リノ達の策略に嵌められ、部屋に閉じ込められたエリノラはそこでクラウの手によって髪の毛をベタベタ触られていた。
「この髪、前から触ってみたかったのよね〜」
そう言いながら櫛で髪を整えるクラウ。その顔はとても嬉しそうだった。
そして反対にエリノラはうざったらしいと言うか、半分気絶した状態だった。
「良い髪質なんだから、もっと大切にケアしないと」
そう言い彼女は櫛でボサボサだった髪を整えた後にヘアピンとワックスを使って軽く髪を整えると、やはりと言った表情で鏡越しにエリノラの顔を見た。
「やっぱり、あなたはダイヤの原石だったのね。化粧してないのにこれかいな」
「……」
鏡の前に映る一人の女性にエリノラ自身驚いていた。目の前にいるのは一体誰だ?
一人の整えられた赤い髪を持つ少女は大きなルビーのような赤い瞳を持っていた。オパールのように白い肌は少し病弱そうに見えた。
思わず手を動かすと鏡の中の少女も全く同じタイミングで動いていた。
すると後ろで呆れと羨望の混ざった表情でクラウが口を開く。
「羨ましいわ〜。元から綺麗な子って……もうちょっと肉を付けたらモデルも行けるんじゃないの?」
彼女はそう言うと、エリノラは目の前に映る自分が本物の自分じゃないのかもしれないと思ってしまう。
そして、髪を触られたのにも関わらずクラウの記憶が見えなかったのだ。その事実に彼女は驚いてしまった。
人の記憶が嫌でも見えてしまう彼女は触られた相手の記憶が強制的に見えてしまう為、今まで苦しんでいた。
それが今回は無かったことに赤髪の帝国貴種の少女は驚いてしまった。
「さっ、これからお風呂に入りましょ。せっかく綺麗な髪なんだから、私が洗ってあげるわ」
「えっ……わぁっ!!」
腕を引っ張られ、彼女はそのままクラウに引っ張られて風呂場へと向かって行った。
風呂場に入ったクラウとエリノラはそこで強制的にクラウがエリノラの頭を丁寧に洗っていた。
逃げられないように子供達にはすでに言っていたのか、どこか面白げにこちらを見ていた。
「どう?気分は」
「い、良いと思います……」
丁寧に風呂場にあった勝手に使えばクラウにぶっ飛ばされる彼女専用の高級シャンプーを使ってクラウはエリノラの髪を丁寧に洗う。
その珍しい光景に周りの子供達は羨ましそうにしていた。その視線に恥ずかしさと申し訳なさを感じていると、クラウがそれを察したのか答える。
「バカね、ウチが使っているんだから。文句は無しよ。勝手に使ったら承知しないだけだもの」
「で、ですが……」
「はいはい、ぐちぐち言い訳しないで。こう言う時くらい大人しくされる事ね」
風呂場に入ってからずっと緊張しているのか、女子しかいないこの空間でも必ずタオル一枚を巻いている彼女は蛇に睨まれたカエルのようだった。
ただひたすらに周りからの視線に怯えているように見え、それを見たクラウはエリノラを見ていた子供達に一喝する。
「ほら、ジロジロ見るもんじゃないわよ。さっさと風呂入りな」
そう言い人を蹴散らすとその後でシャワーを外にむけて流し、濃い湯気の壁を作っていた。
「さ、これで良いわね?」
「あ、ありがとう…ございます……」
彼女はクラウの計らいに感謝すると、次に彼女はトリートメントを付けた。
普段から自分専用の洗剤を使っているだけあって、彼女の美容に関するセンスは卓越したものがあるのかも知れない。
そう思っているとクラウは頭だけ洗うとその手を離していた。
「さ、体くらいは自分で洗えるでしょう?」
「あっ、はい……」
「これから毎日髪の毛を洗うから。必ず来てね」
そう言うと彼女は湯気の向こうにいる子供達に向けて叫んだ。
「あんた達!もしエリノラちゃんが逃げようとしたらここに連れてきてね!」
「「「「「はーい!」」」」」
「ちょっと?!?!?!」
思わず驚いて変な声が漏れてしまった彼女はクラウを軽く睨むように見てしまった。
余計なことをして、多くの人に見られたく無かった彼女からしてみれば余計なお世話だった。
「こうでもしないと、逃げちゃうでしょ?」
悪魔のような笑みに見える表情を浮かべながら彼女は言うと、横の席に座って体を洗い始めていた。
この孤児院に暮らすリノとクラウは空いているからと孤児院の個室で暮らしていた。
そう、個室。好きな事をできる自由な空間。
今の人でひしめき合っていて、個人のスペースが限られるこの今の孤児院の中では何かと羨望の的となってしまうこの空間。
初めの頃は羨望の的で埋め尽くされていたが、リノ自身はその個室で寝ている事はなく。初めの頃は赤ん坊の世話でその部屋で寝ていたり、夜中にうなされている孤児などの横で寝ていたりなどしていた為か、個室にほぼいなかった印象があったためか、彼が個室にいても大した欲望や妬みを思う人物はほとんど居なかった。
彼らにしてみれば、寂しい時などに横にいてくれる。一種の家族のような者だった。
ただ、ここにいる皆。彼はここの寮母であるアイダ・フリッツと苗字が同じだから、彼はアイダの息子であると思っていた点だった。
深夜、リノの暮らす個室ではライトが灯ったまま卓上で教科書を開いていた。
近々行われるテスト対策だった。
孤児院出身の彼はここを出て行く時、何かしらの食い扶持を繋ぐためと。人生設計を考えた結果、奨学金を借りて大学を出るつもりだった。
今時、この国では大学を出ていなければ就職をするにしたって良い仕事に就く事は難しい。だから今のうちに勉強しなければ、大学に行った後で苦労すると思っていたのだ。
特にここ最近は孤児達の面倒で忙しかった為、こう言う時間でないと纏った勉強時間ですら取れなかった。
「この点、ディルケさんが来てくれた事には感謝だな」
そう呟くと、個室の扉を叩く音が聞こえた。
「はいどなたで?」
そう聞くと、扉の向こうから返事があった。
『私よ』
「……入ってくれ」
リノはそう答えると、部屋にクラウが入ってきてリノを見る。
「どうだった?」
「大当たり」
「……そうか」
クラウから話を聞き、リノは短くそう答えると彼女に言う。
「準備は?」
「問題無し。そっちの方は?」
「いつでも」
二人は短く話すと、リノがクラウに注意するように言う。
「クラウ、間違ってもお袋に言いに行くなよ?」
「分かってるって。あの人に言うときはちゃんとした証拠を揃えてからにするから」
クラウは当たり前と言った様子で答える。
「じゃ、私はここで失礼するわ。間違っても変なことしないでね」
「ああ、勿論だ」
そう頷くと、クラウは部屋を出て行った。
翌朝、学校に向かうエリノラの両脇を男女が囲う。
「よっ」
「っ!?……なんですか?」
その顔を見た瞬間、リノに対しては特に鋭い目線を向ける。
しかし彼は全く気にしていないと言った表情で話しかける。
「そんな怖い顔すんなって。同郷の身なんだからさ」
「そうそう、そんな表情じゃあ昨日の綺麗な顔が台無しよ」
そう言い、三人は同じ学校に向かう。
孤児院という特殊な環境とは言え、同じ施設から出て行くのに別々の時間に通学と言うのも寂しいわけで。
「離れてくれませんか?」
「えー、良いじゃん。仲良くしようよ〜」
「っ!良い加減にしてくださいよ!」
そして等々執着してくるリノ達にエリノラが怒った。
「毎度毎度。私に執着してきて、何の用なんです?!」
相当苛立っていたのか、彼女はリノ達に捲し立てる。
「子供まで使って私を騙して……これ以上関わってこないでください!」
そう言うと彼女は学校まで走り去ってしまった。その事にリノ達は一瞬呆然となってしまった。
するとそれを見ていたのだろう、通りの店の知り合いの店主から茶化される。
「おまえさん達、何泣かしてんだよ」
「え?」
「あの子、赤系種だろう?ただでさえこんな状況だ。もっとマイルドに接してやらんと」
「……」
帝国が宣戦布告してきたことで、国内にいる帝国を象徴するような赤系種や黒系種の人物達は何かと白い目で見られる傾向があった。
この前、露骨に彼女を蹴り飛ばしていた彼女達はおそらく碌な意志を持っておらず。社会の風潮に扇動されて行動に出たのだろう。
国としてはこれら差別意識が国家の分断にあたる可能性があるとして、いつも以上にピリピリしていた。
なにせ、それら差別意識が爆発して起きたのが一年戦争だ。それを繰り返さぬよう、国は国内の民族差別には非常に警戒していた。
しかし世の中にはバカな連中もいるもので、対帝国を煽るために赤系種や黒系種の迫害を勧めようとする輩も居た。
国民の大半が移民のこの国において、黒系種や赤系種をまとめて迫害することは不可能だ。あまりにも血が混ざりすぎていて、おそらく迫害する前に国が財政破綻しているだろう。
かく言う自分だってこの赤い瞳だ。これを見ていて迫害されないと言うのもおかしな話だ。
「髪まで真っ赤な珍しい子なんだ。守りたいって言うのは十分分かってくれているんだ。もっと相手の子に寄り添うで接しろ。いいな?」
店主は自分たちにそう忠告すると店先で箒を掃いていた。
「ありがとう、参考にさせてもらうわ」
「助言どうも。お礼で今度また飯食いに来るわ」
二人は接し方が不味かったかと思いながら学校に向かって行った。
自分が物心つく前に、私の本当の父は事故で死亡していた。
名前すらもう忘れてしまったその父親の話を、母ばほぼしなかった。
再婚した相手は白系種の男で、その男は私を気味悪く見ていた。
それもこれも、私が余計な事を言ってしまったからだろう。
『その異能は、誰かの心を癒すために使ってあげてね』
母はそう私に言った。
しかし、人の体に触れるだけでその人の記憶を見れるこの異能は私に不幸しか呼ばなかった。
母は病でぱったりと亡くなり、再婚した白系種のその男は君の悪い私を人目につかない家の屋根裏に押し込めた。
私は居なかった事にされ、居ない人間なのだからとその男は日頃の鬱憤を私に向けた。
そしてそれが晴れた後、その男は私を抱き抱えて必死に謝る。これが日常だった。
しかしそんな男もロケット弾一発で蝋燭の火を消すように一瞬で死んだ。
呆気ない最期だった。人はこうも簡単に死ぬものだと思った。
だって、今まで自分に対して強気で居たその男は…たった一発の砲弾で、苦悶に満ちた表情で、その体に纏わり付いた脂の影響でさらによく燃えているような気がした。
どんなに強い力があっても、より強い暴力には勝てるわけがない。
じゃあ、どうすれば自分の身を守れるのか。
答えは一つ、関わらない事だ。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい