86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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外伝#18 その日、大陸は業火に包まれたⅥ

孤児院に大勢いる孤児達は未だに何十人とおり、その中でも一番の年上がリノ達と言う事もあり、色々と忙しかった。

ただ、ディルケが孤児院で働き始めてから初期の頃のような徘徊するほどの激務はなくなり、リノ達も赤ん坊の世話はそれほどのものでは無くなって学校の勉強にも集中できるようになった。

 

「めぇぇぇえん!!」

「一本!」

 

学校の道場で大声が轟いて赤い旗が上がる。

ここは極東の武道である、剣道部の道場。そこで部活に入っているクラウは被っていた面を取るとリノから声をかけられる。

 

「よっ、終わったか?」

「うーん、この後に試合あるから少し遅れるかも」

「あいよ、じゃあ先帰っているわ」

「ええ、その方がいいかも」

 

彼女はそう答えるとリノはそのまま道場を後にしていた。

 

 

 

 

 

入学した中学校にも孤児院に来た孤児達がいることを、小学校からの付き合いの友人達は知っている。

 

「よう、リノ!」

「一緒に帰らねえ?」

 

だから学校帰りにリノは友人から声をかけるも、彼は答える。

 

「いいや、俺この後用事あるし」

「あ、そっか……」

「ああそうだ。今度、またうちらのヘルプ入れてくんね?」

「おう、分かった」

 

友人には申し訳ないが、孤児院で面倒を見なきゃならない。

それを理解して友人達は一歩引いてくれて、別の誘いをかけた。そしてそのまま部活もないリノは帰宅の途につく。

 

 

 

ゆっくりと流れていく街並みの中をリノは鞄を下げたまま歩く。

戦時下と言う事もあって街には徴募兵のポスターが貼られ、入隊事務所には職を求めて大勢の人が列を成していた。

 

「……」

 

いずれは公務員として働こうと考えているリノは軍隊に入ろうかなどと軽い人生設計をしていると、ふと近くの裏路地から邪悪な気を感じ取った。

 

「……はぁ」

 

嫌な物を見たと思いながら、どこか胸騒ぎがするのでその方に向かって行った。

 

 

 

 

 

「とっとと消えな、帝国風情が」

 

三人の制服を着た少女達が見下すように一人の少女を見ていた。

 

「そうよ、アンタなんか邪魔なのよ。裏切り者」

 

その眼は蔑んでおり、目の前の少女は力無く鞄の荷物を取ろうとすると、その鞄を取り上げられる。

 

「こいつどうする?」

「服脱がせりゃいいわ」

「ナイスアイデア」

「……っ」

 

少女は反抗しようとすると、リーダー格の少女に腹を思い切り蹴られた。

 

「動くな赤髪!」

「アンタはそのまま地べたで横たわっているのがお似合いよ」

 

そう言い、少女達は鬱憤を晴らすように少女を蹴っていた。

その痛みに耐えていると路地裏の入り口からドス黒い声が聞こえる。

 

「何をしている……?」

「「「っ?!」」」

 

その声を聞き、少女達は顔が一瞬で青ざめる。

倒れていた少女自身もその怒っているのだろう、逆光で表情の見えないその少年に目を見開いていた。

するとその少年は片手に何か持ちながら近づいて聞いてくる。

 

「テメェら。何をしていたんだ?」

 

その声でわかる恐怖に少女達は足が子鹿のように震えているのすら気づかずに体が硬直していた。

するとその少年はそんな三人組に目もくれずに倒れていた赤髪の少女に近づくと腰を下げた。

 

「何かあると思って来てみれば……」

 

その瞬間、少年は持っていたライトを少女達に向ける。

 

「きゃっ?!」

 

強い光源で目眩しを喰らった瞬間にその少年は三人いた少女達に一発、それぞれ顔面にクリティカルに殴り飛ばしていた。

元々喧嘩するために不良グループに入っていた彼の重いパンチは少女達を吹っ飛ばして鼻血を出させるには十分な威力だった。

 

「な、何すんだ!」

「痛い、痛いよぉ……」

「あぁ、鼻がぁ……」

 

ボタボタと血を流しながら三人組が悲鳴をあげると、その少年は答える。

 

()()()()に手を出した報いだ。鼻が折れていないだけ有難く思うといい」

「う、訴えてやる!!」

 

殴られた一人が子犬が喚くように叫ぶも、飄々とした様子で少年は答える。

 

「ああ、訴えるなり自由にするといい。だが、その前にお前達が捕まる羽目になるがな」

 

そう言い彼は携帯を見せると、再生ボタンを押し。そこから先ほど少女をリンチしていた映像と音声が丸々残されていた。

 

「「「っ!!」」」

 

その事に少女達は顔が土器色になる。咄嗟に許しを乞おうとすると少年は言う。

 

「あぁ、悪いが。もう先生には送っておいたよ。今頃親御さんの元には届いているんじゃない?」

 

そう言った瞬間、三人の携帯電話が鳴り響き。恐る恐る出ると、少し離れていても聞こえる怒声が三人の耳を貫通していた。

それを聞いた後、肩をガックリと落として三人は路地裏を後にしていた。そしてそれらを見て少年ことリノは呆れた表情を浮かべながら地面に散らばった教科書や文房具を集める。

 

「……ったく、いじめてる時間があれば勉強しろっての」

 

そう愚痴りながら教科書を集めていると、倒れていた赤髪が特徴的なその少女がボソボソとした声で聞いてくる。

 

「……た」

 

掠れた声でよく聞こえなかったが、リノは落ちていた物全てを取り上げられていた鞄に入れてその少女の言葉に耳を傾けた。

 

「……なんで私を助けた…!!」

 

それは弱々しい体で必死に出したようなか弱くも強気な言葉だった。

そんな恨み言のような問いかけにリノは飄々とした声で答える。

 

「お前、エリノラ・マクマさんだろう?」

 

そう聞くと、エリノラはリノから視線を外さず。しかし、答える様子はなかった。

 

「ほら、同じ孤児院にいるリノ・フリッツだよ」

「……」

 

一向に拒絶する彼女を見て呆れたリノは彼女の手を取った。

 

「っ!触るな!!」

 

その瞬間、彼女は手を振り解くとそのまま鞄を持って裏路地から走り去ってしまった。

その事実に唖然となりながらも、リノはようやっと反応を示してくれた事に少しホッとしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その日の夜、リノはバレたら目一杯叱られる孤児院の屋根の上で星空を眺めていた。

 

「あの子が反応してくれたんだって?」

 

天を仰ぐリノに同じく屋根に上がってきたクラウが聞いて来る。二人とも寝巻き姿で、上着を羽織っていた。

まだまだ夜は気温が低く、二人は夜に良くここに訪れていた。

 

「ああ、と言っても拒絶ばっかりだったがな……」

「でも良いじゃない。何も反応してくれないよりは」

 

そう言い、クラウとリノは同じように屋根に寝そべって夜空を眺める。

ミノフスキー型核融合炉の登場で街を走る車が全てエレカになり、そのほか環境問題への対策などを行って来たおかげかはわからないが。こんな街中でも満点の星空ツアーを楽しめるくらいに空気は綺麗だった。

 

「みんなもこうやって上を向けば、色々なことを忘れられるとは思わないか?」

 

そんな疑問にクラウが答える。

 

「そうね……でも、まだ落ち着いていない子もいるから、今はまだ早いかもね」

 

戦争が始まって、親を戦争で失い、未だ心の整理が落ち着いていない子もまだいる。

黒髪のテオパルドなんかが良い例だ。彼はおそらく、親を失ってから一度も心が落ち着いたことはないのだろう。

 

その悲しさゆえに滲み出るその()()にリノは息苦しさを感じていた。

 

「リノのその能力は便利だね」

 

そんなクラウの呟きにリノは反論する。

 

「便利なもんか、こいつのせいで厄介ごとには巻き込まれるわ。一部からは気味が悪いと言われるわ……碌な事ねえよ」

 

そう言い、リノは時たま発動するこの力を恨んでいた。

この異能は強い感情を持っていると発動し、その対象の人間の感情を知ることができる。

相手が喜んだり嬉しかったりすると何かの明るい気配を感じ、悲しんだり恨んだりなどの感情は暗い気配を醸し出す。

 

ちょうど不良グループに入ったあたりから見え出した能力で、ひどい時は街外れに現れた自殺者の感情まで感じてしまったのだ。

アイダに相談するとそれはいわゆる異能の一部なのではないかと推測していた。

病院に行ってもどうせ分からないからと言われ、そのままになっていた。

おそらく、この赤い瞳は帝国の赤系種であるからと言う事で何らかの異能が出たのだろうと思っていた。調べても治しようがないと言うことで半分諦めていたが……。

 

「んで、なんであのヘルパーさんを警戒しているの?」

 

横でクラウが聞いてくる。赤ん坊の頃からの付き合いだ。横で幼馴染が不審な行動をとっていれば一瞬でわかっていた。

 

「……簡単な話さ。あの女が来てから、ここに時たまドス黒い気配を感じるようになった」

「……マジですか」

 

まさかの話にクラウは驚いていると、リノは軽く頷く。

 

「クラウ、確か玩具箱にスリングショットがあったよな?」

「え?……あぁ、そう言う事?」

 

孤児院をよく知っているが故にクラウはリノが何を考えたのか一瞬で理解する。

 

「ええ、壊れているけど余っているはずよ」

「……クラウ」

「了解。孤児院のノミは潰すまでよ」

 

二人はここで育って来たがゆえに、自分たちの故郷を荒らされまいと二人で目線を一度も合わす事なくそれぞれ屋根を降りていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その少年の手を取った時、異能が無意識に発動してしまい。その人の記憶が見えてしまう。

幼い頃から、自分が帝国貴族の中でも珍しい種の血を引き継いでいるが故に見えてしまう他人の記憶。

この異能のせいで自分はあの男から……亡くなった母の、血のつながらない白髪の男から気味がらわれて屋根裏部屋に押し込まれた。

 

 

 

見えたのは一瞬だったが、その時見た記憶が今でも脳裏から離れられなかった。

 

『ごめんなさい』

 

雨の降る曇天の中、一人の女性を見ていた。

 

『こんな母親で……あなたを置いて行ってしまうような母親で』

 

その赤い髪を持つ特徴ってきな女性は傘を差したまま雨に混ざって大粒の涙をこぼしていたのが分かる。

赤ん坊にしてははっきりと見えている輪郭は顔立ちの整った女性を映していた。

 

『でもこうしないと。あなたの命まで危ないから……』

 

そう言うと、その女性は持っていた籠……恐らくはその記憶を見た少年を入れていた籠だろう。それを地面に置くと、側に一枚の紙を置いた。

これはおそらく本人ですら覚えて居ない記憶だろう。

 

『どうか元気で。リノ……さようなら。こんな私を許さないで』

 

後悔に後ろ髪を引っ張られながらその女性は雨の中を去って行く。

その赤ん坊は天を見たまま雨が降っている事に呆然となって、何が起こったのか全く分かっていないような様子だった。

 

「……」

 

脳裏に焼き付いて離れられないその記憶に、エリノラは悲しさと驚きが混ざり合ったままベットで小さくつぶやいた。

 

「……お母さん」

 

 

 

 

 

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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