86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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外伝#35 眠れる獅子9

翌朝、日の出まで立ち続けたリノ達は新人が来たと言うことで。戦闘訓練を行うこととなった。

 

『いいか?屑鉄どもに遅れを取られるな。俺を殺す気で来い!』

 

掃除が終わってもやや匂いの残る<ジム改>のコックピットでリノは命令を受ける。後で消臭剤か何かを掛けて換気をしなければ……。

ミノフスキー粒子は濃く、まともな無線通信はできない状態だ。

一轍と絶食した影響で腹が減っている状態だが、リノはコックピットのレバーを動かす。

 

手にはジム・マシンガンとシールドを持っており。目の前には広い平原が広がっていた。

 

『よろしく頼むぜ。後輩!』

 

その横で、接触通信をしてきたオウルは自分と同じ<ジム改>に乗っており。その手には訓練用に威力が大幅に押さえられたビーム・スプレーガンを持っていた。

 

「ああ……よろしく頼む」

 

少なくとも行軍訓練では水を含んでいたのである程度耐えれたが、昨日の懲罰では水すら含んでいないので少し意識が朦朧としてしまう。

 

『訓練開始だ。隊長の攻撃は怖いぜ』

 

彼はそう忠告すると、センサーに反応があった。

 

『そらキタァ!!』

 

一気にオウルが構えると、センサーに映る一機の<ジェガン>が目に入る。

 

「っ!!」

 

咄嗟にリノもジム・マシンガンを発射するも。実弾の発射速度ではハリーの駆る<ジェガン>では掠りもしない。

 

「ちぃっ」

 

教官のそれに近い……いや、それ以上の機敏な動きにリノの<ジム改>では追いつけない。

 

『うりゃああああっ!!』

 

横ではオウルがビーム・スプレーガンを連射しながら一気に接近してくる<ジェガン>を激撃する。

 

 

 

この部隊に配備されているMSはそのほとんどが旧式である<ジム改>であり、隊長機だけ<ジェガン>が配備されていた。

二個小隊八機編成のこの警備隊はこの戦力で他の同編成の警備隊と交代交代で最前線の警備を行なっていた。

 

『オラオラオラッ!どうした新人?!』

 

ハリーがそう叫びながらビーム・サーベルを持ってリノの機体に積極的に攻撃を仕掛ける。

水すら含んでいないリノは反応が少し遅れてしまい、劣勢に追い込まれてしまう。

 

『戦場はいつ戦闘が起こるか分からんのだ!たとえそれが、体が悲鳴をあげているような状態でもなあ!!』

「うわっ!!」

 

ハリーの攻撃で突き飛ばされたリノはそのまま後ろスラスターを噴かして距離を取る。

 

「っ!」

 

そしてそのままジム・マシンガンを捨ててビーム・サーベルを持ったリノは背中のバックパックを稼働させて一気に距離を詰めるが……。

 

『ほれっ』

「っ?!」

 

一瞬の隙でハリーは突進攻撃を交わすと、リノは体の水分不足や食事を摂らなかった弊害でそのまま対応できずに倒れ込んでしまった。

 

『貰ったあっ!!』

 

そしてその隙に背中から堂々とサーベルを突き立てられて撃破されてしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「だから言っただろう?飯も水もねえとまともな判断ですらできなくなる」

「……ああ、身をもって感じたよ」

 

<ジム改>の上で座り込んでリノとオウルはそう話す。

リノの乗る<ジム改>はコックピットを開けたまま換気をしており、中の匂い取りをしていた。消臭剤も買ったので後で撒いておかなければ……。

リノはそこで久方の食事を食べながら呟く。

 

「水もないとこうもきついんだな」

「ああ、水は人には必要不可欠だからな」

 

そう言い、オウルも同じように渡されたパック詰めの経口補水液を飲んでいた。

 

「水がなきゃ人は三日で死んじまうんだ。やわな存在だよ」

「そうだな」

 

そう話していると、そんな二人に話しかける人が一人。

 

「おい、新米」

 

呼んだのはハリーだった。リノは昼食を食べながら返事をする。

 

「はい!」

 

すると彼は食後に自分の部屋に来るように言った。

 

 

 

 

 

「お呼びでしょうか?」

 

宿舎の中にある司令室に入ったリノはそこでハリーに聞くと。彼は机に足を引っ掛けて座ったままリノに聞く。

 

「どうだった。水がない状態での戦闘は?」

「はっ……戦闘時の判断力が幾分か落ちるのだと理解できました」

「そうかい……」

 

リノの返答にややつまらなさそうにするハリーは、続けてリノに言った。

 

「まぁ、水分抜きで戦闘に参加させたのは俺なりの歓迎だと思ってくれて構わない」

「はっ……?」

 

どう言う歓迎方法だと困惑しているとハリーはそんなリノに少し真面目な表情で言う。

 

「戦場ってのは、時たま部隊が分断されることがある。その時、部隊と合流を図るには過酷な環境下でも戦闘ができる忍耐力が必要になってくる。だから一度は経験しておかないと行けない代物だ」

「あぁ、なるほど」

 

つまり、これは隊長なりの訓練方法だと。習うより慣れろ案件ということですか。

 

「体が限界に近づいても、戦わなければならん時がある。その時、必要になってくるのは忍耐と運だ」

「運?」

 

リノが首を傾げると、ハリーは頷いた。

 

「そうだ、戦場に必要なのは技と忍耐と運だ。新米のお前さんにはまだ分からんかもしれんが、生き残るのに必要な要素だ。

そして運は、技がなければ付いてくる事はない」

 

そう言うと、彼は足を下ろして席を立つとリノの肩を持つ。

 

「明日からお前は俺の小隊に配属される。しっかり付いて来い」

 

そう言うと、彼はリノに一丁の拳銃を手渡す。

 

「これは?」

 

リノが首を傾げると、ハリーは言った。

 

「もし最後に屑鉄にやられそうになった時、こいつでセンサーでもぶっ壊してやれ」

「……」

 

そう言い残すと、ハリーはそのまま部屋を後にしていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

四〇四警備隊の主任務は最前線の<レギオン>の動向を探る事だ。現在、構築されている戦線は全体的にアンダーグラウンド・ソナーを展開しているため、それらの機器から情報の回収を行い。<レギオン>の配置を探って攻勢を掛けるのが今の我が軍の攻撃手段だ。

 

『第三ポイント、データ収集終わりました』

 

レーザー通信の出来ない場所のアンダーグラウンド・ソナーの情報収集のために巡回するMS二個小隊はそこで接触通信でアンダーグラウンド・ソナーの情報を回収する。

 

各戦域に一つ設置され、それが数珠繋ぎのように戦線を繋げていた。

配備されている<ジム改>が報告すると、<ジェガン>に乗るハリーが言う。

 

『よし、次の巡回ポイントに向かう。全員着いてこい』

「了解です」

 

そしてリノ達も同様に明細の施されたモビルスーツを駆って移動する。

リノの乗る機体はシールドとビーム・スプレーガンを持った一般的な兵装だが、横を歩くオウルは右肩にショルダーキャノンを搭載した簡易砲戦仕様に改装されていた。

 

『どうだ?コックピットの異臭は取れたか?』

「どうだろうな。匂いが消えるのが先か、消臭剤がなくなるのが先か……」

 

そんな世間話をしながら二人は戦線を歩く。

小隊の編成は各隊長である<ジェガン>二機と、<ジム改>六機。内一機は円環状のミノフスキー粒子発生装置を引っ張っており、それを守るように部隊は展開していた。

 

『はっはっはっ、じゃあ俺は消臭剤が先に消える方に賭けるね』

「乗った」

 

無線で話していると、聞こえていたのか。ハリーから注意が入る。

 

『貴様ら。私用で通信を使うな』

 

ここはまだミノフスキー粒子散布下ではないので、遠慮なく無線通信ができるが。うっかりしていると隊長機に繋がったまま連絡がいってしまうのだ。

 

『やべっ』

 

オウルは若干顔を青くして無線を慌てて切ると、今度は接触通信で話しかけてきた。

年が近い事もあってか、気さくに話しかけてくる彼は『先に配属された俺の方が先輩』などと言ってリノを引っ張っていたが、その都度階級で仲間からいじられていた。

 

『そんでさ、その機体の乗り心地はどうだ?』

 

彼はそう聞くと、リノは一通り動かした感想を素直に言う。

 

「強いて言うなら、もう少し機動性が欲しい。脚部と腕の動きが遅く感じるな」

『あぁ…前のパイロットはリノみたいな接近戦の戦い方じゃなかったからな』

 

すると接触回線に他の隊員が割り込んできた。

 

『二人して何話してんだよ』

『ん?いやぁ、リノがこの機体じゃ不満だって話』

 

オウルが答えると、その兵士は軽く鼻で笑いながら言う。

 

『はっ、そいつぁきつい話だぜ。接近戦したいならジェガンにでも乗り換え申請するしかねえな』

「まぁ、後でスラスター出力を上げてもらうように言ってもらいますよ」

『おっ、そこは少尉の権限でか?』

「んなわけ……」

 

そう話していると、無線でハリーから通信が入る。

 

『総員、次のポイントに到着する。各自警戒』

 

そう言い、ミノフスキー粒子発生装置を繋げた<ジム改>が地面に突き刺さるアンダーグラウンド・ソナーから接触通信で情報を回収する。

 

<レギオン>は通信を遮断する蝶を引き連れて行動するそうで、部隊接近は容易にできると言う。

 

『つまり、屑鉄は来てもミノフスキー粒子発生装置を使えばイチコロってところだね』

「士官学校で機体は色々と見てきたがな……」

『まあ群体行動で接近して来た所をこっちの攻撃で全て倒す感じかな』

 

戦線では常に大型のミノフスキー粒子発生装置が展開しており、一部地域では常に無線通信が出来ないほど濃いと言う。

 

ここの戦域では<レギオン>の攻撃頻度が少ない影響か、こうしてギャロップのカーゴのように<ジム改>に接続したミノフスキー粒子発生装置を直接運んでいた。戦闘になればまずこの装置を起動させると言う。一応、常にミノフスキー粒子は戦線全体を覆うように展開はされているが。戦闘濃度にするには機械を起動させる他ないと言う。

 

『奇襲を受けても、この装置だけは絶対発動させないといけないのさ』

「まぁ、じゃなきゃ不味いだろ」

 

そう言い、二個小隊で装置を繋げた<ジム改>囲いながらオウルとリノはそう話す。

戦闘濃度ほど散布されていないので、近距離であればギリギリ無線通信も可能だったのだ。

 

『おまけに、ミノフスキー粒子散布下だとレギオンのセンサーも馬鹿になるから。こっちも戦いやすくなるわけだよね』

「なるほど……」

 

合州国の敵である<レギオン>は無人戦闘機械であり、自立型である事は周知の事実である。

そしてそれらには斥候型、ロケットランチャー型(後の近接猟兵型)、戦車型、重戦車型、対空自走砲型などの種類がいることを確認している。

それらは全て撃破した機体から情報収集を行なっており、その残骸の見学にリノ達も行ったことがあった。

 

「あんな機械が攻めてくるんだものな……」

 

思い出すのは破壊した機体の再生工場にて、ビーム兵器によって真正面から貫かれた戦車型の残骸だった。

 

 

 

 

 

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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