86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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外伝#24 その日、大陸は業火に包まれたⅫ

リノの異能でディルケが孤児院の誰かに暴力を振るっていた事はほぼ確実だった。だが、その相手が誰だったのかと言う点でリノ達はわからなかったのだ。

 

だから風呂場で他の子供達の体を洗いながら傷がないかを執念深く探していたのだ。

 

しかし、風呂場で皆とよく入る子供達にそのような兆候は見られず。だから、一人でいることの多い孤児を中心に内定を始めたのだ。

そしてそれら被害者の候補として上がったのが、テオパルドとエリノラだった。

 

だから二人はそれぞれに近づいて、二人の行動を見ていた。

ただ、テオパルドに関してはハズレであり。次にエリノラを見た時にビンゴした。

 

初めの違和感は初夏の時期だと言うのにまだ長袖を着ていた事。寒がりだと言っていたが、それにしてはかなりの汗を掻いていたので不思議だった。

次にテオと話していた時に、ディルケが割って入り、それに彼女が一瞬驚いていた事だった。

まるで話を割るように入ってきたその話しかけ方や、彼女の異常な怯え方にリーチだと思った。

 

そしてより確実な証拠を手に入れるためにクラウは風呂場で彼女との接点を持った。

根はいい子だったからか、彼女はクラウの洗髪を素直に受けており。その際、クラウは常にタオルを巻いていた彼女に疑問を感じ。

何かしらの理由で気絶してしまったあと、脱衣所で彼女を着替えさせた時に確信を持てたのだ。

 

「服の上から殴って傷跡を隠すなんて、薄汚いやり方だわ」

「はっ、DVの常套手段じゃねえか。大人の風下にも置けない奴だ」

「ええ、まさに人を惑わして苦しめる悪魔ね」

 

クラウは竹刀、リノは連弩と懐中電灯を持って果物ナイフを持つディルケと対峙する。

その彼女はひどく険しい醜い表情でリノ達を見ていた。

当の本人は自分の部屋で寝ており、テオが見ているはずだ。

 

深夜の孤児院の一室で、化けの皮が剥がれた女と対峙するリノは彼女からとてつもない執念を感じて居た。

 

「(どんな恨みがあってこんな気配出せるんだよ……)」

 

形容し難いドス黒い気配はリノの目線を晒したくなるほどだった。

それを見て、リノは横にいるクラウに聞いた。

 

「気絶させられるか?正直目が辛い」

「無理よ。私そこまで上手にできる自信ないわよ?」

 

片手に至近距離でも使いやすい短い竹刀を持ったままクラウは答えると、ディルケはナイフを持ったまま近付いてきた。

覚悟を決めるしかないと、二人はディルケの突進に構えた。

 

「ふっ!!」

「でやぁっ!!」

 

大きく振ったディルケの腕をリノが掴み、クラウは持って居た竹刀を思い切り振って脛をを狙った。

竹刀にはこの前ホームセンターで買った鉄芯が入っており、打撃力は増していた。

そして振られた竹刀がディルケの脚に命中すると、途端に彼女の顔が悶絶してそのまま倒れてしまった。

 

「こう言うの、東の国じゃあ『ベンケイノナキドコロ』って言うんだっけ?」

「そうだったかしら?」

 

リノは手放した果物ナイフを持ちながら答えると、クラウは首を傾げながら大きく息をついた。

すると、部屋の外から扉を叩く音が聞こえ。アイダが向こうから聞いてきた。

 

『中に誰がいるの?!』

 

恐らく、リノが思い切り蹴飛ばしたからだろう。その時の音で目覚めた彼女は鍵の掛かった部屋の扉を叩いて居た。

本当はこのまま静かに警察に証拠を出して穏便に済ませようとして居た為に二人は対応に困り果てた。

 

「どうすんの?」

「逃げるか?」

「この状況で?無理に決まってんでしょ」

 

クラウはそう答えると、リノは少し困った顔で少し考えた後に扉に向かって叫んだ。

 

「悪ぃ、木材組んでたらうっかり崩しちまってよ……」

『嘘おっしゃい!』

 

その瞬間、アイダは扉の向こうでリノ達に怒鳴り散らす。

 

『知っているわよ。貴方()が何かしているって事くらい。大人しく出てきなさい』

「「……」」

 

彼女にそう言われ、クラウもいる事がバレている時点で二人は逃亡を諦め、ナイフをディルケに握らせたまま扉を開けた。

扉の向こうではアイダと何事かと見に来た子供達がこちらを見たそうにしていた。

 

「ったく、何をしているかと思えば……ん?」

 

呆れた顔のアイダはリノ達の後ろで倒れているディルケを見た。

そして彼女は二人の間を抜けてディルケの前に立った。

 

「っ…アイダさん……」

 

ディルケはそこでアイダの名を呟くと、そこで彼女は悲しげな目をして話しかけた。

 

「……私はね、ここを子供達が帰ってきたくなるような家にしようと思っているの」

 

すると彼女は諭す様にディルケを見る。

 

「戦争で親を無くした子供達の……代わりとは言わないけれど、心の支えになってあげられるような場所にしたいと思って居たの。だけどね……」

 

そう言うと、アイダは懐から一枚の写真を彼女に見せた。

 

「こんな事をしていては、流石の私も見過ごせって言うのは出来ないわ」

「っ!!」

 

そこには一枚のインスタント写真があり、そこにはカラーで暴力を奮っている様子が写されていた。それは先ほど、テオが撮った写真だった。

それを見て、アイダは彼女の握って居たナイフを抜き取ってリノに手渡した。

その写真を持っていたことにリノは驚いていると、アイダは事の次第を話す。

 

「リノが何かコソコソし始めたから部屋に入ったらマクマさんとハリスマンくんが居て、詳しい事情を聞いたら……」

 

この有様だったと彼女は軽くリノ達を睨んだ。そして彼女は視線をディルケに戻すと、彼女に伝える。

 

「申し訳ないけど、警察の方は呼ばせてもらったわ。それまでは……リノ」

「うい」

 

アイダはリノに言うと、彼はディルケを後ろ手にして暴れられないように立たせる。

すると開き直った彼女は彼らに怒鳴り散らした。

 

「っ!お前らまでも帝国風情を擁護するのかっ!!」

 

そう怒鳴るディルケにリノは馬鹿馬鹿しげに答える。

 

「だったら俺にビンタでも振ればいいだろう?」

 

そう言い彼は自分の瞳を指さして見せつける。

 

「俺だってこの赤い眼だ。俺にだってお前の言う帝国風情の血が混ざっているんだぞ?」

「っ!!」

「そこで、態々体の弱い女児を狙って傷口ができにくいように殴った時点でお前は薄汚い小心馬鹿女だよ」

 

そう言い、リノはディルケを掴んだまま孤児院を降りる。

すでに子供達はクラウの手で部屋に戻されており、廊下には居なかった。

 

そして廊下を降りた後、孤児院の入り口のところである少女が姿を表した。

 

「っ!エリノラ?!」

「っ!!どうして出てきたのよ!?」

 

そこにはエリノラが立っており、側にはテオも待って居た。

事情を把握したアイダや、リノから部屋を出るなと散々言った筈だったが……。

 

「……直接見ておきたいから」

 

彼女がここにきた理由はこれだった。

自分に暴行をしてきたディルケが孤児院を出ていくのを、静かに見ようと思っていると。ディルケはそんな彼女を見て失笑した様子で聞く。

 

「むざむざと捕まった私を馬鹿にしにきたの?」

「……」

「……そうかい」

 

無言で何も答えなかったディルケは諦めて孤児院を後にする。

 

「しかし、なんで気付いたんだい?」

 

その途中、ディルケはリノに聞く。

 

「俺の異能だよ。強い感情が色になって見えちまうのさ」

「…気味が悪いな」

 

彼女はそう吐き捨てると、リノは彼女に一瞥もする事なく答える。

 

「気味が悪くとも、それで暴力に苦しんでる子供を救えるなら喜んで受け入れてやるよ」

 

彼はそう答えると、それを聞いていたエリノラは少しだけ驚いた目を彼に向けていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その後の取り調べで、ディルケは犯行を全面的に認めた。

犯行の動機は彼女も家族を帝国軍の侵攻で殺され、その恨みの矛先を向けたそうだ。

この孤児院での人種差別による暴行は大きな波紋を呼ぶ事となった。

帝国を象徴する民族である黒系種や赤系種の孤児に対する対応や、孤児の対応にあえて厳罰に処す事で抑止力として働いていた。

 

そしてそれの生贄のためにディルケは初犯であるにも関わらず刑務所に入る事となった。

 

「一番恐ろしいのはやっぱ人間だね」

 

ディルケが逮捕され、再び忙しくなった孤児院の中でクラウがそう話す。

 

「なぁに、世の中いろんな人がいるんだ。ああ言う人間も中には居る」

 

そう言い、リノは騒がしい大広間で孤児達の世話をしながら話す。

ここに居る孤児達にはディルケは用事で此処をやめて行った事にしていたが、薄々子供達も何があったのか分かっていた。そのため、残念がってはいたが。それほど気にした様子もなく、日常を過ごしていた。

それよりもあの後、リノとクラウはアイダに恐らく今までで一番大きな拳骨を喰らった。

 

『なんでもっと早めに相談しなかったの?!揃いも揃って馬鹿なことするんじゃない!!』

 

そう言われ、二人はそのまま正座させられた。

なんでも自分たちで勝手に事を進めていた事に大層ご立腹だったようで、よっぽどあの後叱られた時の方が子供達の印象が強かったそうだ。

孤児院の問題は責任者であるアイダに必ず言うようにと言明された後、三時間にも及んだ説教は終わった。

 

あの後の足の痺れがひどかった事を思い出して二人は苦笑いしていた。

 

「あの……」

「「ん?」」

 

二人で話していると、リノに声をかける声があった。

声をかけたのは赤い髪が特徴的なエリノラだった。あの後、彼女は内臓に異常が無いかなどアイダに周到に検査された後に問題ないと言われてしばらく療養で学校を休んでいた。

 

「どうした?」

「あの…リノさんとお話がしたくて……」

 

あの後、彼女は療養の為と言って個室をアイダから貰っていた。

もともと影の薄い子だったせいか、相部屋から彼女が消えても対して他の子から言われることもなかった。

ただ個室に入ったと言う事でクラウのオモチャにされていたが……。

 

「俺とか?」

「はい…」

 

彼女は楽な格好でリノに話しかけると、彼は一旦クラウに目線を合わせるとそのまま席を立った。

 

「二人きりで話したいんですけれど……」

「おう、じゃあいい場所あるぜ。着いて来な」

 

そう言い、彼はエリノラを引き連れて孤児院を登っていつもの屋根上に向かって行った。

 

 

 

 

 

「大丈夫か?」

「は、はい……ふっ!!」

 

屋根に登る時、リノは付いてくるエリノラを見る。

元々華奢な少女であるエリノラは屋根に登る時に体の自重を支えられるほどの筋力も無いくらい貧弱な腕だった。

それに見かねたリノは一旦降りると、彼女を持ち上げて肩に担いだ。俗に言う俵担ぎだ。

 

「え?ちょ、ちょっ?!」

「暴れるなよ。この方が楽なんだ」

 

彼はそういうと、簡単にエリノラを担いだ状態で孤児院の屋根の上に登った。

 

「あまり縁に近づくなよ。此処柵ないから」

「……」

 

リノの忠告にエリノラは頷きながらリノの服の裾を掴んだままゆっくりと屋根上に座り込んだ。

下を見れば多分気絶すると思った彼女は、何もこんな場所じゃなくてもと思っていると横でリノが言う。

 

「ここは滅多に人が来ないから二人きりで話すにはもってこいなんだよ」

「そ、そうですか……」

 

エリノラは登っていた通路に近い場所で座ると、こんな場所からさっさと降りたいと言う気持ちからか思っているよりも簡単にリノに聞きたかった事を聞いた。

 

「リノさんって……異能があるんですか?」

 

その問いに、リノは一瞬エリノラを見た後に頷いた。

 

「ああ、赤ん坊の頃から見えた異能さ」

 

 

 

 

 

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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