リュストカマー基地に到着したリノ達は初日に顔合わせをして、リノとレーナで必要な伝達事項などを報告しあって終わり、二日目の今日は割り当てられた格納庫で機体の整備をしていた。
そんな中、リノ達はリュストカマー基地の食堂で食事を摂っていた。トレーにはシン達が狩ってきたという鹿肉を使ったシチューが提供された。
「はぁ……」
「どうしたの?」
その食堂で、クラウがため息をつき、エリノラが聞く。
「いやぁ、本当に連邦に来たんだなって……」
「あぁ……」
「そうだね……」
「色々とゴタついてたからな……」
リノ、エリノラ、クラウ、テオの四人は食堂に出てきた料理を食べながら呟く。
今回の派遣で歩兵部隊の何人かは本国に残留する事が決まり、他の隊員達もあまり乗り気では無かった。
政府内でもエース部隊を外に出してもいいのか?
MSの情報が盗まれないのか?
そんな憶測が飛び交い、俺たちは細い生糸の上を歩いている様な状態であった。
「まぁ、いざとなれば自由裁量権も貰っている。なんとかなるだろ」
「随分と楽観的な事で」
「行き当たりばったりだなぁ……」
「アハハ……」
四人は苦笑していると横にライデン達がトレーに料理を盛った状態で隣に座る。
「随分と面白そうな話をしている事で……」
「お邪魔させて貰うぞ」
「ええ、どうぞ」
ライデンとカイエが座り、四人に会話に割り込んできた。
「……で、何がゴタついてんだ?」
「ん?ああ、合州国の話さ。色々と面倒な事になっているのよ」
「ほう……よく言う政府間の問題ってやつか」
「そうそう」
「色々と大変なんだな……」
今こうしてライデン達と会話しているのもリノ達が彼らを知っているからだ。
他のガンタンクや歩兵部隊、整備班は酒保で買った物を自分達の格納庫で食べるか、彼らと時間をずらして食堂で食事をしていた。
「ふあーあ、よりにもよって最初の任務がね……」
「《共和国北部行政区奪還作戦》…だものな……」
カイエが納得した様に言うとライデンが思い出したようにリノに言う。
「ああ、そういやあ合州国は共和国を嫌っているんだっけか?」
「そう、派遣軍ももうすぐ全員撤退するって話だし、むしろ『共和国のためになぜウチらが命をかけなければならない!』って文句が出ないのが不思議なくらいだよ」
「そりゃあ作戦目標が重要だからじゃないのか?」
「ううむ……どうなんだろう」
今回の作戦では自動工場型、発電プラント型の両方の制圧が目的となっている。
レギオンの生産拠点を破壊することが出来れば少しくらいは戦争も楽になるのだろう。しかし、それでレギオンは勢いが収まるのだろうか?そんな疑問をリノはしていた。
「まぁ、どちらにせよ俺達は作戦には参加するさ。その前に帰還する事になるかもしれんがな」
「冗談だろう」
それがあながち冗談では無いのである。もしこの作戦で死者が出よう物なら政府内ですぐさま揉めて撤退命令が出るだろう。
それほどまでに合州国は一枚岩では無いのだ。
そんな話をしながらリノ達は先に食事を終えると食堂を後にした。
「じゃ、俺たちは先に失礼するよ」
「おう、また今度な」
そう言い残し、食堂を出た四人は倉庫に向かって歩いて行った。
その日の夜、リュストカマー基地の滑走路でリノは片手にライターを持って咥えたタバコに火を付けて一服していた。
するとそこで一人の女性に声をかけられた。
「あら。あなたもタバコやっていたのね」
「グレーテ大佐殿でしたか……」
リノはタバコを吸いながらグレーテを見た。グレーテとはシン達と会った時に紹介を受け、それ以降何回か話をして、今では気軽に話をする程度には知り合う中であった。
不遜極まりない格好であったが、グレーテはあまり気にしていない様子であった。するとリノはグレーテに聞いた。
「なんの御用でしょうか?」
「私もあなたと同じ、単なる暇つぶしよ」
「そうですか……」
再びリノは視線を元に戻すとグレーテはリノに話しかける。
「この合州国が派遣される時。随分と貴方が押していたようね。おまけにあの子達が共和国にいた時も貴方が亡命を提案したそうじゃない」
「……誰から聞いたのです?」
「保護されたあの子達全員からよ」
グレーテの話を聞き、納得したリノはグレーテがなぜここに来たのか想像していた。
「貴方がなんであの子達にそれ程まで寄り添おうとしているのか。それが気になってね……」
「……」
グレーテの問いにリノは答える。
「年上の軍人としてあんな子達をほっとけないでしょう」
しかしグレーテはあまり納得していない様な表情を浮かべた。
「本当にそれだけ?」
「……ええ」
「なんか腑に落ちないわね……」
グレーテの不満そうな声が聞こえ、リノはこれ以上話そうとしなかった。
しかしグレーテはさらにリノに聞いた。
「中佐、あまり大人を舐めないほうがいいわよ?これでも結構分かるんだから」
グレーテが次に言った一言にリノは全てを理解した。
「貴方、一人だけでも連邦に行くと言ったそうね」
「……」
「どうしてそこまで連邦に固執するのか。なぜ、連邦に来たがったのか。それが気になったのよ」
なるほど、目的はコレだったか……。
確かに合州国市民の中で率先して連邦に来たがったのは連邦に親族か家族がいる者くらいだっただろう。
だが、リノは孤児院の出自だ。親戚も家族もいないはずである。当然連邦との接点もあるわけがなく、そんな彼がなぜ連邦に固執したのかが疑問だったのだろう。
グレーテはそこれ改めてリノに聞く。
「どうして無理をしてでも連邦に来ようとしたのかしら?」
グレーテの問いにリノは諦めた様子でゆっくりと話す。
「大佐殿は知っているかもしれませんが。俺は孤児院の出身です」
「ええ、事前情報で聞いたわ。貴方達、同じ孤児院で育ったのでしょう?」
「ええ、そうです。正確に言うとマクマ大尉とフィッシャー中尉はレギオン戦争後からですが……」
そう言うとリノは合州国の事情を話す。
「俺は赤ん坊の頃に教会に捨てられていたそうです……しかし合州国はそう言った事に色々とうるさいでしょう?」
「ええ、そうね。特に捨て子は合州国では重罪ね」
「そうです。だから俺を捨てた親に関しても徹底的な調査が行われたんです」
リノは虚な目で思い出しながら呟く。
「それで、調査の結果俺を捨てた人はギアーデ帝国の人だって分かったんです」
「!?」
グレーテは驚愕した。
まさか、この青年が固執していたのは……
ある予想を立てながらグレーテは話を聞いた。
「だけど、その人の使っていたパスポート、偽物だったんですよ。ご丁寧にカツラとカラーコンタクトまでしていて」
リノはそう言いながら懐から一枚の写真を取り出す。証明写真サイズのそれは少し掠れてはいるが、十分に判別可能であった。茶髪に緑目の女性がそこには写っていた。
「これがその時に使っていたと言う俺を捨てた人の写真だそうです」
「……」
「良くもまあここまで突き止めたものです。今の警察の捜索能力には舌を巻きますね」
リノは感心したように言い、その写真をしまう。
「俺はこの人を探しています。警察からおそらく母親だと言われたこの人を……今は連邦となったこの国で、俺はこの人を探しているんです……」
グレーテは驚いた様子でリノを見る。
この青年は母を探すためにわざわざ連邦に来たのか。
おそらく彼は二〇年以上も母親を探していたのだろう。そのためだけに生きてきたのだろうか。
生きているとも分からない、自分を捨てた母親を探しに……
グレーテはその青年の執念深さに驚きと称賛の思いで埋め尽くされた。
そこまでして母親を探す彼はまるで母親を探しまわる亡霊の様であった。
しかし、もし母親が見つかったら彼は何をするのだろうか。
やはり自分を捨てた事に対する憎悪を滲ませるのだろうか。
グレーテはそんなことを考えると思わず聞いてしまった。
「中佐……もし、その人物が見つかったら貴方はどうするの?」
「え……?」
思いがけない問いだったのかリノからは変な声が漏れる。
そしてリノは少し考えた後、悩ましそうに答えた。
「そう……ですね……考えたこともなかったです。ただ…会ってみたいと思っただけですから……」
「……そうなの?」
「ええ、他は何にも」
予想外の返答にグレーテは驚いた表情を見せた。
これほど母親のことを追いかけて何も考えていないとは……。
するとリノはこうなった経緯を話す。
「初めはありましたよ。なんで俺を捨てたのか……って。でも何年もそう思っていると分からなくなったんですよね。なんで母親を探しているのだろうかって。それでも会ってみたいと言う思いだけは残ってズルズルとここまで来てしまったんですよ」
少しだけ乾いた笑いをしながらリノはそう言う。
その時の彼は感情が抜け落ちた機械の様な表情をしていた。
グレーテはこれが彼の本質なのかと理解をした。
下手しなくともノウゼン大尉よりもこういった所は重症かもしれない、と感じた。
子供に必要なのは母親だとよく言う。だからこそなのだろう。彼は今でも母親を探している。
たとえ感情が抜け落ちても、それだけ実行する。
まるでレギオンのように……
彼の心は崩壊しているのかもしれない。
だからこそ、グレーテは彼に聞いた。
「中佐……提案があるのだけれど」
「なんでしょう?」
「さっき見せてくれた写真。印刷だけさせてもらっていかしら?」
「ああ、そのくらいでしたら……ですが、どうして?」
「その写真、コンタクトやカツラをしていても骨格は変わっていないのでしょう?だったらうちのデータベースと照合すればもしかしたら見つかるかも知れないわよ?」
そう言うとリノは納得した様子で、水を得た魚のように嬉しい様子でさっき見せた女性の写真をグレーテに渡した。
グレーテは受け取った写真を持っていたタブレットで写真を撮り、解析のために説明と共に上司に送った。
「ただの士官のためにありがとうございます」
「これくらい簡単なことだから大丈夫よ」
グレーテはそんな返事をしてリノを見ると、リノは格納庫からエリノラに呼ばれていた。
「あ、もうこんな時間ですか……失礼しますね。グレーテ大佐殿」
「え、ええ……また今度ね」
グレーテは少しだけ引き攣った笑みでリノを見送っていた。
オペレーション・ハイスクールをやるか否か
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やらなくていい