86-エイティシックス- 獅子の来訪   作:Aa_おにぎり

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#29 羊飼い

アネットは暗闇の中を走り回り、全てが恐ろしいほどに白い部屋に辿り着く。

自分を護衛していた部隊が謎の攻撃で殲滅させられ、どこかに運ばれたのち、アネットはそこから逃げ出してここに辿り着いた。

多数のロボットアームに、小ベットほどの台が並び、奥にはスキャニング装置らしきものが設置されていた。

その中の一角、部屋の隅のガラスの筒の中を見てアネットは見覚えのある形だと思う。

 

「これって……」

 

その正体を気づいた時、アネットは血の気がひいた。そしてその筒は大量に並べられていた。

筒をじっと見ていると反対側から何かが覗き込む。

 

自走地雷だ

 

咄嗟に逃げようとするもバネじかけの足がアネットに飛びかかった。

 

「やっ!」

 

咄嗟に白衣を被せて壁に寄りかかる。

うまい具合に自走地雷の頭部センサーにかかり、よろよろと自走地雷は倒れ、アネットは寄りかかった壁にあった扉に滑り込みながら中に入った。

 

そこには医療機器の様なスキャニング機械

 

狭いベットの様な大きさの、高さの、掃除のしやすい一枚の金属で作られた台

 

その上で刃を煌めかせるアーム群

 

ここは、手術室か。いや……

 

 

 

 

 

()()()か……

 

 

 

 

 

そう自覚した時、自走地雷が立ち上がった。

恐怖のせいで足が動かなくなっているアネットは動くことが出来なかった。

 

その時

 

鉄槌の様に振られた何かが自走地雷に当たり、殴り飛ばした。

ヨロヨロと倒れる自走地雷に自動小銃の引き金が引かれ、三発が頭部センサーに直撃する。

その赤い目はアネットに過去の思い出を彷彿させた。

 

かくれんぼでどこに隠れていても必ず見つけてきた彼を

 

あの時の事を忘れてしまった彼を

 

アネットは思わずその時の名前を呼びそうになった。

 

「……ノウゼン大尉」

 

そう呼ぶと赤い目がチラリと自分を見て次に背中を見る。

そこにはシガ中尉だったか。黒鉄種に連邦の戦闘服に身を包む青年がいた。

シガ中尉は呆れながらシンと話しており、その時に思わず言ってしまった。

 

「ごめんさい」

 

あの時の贖罪に巻き込もうとしてしまって……

 

脈略にない謝罪にシンは瞬く。

しかしすぐにハッとして視線が外れた。

 

「何に対する謝罪かは知りませんが。俺は貴方に謝られる謂れはありません。だからペンネローズ少佐も気にする必要もありません」

 

変わらない。

受けるこちらが痛くなるくらいに優しいところが……

それがまた少しだけ寂しかった。

 

 

 

 

 

「そうか……アンリエッタ少佐は救出されたか……」

 

地上でザクを運んだリノは通信を聞いてつぶやく。嬉しそうなレーナの声がし、ほっとした様な声がしていた。

 

『彼女、無事だったのね』

「その様だな」

 

車両基地でやって来たザクを乗せ、そのまま走り去って行く装甲トラックを見送り。リノ達は中央駅に向かって移動をしていた。

レーナの指示で撤退はメインシャフトから行う事になったのだ。

攻撃が分からない敵機もいることから密集していた方が援護しやすいと言う判断からだった。

今の所指示に従ってくれているドミトル達にはホッとしていた。

 

『やれやれ、こっち残弾がまずいことになって来ましたぜ』

「ガンタンクの残弾はどのくらいだ?」

『あと六発です』

「それは不味いな……」

 

一応、クラウの持っていた二〇〇ミリロングキャノンと弾薬の相互性はあるが、装填するのにも時間がかかる。なるべく早めに終わらせたいと思っていた。

 

 

 

 

 

中央駅に到着するとレーナは状況を伝えた。

 

『現在、ブリジンガメン戦隊とサンダーボルト戦隊が発電プラント型の制御系の付近で戦闘中。自動工場型も同じ様な状況です』

 

するとレーナに通信が入った様で、シデン達が発電プラント型の撃破に成功したと報告が上がった。

 

『いま、発電プラント型の撃破に成功したそうです』

 

そう言うとシデンは早速シンに話しかけていた。

 

『なぁ死神ちゃん。あとどんくらいいるか分かるか?』

『……本当に訊きたいか?』

『あー、それだけで十分だわ』

 

シデンはそう言い残し、レーナは激励の声を投げかけた。

 

『作戦完遂まであと少しです。頑張りましょう』

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

《ヘルメス・ワンより第一広域ネットワーク 機密処置を実行する》

 

声もない通信が入り、司令が出された。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「うおっ!」

 

つん裂くような悲鳴のような声が聞こえ、リノは思わず右耳を塞ぐ。

何が起こったのか理解できなかった。

だが、リノは咄嗟に叫んだ。

 

「ノウゼン大尉!何が起こった!」

 

しかし返答はない、咄嗟に近くにいるであろうライデンに通信を切り変える。

 

「シガ中尉、説明を乞う」

『この声はレギオンの攻撃じゃねえ。それにこの声は……』

 

その時、ライデンは特別偵察任務初日に起こったあの出来事を思い出した。

同調率を最低にしているのにも関わらず、よく聞こえたそれ。

 

『〈羊飼い〉の合わさった声でもあるな……』

「……」

 

リノは唖然とした様子で咄嗟に下を見る。そこには数多のレギオンが這い出て、こちらを見ていた。

 

『おいおい……』

『まさかこれ()()()()()()()……!?』

 

エリノラ達は騒然としてしまっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『突入部隊各員、脱出路をナビゲートします。作戦は発電プラント型撃破によって自動工場型も稼働停止したとして作戦終了とします。過たず、でも送れず……従ってください』

 

戦局は一斉に変わった。

自走地雷までもが知性化された事で一気に戦闘は激化していた。

メインシャフトにもレギオンが現れ、ビーム兵器とジャイアントガトリングが火を噴いていた。

 

『まったく、面倒なことしかしないわね……!!』

『ったく、残弾が心許ないってのによ!!』

 

下に向けてガトリングを撃つクラウが文句を言い、ドミトルは腕のバルカン砲を下に向ける。

ビーム兵器も放たれ、見えている限りのレギオンは一掃できた。

下にいたリュカリオン戦隊から抗議の通信はあったが……

 

『グリズリーより隊長へ、準備完了』

「よし、レギンレイブが乗ったら引き上げを開始しろ」

『了解』

 

リノは簡易昇降機(そこら辺の鉄骨を組み合わせ、ロープはエレベーターにあったものを引っ張って来た)を使い持ち上げられるレギンレイブを確認する。地下で何が起こっているのか把握できていないが、オープン回線でフレデリカの悲鳴が聞こえた事から何か恐ろしいものを見たのかもしれない。

リノはもどかしさを感じながら地下で戦っている彼等を想像していた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同じ頃、地下では撤退が行われている。

その中でシンは黒羊に取り込まれたエイティシックスの攻撃を受け、第三層と第四層のを貫くホールに落ち、そこで謎の新型機の攻撃を受けていた。

 

「(攻撃が速い……)」

 

自動追尾では間に合わないその機動性はレギンレイヴ以上の加速性能だろう。

そんな予測を立てながら声を元に相手の攻撃を退け、機体を蹴り飛ばす感覚を感じる。

そして至近距離で砲撃を行い、その衝撃波でその欺瞞を剥がした。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()阻電撹乱型ーー

 

まさかこんな使い方をするとは。

 

シンはファランクス戦隊が全滅したのも理解できた。

モーターの駆動音も無く、目にも見えず、シンも声がしなければ戦えないかもしれない。

そんなことを考えてしまうほど、それは斬新な見た目をしていた。

 

おそらくは新型だろう。

 

するとシンは通信を入れた。

 

「大佐!」

『……シン!無事ですか。状況は!?』

「交戦中です。ファランクス隊を壊滅させたレギオンと会敵しました」

 

そして早口でシンは告げる。

 

「攻撃の正体は、粗電攪乱型の光学迷彩。光学センサー、レーダーともに欺瞞されます。中のレギオンは新型機。高周波ブレードに類する兵器を使用。形状からしてジャガーノート以上の高機動型。他は順次お伝えします。なるべく戦闘データは持ち帰ります。……ですが、もし戻らなかったら」

 

その続きを言おうとしたが、レイドデバイスに落下の衝撃か、不具合が発生し、ノイズが酷かった。

 

もし戻らなかったら

 

そう言った時、レーナは言った。

 

『了解です。シン、ですが後半については聞きません。当該、レギオンのデータは必ずあなた本人が持ち帰ってください。それ以外には受け取りません。……これは、命令です、アンダーテイカー。何をおいても、遵守してください』

 

シンは一瞬だけ目を大きくすると、フッと笑いながら答える。

 

「ーーー了解です。ハンドラー・ワン」

 

そして、二機の機甲兵器は同じタイミングで駆け出した。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

レーナは通信を切り、打開策を練る。

現状、シンは地下で新型レギオンと戦闘を行い、他の部隊は自走地雷の自爆を抑えているところだ。

するとリノから通信が入った。

 

『大佐、今地図を見たがおかしな部分がある』

「可笑しな?」

 

レーナが疑問に思うとリノは頷く。

 

『ああ、奴らこのまま柱を吹き飛ばせばこのまま中に居る者も全員お釈迦にできるのにそれをしていない』

 

確かに、言われてみれば自走地雷をありったけぶつければ地下の崩落くらいできるはずだ。

すでに発電プラント型と自動工場型は土砂に埋まっている。だとすれば何故……

 

 

 

 

 

ーーーシンか

 

 

 

 

 

黒羊は生きたままか、死んでまもない死体の脳を回収する。

雑兵の羊飼いは大量に確保した。

だとすれば欲しがるのは精鋭の首。

だからこそ切り札となる新型機を最後まで隠し、その新型機はシンの得意戦術である()()()()()をとっているのだ。

だがら、地下を丸ごと沈めればシンの遺体も回収できなくなってしまう。

だったら今爆破されることはないはず……。

 

レーナはそう推測をすると全体に指示を出す。

 

「ーーオリヤ少尉。イーダ少尉。現時点を持って現ポイントを一時的に放棄してください」

『はあ!?』

『放棄って、それ自爆されたら困るから防衛しているんじゃねえのか女王陛下!』

「いえ、恐らく自走地雷はそのポイントで爆発しません。ですから早く」

 

渋々と言った様子で彼らも行動を起こすと意外な、というか予想通りというか、自走地雷は防衛地点ではなく、ジャガーノートを追ってきているそうだ。

 

「(やっぱり……)レギオンの残存兵力の目的はメインシャフトの爆破ではなく、内部への侵入。その前段としての各部隊の撃破です。それを逆手に取りましょう。メインシャフトへの侵入口のみ堅守し、残りの兵力で反転攻勢に出ます。モビルスーツ隊も援護を」

 

彼らに気づかれる前に、彼らが余裕だと思っているうちに、迅速に行う必要がある。

 

 

 

 

 

「こちらの作戦変更に対応される前に。ーーーレギオン残存兵力を殲滅します!

 

 

 

 

 

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