孤児と言うのは弱い立場だ。
親を失い、信頼できる人間が極端に少ない。
あまつさえ子供という社会では守られて居ないと弱い立場だ。
ましてや、それが孤独を選んだ子供であれば尚更……。
エリノラに拒絶されたとは言え、女子同士だからか。クラウの洗髪はまた訪れていた。
「あっ、今日も来てくれたのね?」
「……」
少し顔を赤くしながらエリノラはまたもタオルを巻いた状態で風呂場に入ってきた。
彼女はいつも通り目元が隠れるように赤い長髪を流しているが、その下から見える赤い瞳は確かにこちらを見ていた。
そして彼女は何も言わずにクラウの前の椅子に座ると、クラウも少し微笑んでから彼女の髪の毛を洗い始めた。
すると彼女は少し面白そうに彼女に話しかける。
「エリノラちゃん」
「はい?」
エリノラは何を聞かれるのかとやや緊張しながら話を聞く。
「今君が座っている椅子。実はリノが作ったやつなんだよ?」
「え?」
そう言われ、彼女は思わず足元を見てしまう。
共用の浴場で、後ろには水を張った浴槽があり。ここに来た時に散々クラウやアイダさんから先に体を洗ってから入るのだと言われていた。
そして足元に置いてある木製の風呂椅子は何処かの市販品のように丁寧に作り込まれていた。
「これを?」
「そう、昔うちらが数人しかいなかった時期にリノが初めて作った家具なの。塗料も天然素材を使っている、子供がいても安全なの」
「こんな物を……?」
思わず近くにあった椅子を近づけて裏面を見ると、そこには小さく彫刻刀でリノの名前が彫られていた。
「……」
「手先器用でしょう?あの子」
「えぇ……」
思えば新品のベットが来た日も、わざわざクラウが女子部屋に連れてきてあっという間にベットを作っていたか。
女子部屋に男子が入ってきた時点で誰もが彼を睨んでいたが、彼自身は女子物にこれっぽっちも興味なしといった様子でベットを黙々と作った後にさっさと部屋を出て行ってしまっていたが……。
「昔から物を作るのが得意でね。こう言う家具とか設計図なしで感覚で引いちゃうのよね」
「そ、そうなんですね……」
どんな与太話だと思ってしまう彼女は、やはり髪を触られた程度では他人の記憶が見える事はないのだと思っていた。
「この前だってベット作ったらさっさと移動しちゃってね。面白くない人だと思わない?」
「そ、そうでしょうか?」
「だって、滅多にいじるネタも出てこないしさ」
「は、はぁ……」
彼女はさぞつまらなさそうに話し、エリノラは半分困惑していた。
「つまらない人間でね。本当……こっちが寂しくなっちゃう」
「……」
そう言うと、彼女の髪を洗う手が一瞬だけ止まった。
「まぁ、幼馴染だからってのもあるかもしれないけどね」
「……幼馴染?」
ふとエリノラはそこで首を傾げた。
「兄妹じゃないんですか?」
二人とも同じフリッツという名を持っているというのに幼馴染とはどういう事だ?
「ええ、そうよ?それがどうかした?」
そんなエリノラの疑問にクラウは当たり前といった表情で答えた。
それを見て、エリノラは一瞬驚いた表情を見せた。
「いえ…同じ苗字なので、てっきり兄妹だったのかと……」
「ああ、そう言うね……」
そこでエリノラの疑問に納得した彼女はその訳を話した。
「私もリノも、赤ん坊の頃に捨てられたからね。苗字はアイダさんからもらったのよ」
「じゃ、じゃあ血のつながりも……」
「無い無い。大体、あの人ガチの息子いるし」
「え?」
エリノラはてっきりリノ達はアイダの子供かと思っていたが、そうで無かった事実に驚きを隠せなかった。
そしてアイダに実の子供がいることにも驚いていた。
「たまに帰ってくるんだけどね。今は大学生で遠い場所にいるのよ」
「そうなんですか」
そう答えると、話を聞いていたのだろう。浴槽にいた子供達が驚いた様子でこちらを見ていた。
「私は赤ん坊の頃、人身売買に遭いかけたところを警察に保護されて。リノは教会前に手紙と一緒に捨てられていたんだって。だから私のこの名前は、アイダさんから貰ったものなの」
つまり、本当の意味での孤児。育て親との血の繋がりは一切ないと言う事実に浴場は驚きの声で溢れていた。
髪を洗い終え、クラウに誘われて。話に興味のあった彼女はそのまま浴槽に使った。
「……」
浴槽に入り、エリノラは手で水を掬い上げて透明な湯を眺めている横でクラウは他の子供達に色々と質問攻めにあっていた。
「ーーまぁ、みんな勘違いしてたみたいだけど。私達は昔からここに住んでいるだけなのよ」
彼女はそう言い、他の子供達は驚いた様子だった。
ここにきてしばらく経つと言うのに知らなかった事実にただただ驚いていた。
話を聞き終え、興味深い内容だったと満足したため。エリノラが風呂を出ようとした時。
「あ、待ってよ」
そう言い、クラウは反射的にエリノラの腕を掴んでしまった。
しまったと思った瞬間、彼女の脳内に無数の記憶の情報が流れ込み。浴槽に入って温まって上がった血流と合わせてそのまま視界が真っ黒になってしまった。
「おっと……」
そしてそのまま浴槽に倒れてしまい。それをクラウが抱えていた。
「どうしたの?」
突然の異常に子供達も心配げに見ていると、クラウが答える。
「…少しのぼせちゃったようね……先に出ているから。みんなもそろそろ出なさいね」
「「「「「はーい!」」」」」
彼女はそう言うと、気絶したエリノラを抱えたまま風呂場を出て行った。
深夜。
孤児院の女子達の階では大勢の女の子の孤児達がベットの上で寝ていた。
ここでの暮らしも慣れてきたのか、孤児たちは引き取り手の人がいつか来るのかと思いながら今日も眠りにつく。
夜中は当然見回りもしており、夜中にうなされたりトイレに行く子供の手助けをしたりなど、夜でもやることは多いのだ。
少し前まではこの仕事はクラウやリノがやって居たが、ディルケが来てからはその必要も無くなった。
「エリノラちゃん」
「……」
そんな深夜に、エリノラは起こされる。
彼女の体を軽くゆすったのはディルケだった。
「こっちに来れる?」
「……はい」
小さく彼女は答えるとベットからゆっくりと出る。
赤い長髪が月に照らされて、血のように少し暗くなっているのを見て起こしらディルケは小馬鹿にしたような目線でついてくるように言った。
「これだから帝国風情は……」
そう呟いてディルケはエリノラを連れて孤児院の人気のつかない部屋に二人は入ると、そこでディルケは部屋の扉を閉じて鍵をかけると、顔を酷く歪ませた醜悪な表情を浮かべた。
「ったく、面倒をかけさせやがって。このクソガキ」
「……」
何も答えないエリノラにディルケは容赦無く腹に一発殴り入れていた。
その反動でよろめいた少女は壁にぶつかった後。窓のカーテンを掴んでよろけて倒れてしまった。
その拍子で窓が開き、部屋に月明かりが差し込んだ。
そしてそのまま少女は倒れてしまうと、ディルケはそのまま足で少女の腹を鬱憤を晴らすように蹴り飛ばしていた。
「くそっ!くそっ!帝国風情がこんな生活してんじゃねえぞ!こんな貰われるだけの生活をしやがって……!!」
ディルケは余程恨みが溜まっていたのかはわからないが、相当な力でエリノラを蹴り飛ばしていた。
今までに溜まっていたストレスの吐口とするようにディルケは少女を蹴り飛ばしていると、そこで違和感を感じた。
「?」
蹴っているはずなのに、その時の感覚がいつものとは違っていた。するとその瞬間、
カシャッ
一つのシャッター音がし、反射的に音の下窓を見ると、窓ガラスの外で一人の少年がカメラを両手に自分をまるで化け物を見たような驚いた顔でこちらを見ていた。
それは黒い髪が特徴的なテオパルドだった。
「っ!!」
咄嗟にカメラを奪おうと窓を開けようとした時。彼に括り付けられていた紐が引っ張られ、間一髪のところで取り逃した。
「ちっ」
そこで舌打ちをすると、後ろで横たわっていた少女が話しかけてきた。
「よそ見は行けないんじゃないんですか?」
「っ!お前は!!」
声を聞き、ディルケは苦悶と驚愕に満ちた表情でその少女を見る。
するとその少女は立ち上がり、その赤い長髪のカツラを取った。
「隠れて暴力とは頂けませんねぇ。ディルケ・マヨカさん」
「っ!!なぜお前が……?!」
そこで立っていたのはエリノラに扮していたクラウだった。すると彼女は袖から隠していた短い竹刀を取り出すとディルケに向ける。
「前々から気になってはいたんです。あなたの事は、だから独自で調査していたんです。ああもちろん、できる範囲でね」
どこかの探偵のような行動力にディルケは警戒を崩さなかった。
「そこでエリノラちゃんに目をつけて暫くはベットを交換しようと思っていたのですが…まさか初日で釣れるなんて……」
そう言い、彼女は来ていた上着のチャックを外すと中からボロボロと女性雑誌の山が溢れて落ちる。
この雑誌の山が蹴られた時の衝撃を和らげていたのだ。変な感覚の正体はこれだった。
「お前までも、帝国風情の味方をするのか!!」
ディルケはクラウに怒りに満ちた表情で問いかけると、クラウは『何言っているんだお前は?』と言うような表情で答える。
「は?馬鹿じゃないんで?」
そう答えると彼女はそのまま続けてディルケに言う。
「身寄りのない子供達を預かる施設に来た子供達は同じ経験をしてきた…言わば仲間なんですよ?
そんな子達を守るのも、先に住んでる自分たちの役目です」
彼女はキッパリと言うと、今度は窓の外から声が聞こえた。
「よりにもよって帝国差別主義者とは恐れ入ったよ。だが、身寄りのない孤独な子供を日頃の鬱憤の捌け口にするのは胸糞悪い」
そう言い、空いた窓の外から入ってきたリノをディルケは見る。その表情は恐ろしい怒りに満ちており、その手にはお手製のクロスボウのような物を持っていた。
「てめえみたいな奴には一発入れねえとこっちの気分も晴れねえんだ」
彼はそう言うと、夜の暗さで見えなかったが。持っていた懐中電灯の電源を入れて強力な光でディルケの視界を奪った。
「っ!ごふっ?!」
その瞬間、リノの横蹴りがディルケの腹を思い切り蹴飛ばした。
いくら最近はないとはいえ、もともと喧嘩を趣味にしていた人間の渾身の蹴りは凡人には強力だった。その証拠にディルケは口から涎が飛び出た。
「っ!お前ぇっ!」
蹴り飛ばされ、壁に激突したディルケはどこから持ってきたのか。懐から果物ナイフを取り出し、本気の目でこっちを見てきた。
「マジかよ……」
「嘘でしょ?」
そんな彼女を見て思わずリノとクラウは驚いた目をしてしまった。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい