86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#19 侵攻作戦

星歴二一四九年 一〇月九日

ジークフリート要塞戦線 第二〇号前線基地

 

リノ率いるストライカー戦闘大隊はこの日、人類史上最大規模の動員数で行われる一大作戦に参加するためにジークフリート要塞戦線から飛び出す準備をしていた。伏せの格好でリノ達MS部隊は映像の右上に映るタイマーを眺めていた。

リノは本来であれば後送させるべきだとクラウが言っていたが、上層部がそれを危険視した為、今回は後方からの援護という形で特にクラウから監視されていた。

 

『今日能力使ったらマジ吹っ飛ばすから』

「はぃ……」

 

クラウのひっじょぉぉぉぉぉぉに不満げな声が聞こえ、リノは弱々しく答える。

今回ばかりは前線を張れなさそうだとリノ自身もよくわかっている。

だから今回はリゼル隊が前衛を張り、俺はクラウと後衛のテオに監視されながら出撃準備をしていた。

するとそこに大統領の通信が入る。

 

先のコテージ作戦で大統領府は赤裸々に恥をかいた。十年越しの帝国領侵攻参戦が空回りに終わり、国民の呆れは凄まじく、政府としては結果が欲しかったのだろう。

でなければ内ゲバとなって国内の体勢が混乱してしまうからだ。

国民のガス抜きをするためにも、政府の失態を隠すためにも、今回の作戦は重要であった。

すると作戦開始前、国防総省から直々に通信が入る。

 

『ストライカー戦闘大隊の諸君。私は国防長官デイブ・マルゲイツだ』

「……マジか」

 

いきなりの通信に驚いているとマルゲイツはストライカー戦闘大隊に通信をする。

 

『今作戦において、我が合州国は共和国に居るであろうエイティシックスの子供達を救出するのが主な任務である』

『本来であれば直接君たちのところに激励に行きたかったのだが、今回は許して欲しい』

 

長官はそう言うと俺たちに激励の言葉を投げかける。

 

『今作戦は合州国の誇りがかけられた重要な作戦である。諸君らの健闘に期待すると共に必ず無事に帰ってきて欲しい』

「……ご期待に応えられるよう尽力いたします」

『うむ、頑張ってくれ賜え。大統領も君達の活躍に期待していると言われていた』

「ハッ!」

 

そう言い、通信が切れるとリノは全隊に通信を入れる。

 

「全員聞いていたな?今回大要塞壁群に一番乗りしたやつは大隊倉庫に積まれたワインだ」

『隊長!?』

『マジすか!?』

『うおおお!!酒ぇ!!』

 

賭けで酒が出ると言われ、隊員達は活況に包まれるとレッカとハルトの二人が知覚同調を繋いでくる。

 

『なぁ、俺たち酒飲めないんだけど』

『そうそう』

「そうだな……じゃあお前らは倉庫の甘味だ」

『おっしゃ!やる気出てきた!!』

『そうね、一番乗りは彼方よ』

 

ハルト達にも賭けに混ぜさせると大統領の鼓舞の通信も聞こえないくらい盛況に包まれ、大隊全員に世にも恐ろしいマラソンが始まろうとしていた。

作戦開始のタイマーが残り十秒となり、全員が操縦桿を握る。

 

「(十……九……八……七……)」

 

リノは徐々に減っていくタイマーの表示に汗を一筋流す。

今作戦でノルトリヒト戦隊が電磁加速砲型をやらなければ。

俺たちのジークフリート要塞戦線はその放火に晒される事になる。

今はこうしてハイにでもならない限り気が滅入ってしまいそうだった。

 

「(六……五……四……三……)」

 

ジリジリと減っていく時間を見ながらリノは後方のエンジンを火をつける。

 

「(二……一……〇!!)」

 

ゴオォォォォォォォォオオオ!!!

 

フルスロットルで一斉に全員が飛び出す。

 

それと同時に後方から自走砲による砲撃が行われ、多連装ロケット砲による攻撃と機械化装甲歩兵を乗せたトラック、モビルスーツ、M61戦車が勢いよく飛び出す。

 

「撃って撃って撃ちまくれ!!」

「ヒャッハーッ!!大放出だ!!」

「ずりぃぞ!ドミトル!もっとスピード!!」

『了解!!』

 

ガンタンク三両はそれぞれが競い合うように飛び出し、砲撃を行う。

目指すは共和国の大要塞壁群。MS部隊も同じように飛び出し、全速力で飛行していた。

 

『隊長達早すぎ!!』

『レギオンの始動を確認!!数多数!!』

『大量の屑鉄狩りじゃあ!!』

『撃て撃て!!』

 

チュォォォンン!!チュォォォンン!!

チュン!チュン!チュン!

ブオオオオオオオオ!!

ダダダダダダダダッ!

ドォォン!!ドォォン!!ドォォン!!

 

数多な音が聞こえ、大隊はレギオン支配域を線路沿いに飛び回る。

剣のように突っ込んでくるMSに〈レギオン〉も対応が遅れ、その間に後方からやってくる自走砲の砲撃で、森ごと吹き飛ぶ。

かつて、極東の国が合州国と戦争をした時。戦艦の砲撃で島全体を砲撃したが、木で出来たトーチカ(これってトーチカなん?)が生き残った事から。ただの砲撃で全てを吹き飛ばすことは難しいが、レギオンの陽動には十分すぎる威力であった。

 

付近一帯のレギオンが起動し、一斉にストライカー戦闘大隊に攻撃を仕掛ける。

 

『方位一四〇、距離五千にレギオンを確認。近接猟兵型四〇、戦車型三〇、斥候型六〇!』

『奴らの住処だからか数が多いな!!』

『少しでも気を抜いたら吹っ飛ぶわね』

『本隊との距離六〇キロです』

「総員一時停止、橋頭堡を確保し付近一帯を制圧せよ」

『『『『了解!』』』』

 

リノの指示のもと、一箇所に固まった戦闘大隊はEWACの情報を元に攻撃を仕掛ける。

周囲に爆炎が上がり、砲撃音が響き渡る。

あたりが焼けこげた頃、南方から白い軍団が波のように追いかけてくる。

 

『ヒュ〜、見やすくていいね』

『本当な』

「このまま前進する。負傷者は?」

『ガンタンク全機問題無し』

『MSも異常無し』

『歩兵小隊も怪我人死人共にゼロ』

「よし、このまま大要塞壁群に向かうぞ」

 

キィィィィィイインンン!!

カタカタカタカタカタ……!!

 

ストライカー戦闘大隊は味方との位置を最低でも六十キロ離れた場合のみ橋頭堡を築くために立ち止まり、合流をしてから再び進むという工程を繰り返していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それから一日が経ち、リノ達ストライカー戦闘大隊はジークフリート要塞戦線から二〇〇キロほど離れたところに到着する。

そこで現在の戦況を確認した。

第一目標であるクロイツベック市にいた電磁加速砲型は囮で、本物は現在共和国側に移動中。ノルトリヒト戦隊が現在追撃中。

第二目標である街道回廊は奪還に成功、現在残存兵力の掃討中。

ジークフリート戦戦から北東回廊方面に向かった部隊は途中ヴァルト盟約同盟軍と合流。ギアーデ連邦との合流も果たしたそうだ。

四カ国協同軍は士気の高揚に合わせ、さらに進軍を開始。ノルトリヒト戦隊の援護をする。

旧高速鉄道沿いに進軍する形ではあるが、電磁加速砲型の行動範囲を着実に狭めつつあった。

そして現在、俺たちは派遣軍と合流して一時停止し、今後の進路を選定していた。

予想していたよりもレギオンの数が多く、北東回廊を進んだ味方軍との合流を図るためであった。

 

「味方の到着はいつ頃になりそうですか?」

「うむ……現在、この辺りを進んでいると言うことから……あと五時間といったところか……」

 

そう言い、派遣軍指揮官が言う。共和国につくまえに会っちまったなと苦笑いをされながら言われ、リノも思わず苦笑をしてしまった。

現在、ここでは派遣軍がEWACと合わせて警戒をしており、レギオン発見時は即座に戦闘体制に移行できるようになっていた。

 

「五時間ですか……なるべく早く着きたいのですがね……」

「此方からも戦線を西側に押すのは?」

「いえ、それでは戦力が分散されてしまうので危険と考えます。ここは大人しく待ちましょう」

「貴殿の機動戦術で敵を撹乱するのは?」

「難しいと判断します」

「根拠は?」

「電磁加速砲型がいつ攻撃を仕掛けて来るかわからないからです。あれは全てを吹き飛ばしますから。機動戦も意味をなさなくなってしまうのです」

「そうか……」

 

指揮官がそう言い、唸り声をあげていると一兵卒が声を上げる。

 

『レギオンの部隊を確認!モビルスーツ隊は前進せよ!』

『戦車は後退!支援砲撃を行え!』

 

臨時監視所から報告が上がり、ジムとジェガンが前進し、持っていた九〇ミリマシンガンを放つ。

発砲音と発射されて赤くなった砲弾が森の中に隠れていたレギオンに命中する。

レーザー通信で情報が行き渡るため、追走する自走砲部隊も援護がしやすいようであった。

さらに西側では海上からの砲撃が着弾し、六〇センチ砲弾が平原一帯を吹き飛ばす。すげぇ、海辺からここまで届くのかよ……

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「おぉおぉ、ようけ燃えはんな」

「なんでそんな訛ってんのよ」

「俺の生まれ故郷の訛りだよ」

 

ガンタンクからドミトルが呟き、アノラが突っ込む。

臨時野営地でガンタンクの簡単な整備を受けている彼らは来た道を眺める。そこでは今まで来た道に車列が並び、東の空では爆発と思わしき光が灯っている。

 

「あそこは大体連邦か……」

「そうね、順調に前進しているようで……」

「ドミトルさん、アノラさん。コーヒーどうぞ」

「ああ、すまねえ」

「ありがと」

 

そう言い、紙コップに入れられた熱々のコーヒーを飲む。今回の作戦でストライカー戦闘大隊には物資が優先的に積まれており、コーヒーも本物である。

 

「あぁ、コーヒーが美味い」

「後どのくらいで共和国に着くのかしら」

「私が任務で出た時は巡航速度で三日かかりましたね」

「ジェガンで三日か……」

「明日くらいには到着できると良いわね」

 

三人はそう言うとアノラは視線を横に止まってその上で共に戦闘糧食を取っている子供達(エイティシックス)を見る。

 

「あの子たちはどんな気持ちでここまで来たんだろうね……」

 

アノラの問いにドミトルはそんなの知るかといった様子で答える。

 

「さぁな。少なくとも帰りたいと思わない祖国。程度じゃないのか?」

「実際問題、どうなんでしょう」

「ここまでついてきた事に驚いちゃった。てっきり基地に残ると思ってたから……」

 

アノラはそう言い、経口糧食を取ってうめぇうめぇと呟くハルトたちを見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

噂の本人たちであるハルトとレッカは合州国の経口糧食と戦闘糧食を食べて感想を言っていた。

 

「本当に美味しいわね……」

「だろ?まえにダイヤが交換した奴を俺も飲んだ時に思ったんだよ」

 

そう言って黄色の経口糧食を吸いながらレッカは思わず呟く。あのプラスチック爆薬に比べればダントツで美味いこの経口糧食に二人は食が進んでいた。

別で渡された非常用戦闘糧食はかなり乾燥しており、経口糧食と合わせて食べる事前提で作られていると言うことだった。

これだけで必要なカロリーは取れていると言うのだから不思議である。

因みに、これは戦闘糧食では足りないだろうと言う大人達の優しさからくるささやかなプレゼントであった。

 

そんな感じで、二人は食事をしていると不意にレッカが呟く。

 

「これ……クレナたちにも食べさせたいくらいね……」

「……」

 

二人はもういない仲間達を思い浮かべ、少しだけ目かしらが熱くなる。

 

 

生きて土産話を持って行く。

 

 

仲間達から託された願いを果たすために、二人はいろんな場所に行っていた。

どこかに行くための費用を得るために自分たちの得意分野である軍隊に入り、休暇中は必ずどこかに旅行に行く。

そこで色々なことを経験して今まで見たことないようなものや初めて見るものを見て興奮したりしていた。

あれから一年、まだまだ世界は広いのだと実感したばかりであった。

 

今頃、無表情隊長や隊長大好きっ子はどうしているのだろうか。

 

向こうで元気にしているのだろうか……

 

二人はそんな事を思いながら空を眺める。

少佐が花火をくれた時もこんな空をしていたか……

二機のMSが並んで立ち、その肩や手に乗って遊んだりしていたか……

 

今ではあの時では考えられないような生活を送っている。

怪我をすればきちんとした治療を受け、衛生的な基地にきちんと整った装備。

ピシッとした軍服。

自分たちを罵る声も、真面目で御花畑な少佐の声も、仲間達とバカやってアルドレヒトのおっさんにドヤされる声も、何も聞こえず今は見知らぬ兵士達の歩く音が聞こえ、遠くではMSによる攻撃音だけが聞こえていた。

 

「……ねぇ、ハルト」

「ん?なんだ?」

「あの時、なんで私があんたについていったと思う?」

「え?そりゃあ俺の監視のためだろ?」

「それもあるけど……ね」

 

レッカは思い出しながら言葉を紡いだ。

 

 

 

「一人で知らない国に行くってのは怖いと思ったから……」

 

 

 

「……」

 

ハルトは今までで一番驚愕しただろう。レッカが付いて来た本当の理由を聞き、ハルトはレッカを思わず見る。

その時のレッカは仲間を本当に心配するような目をしていた。

 

「知らない国で一人って辛いことだと思うの。一人で全部の思いを背負うのも辛いと思ったから……」

「だったら、誰か付いて行って少しでも負担を減らせばいいかなって思って、私は付いて来たのよ」

「そう……だったんだ……」

 

ハルトはレッカの話を聞き、驚きを隠しきれずにいた。

 

「俺のためにわざわざ着いて来てくれたんだ……」

「だって、ハルトは調子乗って死なれたら困るでしょ?」

「まぁ、それもそうか……」

 

二人は思わず笑ってしまった。

 

理由はわからない。

 

ただ、今は笑いたかった。

 

戦闘の疲れでおかしくなってしまったかも知れない。

 

だが、それでも今は笑っているのが一番だった。

 

 

 

 

 

そんな二人に出撃命令が降ったのは六時間後のことであった。

オペレーション・ハイスクールをやるか否か

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