あれからどれくらいの日数が経ったのか、どれほどの時間が経ったのか。
激痛の後、意識が浮き沈みを繰り返しており。永遠に寝ているような気分だった。
見ている景色は戦地ばかり。この視点は<レギオン>が我らの合州国軍に突撃し、そして散っていく映像だ。まるで<レギオン>の光学センサを見ているような気分だった。
時折逃げる兵士に向かって銃弾が飛び、装甲服を貫通して鮮血を撒き散らしていた。
一体、自分はいつまでこんな夢を見ているのだろうか。
「ーー駄目です。反応ありません」
手術台の横で一人の研究員がデータを片手にそう返すと、エリスは不満足な表情を隠す事なく履き捨てる。
「ふんっ、つまらんな」
そして彼女は手術台の上で右目を黒い眼帯で隠している一人の青年を見る。
「リノ・フリッツが孤児だからと甘く見ていたわね」
「ええ、まさかアーノルド少将があそこまで抵抗するとは予想外でした」
「だが、彼は今は私の手中だ。何をしたって問題ない」
そう言うと、エリスはリノの顔に触れると右目の眼帯を取った。そして眼帯の下にはとても細いチューブが入っており、目尻からは常時銀色の液体が垂れていた。
「しかし驚きました。まさか<レギオン>の流体マイクロマシンが彼の右目の機能の補助をしているのは」
「ええ、だからこそ彼の確保は急務だったのよ」
「……」
一瞬エリスの言葉にその研究員は黙ると、エリスは軽く息を吐いた後に後ろを向いた。
「こいつの監視は徹底しろ。一瞬の動きも見逃すな」
「はっ」
そして手術室を後にしたエリスをその研究者は見送っていた。
「くそっ!」
そして自室の机でエリスは拳を殴りつける。
「あの小僧が眠って三週間…なぜだ。ありえないぞ……」
初日に彼の右目に<レギオン>から回収した流体マイクロマシンを流し込んでから一切の反応が無くなり、まるでスリープしたかの如く変化は訪れなかった。
彼女は採取した血液から得た遺伝情報から、彼に異能開花用の薬物も入れていたが。この様なので効果が現れたかどうかも分からなかった。
「私の完璧な計画が崩れてしまう……!!」
自身の苛立ちを晴らすようにマグカップにコーヒーを入れると、そこで部屋のブザーがなった。
『エリス局長』
「何だ……」
気分を落ち着かせようとした矢先にこれだ。虫唾が走る。
『被験体六一番が拒絶反応を起こしました』
「そう、処分しときなさい」
『了解しました』
二つ返事でエリスは答えると、彼女は部屋の椅子に深く座った後に考える。
「これほど使って全員が拒絶反応を起こすと言うことは……やはり遺伝子的な問題なのかしら」
頭に手を当てて考える彼女はあることを考えた。
「なら彼に子を産ませれば良いわね。適当に卵子を回収しないと」
善は急げといった様子で彼女は席を立つと早速行動に出る。
自室を出た彼女はそのまま横のガラス張りで仕切られた部屋の扉を開けると、そこでは多くの質素な二段ベットに寝かせられ、頭にコードの繋がれた機械を被った大勢の子供達だった。時折悲鳴が聞こえるも、乾ききった喉では十分に声を出せなかった。
そして今、彼女の横を一人の少女が顔上面が焼け爛れた状態でワゴンに乗せられて通り過ぎる。
「ちょっと」
「?」
そしてエリスはその少女を見て職員に問いかけた。
「そいつから卵子は取れる?」
「……無理ですね。まだ年齢が幼いです」
「そう……良いわ、回して」
「はっ」
そしてワゴンに乗せられた少女はエリスがいたのを聞いていたのか、小さくつぶやいていた。
「……こ、ろして…やる」
そんな小さな言葉にエリスは聞こえていたが返す事なく、品定めするように部屋を見ていた。
この部屋にいる少年少女たちの年齢は年はもいかない。彼らは皆、元は戦災孤児であった。
大勢の戦災孤児をいきなり抱える事となった一部の孤児院では面倒が見切れないと言い、家族の来ない孤児は引き取ってもらう代わりに金をもらう。一種の人身売買に走っていた。
そんな人身売買されていた子供達をエリスはかき集めて自分の研究のためにこの部屋に押し込めていた。
彼らの脳に繋がれている機械は自身が開発する完璧な人工知能開発の為に使われていた。その数は八〇という膨大な人数だった。
すでに何人か犠牲者も出ていたが、完璧な人工知能開発という妄言に取り憑かれた彼女からすると『お国の為に散った良い命だった』と評していた。
「ふむ、こいつだ」
そして一人の少女……年齢で言うと十二と言った所の少女に目をつけると、エリスは職員を呼び寄せる。
「二八番から卵子を回収、もしくは受精させる」
「それは……危険では?」
そもそもこの年齢で本気で妊娠させようとするエリスの正気度に職員は一瞬混乱した。
「何?私に文句?」
「い、いえ……」
しかし彼女の考えだと、下手に反抗すれば自分が実験材料にされてしまうのは明白だった。
そしてそんな少年少女達のいる子の実験室と壁一枚挟んだ部屋で彼女は寝泊まりをしている。悲鳴が聞こえてもエリスには到底他人の赤子の鳴き声程度にしか思っているのか、夜中に『五月蝿いわね!』といって躾の蹴飛ばしなど当たり前のように起きていた。
「んじゃ、後よろしく〜。あたしは別の仕事行くから」
エリスはそう言うと部屋を後にしていた。
そして再びリノを収容している部屋に戻ってきたエリスは相変わらず微動だにしない彼を見ながら言う。
「あなたが悪いのよ?」
「局長、何をされるおつもりで?」
「決まっているでしょう。こいつから精子獲って子供をつくらせるのよ。そうすれば心置きなく実験ができる」
当たり前のように答えたエリスに研究員は一瞬絶句してしまう。しかし自分が実験対象になるのは嫌だから実験に協力せざるを得ない。逃げ出そうものならバーレット中将麾下の部隊に捕縛されてしまう。
「屑鉄の流体マイクロマシンがあれば、完璧な人工知能を作れるに違いない」
敵の技術である流体マイクロマシンを右目に収め、なおかつその流体マイクロマシンが目の機能を果たしていると言う情報が入った時、エリスは狂乱していた。
彼女の思惑は人体に流体マイクロマシンを流してそこに人工知能のデータを入れることで人と機械の融合を図ると言うものだった。
「さて、どうやって採取したものか……」
医療器具を漁りながらエリスはさぞ愉快げに鼻歌混じりに呟くと、そこで一言。部屋に響くようにある声が聞こえた。
『《敵性存在を確認。排除を開始》』
ギュィィィイイイッッ!!
火花を散らしながら電装カッターが壁を破ろうと試みていた。
その周囲では軽装戦闘服を見にまとう兵士の数々、その手にはM72A1を抱えていた。入り口には装甲車が止まっており、一旦バックを入れていた。
「どうだ?」
「ダメです。びくともしません」
「仕方ないか……おい、プチモビ持って来い!」
そして草色に塗られた軍用のプチモビルスーツが前面に出ると、目の前の耐爆シャッターをこじ開けていた。
「……」
そしてその光景をやや後ろで戦闘服を着ているエリノラ達が見ていた。
「大丈夫か?」
「……うん、大丈夫」
テオパルトに聞かれ、少し緊張した表情でその施設を見ていた。
場所はピョンヤン研究所。かつてニュータイプ研究所のあった一施設であり、かつてはバーレット中将管理下の技術試験チームが管理を行なっていた。
「情報通りなら、あいつはここにいるはずよ」
バーレット中将は未成年人権侵犯の容疑ですでに獄中にあり、この研究所もすでにアーノルドの息のかかった部隊が周囲を囲い込んでいた。
名誉勲章を授与されたエースパイロットの行方不明は情報部や上層部を大騒動に簡単に巻き込めた。そしてエリノラの執念の情報収集でバーレット中将はすぐに拘束され、彼女の異能で記憶を読み漁ってリノが運び込まれた研究所を突き止めていた。
「しかし驚きだ。まさかエースを誘拐するとは……」
テオパルトは向こう知らずな行動にでたエリス率いるこの研究所の職員に呆れと驚きをしていた。
事前に何度も通達を行ったが、一度も返事の一つ無かったので強行突入を結構していた。
「開くぞ!突入用意!」
そしてプチモビルスーツによって入口の耐爆シャッターが開き、全員が一斉に銃を持った。
しかしその奥からは何も反応が無く、その代わりに……
「ぬおっ?!」
「何だ…この匂いは?!」
「うっ、おえぇぇぇえ……」
途轍もない、書いだことのない強烈な異臭にガスマスクをしていなかった普通の兵士が思わず吐いてしまう。少なくとも、嗅いだ事のない類の匂いだった。
「……」
研究所は赤色灯すらも消え、ただ闇が広がっていた。
「行こう」
「ええ」「うん」
そこで意を決してテオパルト達三人は戦闘服を身に纏ったまま研究所に入る。
「一体何があったの……?」
そして研究所の中身は凄惨の一言に尽きる。自分らと同じ格好をした兵士が銃を片手に落としており、壁や床は赤黒くて鉄の匂いのするインクで塗装されていた。
「酷い……」
サーチライトを回して悲惨な状況に思わず息を呑むと、エリノラはもしもの想定をしてしまった。
「リノを探すぞ。どんな姿であってもな」
「「……」」
テオパルトの言葉に二人は沈黙で返す。最悪の状態だったとしても、あまりにも酷い。軍人として生きる事を選んだのなら、なぜ味方の手で殺されなければならないのか。悪い事というのは嫌にも増幅する。
「こっちだ!」
そんな時、一人の捜索していた兵士が叫んだ。
「生存者発見!」
「「「っ!!」」」
反射的にその方に走って向かうと、開けっ放しとなった一つの部屋の中央。生き残っていたのか、コンピュータの画面がほんのりと灯る部屋の中央。そこに彼は横たわっていた。
「リノ!!」
思わずエリノラが飛び付くところをクラウが首根っこを掴んで静止させた。
「……状況は?」
「やや衰弱していますが……健康面に異常は見当たりません」
「ふぅ……運びだそう」
「了解、おい!担架持って来い!!」
ここの部隊はアーノルドの域がかかった部隊。つまり彼の息子のテオパルトの融通が利きやすかった。
「良かったわね」
「うん…うん……」
クラウの腕の中で泣き崩れるエリノラに、彼女も安堵した様子で拘束を解かれて搬送されていくリノを見ていた。
その後、リノの介抱をエリノラとクラウに任せたテオパルトは一人残って研究所の捜索を行なっていた。
「……」
ライトを照らして見回す研究所。どれだけ空気を流したとて取れない強烈な匂いは酸素ボンベ付きの防護服を着て捜索しなければならない程だった。
床は赤黒くなった血が乾ききっており、ただ鉄臭い匂いと腐敗臭が酷かった。
生存者はリノ一人、それ以外は全員の死亡が確認されていた。
「ん?」
そして少し大きめの部屋の奥、半分骨になった研究者の遺体が覆い被さっているその下で、ほの明るく付くパソコンの画面に気づいたテオはそこでその情報を見つけた。
パソコンの画面にはメモ書きで
「これは……」
何かのプログラムのようで、すぐさま彼はデータの回収を行った後に嫌な予感が走ってその情報を削除していた。
エリスを上手く表現できた気がしない……。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やってほしい
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やらなくていい