86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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外伝#19 その日、大陸は業火に包まれたⅦ

孤児院に預けられている子供達は徐々にではあるが、親族に引き取られており、ここで過ごした数ヶ月の記憶もいずれは薄れる事だろう。

 

戦争と言う非日常において、その戦禍に巻き込まれた子供たちと言うのは精神的に不安定な状態が続く為、知っている人がいると言うのは心の支えになる。

 

それこそ、まだ泣いたこともないような子供では……

 

 

 

 

 

「リノ!」

「おう、どうした?」

 

帰り道の途中、リノはクラウに呼びかけられる。

中学生になって帰宅部を選んだリノは学校が終わればそのまま家に帰っているので、よく孤児院で赤ん坊の面倒を見て居た。

孤児たちの身辺調査を優先して行なっているようで、孤児院に残っている赤ん坊は今は四人ほどだった。

 

「今日部活はどうした?」

「顧問が今日は会議でおやすみだってさ」

 

それを聞き、リノは少し口角が上がる。

 

「なるほど、じゃあ今日の面倒はクラウに任せられるな」

「何があったっけ?」

 

クラウは何かあったかと今日の予定思い返していると、リノが答えた。

 

「今日は待ちに待った新品のベットが来る日だろう?」

「ああ!そう言えばそうだったわね」

 

そこで思い出したのか、クラウも手をポンと当てて頷く。

 

「俺はベット作って自分の部屋に入れるんだ」

「じゃあ早く帰らないとね」

「よし、駆け足だ」

 

そう言い、二人は小走りになって孤児院へと戻っていった。

 

 

 

 

 

政府から出される義援金は何時もカツカツだったが、孤児たちに届く寄付金もあったおかげで設備がボロボロなうちの孤児院にようやく待ち望んだ新しいベットが届く。

これでシミのついたベットとおさらばできることにリノは歓喜に満ちていた。

 

「ただいま〜」

「あら、お帰りなさい」

「ベットは?!」

 

帰るや否や聞いてきたリノにアイダは少し笑って指を指す。

 

「ふふっ、あそこにあるわよ」

「よっしゃ!」

 

その先で組み立て式のベットを見ると、リノはそのパーツを自分の部屋に運び入れる。

元々こう言う工作に関して得意なリノはウキウキでいつもの部屋である個室に運び入れる。

丸ごとベットを変えた為、ベットを組み立てるのには一苦労だった。

 

「リノ、そっちが終わったら手伝ってくれる?」

「おう、任されて」

 

自分の部屋で新しく来たベットをリノは慣れた手つきで、物の数十分で組み立て終えると次に他の孤児たちの手伝いに向かった。

 

「ほら、支えてやるから」

「あ、ありがとう」

 

一斉に届いたベットの組み立てのためにリノは男の居る階に移動して手伝う。孤児達が来た時に男女別に分けられており、女子たちと会うのは下の大広間や階段などだった。

 

 

 

そして多くの男の子達が手伝う中、リノはある一人の男の子に近寄った。

 

「手伝うよ」

「……いい」

 

その子、テオパルドは一人で組み立てようとしており、周りに手伝うこの姿も無かった。

 

「一人で作れるわけないだろう?」

「だから良いって……あっ」

 

そう言い、リノなら手を払おうとした時。ベットの骨組みが崩れてしまった。

それを見てほら見たことかとリノは崩れた骨組みを組み立てネジを回す。

 

「ほら、一緒にやってやるから」

「……」

 

そう言うと、渋々といった様子でテオパルドはリノとベットを組み立てる。

 

「お前、いつもひとりなことが多いよな」

 

ベットを組み立てながらリノは気さくに話しかける。

 

「…」

「風呂の時も先に入っちまって、とっとと出て行ちまうし、夕飯も直に食べてどっか行っているじゃんかよ」

 

一方的に話しかけられる状態にテオパルトは内心うざいと思って居た。

すると、それを見透かしたようにリノは言う。

 

「いつも俺から逃げるようにしているからだぞ。こう言う時じゃないとしっかり話せないからな」

「……だったら関わらないでよ」

 

ついにキレて反論すると、リノは飄々とした表情で言う。

 

「そうもいかねぇよ。俺だってここで住む子供だ。お袋から面倒を見るように言われている以上、こうやって話してくれないとこっちが困るんだわ」

 

彼はそう答えると、テオパルドは面倒臭そうに言う。

 

「だから僕に話しかけないでよ」

 

少しキツめに答えても、リノは気にするそぶりも見せずに言う。

 

「テオパルド、今日の夜に廊下に来い。そこで最後だからさ」

「……」

 

リノはそう答えると、あっという間にベットを組み立てた。その手際の良さにテオパルドも少し驚いてしまった。

だってほぼ進んでいなかったのに、数回会話したくらいの時間でベットを組み立て終えたのだ。

すると、最後にそう言い残したリノは他の子達の様子を見ていると部屋の扉を開けてクラウが姿を現した。

 

「居た居た!リノ!ちょっと手伝って!」

「えぇ……上に行くのか?」

 

ちょっと引きながら答えると、クラウは彼の手を引っ張りながら言う。

 

「こっちは女だけでやってんの。男が居ないと大変なのよ、おまけにあんたは手先が器用でしょ」

「はぁ……わぁったよ。行きますよ」

 

そう答えながらリノは男子部屋を後にして行く。その様子を見て、一部の男子が『合法的に』女子部屋に行ったリノに恨みの眼差しを向けていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ベットの組み立てが一日で終わり、新しいベットで大勢の子供達が寝ている中、テオパルドだけは部屋から抜け出して階段で待って居た。

時刻は深夜の時間で、普段なら寝ている時間だった。

 

「…」

 

上着を片手に持ち、彼はここの孤児院のリーダーであるリノの出迎えを待っていると、いきなり後ろから現れて声をかけられた。

 

「こっちだ」

「っ!?」

 

予想外の場所から声をかけられて驚いていると、彼はそのままテオパルドを引き連れて階段を登る。

 

「……何処に行くの?」

「ん?それは秘密」

 

そう言うと階段を上り切り、女子部屋のある廊下の前を通る。

これから何処に行かされるのかと首を傾げると、彼はその廊下の端の窓を開けて、そのまま外に出てしまった。

 

「い、良いの?」

 

こんな場所がある事自体が驚きだが、それよりも平気で窓の外の本来は使わないような場所を歩くリノに聞いてしまう。

 

「良いんだよ。いつも使って居ないし、何より俺ら以外は知らないしな」

 

そう言い、外の点検用を通路を渡って梯子を登る。

孤児院のやや角度のついた屋根に上がり、そこでリノはどこから持ってきたのか分からない缶ジュースを手渡しながら指を上に向けた。

 

「上見てみな」

「え?わぁ……っ!」

 

言われて上を見た彼はそこで息を呑む様な景色を見た。

絵に描いたような満天の美しい星空が夜空を照らしており、その壮大さに圧倒されて居た。

 

「俺達が散々叱られてもここに来る理由」

「……」

 

その景色をリノは寝そべりながら眺める。

 

「この景色を見ていると、色々と考えていることとかを全て忘れられる。つい視えてしまうものとかな」

 

彼はそう答えると、横で景色に圧倒されているテオパルドを見る。

彼から溢れる負の感情はおそらく悲しみ。それも、誰か近しい人を失った事を引きずっている悲しみだった。

この異能に慣れてくると否応にもその人がどのような感情を抱いているのかが、分かる。おまけにこの状況、戦災孤児としてここに預けられたなら、親か近しい人を失ったと想像できる。

 

親がいないと言う状況にすっかり慣れてしまっている自分が言える口ではないが、この目の前に座る少年の寂しさは理解できた。

 

「お前、今までここに来て泣いたこと無いだろう?」

「え?」

 

少なくとも、ここの孤児院に来てから。いや、恐らく来る前から彼は泣いているのを見たことがない。

泣く時間さえないほど、自分の心を落ち着かせる時間すらないほど色々と忙しかった。だから今からにまだまた必要なのは……

 

「お前のお父さんやお母さんの事だ」

 

戦禍に巻き込まれてから泣くことも出来ず、親との決別ができていない。

孤児院に来て、泣いて居た子供達というのは大体その後に心を落ち着かせているのをリノは見て居た。

 

「この景色を見ながら、ゆっくりと思い返してみな」

 

泣いてからは感情の抑揚を感じ、次第に親の死に理解をして居た。

だからこう言う親を失った子供に一番必要なのは、好きなだけ泣いて心を落ち着かせる事なのだとリノは学んでいた。

 

「知らない場所に来て、不安で仕方がないだろう?そうだな、母さんはどんな人だった?」

「……」

 

テオポルドはそこで満点の星空を眺めながら母の事を思い出す。

 

いつも優しくて、時々叱られたりした。

クッキーを作るのが上手で、いつも笑顔で、自分に何かあったときな仕事を休んで駆けつけてくれて……

 

その時、彼の目元から涙が溢れた。つい反射的に拭うと、横から寝息が聞こえた。

男だから、泣いているところを見られるのは恥ずかしい。だけど寝ているのなら……

 

時々、自分が生まれた後に亡くなってしまった父親の話を楽しげにしてくれて、それでその時の顔は幸せそうで……

 

「……ママ」

 

一人残されて、寂しい。

会えるなら、今からでも会いに行きたい。

 

戦争が始まって、避難した日の夜。

帝国軍の放ったロケット弾が着弾し、返事すら無く誰かに引き剥がされてしまったあの日。

未だに自分はあの日のことが夢ではないかと思って居た。でも違った、あの時の衝撃や火傷をした時の痛み。

その全てがリアルに思い浮かび、そこで自覚してしまう。

 

「っーー!!ーーー!」

 

言葉にならない、声が溢れる。

今はただ、この寂しさを、悲しさを、全て吐き出したかった。

 

母はもうここには居ない。あの優しかった母は遠い場所に行ってしまった。

 

嗚咽を漏らしながら少年は蹲る。

一人になって、今になって親の死を自覚して、そこから来る悲しさからただひたすらに泣いて居た。

 

すると、そんな彼の後ろから一人の少女の声が聞こえて、彼の手を優しく撫でた。

 

「そう、今は好きなだけ泣くといいわ」

 

その時の声と言い、撫でられた手は温かく、とても母のそれに似て居た。

その後、少年はひたすらに泣き続けた後に今までの疲れも相まってそのまま意識を手放してしまった。

 

「……あら、寝ちゃったわね」

 

いつの間にか寝息をしているテオバルドを見て、クラウはやれやれと思いながら横で寝たふりをしている幼馴染に声をかける。

 

「終わったわよ。起きなさい、こんな時期に風邪ひいたらバカ見たいよ」

「……んぁ」

 

呼びかけられてハッと目を覚ました表情でリノは体を起こした。

 

「いっけね、寝てた」

「……」

 

まさかの本気で寝ていたリノに半分呆れた目線を彼女は向けていた。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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