86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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外伝#34 眠れる獅子8

その日、新米パイロットのリノ・フリッツはある場所を訪れていた。

航空機で後方の基地に到着し、そこから軍用トラックに乗って移動すること一時間。

時折、戦闘機やうっすらと聞こえる砲撃音。そして、目を覆いたくなるほど数多に見える黒い感情が見せるその場所はまさに最前線にふさわしい場所だった。

 

「……」

 

そして到着した前線基地は、基地と言うにはあまりにも雑だった。仮設のテントに近くで寝そべっている兵士やモビルスーツ、補給物資の弾薬が溜まっていた。

補給用のホバーカーゴトラックと共に運ばれてきたリノは軽い荷物を持ったまま配属先の基地で棒立ちしていると。

 

「お前が新人か?」

「?」

 

ふと、リノは声をかけられた。

その方を見ると、浅黒い肌を持つ一人の軍人がリノを見ていた。

 

「えっと……あなたは?」

 

階級章を見ると大尉である彼にリノは敬礼をするとその男は答えた。

 

「此処の部隊長のハリー・クリンだ」

「っ!」

 

名前を聞き、リノは敬礼したまま答える。

 

「はっ!この度配属されました、リノ・フリッツ少尉であります!」

 

そう答えると、ハリーはリノを上から下までじろりと見た後に呟いた。

 

「ふむ……筋は悪くなさそうだ」

「え?」

 

見ただけでそう呟いた彼にリノは首を傾げてしまうと、彼はリノを手招きした。

 

「取り敢えずついてこい」

「はっ!」

 

そう言い、リノはハリーの後をついて行った。

 

 

 

 

 

「おいお前ら!」

 

そして連れてこられたテントに入るや否やハリーは大声で叫んだ。

中には大勢の軍人が座っており、入って来たリノを見ていた。

 

「こいつが噂の新人だ。手厚く歓迎してやれ」

 

そう言うと、中にいた男達はリノを見た後に荒い声で答えた。

 

「「「うっす!!」」」

 

そしてその瞬間、リノは盛大に顔面に何かをぶっかけられた。

 

「わぁっ!?」

 

そしてぶっかけられたのが水であるとわかった後、リノはいきなり身体中が水浸しになった。

 

「……え?」

 

突然のことに困惑していると、横でハリーが言う。

 

「新人が来た時にやる俺たちの歓迎方法だ。まだ他にもあるから待っておくと良い」

「えっと……?」

 

何が起こったのかさっぱりなリノに一人の青年が声をかけた。

 

「へぇ、お前が噂のねぇ……」

「えっと、君は?」

「俺?俺はオウル・リットマンさ!」

 

そう言い、話しかけてきた青年に一人の軍人が怒鳴った。

 

「おいバカかよ。お前、目の前にいるのは少尉だぞ」

「げっ、俺軍曹だから敬礼しなくちゃ」

 

そう言いわざとらしく敬礼する彼にリノは言う。

 

「いいですよ。別に俺は所詮少尉ですし……」

「だってよ。お前運が良かったな」

 

そう言われ、オウルはほっとした様子でリノを見た。

 

「いやぁ、優しい少尉さんで良かったや。やっぱ俺は運がいいぜ」

 

どこまでも陽気な彼にリノはやや困惑しつつ、気さくに話しかける。

 

「よろしく。オウル」

「おう、こちらこそ」

 

そう言い握手を交わすと、別の軍人がリノに聞いてきた。

 

「訓練場じゃあ、獅子ってあだ名がつけられてたんだろう?」

「……別に、誰かが適当につけたあだ名ですよ」

 

リノは少し嫌な表情をして答えると、少し目の前にいた軍人は驚いた目をしていた。

 

「ほう……これは少し骨がありそうなやつだ」

「そうか?つけ上がって撃破される未来が見えるよ」

 

遠くでそう話す軍人にハリーが怒鳴った。

 

「馬鹿者!そう言うお前らもこの前ジムの足ぶっ壊されてただろうが」

「なっ!」

「そりゃ無いっすよ大尉」

 

そう言い、慌てて否定する兵士にリノは呆然となっていると。彼はハリーに肩を叩かれた。

 

「まぁ、こんな感じさ。俺の部隊はな、よろしく頼むぞ。期待の新人さん」

 

そう言い、リノはそんな大尉の目を見て少し違和感を感じていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それからリノは配属された第四〇四警備隊の基地の説明や配備機の説明を受けていた。

 

「お前は少尉だが、新人だ。ヒヨッコに乗せされる機体はこいつだけだ」

 

そう言い、ハリーはリノの搭乗する機体を見せる。

陸戦用にオリーブドラブ色に塗装された<ジム改>が横たわっていた。

 

「ジム改ですか?」

 

一瞬でなんの機体なのか見抜くと、ハリーは頷いた。

 

「そうだ。俺たち警備隊の主要MSだ」

 

そう答えると、彼はリノに早速命令をした。

 

「リノ少尉、まずはこいつのコックピットの掃除をしろ」

「そ、掃除ですか?」

「そうだ、ホースと雑巾持って中を洗っとけ」

 

そう言うと、ハリーはそのまま去っていった。

そしてその光景を見ていたオウルは苦笑しながらリノを見ていた。

 

「うわぁ、大尉も酷な事させるよ」

「こりゃ二週間はミートボール食べらんねえな」

「やった、俺の分増えるぜ!」

 

そう言いながらホースと雑巾を持ったリノを見ていた。

 

 

 

 

 

ハリーの命令でコックピットの掃除をする事になったリノは片手に水の出るホースと雑巾を持ってコックピットハッチを開けた。

するとその瞬間、異様な匂いが鼻を貫いた。

なんとも言えないその腐った魚にも似た、鉄の混ざったような異臭の正体を見て、リノは思わず吐き出しそうになってしまった。

 

「っ!!」

 

そこには血だらけになったコックピットがあり、異臭の正体はこれらの血が変に乾燥して放っていたものだったのだ。

それが、前にこのコックピットに乗っていたパイロットのものだと言うのは言われるとも理解できた。

 

至る所にびっしりとこびりつく血痕を見てリノは思わず持っていた雑巾を落としてしまいそうになった。

 

「しっかり落とさねえと、その匂いとデートすることになるぜ!」

 

下でオウルがそう忠告を入れた。

リノは悲惨なコックピットの異臭を我慢しながら雑巾を持って拭き始めた。

乾燥して、雑菌の生えた血から発せられる異臭はこういった経験をしたことのなかったリノにとっては試練の様だった。

 

「……」

 

血のついた操作機器を湿らせた雑巾で拭き取る。

ボタンの一つ一つにべっとりと付着している血液は持っていた雑巾がすぐに赤黒く染まってしまった。

無駄に乾燥しているせいで拭き取りづらく、おまけにこの匂いだ。

我慢して来ていたものがついに限界を迎えた。

 

「おうっ」

 

口元を押さえてコックピットから慌てて降りたリノは近くの森に向かって盛大に吐いた。

 

「ーーーーーーっ!!」

 

まぁまぁ盛大に書き散らしたそれを見て、それを見ていたのだろうオウルが水を差し出してきた。

 

「おら、口洗っとけ。胃酸で食道がやられちまう」

「あ、あぁ……ありがとう」

 

そう言い、リノは受け取った水を口に含ませるとそのまま口元を洗っていた。

 

「まぁ、俺も洗礼された身だからあまり強く言わねえけど。こいつに早く慣れておいた方がいいぜ」

「……」

 

年下の曹長とはいえ、自分より実践経験の多いオウルの忠告にリノは呆然となってしまった。

 

「あのコックピットは?」

「ああ、俺の前に配属されてきたパイロット。戦車型の至近距離の砲撃がコックピットに直撃しちまったのさ。おかげでコクピットはあのザマだよ」

 

そう言い、ハッチが空いたまま横たわっているジム改を見ていた。

破損したパーツはすでに修理して取り替えており、その部分だけが血がついていない綺麗な物だと彼は言う。

 

「俺も配属された時に同じ経験をしたよ」

「……俺みたいに?」

「ああ、盛大にな」

 

そう言うと彼はリノを見ながらこう言った。

 

「此処じゃあ、死が真横に立っている。お前も早々にミンチになりたくなきゃ、腕を上げねえとな」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それから丸一日をかけてコックピットの掃除をしたリノはその日の晩に前線基地で配給を受けた。

 

「……」

 

よりにもよって今日の夕食はミートボールの煮付けだ。

銀のトレーに配られる料理を見て、リノはあの血だらけのコックピットを想像してしまい。思うようにスプーンが進まなかった。

 

「お前、食わねえのか?」

 

すると横に座ってきたオウルが聞いて来る。

その問いかけにリノはトレーを横に差し出しながら答える。

 

「……ああ、すまんが。食ってくれないか?」

「おう!もちろん!」

 

待ってましたと言わんばかりに彼はリノのトレーからミートボールを掻っ攫うと、その瞬間。

 

「何している?」

「あっ……ぎゃあっ?!」

 

それを見ていたのだろう、ハリーはオウルの脳天に盛大な拳骨をかましていた。

 

「何しているんだ馬鹿者!新米の皿から肉奪いやがって!」

「いや、だって……!!」

「良いんです。隊長」

 

リノはオウルの擁護をしようとした時、彼もまた怒鳴られた。

 

「馬鹿かてめえ!血を見ただけで甘ったるいこと言ってんじゃねえぞ!」

 

そう言うと、彼はリノとオウルのトレーを持って行って二人に言った。

 

「貴様らは夕飯は抜きだ。外で立っとけ!」

「えぇ、マジっすか?!」

 

懲罰として二人は宿舎の外で立たされることになってしまった。

 

 

 

 

 

「畜生、欲張んなきゃ良かった……」

 

涙目になりながらオウルは言う。その横でリノは帰って良かったかもしれないと思っていると、心を読んだのかオウルが言う。

 

「ダメだぜ。肉食っておかねえと、翌日悲惨なことになるからな」

「?」

「まぁ、明日になりゃお前もわかるよ」

 

そう言い、オウルはリノと共に宿舎の外で立っていた。彼曰く、大尉が迎えに来るまで此処で永遠と経っていなければならないそうで。

 

「ひどい時は一日中立っていたこともあったなぁ……」

「そんなに?」

「ああ、でも士官学校出のお前なら大丈夫だろう?」

「……まぁ」

 

学校でそれなりの戦闘訓練をしてきたリノにとっては一日中立っているのは慣れていた。

するとオウルは羨望の目で顔に手をやっていた。

 

「かーっ、羨ましいぜ。俺も士官学校出てたらもうちょっと楽だっただろうなぁ……」

 

初対面だと言うのに馴れ馴れしく接してくるオウルに少しリノは驚いてしまう。するとオウルはそのまま此処に来た経緯を話し始める。

 

「俺さ、徴募兵で入った身でさ。元々間違ってMSのパイロットに配属されちまったんだよ」

「え?そうなのか?」

「マジマジ、俺元々は歩兵隊に配属の予定が書類の手違いでMSのパイロットになっちまったの。おかげで初めの頃はだいぶ怒鳴られたもんさ」

 

モビルスーツの操縦方法を全くと言って良いほど分からなかった彼は必死こいて学んだという。

 

「おかげで今は多少なりともまともに活躍できるようになったんだぜ!」

「それは…すごいな」

 

純粋にリノは誉めてしまうと、オウルはそう言われて嬉しかったのか。少し顔がにやけていた。

 

「へへっ、すげえだろ。だから……」

 

するとその瞬間、宿舎から怒号が響いた。

 

「五月蝿えぞお前ら!黙って立つこともできんのか?!」

「やべっ」

 

上から怒鳴り散らしたハリーに慌ててオウルは謝ると、そのまま二人して世が明けるまで立ち続けていた。

 

 

 

 

 

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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