士官候補生学校での訓練は半年。
そのうちの二ヶ月は基礎訓練と基礎教養であり。残りの四ヶ月はそれそれの兵科に分かれて専門の教育をする事となっていた。
それぞれの兵科の訓練を行いながら、兵学についても学ぶ必要があった。
特にモビルスーツは学力の方を優先している事が多い為、座学で好成績を残さねばならなかった。
そして座学を優先するためか、『肥満だとMSパイロットにしかなれない』と揶揄される事があった。
しかし、肥満認定されると今度は士官候補生の訓練に耐えられないわけで……ある意味それは冗談でもあった。ただ、動けるデブとなるとそれは例外なのだが……。
広大な訓練場にはビルを見立てたコンクリートブロックと穴だらけのコンテナがあり、その中を白とピンク色に塗装した<ジム>が警戒した様子で三機歩いていた。
「……」
そしてその中で一人のパイロットが緊張した様子で街を模した施設を歩いていた。
四機で一個小隊を組むMSはここには三機しかおらず、残りの一機は後方でその手にジム・ロングライフルを持って待機していた。
ミノフスキー粒子も戦闘濃度まで撒かれており、実戦を意識していた。
「っ!!」
そして街のモックアップを歩いていると一瞬だけ視界の端に青色の機体が映った気がし、その瞬間。持っていたジム・ライフルが発射される。
『くそっ!見失った!』
『どこだ…必ずいるぞ……』
「密集しろ。アイツに単機で挑むな」
そう言うと、三機居たジムの最後尾の機体が背中から撃たれて青色のペイント弾が無数に叩きつけられた。
「ちくしょう!何処だ?!」
『右だ!撃て!』
一瞬見えたその動きに向かって残った二機がジム・ライフル片手に走って移動する。
「い、居ない……?!」
『上だ!!』
「何?!うわぁっ?!」
その瞬間、ビルの上から足裏のスラスターを使って飛び越えてきたその機体に対応できず、その前に足で押し倒される。
『くそぉっ!!』
そしてそれを見てもう一機の方が反射的に引き金を引いた瞬間。
『ぬぉあっ?!』
胸部を青いペイント弾が命中し、撃破判定を受ける。
銃弾の飛んできた方向にズームアップすると、そこにはジム・ロングライフルを構えるジムが立っていた。
『くそっ、やられた!』
「ジムでここまでの性能出せるのかよ!?」
狙撃担当の兵がそう愚痴りながら街に居るはずのその同型機に向かって射撃をするも、当たった気配はなく。むしろ……
「だあっ!!」
何処に居たのか、コックピットが一気に青色一色になってしまった。
攻撃を受けた後、視界にはジム・ライフルを抱えた一機のMSが横で立っていた。
『訓練終了!』
それと同時にアナウンスが張り響いた。
そして格納庫に帰還した七機のモビスーツを見て他の訓練生達は驚いた目で見ていた。
ここに来て五ヶ月目。すっかりMSの操縦も慣れてきていた。
「すげぇ、これで何連勝目だよ」
「賭けは俺の勝ちだな」
「ちくしょおっ!!」
そう言い、下で候補生が悔しがっていると。ジムのコックピットから三人のパイロットが降りてくると三人はハイタッチしていた。
それを見て羨望と恨みの眼差しを向ける候補生達。
「チッ、女子二人に囲まれて幸せだな」
「おまけに片方はここら辺で一番の美女だ」
そう言い、ヘルメットを片手に談笑しているリノ達を見て下にいる候補生が聞く。
「なぁ、スタンガンあるか?」
「いやぁ、青酸カリだろう」
「違う、テトロドトキシンだな」
殺意マシマシの目でリノ達を見ると、一人が呟く。
「確かあの三人は同郷の身なんだろう?」
「ああ、噂じゃあアーノルド提督が目をつけたとか……」
「息ぴったりだもんな」
そう言い、三人は階段を降りてくるリノ達を見ていた。
「じゃあ、ひょっとしてチャンスが……」
「「ねえよ」」
「デスヨネー……トホホ」
肩をガックリと落としながらその候補生は項垂れていた。
「どうだった?」
「いいんじゃない?」
「ああ、連携は問題無かったな」
格納庫の階段を降りながら三人はそう話すと、クラウが問題点を呟いた。
「問題は索敵できないから結構行き当たりバッタリなところよね」
「それは仕方ないよ。だって、ウチら三人だし」
「一応、俺が索敵をしているんだけどなあ……」
訓練中の問題点を洗い出していた。
現在、ジムを使った候補生同士での戦闘訓練では負けなしの三人組は同級生の中でも異質な目で見られていた。
「ジムであんな動きできんのかよ」
「まるで雄の獅子だぜ。あんな動き、普通体が保たんだろう……」
「俺たちじゃ勝てねえよ……」
「訓練に成りやしねぇ」
敵のチームの四人が思わずそんなことを話しているのが耳に入ってしまう。
実際、連邦系のMS同士であれば今の所負けなしだった。そして、ジムよりも性能の劣るザクⅡでは負ける可能性は限りなく低いと言われていた。
「君達」
「「「はっ!」」」
すると三人の前に教官が現れ、話しかけてきた。
「君たちの訓練は見させてもらった。実に優秀な成績を残しているようだね」
「はっ、ありがたいお言葉です。教官」
敬礼をしながらリノ達は答えると、その教官はリノに聞いてきた。
「どうだい?この後もう一戦行けるかい?」
「はい!問題ありません!」
リノ達は一旦二人に目配せして確認を取った後に答えると、その教官は言った。
「よし、他の候補生の訓練が終われば私達が相手する」
「わ、分かりました!」
「君たちには一旦、負けることを教えなければならなさそうだからな」
そう言い残すと、教官は同級生では負けなしのリノ達を試す目をしていた。
そして、教官直々に手解きを受けると言うことに他の候補生達は羨望や驚きの目を向けていた。
そして一通りMSの訓練が終わり、その次に教官自らがMSに乗り込んでの訓練が行われる事となると、まず初めにリノ達のチームが表に出る事となった。
『訓練自体は通常と変化無しだ。ただし、敵の機種はザクⅡ三機だ』
「了解しました」
『では、今より訓練を開始する』
この訓練ではミノフスキー粒子散布化で、本来であれば敵の機種や総数は不明なまま行われる。しかし、今回は敵機の機数や機種までは教えられていた。
正直、乗るのが教官だからとそこまで言っていいのかと思ってしまうが。それでもリノ達は油断する事なく訓練を開始した。
「敵機はザクⅡ三機編成。いつも通り俺が索敵で行く。二人もいつも通り頼むぞ」
『『了解!』』
そう答え、真っ先にリノの乗るジムは片手にジム・マシンガンを持って訓練場の索敵場所を探る。
本来であれば四機編成だが。人数の関係上、三人で運用しているこの小隊はリノが索敵と近接戦を兼ねていた。
ここでの卒業後にテオと合流して一個小隊を作ることになっている(と言われた)リノ達はこの状態で良いと思っていた。
「よし、こっちは索敵場所に付いた。戦闘を……」
無線を繋ごうとすると、ミノフスキー粒子が濃いのか向こう側からは掠れた声しか聞こえなかった。
「くそっ、粒子が濃いのか……」
リノは近接戦用のジム・マシンガン、エリノラは中距離のジム・ライフル、クラウは遠距離のジム・ロングライフルと見事に戦闘領域に合わせて棲み分けができていた。
そして此処にテオの索敵があれば通常の小隊として活動ができると考えていた。
「一旦撤退するしか……っ!?」
通信がしにくい程のミノフスキー粒子の濃さに一旦撤退しようとした矢先。目の前にザクⅡが飛び出してきた。
「ちっ!」
咄嗟に持っていた訓練用のビーム・サーベルで応戦する。
「っ!うらぁっ!」
そして押されかけたところをジムの出力で無理やり押し込むと、そのザクⅡは滑らかな動きで着地した。
「これが、教官の動きですか……」
少なくともザクⅡでこんな動きができる時点で大分おかしな話だ。
するとそのザクⅡは近接戦を仕掛けてきた。
「くそっ、迂闊に近づけやしない……」
『ザクでこんな動きができるの?!早すぎて照準が……!!』
『リノ!こっち来れない?!』
「すまんが無理だ!!」
ヒートホークとザクマシンガンの攻撃を避ける事に専念していると、横で無線が繋がったエリノラから悲鳴が上がった。
『きゃあっ!!』
「エラ!くそっ!!」
一瞬気が逸れたその時を狙って、教官の駆るザクⅡは一気に飛翔してリノを上から襲いかかった。
その時、リノは上空に向けてジム・マシンガンを撃つが一向に当たらず。代わりに上からザクマシンガンを撃たれてしまった。
「うわぁっ!!」
まともに上から銃撃を喰らったリノの機体は一気にピンク色にペイントされ、撃破判定を喰らった。
そしてリノとエリノラがやられ、クラウもその後にあっけなくやられた後。三人は満足げな表情の教官に聞かれる。
「どうだ?これが経験者だ」
「はい、自分にとっては良い経験でした」
「自分はまだまだ甘いのだと実感いたしました」
「次はもう少しまともな戦闘をできるよう訓練します」
そう言うと教官はそんな反応を見た後に軽く頷くと、彼らにアドバイスを加えた。
「よく聞け、良いパイロットになるのなら。生き残る事をよく考えておきなさい」
「「「……?」」」
どう言うことだとやや首を傾げると、その教官は去り際に言った。
「それが分からなければ君達は<レギオン>に圧倒されるだろう」
そう言うと、教官は格納庫から去って行った。
「どう言うこと?」
「さぁ……俺にはさっぱり」
「生き残る事って普通のことじゃないの?」
教官のことだから何か深い意味があるのかもしれないと三人は考えながらも困惑したまま宿舎に帰って行った。
半年間の訓練中にリノ達の三人の卓越したモビルスーツ操縦技術は、彼らに推薦状を書いたアーノルドの手にも届いていた。
そして、現在はジャブローの一員として働く彼は秘書のこの前少尉となった息子に話す。
「お前の友人は随分優秀のようだな」
そう言うと、コーヒーを淹れた彼は少し胸を張り気味に答える。
「そりゃ、子供の頃からモビルスーツに興味があったからね。おまけに頭もいいし」
そう言うと、アーノルドは苦笑しながらテオに言った。
「お前達の中で操縦技術が一番低いのがお前と言うのがなんとも……」
「何?馬鹿にしてんの?」
「いやいや、馬鹿にしているわけじゃない。この三人の操縦技術が一線を画しているだけだ。一般的な判断で行くと本来はお前も本来は優秀な部類なんだ」
そう言うと、アーノルドはその中でもリノの操縦技術に舌を巻いていた。同級生からは獅子のようだと言われるその戦い方は近接戦に特化していた。
そして彼と同郷の身であるクラウもまた、狙撃に置いて優秀な成績を収めていた。三人の中で最も常人に近いのが、エリノラと言うこの事実。それでも一般的には優秀で使いやすいパイロットだった。
「あそこの施設は何かね?優秀なパイロットを生み出しやすい環境なのかね?」
「いや、多分二人が突出しているだけだよ。エラに関しては……多分リノに影響されたからじゃない?」
「ほぅ、例の記憶を見る異能を持つ少女だったか?情報部の連中がわざわざお前に言ってきた」
エリノラ達と文通をしていたテオは、エリノラの異能の事をアーノルドにも言っており、その情報をどこからか聞きつけた情報部がわざわざ卒業間近のテオの元に訪れて軍の勧誘に協力させていたのだ。
「そうそう、最近じゃあ慣れてきて記憶の選別ができるようになったって聞いているよ」
「それは凄いな……」
元々、この国に異能者の数は極端に少ない。ただでさえ希少な異能者、それも拷問無しで人の記憶が読み取れると言うのならば情報部としては喉から手が出るほど欲しいに違いない。
「そりゃ、情報部が佐官とほぼ同じ給料を提示したわけだ」
アーノルドはそう言うと、次に彼らの人事に関してどうしたものかと考えていた。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい