでくださいな」

 

そう言い、十人の赤ん坊を来てくれた大人が見ていると遠くから孤児なのだろう子供達が手伝いに来た友人達に手を引っ張られて外で遊び出していた。

 

「……思っているよりも戦況は酷いんだな」

「こんな大勢の子供達が巻き込まれて……」

「忌々しい帝国め、こんな子供達まで巻き込んで……」

 

彼らは帝国民族であるはずの赤系種や黒系種の子供達を見て見境無くやったのかと勝手に妄想を膨らませていた。

 

「アイダさんも大変ねぇ」

「仕方ない。この前までリノ君達しかいなかったんだ。それがここまでとはな……」

 

そう言い、揺籠の中で眠る赤ん坊や乳幼児を見る。

 

「そりゃ、リノ君達が学校で倒れるわけだ」

「一週間ほぼ寝ずにお世話していたんでしょう?」

「まだ幼い子供には酷よね」

 

そう言い、大人達は知り合いにも連絡を入れて今の孤児院の惨状を伝えるとボランティアを募るように学校に連絡をしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

近所の人達が手伝いに来た夜。

預けられた孤児院の中で一人、テオパルドはまたあの日の夢を見て居た。

 

「ママ!!ママ!」

 

燃え盛るバスの横、大怪我を負って倒れている一人の女性を揺さぶる。

ロケット弾が着弾した車列の中で逃げ惑う人々はそんな子供を目もくれずに逃げ出す。

 

『帝国軍だ!』

『逃げろ!!』

 

車を乗り捨てて人々が逃げて行く。そんな中、バスで避難して居た彼はそこで倒れて動かない母親の返答を必死に待って居た。

 

「ママ、ねえ起きてよ」

 

しかし返事は無く、彼はそのまま呆然と待っていると。

 

『何しているんだ!』

 

極限の混乱状態の中、まだ良識が残って居たのだろう一人の男が彼を抱えて走り出す。

 

「待ってよ!何するの!?」

 

無理やり母親と引き剥がされ、少年は母親から離されていった。

 

 

 

 

 

「ーーあっ、」

 

目が覚めると、いつも見て居た少し古いヘッドに横たわる自分がいた。

 

あの後、一時的に自分のような孤児は軍の施設に預けられて保護されて居たが。身元確認と身辺者が見つかるまで一時的にこの孤児院へと送られて居た。

周りを見ると自分と同じようにうなされている子供達が居た。

みんな自分と同じように親が死んでしまった子供たちだ。

知らない場所で、知らない人達と過ごす日々は未だ慣れず、怖くて寂しいものがあった。

 

「……」

 

特にここの孤児院にすでに居たリノ・フリッツとか言って居た男の子はいつも怒鳴っており、片手に竹刀を持っていた。

顔もいつも怖く、鋭いナイフのような目はいつも怒られているようだった。

転校した先の学校では自分の負ったこの傷を見て恐れたり、可哀想な眼差しをむけていたが、そんな偽善にむしろ腹が立ってしまった。

放課後に手伝いに来た子供もいたが、ついてきて居た親が居てそれが羨ましく思った。

 

夜中にトイレに行きたくなり、時折りうめき声が聞こえる部屋を出る。

ここに来た時に色々と教えられたこの建物は男女で階を分けられており、一緒にここに来た女の子達は上の階で寝て居た。

 

「……」

 

トイレを済ませ、部屋に戻る時。ふと下の大広間……下の赤ちゃんがいるはずの部屋では赤ん坊の泣く声が聞こえ、その後に誰かの話し声が聞こえた。

 

『今度はどっちだ?』

『これはおしめね』

『ちょっと任せるぞ。こっちがグズリ出した』

『はいはい』

 

二人の男女の声が聞こえ、それぞれ赤ちゃんの面倒を見て居た。

声的に見ているのはリノ・フリッツとクラウ・フリッツだろう。自分達がここにくる前からこの孤児院にいた多分、寮母さんの子供だ。

二人はここの寮母であるアイダ・フリッツと同じ苗字だから家族なのかと思って居た。

二人は自分とほぼ同い年だと言うのにまるで大人のように赤ん坊の世話を二人でして居た。

こんな時間まで起きて居て、少し興味が湧いてテオは階段の上で会話を盗み聞きして居た。

 

「間違ってもお袋は起こしに行くなよ」

「分かってるって。だいぶ参って居たもん」

 

そう話し、リノは泣き出しそうだった赤ん坊をあやし、次に誰が泣き出すのかを監視していた。

ここ数週間の日課だ。夜中は灯を消して赤ん坊が泣き始めたらミルクかおしめかを確認してその対応をする。この生活のお陰で学校では寝るのが当たり前になってしまった。完全なる昼夜逆転生活だ。

手伝いに来てくれた親も流石に夜中には家に帰ってしまい、今日はアイダにしっかりと寝て居てほしい為、起こしに行くことはなかった、

 

「と言うより、おまえ寝なくていいのか?」

「そっくりそのまま返すわ」

「俺は良いんだよ。あの環境じゃあまともに寝れやしねぇ」

 

リノはそう答えるとクラウが納得した後で聞いてくる。

 

「あぁ、例の奴?」

「そう、個室にいても視えちまうから今じゃ学校じゃないと寝れないよ」

「また保健室行きかぁ」

「しばらくの我慢だな」

 

そう答えると二人は夜が明けるまで赤ん坊の面倒を見て居た。

 

 

 

 

 

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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