リノ達の進学した大学でも徴募兵のポスターは貼られており、戦時下の今は大学をどれだけ休学しても問題無いなどの特典付きだった。
その為、それに釣られて軍に入隊する生徒がちらほらおり。教室には昨日まで横に座っていた生徒がいなくなっていることもままあった。
「(今日の授業はそれほどだな)」
パソコンを開き、リノは例のマリアーナ・モデルを使った戦闘用AIの試作品を製作していた。そして周りからは訝しむような目線を向けられる。
そりゃそうか、永遠にMSが動いているシミュレーションを見ていれば何かの映像を作っていると勘違いされるか。
「(自己教育型コンピュータがすでに内蔵されているMSを、無人のまま戦闘行動に移すのは比較的容易なはずだ。だが、問題としては……)」
あくまでもシミュレーションの過程だが、モビルスーツに搭載されたコンピュータの能力をそのまま無人操縦に移行するときに障害となるものを考えていると、横から授業をしていた教授に肩を叩かれた。
「また例の研究ですか?」
「え?あ、はい……」
この教授は自分が何の研究をしているのかを知っている人物だった。
すると教授は俺を見て講義後に研究室に来るよう言いつけた。
そして講義後、教授の居る研究室にリノは入る。
「お呼びですか?」
そう聞くと、部屋の奥で席に座っていたその教授が顔を覗かせた。
「こっちだ」
そう言い、教授はリノを呼びつける。そしてそのまま近づいた彼を椅子に座らせると、彼にパソコンの画面を見せた。
「これは?」
「連邦軍の試作している統括ネットワークシステム。仮名称を《タロス》と呼ばれるものだ」
「っ!!」
画面に映るそれを見てリノは思わず驚いてしまう。どうしてそんなものが見られるのかを聞くと、教授は少し笑った後にその経緯を教えてくれた。
「ミノフスキー粒子散布下でも問題なく戦況を把握するためにと言って私の知り合いが作った代物だ」
「す、すごいですね……」
思わずリノはそんな希少なものを見せてくれた教授の懐の深さを感じながらも、同時に疑問を感じた。
「どうしてそんなものを自分に?」
その問いかけに教授は講義中にリノがしていたあのパソコンの画面を思い浮かべていた。
「君が、私の講義中に作業をしていたのを見ていてね……。
君は実に優秀な子だ、だからおそらく本格的な戦闘用AIの開発を目指しているんだろう?それも、<レギオン>より優秀なものを」
「……はい」
この教授は全てお見通しと言わんばかりにリノに言い、彼は観念したように言う。
「君の作ったものを見せてくれるかい?」
「わかりました」
教授に言われ、彼は持っていたパソコンのデータを教授に見せると、彼はその動きを見た後に一言。
「これは机上の空論だね」
「そうですか……」
キッパリと言われて軽く肩を落とすリノに教授は助言する。
「ああ、だが悪くはない。何か、いいソースを見つけたのかい?」
「ええ、まぁ…古い資料ですが……」
「これなら、ここを少し改良すれば……」
「おぉ!!」
リノのパソコンを触り、試しに動いたそれは自分のものよりも滑らかに動いていた。
「君の腕は良い。だが……君はどちらかと言うと現場派の人間な気がするね」
「はぁ……?」
教授の言葉に首を傾げると、教授は彼に言った。
「君はMSパイロット兼エンジニアが一番似合いそうだね」
「パイロットか……」
学校帰り、リノはふと考える。
MSのパイロットになりたいと考えたことはあった。
まだ子供の頃、近くに訪れたMSの車列を見にクラウと孤児院を出た時。トレーラーの上に乗せられた<ジムⅡ>に憧れを抱いていた。
すると、その時たまたまMSのパイロットが俺たちに話しかけて。気前の良い人だったその人は俺たちの前でMSを動かして見せてくれた。その時の衝撃は今でもよく覚えていた。
全長十八メートルの巨大な人型機動兵器はまさ幼かった子供の俺たちがまるで地面を歩く虫に見えるほどで、それでいて威厳も持ち合わせていた。
「考えてみるか……」
大した人生設計じゃない自分には良い彩になるかもしれないとリノは考えながらアパートの部屋に入った。
そして今日の夕飯を何にしようかと思っていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
『リノ、居る?』
「ああ、今開ける」
ノックしたのはエリノラだとわかると、リノは部屋の扉を開けた。
「っと、クラウも居たのか」
「よっ、お邪魔するわ〜」
そう言い、二人が部屋に堂々と入ってくる。
クラウに至っては生まれた頃からの付き合いなので彼はそれほど気にしては居ないのだが、周囲の人間からしてみると二人も仲良さげな女子がいると言うことで羨望と怨嗟の目で見られることが多かった。
特にエリノラに関しては見た目も非常に整っている事もあってより他の男子生徒からは殺意を向けられる事もあるわけで……。
「さて、今日は何の用事だ?」
「んー、ちょっとリノに相談事」
「俺にか?」
部屋の備え付けのソファに座りながらクラウが言った。すると、エリノラがその要件をリノに言った。
「実はね。まだ軍の人から連絡があってスカウトされたんだけど……」
「また来たの?懲りない連中ねえ」
今まで散々断ってきたと言うのに、いまだに連絡が来る事実にリノももはや下を巻くレベルの執念深さだと思っていた。いや、それほど喉から手が出る出る気分というべきか……
「それで、もし軍に入ってくれたら色々と融通してくれるって言ってきて……」
「具体的にいうと、士官候補生学校への推薦状と中で融通がきく権利だってさ」
「へぇ……」
悪い話ではない。
本来、誰かしらの現役士官。それも、中隊長クラスの人間からの推薦状がないと入れない士官候補生学校に入れるというのはのちのキャリアアップにも繋がる良い経験だ。
特に国防の義務があるこの国だと軍人というのは社会的に見て地位の高い職だ。
「それで、学校を休学しようかどうか悩んでいて……」
「そうか、看護学科だと実習があるもんな」
リノはそこで納得すると、クラウは半分呆れたような目で言う。
「そう、そしたらエラったら『リノに相談してから決める』って言って……」
「なるほどね……」
「一番信頼できるのがリノだからさ……」
エリノラがそういうと、一瞬クラウの目線が鋭くなった。
そして相談を受けたリノはそんなことに気づく様子もなく、少し考えた後に呟いた。
「まぁ、俺もちょっと悩んでいたしな……」
「え?何を?」
「ん?いやぁ、士官候補生学校だよ。今日、教授に勧められたんだよね」
「……マジか」
そこでクラウはやや驚いた目を向けると、エリノラも驚いた表情をしていた。
「この前見せたAIあるだろう?あれを教授に見せたら現地で経験積んだ方がいいって言われて……」
「あんた、本気で行くの?」
「昔から憧れていた職種ではあったからな」
クラウの問いかけにリノはそう答えると、エリノラも軍の話を前向きに検討し始めた。
「リノがそう言うなら……」
「でも危険な職業よ?」
それなりの覚悟がいるとクラウが言い切る前に、リノはキッパリと言った。
「覚悟ならとうの昔にできてるよ」
「……」
そんなリノの目を見て、クラウは幼馴染だからこそ。これが本気であるのだと言うのを理解していた。
「……はぁ、仕方ないわね」
半分諦めた様子で彼女はため息を吐くと、二人を見た。
「二人が行くなら、アタシも行こうかしらね」
「おっ、まじ?」
「本当?!」
「だって、大学に一人残るのも寂しいしね」
彼女はそういうと、誰かにメールを送った。
「誰に送ったんだ?」
「ウチらも入るなら推薦状を書いてもらわないといけないでしょう?…あっ、返ってきた」
クラウは携帯を使って誰かにメールを送っていた。
「エラが行くから、ウチとリノの二枚をお願いっと……」
そう言うと、クラウはメールを送信した。
「よし、これでウチらも学校に入れるわよ!」
そう言いピースを浮かべると、リノは誰に連絡したのかを聞いた。
「知っているでしょう?ウチらの知り合いでお偉い軍人さんがいる子と言えば?」
「……あぁ、なるほど」
そこでリノは全てを察した。今まで文通で連絡しあっていた為にクラウがメールを取れた事実に少し驚いていた。
「あいつのメアド持ってたんだ」
「この前教えてもらったの」
そう言うと、返信があってそこには日時と集合場所が書いてあり。リノ達はその日までに学校に休学届を出さなければいけなかった。
そして迎えた当日、今日はその人が直々に出迎えてくれると言う事で三人は待ち合わせ場所で世間話をしながら待っていた。
大学から飛行機を使ってかなりの距離を移動していた。
「来ないな」
「混んでんじゃない?」
「そろそろ来ても良いと思うんだけどね」
待ち合わせ場所で荷物を持ったままリノ達は待ちぼうけをしていると、三人の前に一台の黒塗りのエレカが止まった。
「「「?」」」
もしかしてと思っていると、運転席から一人の男が降りてきた。
サングラスをかけたその青年はそのままこっちを見ると、懐かしげな目を向けた後にサングラスを取って顔を見せた。
「やぁ、みんな久しぶり。直接会うのは六年ぶりだね」
そう言われるが、リノ達は三人して同時に首を傾げた。
「「「誰?」」」
そこに立っていた一人の黒髪の好青年はリノ達の反応に冗談を言っているのかと言った様子で答える。
「やだねぇ、僕の顔忘れたのかい?ほら、テオだよ」
そう言い、その青年はテオと名乗ってリノ達にサングラスをとって爽やか笑顔を見せた。
「は?」
「……え?」
「嘘ぉ」
だって全然見た目違うやん。もっとこう、前は子供っぽかったと言うかさ。その……
「何食ったらそんななった?」
「「うん」」
少なくとも自分たちの知っているテオはどこに消えたのかと思ってしまった。
その後、テオの運転するエレカに乗り込んだ三人は色々と文句を言われる。
「あのねぇ、いきなり士官候補生学校に入れろだなんて言うから。こっちはてんやわんやだよ」
「でもちゃんと推薦状を書いてくれる辺り、君と君のお父さんには感謝だよ」
「……」
そう言われ少し嬉しくなったのか、口元が緩んでいるテオは気分がよさそうだった。
「えっと……ああそう、これから学校に行ったら適正試験を受けてもらうんだけど。その…MSの人気はかなり高いから。頑張ってね」
テオは自分もMSの試験には苦労したと言っていた。
「半年間の訓練を受けた後に少尉の階級がもらえるはずだから。その後の事とかは決めていたりするの?」
「うーん、今はまだかなぁ……」
「私は残るつもりですけどね」
「俺も、パイロットの免許を取った後はまだ未定だな……少なくとも学士は取りたいから一旦は除隊かな」
リノはそう答えると、エレカは士官候補生学校の敷地の前に止まった。
「着いたよ。ここが今日からリノ達が世話になる場所ね」
そう言いテオは三人を下ろした後、最後にこう言った。
「ここで僕に会っても、階級は僕の方が上だから。間違っても気安く話しかけないでね。下手するとぶっ飛ばされるから」
そう言うと、彼は少尉の階級章を付けた軍服を羽織ったままエレカに乗って走り去って行った。
それを見てリノ達は思わず同じことを思ってしまった。
「「「この親の七光りめが……!!」」」
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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