86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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外伝#33 眠れる獅子7

それから配属されるまでの間、四人は久しぶりの再会に花を咲かせつつも束の間の自由時間を楽しんでいた。

 

「次、ここに行かない?」

「良いんじゃないか?」

 

エリノラとリノが楽しげに話す横で、クラウとテオもそんな二人を見て少し羨ましくも、微笑ましく見ていた。

 

「……良いの?あのままで?」

 

そんな初々しい二人を後ろで見ながらテオが聞くと、クラウは軽く首を横に振った。

 

「ダメよ、あいつにとって。私はどうも妹に見えているらしいから……」

「……そう」

 

テオはそこでクラウの諦めた目線を見て色々と察してしまった。

孤児院にいた頃もテオ自身、リノはまるで弟のように接していた事を思い出すとふと呟く。

 

「意外とリノって寂しがり屋?」

「あら、今頃気づいた?」

 

クラウはそこでやや呆れも混ざった表情でテオを見る。すると同じ釜の飯を食い続けてきた仲だからこそ分かる()()を言う。

 

「アイツはね、自分が家族だと認識した人以外の人間に大した興味が湧かないのよ。おまけに、家族と思った人に手を出した時の仕打ちは容赦ない。

あのクソヘルパーの時だって、私やアイダさんが居なかったらもっと酷かったかもしれないわ」

「……まるでマフィアだ」

 

思わずそう口に出てしまうと、クラウも頷いてしまう。

 

「そうね…彼がもうちょっと悪い人だったらマフィアに入ってたかもしれないわね」

「笑えない冗談だよ……」

 

テオは思わずそう言うと、クラウは遠目で嬉しげにするリノを見てどこか諦めのついた表情で言う。

 

「でも…エラが彼を意識したのは、おそらく異能持ち同士だからなんでしょうね……」

「あぁ…」

 

同郷の嘉と言うべきか、同じ苦しみをわかってくれる同士と言うべきか。

どこかエリノラ自身、()()()()()()()()()()()リノに依存している部分を持ち合わせ。リノもエリノラに()()を求めているのかもしれない。

 

「そう言う点じゃあ、私は叶いっこないわね」

「ある意味で、『お似合い』って言うべきなのかな?」

「どちらかと言うと『似たもの同士』でしょ」

 

テオとクラウはどこか危険な匂いも持ち合わせる二人の関係に少し心配になった。

 

「ねぇ、今からでもリノの配属先って変えられないの?」

「うーん、ちょっと厳しいね。もうすべに前線に通達がいっちゃってるし……」

「よりにもよって警備隊なんでしょう?今から胃がキリキリして来そう」

「どうして最前線に送り込んじゃったかねぇ……」

 

テオ自身、首を傾げながら言う。

 

確かに成績だけ見れば一番優秀なのはリノだ。だが、リノの戦い方はあくまでも接近戦。要は白兵戦主体だ。そんな戦い方をしていればいずれは限界が訪れる事になる。そして警備隊は最も<レギオン>との戦闘になりやすい部隊だ。

 

「ってか、<レギオン>ってどんな戦い方をするんだろう」

 

そこでふとクラウは考えてしまう。一応事前情報として<レギオン>の機体や性能などは聞いており。対処の仕方も学校で教わった。だが、百聞は一見に如かず。実際にどんな物なのかと考えていると、横でテオが解説した。

 

「まぁ、わかりやすく言うと物量で押してくる……ぶっちゃけて言うと『攻撃してくるGの群』って感じだね」

「うわっ、最悪……」

 

テオの分かりやすくも最悪な例えに思わず顔を顰めてしまう。虫嫌いなクラウは想像しただけでゾッとしてしまった。

 

「だから前線だと、ビーム兵器よりも連射の効くジム・ライフルの方が人気だったりするよ」

「へぇ……」

 

しかしそこでクラウはふと思い出す。確か学校で教わったモビルスーツの兵装の中に良いのがあった気がした。

 

「ねえ、それってビーム・ガトリンガンとかマシンガンじゃダメなの?」

 

少なくとも実体弾よりも貫通力も制圧力の高いビーム兵器、それも圧倒的連射速度のあるガトリングガンやマシンガンではダメなのかと聞くと、テオは少し言いにくそうにしながら答える。

 

「まぁ……懐事情ってやつだよ。いずれは配備されるだろうけど今はねぇ……」

「あぁ……」

 

寄りにもよって予算の方の問題かと軽く頭を悩ませた。

 

 

 

実を言うと、実体弾兵器よりもビーム兵器の方がお値段控えめなのだ。

それもそのはずで、いくらケースレス弾とは言え。実体弾には火薬と砲弾、それから点火装置と必要な機材が増えるわけで……。

それに比べてビーム兵器はEパックにミノフスキー粒子を充填すればハイ終わり案件なので、恐ろしく安上がりになるのだ。

 

ただ、その充填設備を前線に運ぶのに戦闘艦やらを差し向けなければならないと言う欠点もあるが……それでも貫通力は無類な上にEパック方式のビーム兵器であれば継戦能力も格段に向上する優れものである事に間違いなかった。その為、国内ではビーム兵器の生産に政府も発破をかけていたのだ。

 

「兎に角、開戦の影響で色々なモビルスーツを所構わず徴用した影響で、前線でもとんでもない混乱が起こっていて……補給で義父は泣いているよ」

「あぁ、お義父さん補給のプロだもんね。そんな人が泣くなんて……」

 

どれだけかき集めたんだと思っていた。

ただ、補給が得意なあの人がなんで陸上艦隊の司令官やってたのかが疑問に思えてしまうが……。

 

「何せジム・ライフルとMMP−80の弾薬がごっちゃりして、よく間違えて前線に届くんだってさ」

「ああ、どっちも口径同じだもんね」

 

確かに間違えやすそうではあると納得しながらクラウはテオの話を聞いていた。

 

「ただ、性能的にジム・ライフルの方が上だから。上層部とかはいずれは全部ジム・ライフルにするっていってたかな。その為のグレネードの開発もしてるって聞いたけど」

「えぇ、わざわざ?」

「うん、もうすでにザクマシンガンの製造をやめて。ジム・ライフルに置き換わっているって聞いているしね」

「うわぁ、嫌な予感しかしないわぁ……」

 

そこでクラウはそう話していると、一歩前を歩くリノ達は次に映画館に行くようだ。

 

「ウチらどうする?」

「うーん、取り敢えず近くのカフェで休憩しない?」

「賛成ね。行きましょ」

 

そう言うと、二人だけの空間を作るためにクラウ達はリノ達と別れるとそのまま近くの店に入って行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

クラウ達が離れていき、リノとエリノラの二人きりで過ごす時間は意外にもあっという間に過ぎていた。

 

「この映画面白かったね!」

「ああ、そうだな」

 

いつから彼女を一人の女性として見て来たのか。少なくとも初めの頃は妹のように接して来ていたが……。

他人に言われずとも、自分がどんな感情で彼女を見ているのかは理解している。

 

ただ、その事を言うにはまだタイミングが少し早かった。

 

今思うと、彼女には初めは拒否され続けて来ていたが。良くも悪くもあの一件で、自分達の中は深まったと言える。

彼女が明かしてくれた心の内に抱えていた物を、話してくれた事で自分も色々と対策を練ることができた。

 

異能で苦しんでいる人が居たのが自分以外にもいたのが驚きだったが、この辛さを共有できる人がいた事が自分にとっても意外にも救いだったのかもしれない。

あの後、テオと同じように心に余裕の持てるようになった彼女はクラウから化粧なども学び、今では誰もが振り返ってしまうような美女になっていた。

 

「次はどこに行く?」

「そうだな……」

 

異能で苦しんできた頃からは思えぬほど明るい顔をするようになった彼女を見るとこちらも微笑ましくなるものだ。

 

 

 

 

 

自分の人生において、初めて自分以外に異能を持っていると分かった人がリノだった。

初めの頃は誰も信用できなくて、孤独を選んでいたが。それには限界があると言うのを彼は教えてくれた。

 

気味が悪いからと、帝国の血が入っているからと、不当に暴力を受けていたあの頃の自分は何も望んでいなかった。

ただ、いっときの痛みを耐えればあといつもと変わらない生活を送る事ができた。

だから、誰にも言わなかった。ここを出るまでの辛抱だと、思っていたところを彼は見つけていた。

 

初めは孤児院に昔からいる寮母さんの実子だと思っていた。

面倒見がとても良く、夜泣いている時は横に座ったり孤児の赤ん坊の面倒を見ていたりして、それが鬱陶しかったこともあったが。何より、家族が居た事が羨ましいと思っていた。だから、孤児だと知った時は驚いた。

 

そしてクラウに捕まり、色々と髪の毛をいじられた時。私は初めて知った、異能には条件があると言うことに。

その時、少しだけ前に進むのが怖くなくなった気がした。

こんなにもあっさりと前に進んでしまったために拍子抜けしたと言うべきだろうか。

 

そんなきっかけを作ってくれたリノとクラウは自分にとってはとても大人びた存在に見えた。

幼い頃から、孤児として一人の人として生きている二人はおそらく早い段階で成長していたのかもしれない。

そんな中で特にリノは自分の異能の苦しみを理解してくれた。どれだけ周りから罵られても強くいられるその精神力に私は思わず彼に全ての事を打ち明けてしまった。

 

そして彼はそんな自分の過去を全て受け入れてくれた。その事が私にとってはありがたかった。

否定する事なく、だからと言って甘えているわけでもない。

ただ平等に接してくれた彼に、私はいつの間にか惹かれていた。

 

「ねえ、リノ」

「ん?」

 

だから、今日。彼に渡したいものがあった。今までのお礼もかねて…自分の人生を変えてくれるきっかけとなった目の前にいる人に今に自分にできる最大限の事を……。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その日の夜、もうすぐ初陣となる四人はこの後夜景が美しいと言われる場所に行くためのロープウェイで待っていると、そこでクラウが初めに口を開いた。

 

「……あれ?私の財布どこ?」

 

突然慌てた様子でポケットやカバンを探し始めるクラウにテオが言う。

 

「さっきのカフェに置いて来たんじゃないの?ほら、会計クラウがしてくれたから」

「やばっ、ちょっと取りに行かないと」

 

そう言いクラウは携帯をとって連絡を入れると、テオが言う。

 

「僕も行くよ」

「お願い」

 

そう言うと二人は忘れ物を取りにその場を離れていった。

それを見てリノ達は一瞬唖然となった後に少しだけ笑ってしまった。

 

「クラウってちょっと抜けているね」

「ああ、偶にやらかすからな」

 

だがその内心、二人はクラウ達の気遣いに少し感謝していた。

二人きりの環境になったところで、ロープウェイに乗り込んだリノ達はそのまま山の上の展望台まで移動する。

 

此処は夜になると、とびきり美しい夜景が見る事ができる事で有名な場所であり、告白スポットとしても有名な場所だった。

そんな場所には当然多くのカップルも訪れており、リノ達の乗るロープウェイにも同じようにカップルが多く乗り込んでいた。

そしてロープウェイが到着すると大勢の人が降りていき、そこでリノ達も同じように展望台に向かって歩き始める。

 

「うわぁ…」

「これは…」

 

そして大勢の観光客がいる中、リノ達は展望台の隅に向かうと、そこで見た壮大な景色に思わず息を呑みそうになった。

 

「綺麗ね…」

「ああ…」

 

そこには夜景で明かりのついた街の街灯や建物の灯りがまるで宝石のように輝いていた。そしてその景色を見ながら二人は同時に名前を呼び合った。

 

「リノ」「エリノラ」

 

同時に名前を呼んでしまい、一瞬気まずくなってしまった二人はまた夜景に視線を戻すと、改めてリノが口を開いた。

 

「エリノラ…少し、良いか?」

「……うん」

 

エリノラは頷くと、リノの顔を見る。

 

自分と同じ彼の赤い相貌は確かに自分を映していた。

 

そして彼は少し恥ずかしそうにしながらエリノラに話しかける。

 

「その…今まで黙っていたんだが……」

 

彼は少し戸惑いまじりに、らしくなく少し顔を赤くしながら言う。

 

「君と過ごしていて悪いと思った日はなかったんだ。

孤児院で出会ったその日から、俺は多分…虜になっていたんだと思う」

 

そう言うと、彼は懐から小さな箱を取り出すとそれをエリノラに手渡した。

 

「だから、これを受け取って欲しい」

 

恥ずかしさのあまり色々とすっ飛ばしてしまったリノはエリノラにその箱を手渡す。

箱を受け取ったエリノラは、中身を開けると。そこには小さなダイヤモンドの埋め込まれた指輪が入っていた。

シンプルだが、戦場においても問題ないように指輪のリングに埋め込まれたその指輪。

 

本来は指輪をした状態で戦場に向かうのは禁じられている。理由としては指輪を嵌めている事で予想外の怪我をしてしまう可能性があるからだ。

しかし、それでも一定数は指輪をつけたまま作戦に参加する軍人もいた。

 

「……」

 

それを見たエリノラはリノの顔を見た。

 

「リノ」

 

そして彼女はまたもリノにリードされてしまったと悔しさと嬉しさの混ざった感情で話す。

 

「いつも、私の手を引っ張ってくれて…ありがとう」

 

そう言うと、彼女はリノから受け取った指輪の入った箱を仕舞い、持っていた鞄の中を探る。

 

「私、貴方と出会って嬉しくなかった事なんて無かった。

いつも、私の前に立っていてくれて。私の事を見ていてくれて…だから……」

 

そう言うと彼女は鞄の中から小さな箱を取り出すと、それをリノの手の中に入れた。

 

「これからも、私の前に立って手を引っ張ってくれますか?」

 

そう言うと、彼女はリノの顔を見て問いかける。

その問いにリノは手の中に入った小箱を握って薄く微笑んだ。

 

「ああ、いつまでも」

 

そう答えるとエリノラは嬉しさのあまりか、リノの体に抱きついていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そしてその光景を、遠くから眺めている影が二つ、クラウとテオだった。

二人はリノ達の告白にクラウ達はほっと安心していた。

 

「こうやってみると、なんか悔しいわね」

「そうだね。なんか、羨ましい……」

 

その内心、クラウはおそらく思っているのは違うと思いながらも無事に上手くいった二人を見ていた。

元々付き合う関係になっていた二人は告白と婚約を合わせてこの場で済ませると言う、なかなか特異的な行動をとっていた。

 

「なんだか……そう思うと自分たちも似たもの同士?」

「あら、ならここで告白する?」

 

クラウがそう言うと、テオはやや苦笑してしまった。

 

「そんなおまけ感覚で……僕はもうちょっとしっかりしたいよ」

「あら、私はいつでもウェルカムよ?」

 

彼女はどこか脈有りな目でテオを見ており、それを見たテオは少し言葉に詰まってしまった。

 

 

 

 

 

そして四人の最後の平和な時間は終わりを迎えることとなった。

 

 

 

 

 

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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