孤児院の中庭の改造を提案したディルケにリノ達が乗っかってから数日後。
何と言うことでしょう。雑草が生え散らかしていた花壇は綺麗になり、所々がひび割れていた地面の煉瓦は綺麗に修復されているではありませんか。
これも一重に子供達による人海戦術のおかげだ。初めは嫌がっていた草むしりだったが、次第に慣れていき。最後には中から出て来た虫を見せびらかして逃げ惑う女児達を見て男児達は楽しんでいた。そしてそんな彼らをアイダがしばくテンプレと化していた。
現在、孤児院にいる子供達はおよそ四〇人。二十人ほどは親族が見つかって引き取られており、赤ん坊の人数も四名まで減っていた。おかげでアイダも久々にゆっくりできるのか顔色が少し良くなっていた。
「……」
孤児院の車庫の作業台でサンダーで木材を研磨して柵を作っていると、横でテオパルドが釘を持ってくる。
「手伝うよ。義兄さん」
「ん、ありがとよ」
ここ最近では心の整理がついたおかげか、自分を『義兄』と呼ぶようになった一つ年下の少年……年的にいえばクラウとほぼ同い年の少年はリノによく懐いていた。
と言うより、歳以上に背がデカいリノは話し方も相まって高校生に見えてしまうのだ。
言っておくが、これでも中学一年生である。
「釘を打つときは、初めはまっすぐ上から打つんだ。学校でも言われただろう?」
「うん……」
リノから指導を受けながら彼は釘と金槌を持つ。
「ある程度平たい方で打ったら、最後は丸い方で打つんだ」
「分かった」
リノの指示通りに釘を打つ彼を見ながらリノは弟を見ているような表情で研磨した木材に塗料を塗っていた。
花壇の修復と畑作業で中庭も綺麗になった孤児院では、アイダはディルケと共に今日の夕飯を作っていた。
「最近は経営もマシになってきたわ」
「そうなんですか?」
材料をスライサーに入れて材料を切りながらディルケは聞く。
「ええ、何せあの子達が来る前まではここの部屋だってまともに使って居なかったもの」
「あの二人しかいなかったんでしたっけ?」
ディルケは思い返しながら聞くと、アイダは頷いた。
「ええ、何せ。あの二人がここを巣立ったらここを閉じようと思って居たんですもの」
「そうなんですか……」
ディルケは思わずかなり充実した設備を見ながらもったいないと思ってしまった。
するとアイダはここの施設ができた理由を言う。
「元々ここは一年戦争の時に私の両親が始めた施設でね」
「一年戦争ですか……?」
ディルケはやや驚きながら首を傾げると、彼女は頷く。
「ええ、あの時も大勢の孤児達が出てね。街は親の居ない子供達で溢れて居たのを。医者をしていた私の両親が色々なところからお金を集めてこの施設を作って街中の孤児達を集めたの」
「だからこんなに大きいんですね……」
納得してディルケはここの孤児院がやけに大きかったり、少し古いが設備が充実していた理由に納得する。
国民の半数が死んだあの一年戦争は、当然大量の孤児を生み出す元凶でもあった。
そう言った内戦で溢れた孤児達をこの施設は集めて居たのだろう。
「今でも覚えているわ。……その時、私は大学生だった」
もう遠い過去となってしまった合州国で最も悲惨な内戦を、その目で見ていた彼女は思わず口にする。
「ここら辺はジオン軍の占領下に落ちてね。この孤児院も実を言うとジオン軍のお金で建設して居たのよ?」
「そうだったんですか……?!」
まさかの設立理由にディルケは驚いた。
「ええ、占領したジオン軍も孤児達が原因の治安悪化に困って居たらしくてね。どうせなら街中の孤児達を入れるためにって言ってこれだけ大きい施設を作ったのよ」
だから庭付きマンションのような大きさで、少し古風な見た目となっているのかと納得できた。するとアイダはその後の話をする。
「戦争が終わった後も、ここは連邦軍から認定された孤児院ってことで色々な子供達を預かって来たのよ。…ほら、応接間に飾っている写真。あそこに写っているのはここに来た子供達よ」
「あの写真ですか……」
ディルケは思い出す。応接間に何枚も飾られた写真、確かに大勢の子供達の写真が写って居た。
「ええ、戦後も大勢の子供達を引き取ってね……もう二〇年近く前の話だけど。私も大学を出て、ここを引き継いで……時折子供達を預かっては見送っていたわ」
「……」
鍋を回しながら彼女は言う。
ディルケにとってみれば一年戦争は記憶に無いくらい幼い頃の話だ。だから正直これと言った印象はなかった。だが、アイダにとっては大きな出来事だったのだろう。
これだから戦争は嫌いだ。
「結婚して息子も産んで……その息子も大学に行っちゃって。ここも随分寂しいものだったわ」
「え?…息子さんがいるんですか?」
思わず驚いてしまうと、アイダは頷く。
「ええ、今は大学生で遠い場所に行っているわ。最近は帰って来て居なかったけど、今度戻ってくるって言って居たわ。今度紹介してあげる」
「初めて知りました。息子さんが居ただなんて」
ディルケは驚いていると、アイダは半分ため息を混ぜていう。
「まぁ、優秀なんだけど……良くも悪くもリノが影響されちゃってね。飛んだ悪ガキよ」
「いいじゃ無いですか。リノくんだって活発で元気な男の子ですよ?」
「だからって喧嘩三昧だったのはいただけないわ。今じゃあ、随分落ち着いたみたいだけど……」
アイダはそう言うと、鍋を回した後に出来上がった料理を移し替える。
「さぁ、子供達を呼んできてくれる?」
「わかりました」
ディルケはそう答えると調理室を出て行き、施設にいる子供達を集めていた。
いつもの夕食の時間の直前、車庫で花壇用の柵をテオと作っていたリノはクラウから相談を受けていた。
「ーーーなるほど」
作業台でサンダーを置いてリノは軽く頷くとクラウが言う。
「そこで協力して欲しいんだけど」
「良いぞ。アイツ、俺と同い年だし。気になる事もあるしな」
「アイツじゃなくて彼女ね」
「あだっ」
軽く木板で頭を叩かれ、リノが軽く痛がる。
その二人の会話を、横でテオパルドが聞いていた。
「よかったら手伝おうか?」
彼がそう言うと、リノ達はやや驚いた目線を向けた。
「まじか、手伝ってくれるのか?」
「いいの?」
二人が聞くと、彼は頷いた。
「うん、孤児同士な方が話しかけやすいでしょ?」
見かけによらず鋭い意見を言ったテオにリノ達は納得したあとで舌を巻いた目でテオを見た。
「よし、接触は任せたぞ。俺たちは後ろを固める」
「任せて!」
前よりもずっと明るくなった顔で彼は頷いていた。するとその時、ちょうど自分たちを呼ぶ声が聞こえ、夕食の時間だと気づいた。
そして夕食の時間となり、孤児達が一斉に料理を取りに行く中。一人、赤髪が特徴的な少女は薄い長袖を着て盛り付けの列の最後尾に並んでいた。
「……」
いつもの光景にもはや慣れた視線。その目の中には畏怖が混ざっていた。
彼女はそのまま夕食を分けてもらう。今日のメニューはカレーライスと言う事で白米とルーを別々に分けて入れていた。
「はい、今日の夕食ね」
ディルケにそう言われ、少女は米の入った皿を手渡される。その量は他の子供よりも少し少なかった。
「ごめんなさいね。少し量が少なくて」
彼女はそう言うと、少女は一瞥する事もなく横のアイダの方に移動した。
そしてそのまま食堂の隅の席に座ってスプーンを手に取った。そして、全員が座ったことを確認するとアイダが前に立っていつもの食事前の挨拶をする。
「それじゃあ、みなさん……」
「「「「「頂きます!!」」」」」
今ではすっかり習慣として定着した食事前の挨拶をすると、少女は手を合わせただけで口を開かずに食べ始める。
周りでは話しながら食事を摂っているが、その少女だけは一人で黙々とカレーを食べていた。
「ねぇ」
「……?」
すると少女は横から声をかけられる。誰だと思いながら見ると、そこには一人の少年が自分を見ていた。
黒い髪が特徴的なその少年は少女の目を見ていると、陽気に話しかけてくる。
「赤髪のお姉さん、いつも一人で寂しそうだったから。一緒に食べない?」
「…えっと……?」
突然話しかけられて困惑する少女は、さらに少年から色々と聞かれる。
「お姉さん、名前は?」
「エ、エリノラ・マクマ……」
少女は少し返答に困りながら言うと、その少年も答えた。
「僕、テオパルドって言うの。よろしく!」
「よ、よろしく……?」
困惑している彼女はテオに挨拶をする。そしてテオは他愛の無い話をし始めた。
「エリノラさんてどこから来たの?」
「えっと……北の方かな」
「そうなんだ。あっ、そうだ!」
そしてテオとエリノラは戸惑い混じりに会話をしていると、二人の後ろから間に割って入るように話しかけられる。
「こらこら、テオくん」
「っ?!」
声を掛けたのはディルケで、その声を聞いてエリノラは一瞬縮み上がっていた。
「ダメじゃ無いの。色々と聞いちゃって……エリノラちゃんも困惑しているじゃない」
「あー、そっか。でもいつも一人だから、可哀想だと思って……」
テオはそう答えると、ディルケは少し微笑んだ後に彼に言った。
「ふふっ、優しい子。でもいきなり色々話しかけてもダメよ」
「分かってるてば」
そう答えると、そのままディルケは去って行った。
そしてディルケが離れたのを確認すると、テオはエリノラに行った。
「あっ、エリノラさん。後でちょっと来てもらってもいい?」
「え?」
「どうせならエリノラさんと遊ぼうと思ってね」
「え……」
「良いかな?」
期待の眼差しを向けるテオにエリノラは断りづらい雰囲気になり、結局食後にテオと会うことを約束していた。
食後、エリノラはテオとの約束を反故にしても良いかと思っていたが。せっかく話しかけて来てくれたんだからと迷いながらも結局待ち合わせ場所の孤児院の大人用の個室がある場所に来てしまった。
「あっ!来たんだね!」
扉の前でテオが彼女を待っていた。
「あの……どうして私をここに?」
「入って、色々とお話ししたかったから」
そう言い、彼は空いている個室の扉を開けて入った。そして軽くため息混じりにエリノラもそれに続いて入る。
入った部屋は明かりがついておらず、カーテンも閉じられていて真っ暗だった。
「あの…何を話した……」
その瞬間、部屋の明かりがついた。一瞬目眩しを食らい、視界が真っ白になるとその瞬間に扉を閉じられ、同時に鍵のかかる音がした。
「っ!!」
それで、エリノラは完全に理解した。『嵌められた』と。
「おっと、扉は押しても開かないわよ。外にリノがいるからね」
咄嗟に扉の方に向かって顔を向けた瞬間そう言われる。
反対側には両手に櫛やヘアピン、ワックスを持つクラウが立っていた。
「さっ、大人しく観念してちょうだいね」
「な、何ですか?!」
後退りしながら扉を押すが、扉の向こうではリノとテオが抑えており、とてもひ弱な少女一人では開けることは叶わなかった。
「フフフ……」
「ひっ!」
ジリジリと近づいてくるクラウにエリノラはひどく怯えた様子だった。咄嗟にエリノラは混乱する頭を回転させてそこであることを思いついた。
「(そうだ、叫べば良いんだ!!)」
叫んだら誰かが気づいて飛んでくるはずだ。そう思って息を吸った瞬間、クラウが答える。
「叫んでも無駄よ。ここ、リノが前作った特製の防音室だから」
「っ!!」
全ての行動を読まれ、エリノラはどこか逃げ道はないかと探すも見つからない。
「さっ、そこの鏡の前に座ってね♪」
「い、いやぁぁああああああっ!!」
部屋に少女の悲鳴が響いていた。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい