孤児を預かって数ヶ月が経った。
あれから幾人か身元照会があって親を失った孤児たちは残された親戚の家に預けられる事となった。
孤児院から出て行く際、ささやかな見送りを行って引き取られて行くのを眺めて居た。
中学校に進学し、リノとクラウはそれぞれある程度落ち着いてきた孤児院に帰る。
「最近どう?」
「まぁ、ぼちぼち……」
中学校の制服を羽織り、二人は孤児院の門を潜る。クラウの背中には竹刀袋がぶら下がり、中学校では剣道部に入部していた。
引き取られた子供や赤ん坊は遺伝子照会で生存が判明し、遠い所だとコロニーから迎えに来ている人も居た。
門で再会を果たした時、その親戚や祖父母と思われる人達は子供の無事に涙を流しており、子供も知っている人が迎えに来てくれたことの安心感から大声を上げて泣いた者もいた。
「よかったわね。家族が無事で」
「ああ、家族が生き残っているってのはいい事だからな」
そう言い二人は孤児院で靴を脱ぐと靴下のまま孤児院を歩く。
孤児院の中では数人の子供が走っており、迎えが来ることを待ちながらこの生活を楽しんでいた。
「あっ!リノ兄ちゃんが帰ってきた!」
「クラウ姉ちゃん!」
出迎える孤児達はまだ幼く、親が亡くなった事実をあまり深く理解できて居ないようなほど幼い子供たちだ。若しくは、親の死に悲しみひたすらに泣いたかどうかだ。
「ほらほら、走るんじゃないの」
「転けても知らんぞ」
この前孤児の中でも最も年上だった奴が引き取られて居なくなり、この孤児院にいる最も年上の子供は俺と、それからもう一人赤系種の……それもおそらく帝国貴種の焔紅種かもしれない女の子だ。
滅多に口を開かない上に孤児院に居ても会う事もないのでリノともほぼ話したことがない。夕食の際に見かける事はあっても話しかけようとするとすでに居ない事が多かった。
中学校でもクラスが違うので話しかける事もなく、遠くでしか見た事がなかった。
「またあの子はいないのか……」
「私も、少ししか会った事ないからなぁ……」
少し寂しげに語る二人に詰め寄る孤児達は未だに家族との連絡がつかず、ただ家族を待っている者だ。
政府は積極的にこれら孤児の身元照会を行っているが、まだ戦場が混乱しているのだろうかこれまで引き取られた子供の数はさほど多くなかった。
実はこの時、孤児の遺伝子情報登録は保護した際に全員に対し行っていたのだが、親や親族などの身辺者が遺伝子情報を登録していないと言う事態が起こっており、したくても出来ない状況が進んでいたのだ。
おまけに仮に見つかったとしても引き取り側が拒否する場合もあったそうで、そう言った孤児達は政府や個人の経営する孤児院に預けられるが、その孤児院が経営難を理由に裏で人身売買で引き取り手のいない孤児を高値で売ってしまう事もあったと言う事もあり、それがさらに国内で問題を引き起こしていた。
「ほら、そろそろ夕食だから行ってこい」
「今日の料理はなんだったかしらね?」
大急ぎで食堂に向かう子供達がいる中、一人孤児院の中庭のベンチに座り込む一人の少年がいた。
「あれ?確かあの子は……」
黒髪が特徴的なその子供は確か、ここに来たときは腕に火傷の跡を追っていた。名前は確か……
「テオパルド・ハリスマンだね」
「あぁ、そうだ。確か一つ学年が下なんだよな」
「そう、私は早生まれだからね」
ここに来た時や学校での学年を思い出していていると、リノは腕時計の時間を見た。
「もう、夜飯の時間だから。呼びに行かねえとな」
そう呟き、リノは中庭に座っているテオに近づいていった。
「おい」
「っ!!」
声をかけると、明らかに驚いた様子でリノを見る。
「そろそろ飯だから中に……」
言い切る前に一つ年下の少年は走り去って消えてしまった。まるで関わるなと言わんばかりにその少年はリノから逃げるように走り去っていった。
帝国貴種の証でもある黒い髪が少々風で舞いながら。
「ドンマイ」
「嫌われてんのかな。俺」
クラウに肩を叩かれ、ややゲンナリと肩を落とす。
ここに来てずっとあの調子だ。やはり最初に傷を見て驚いてしまったのが原因なのかと思いながらリノはゲンナリとした表情で食堂に向かって行った。
「はい、では皆さん手を合わせて」
食堂でアイダが今日の夕食を盛り付けた後に子供達に向けて言う。
孤児達が来るまでは使って来なかった調理室を久々にフル稼働させて作った料理は大量で、バケツみたいな鍋を運んでいた。
アイダの先祖の生まれ故郷では一般的だと言う食事前の挨拶。生まれた頃から徹底的に扱かれてきた自分たちにとっては特段違和感のある事ではないが、他の孤児達はいまだに慣れない様子で手を合わせた。
「頂きます」
「「「「い、いただきます」」」」
そう言い、孤児達は食事を摂るとまさ幼い……いわゆる箸を満足に使えないレベルの子供達は口の周りを汚しながら食べており、そんな孤児達の口元を拭くのは
「はい、お口見せて頂戴ね」
今ではエプロンを付けた一人の女性がそんな子供の口元を拭いていた。
彼女は今回の孤児の一件でここの孤児院で雇われたディルケ・マヨカと言う女性だ。大の子供好きで孤児達からの評判も良く。何より、赤ん坊の面倒をきちんと見てくれるからありがたい。
「色々任せて済まないわね」
「いえ、子供の世話を見るのが好きですから」
彼女はそう答え、吹き終わった子供の顔を見る。
「いつもありがとよ。ディルケさん」
「おかげでこっちも助かるわ」
リノ達も、わざわざこんな時期に孤児院に入ってくれた彼女に感謝の意思を見せた。
彼女はありがたい事に住み込みで働いてくれており、赤ん坊の面倒も見てくれていた。
「私も、ここで働けて嬉しいです」
そんな感謝に彼女は笑顔で答える。彼女が来てくれたお陰でアイダの負担が減った事に何より感謝しかなかった。
「ディルケちゃん、ちょっと手伝ってもらってもいいかしら?」
「わかりました」
そう答え、彼女は配膳の終わったバケツのような鍋を持つとそのまま食堂から後にして行った。
「あなたが来てくれてから色々と楽になったわ」
「それは良かったです」
調理室で鍋を洗いながらアイダとディルケは話す。
「戦争が始まってからと言うもの、色々と忙しくなってしまってね」
「確か、あの子達は戦災孤児でしたよね?」
ディルケが聞き返すとアイダは頷く。
「ええ、可哀想にねぇ。あんな赤ん坊まで親を殺されてしまったのだから……」
「ええ、本当……帝国は悪魔みたいですね」
皿を洗いながら彼女は呟くと、アイダも頷く。
「あんな小さな子供まで巻き添えにするんだもの。帝国は酷い事をするわ」
そう答えると二人は皿洗いをすると、アイダは余っていた夕食から賄いを作ってディルケに出す。
「こんなものしか出せないけど」
「いえ、ありがとうございます」
賄いに嬉しそうにするディルケにアイダも微笑ましく思う。
「こんな安月給で忙しいのに来てもらっているんだから、これくらいの事はしないとね」
そう言い二人はそのまま少し遅い夕食を取り始めていた。
廊下の外ではクラウの怒声が聞こえ、孤児達が風呂場に向かって走っていた。
「アイダ!手伝って!!」
そう言い調理室に入って来たクラウにアイダもやれやれと言った様子で席を立つと、ディルケが立ち上がった。
「私が行きますよ」
「あら、お願いできる?」
「はい、お任せください!」
軽く腕をまくりながら答えるとクラウもディルケにお願いする。
「ごめん、お願いするわ」
そう言い残すとクラウは慌てて風呂場の方に走って行った。
「コラー!勝手に入るなっつってんでしょうが!!」
そう怒鳴り散らしながら彼女は風呂場に向かって走って行った。
風呂場では先に女子達が入り、そこで幼い子供達が溺れないか監視しながらクラウとディルケは少女達の髪の毛を洗っていた。
「……あれ?」
ディルケはそこで風呂場にとある少女がいないと首を傾げる。
「あの赤い髪の女の子は?」
そう聞くと、クラウがいつもと言った様子で答える。
「ん?あぁ、エリノラちゃんなら先にシャワーだけ浴びて出て行っちゃったわ」
「いつもなの?」
「ええ、あの子いつも一人でいることが多いからね〜」
「そうなの……」
やや悲しげに言う彼女にクラウはつまらなさそうに言う。
「なんかさー、会おうと思ってもどこかに行っちゃっていないからさ。私も色々とお話ししたいんだけどね」
そう話していた瞬間、後ろで大きな水の音が聞こえた。
「っ?!」
その音を聞いた瞬間、真っ先にクラウは風呂場の方に向かって飛んだ。
子どもが浴槽に入る時にこけたのかと思ったからだ。特にこの年頃だと浅くでもすぐに溺れるので、すぐに死んでしまう可能性が孕んでいるからだ。
「大丈夫?!」
反射的に浴槽を眺めながら聞くと浴槽にいた一人が答える。
「わーい!気持ちい!」
「飛び込まないでよ!びっくりしたじゃないの?!」
どうやら大きな水飛沫が飛んだのは孤児の一人が飛び込んだからのようだ。
「こんの馬鹿!飛び込むなつってんでしょうが!」
「痛っ!!」
そうとわかった瞬間、クラウは飛び込んだ女児の頭を殴り飛ばす。するとよほど痛かったのか、その少女は泣き出してしまった。
「一体何があったの?!」
その鳴き声を聞いてアイダが一口を甲高い音を立てて突入してきた。
「あっ……」
そこでクラウは状況を把する。
ギャン泣きする子どもに、拳を握っている自分。
どうにか言い訳を模索していた。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい