86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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外伝#44 進んだ人種Ver.5.0

「そうか…生きていたか……」

 

ジャブローの一室、アーノルドは電話越しに大きく安堵した様子を見せていた。

 

『保護した後は病院に向かわせました』

「うむ、万全の警備体制を頼む」

『はっ!』

「また誘拐されたら俺が首を切られるからな」

 

エースが授賞式直後に内部班によって誘拐されるという前代未聞の事件に、政府や軍上層部は大慌てだった。何せ色々と話題の御仁が狂った科学者と中将のせいで命を落としたとなれば軍部の腐敗と見做され、軍への不審に繋がってしまう。

戦時下の情勢でそのような事態だけは絶対に避けなければならなかった。軍への信頼は国債購入への重要なチケットであるが故に彼を宣伝に使おうとした政府までもが巻き添えを喰らっていた。

 

流石にこの事態は予想していなかったのか、バーレット中将は慌てて証拠の削除を始めたようだが、そこをすかさずエリノラ率いる情報部の面々が耳をきっちり揃えて証拠を抜き去り、聴取の際に彼女の異能の記憶を読み漁る異能が役立って彼が収容された研究所を一発で発見した。

その後は部隊を送って突入を行わせていた。味方同士での撃ち合いが無かったのは幸いというべきなのか……。

 

「少尉が誘拐されて二ヶ月……思いの外時間がかかったな」

 

取り敢えずはリノが生存していたことに胸を撫で下ろしていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

『ごめんなさい』

 

雨の降る曇天の中、俺は一人の女性を見ていた。

 

『こんな母親で……あなたを置いて行ってしまうような母親で』

 

その赤い髪と目を持つ特徴ってきな女性は、傘を差したまま雨に混ざって大粒の涙をこぼしていたのが分かる。視界には顔立ちの整った女性を映し、自分は籠の中で横になっていた。

 

『でもこうしないと。あなたの命まで危ないから……』

 

そう言うと、その女性は持っていた籠を地面に置くと、側に一枚の紙を置いた。

 

『どうか元気で。リノ……さようなら。こんな私を許さないで』

 

自分の名をつぶやいたその女性はそのまま視界から消え去っていた。

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

そこで目が覚めると、そこは実験室のあの不気味な白さを持った天井ではなく。朝日が差し込む、見た事のある景色だった。

 

「今のは……」

 

体を起こすと左腕には点滴が打たれ、少しだけ頭がフラついた。

 

「あぁ……」

 

感覚で言うと二日酔いに似ている。そこで警備隊にいた時にハリーやオウルから酒を飲まされ、食欲を抑えるためにタバコを始めて吸った日々を思い出す。

 

「ふぅ……」

 

大きめに息を吸って吐いた後に周りを見回すと、そこでは車の走る音や木の葉の音が聞こえていた。

 

「ここは……」

 

似たような景色を少し前に見ていた。また入院かと内心ため息を付いていると、部屋の入り口から声が聞こえた。

 

「全く、あんたは何回入院したら気が済むの?」

 

そこではクラウが息を吐きながら背中を扉に預けていた。

 

「これはコラテラル・ダメージだろ」

「はぁ……流石に今回は肝を冷やしたわ」

「前以上にか?」

 

そんな軽々しく聞くリノにクラウは一瞬間を開けながらも応えた。

 

「ええ、まさか誘拐されるとは思いもしなかったもの」

「だよな……俺も予想外だったわ」

 

リノの反応を見て違和感を覚えたクラウは思わず問いかける。

 

「……どこまで覚えているの?」

「ん?ああ、あのエリスって女が右目に変なのを入れた所まで。それ以降は何も覚えていねえな」

 

でも病院にいるって事は救助されたって事だろう?と言い、リノは軽く笑う。

 

「……」

 

そんな様子のリノにクラウはどこか安堵した様子で彼を見ていた。

少なくとも二ヶ月の記憶は吹き飛んでいるという事実に、クラウは余計なトラウマを覚えていなくて良かったと思っていた。

 

「取り敢えず、あなたの体に特段以上は無いわね。その右目以外は」

「?」

 

クラウの反応に首を傾げるリノに彼女は病院の棚に入っていた手鏡を手渡す。

 

「本当、話題に事欠かないエース様だ事」

「これは……」

 

そして手鏡を見たリノは驚いた顔をして右目に手を触れていた。

そこには右目が青色になったリノの顔が映し出されていた。

 

 

 

 

 

「聴取は終わりました」

 

報告書を携えてテオパルトはアーノルドに報告を入れ、報告書を受け取りながら彼は短く頷きながら答える。

 

「うむご苦労だったな」

「それはエリノラ少尉に言ってください」

「それもそうだな……」

 

事件解決に大きく貢献した彼女の異能。記憶を読み漁る事のできる彼女の異能は確かに情報部が喉から手が出る程のものだったと大いに納得できた。

 

「今回被害に遭ったリノ中尉とエリノラ少尉には危険手当を与えるべきかな?」

 

その提案にテオパルトは頷く。

 

「ええ妥当かと。特にエリノラ少尉は大活躍でしたから」

「ああ、まるで鬼のようだったと聞いているよ」

 

いやはや、純愛とは恐ろしいと軽口を叩いた後に軽く笑う。その時の状況を見ていたテオパルトとしてはもう二度と見たく無いと言ったような表情で答える。

 

「私的には、友人が衰弱していくのを見るのはとても良いものではありませんでしたよ」

「だが、エースが一部の軍の暴走で死亡したとなれば永遠の笑い物になる。それを防げたのは変えがたい戦果だ」

 

そう答えると、書類を読み始める。

 

「しかし、噂では聞いていたが……悲惨だな」

「はい、研究所内での生存者は一名。リノ中尉だけです」

「……」

 

報告書には他にも様々な研究所内での出来事が殊更に記されていた。

 

「戦災孤児を使った違法研究とはまた……」

「中には八〇名の少年少女がすでに死亡していました。死因は脳に電磁波を浴びせられたことによる脳死」

「……」

「恐らくは研究内容が外に漏れることを危惧した研究員による破壊工作と思われます」

「子供を研究対象か……」

「そして強化人間の研究も行っていた様ですね」

「すごいな、ことごとく地雷を踏み抜いたか」

 

もはや驚きをこして関心してしまっているアーノルドにテオパルトも苦笑気味に言う。

 

「一応、主目的は無人兵器用のAIを開発することだったようです」

「これでもAI開発を名乗るとは、屑鉄にも失礼だろう」

「ええ、同感ですね」

 

少なくとも戦災孤児を使っている時点で十分にアウトだ。それなのに現在の連邦において一切の研究が禁じられているサイコフレームと強化人間の研究。非人道的なものであるとして軍の内外から忌み嫌われている研究を率先して行なっていた事実にアーノルドは軽く頭を抱えた。

 

「戦災孤児の身元確認は?」

「進んでいますが……時間はかかるでしょうね」

 

彼は渋い表情で答えると、アーノルドは報告書に記された他の情報も見る。

 

「死亡した子供以外の職員は全員共通して右目が抉られているのか」

「はい、一度脳を何かしらで貫いた後に再度右目を取った痕跡もありましたので、襲撃犯は意図的に右目を繰り抜いたのでしょう」

 

ヘルメットを貫通して倒れ込んでいる兵士の写真を見ながらアーノルドはテオパルトに聞く。

 

「あの場所で生き残っていたのはリノ中尉だけだ。……お前は犯人がリノ中尉だと思うか?」

「いえ、発見当時。リノは拘束されていたので犯行は不可能かと」

「防犯カメラは?」

「現在、解析中です」

 

報告を一通り終えると、アーノルドは最後に一枚の写真を机に置いて呟く。

 

「それで、研究所に残っていた成果はこれか?」

「はい。開発者の間では〈15−13〉と言う開発名称で行われていた研究だそうです」

 

それはデータを写した写真であり、詳しい内容は解析班に回して調査を行なっていた。

 

「<15−13>か……名称の心当たりは?」

 

アーノルドは聞くと、テオパルトは答える。

 

「一つだけあります…ただ、あくまでも個人的意見ですが……」

「言ってみろ」

 

テオパルトの個人的な見解であっても、アーノルドからすると是非とも聞いてみたい予測だった。だいたいこう言う時のテオパルトの予想は当たることが多い。

 

「発見したパソコンにメモ書きされていた、聖書の一説です『人がその友のために自分の命を捨てること、これよりも大きな愛はない』……他人のために自己犠牲を払う聖書の文言の一つです」

「自己犠牲……か」

 

そこでアーノルドが呟くと、テオパルトは言う。

 

「この事は極秘に?」

「ああ、口外無用だ」

「……了解しました。すぐに準備を行います」

 

箝口令の発令にテオパルトは頭を下げて退室すると、アーノルド自身は軽くため息をついて椅子に深く座り直した。

 

「しかし、自ら墓穴を掘るとはな……」

 

今回逮捕されたバーレット中将は秘密の監獄への送還が決まった。そこは主に合州国への国家転覆を図った思想犯などが収監される場所であり、中には一年戦争時のジオン公国のエースも収監されていた。

公にできない事件故にほとんどが秘密裏に処理されることが決まっており、公表は控えたいと考えていた。ただ、戦災孤児が人身売買されている問題を公にして治安向上を行いたいと考える人間もいた。

 

「上手な塩梅が必要だな」

 

どこまでを公表し、どこから先を秘密にするのか。情報部とよく精査しておく必要があった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その後、解析班から上がった報告は。アーノルドの予測した通りだった。

 

「(箝口令を出して正解だったな)」

 

おまけに運が良かったのはその情報を見たのがテオパルトと解析班のみと言う事だった。

 

「(よりにもよって犠牲となった子供達とはな……)」

 

解析結果の後、<15−13>は研究所で犠牲となった戦災孤児八〇名の命を糧に製作されたビッグデータを管理統括する事のできるAIであった。

マリアーナモデルを参考に開発されいた情報とは言え、アーノルドは思わず顔を顰める。

 

「しかし最も皮肉なのは、今の軍はこれを必要としていると言う点だ」

 

各軍部の将校達はどこから仕入れたか、<15−13>を軍の中央コンピューターに使おうと言ってきているのだ。事実を伝えても同様はしたが、その意見が変わる事はほぼなかった。

 

「しかし、このまま使わずして連邦の兵力を無駄に削ぐ訳にも行かぬか……」

 

現在、増産体制が整って大量のジェガンやギラ・ズールが急ピッチで生産されているが。それでも戦場に届くのには時間がかかる。

四〇四警備隊の一件で各警備隊には必ずバズーカを装備させることが確実となり、今はハイパーバズーカ一本を増産させていた。そんなリソースを効率的に配置するためには是非とも優秀な中央管理ネットワークが必要だったのだ。

 

「はて、どうしたものか……」

 

アーノルドは抱え込む多くの事案に頭と心を痛めていた。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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